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『あいしてる』 作者: 名前がありません号

あいしてる

作品集: 4 投稿日時: 2009/10/01 19:56:37 更新日時: 2009/10/02 04:57:50
他意はなかった。ただ単純に聞いてみたかった。
何で私の元にはこんなにも人も妖も集まってくるのだろう。
霊夢は紫に聞いた。

「貴女が気がかりなのよ。私も皆もね」

そう答えが返ってきた。やたら微笑んで。
それは竜宮の使いにも言われた気がする。

「貴女は今にも壊れそうだから。守ってあげたいのよ」
「そんなに私は頼りない?」
「そういう意味ではないわ。母性を擽るのよ、貴女」
「そういうものかしら」

話している間、紫は霊夢を子供を見守る母のような視線で見つめていた。
その視線が何故か霊夢はとても辛かった。



                         ※



霊夢はふと思って、紅魔館に向かう。
なんという事は無い。お茶会に誘われていたのを思い出したからだ。
紫から逃げるように神社を飛び出してしまった事を今になって後悔しているが、その事は忘れておこう。

「あら霊夢。約束を覚えていてくれたのね。うれしいわ」
「別に。暇だったからね」
「またそんな事いって。このところは暇じゃないの。でもうれしい」
「あっそ。まぁただでお茶とお菓子を堪能できるなら悪くないわ」
「即物的ね。まぁそれも霊夢の魅力だよ」

そんな他愛の無い会話をする。
外のテラスでのお茶会。
咲夜は日傘を持って、その場に立っている。
大した忠誠心ね。と霊夢は思った。

「それにしても紫が変なのよね」
「ふぅん、どんな風に?」
「私の元にあんた達が集まってくる理由を聞いたら、私が気掛かりとか言ってたわ」
「それで?」
「話している間中、ずっと微笑んできたわ。胡散臭さのない、普通の」
「愛されてるのねぇ」
「え?」
「紫は霊夢を愛してるんでしょう。純粋に」
「それは私が博麗の巫女だからじゃないの?」
「さぁ。私は紫じゃないからね。でもあいつがそういうのを求めたことがあった?」
「いいえ」
「無償の愛ねぇ。叶わぬ愛に身を投じたがるようには見えないけど。案外ロマンチストなのかもしれないね」
「無償の愛……」

霊夢にとって、それは理解しがたい感情だ。
彼女にとって、何かを得る事に一定の代価が掛かる事を理解している。
ご利益が欲しければ、神社に賽銭を入れればいい。
そういう欲求の有り様を彼女は咎めることはしない。
神とはそうした人の欲求で成り立っている部分があるのだから。
しかし紫が私に提示したのは、霊夢にお賽銭を渡すだけで何も要求しないという事だ。
それが霊夢には理解できない。

「それに霊夢には母親がいないんでしょう? 妖怪という不都合はあっても、紫に甘えていいんじゃない?」
「今更それをやるのは抵抗があるわ。居ない物にどう甘えろっていうのよ」
「甘えたいという気持ちはあるんだね」
「………ふん」

言葉に詰まって、紅茶を飲む。
味も匂いも感じない。
そしてお菓子を摘む。
やはり同じだ。

「心ここにあらずみたいになってるわよ霊夢。お茶会はこの辺にしましょ」
「……ごめんなさい」
「いいわよ。霊夢にも人間らしく迷う一面が見れただけでも収穫はあったわ」
「酷い言い草ね」
「そうかしら? 霊夢は限りなくこちらに近い存在よ。人間臭さという一点ではね」

そういってレミリアは咲夜に目伏せをすると、次の瞬間には紅茶とお菓子は消えていた。
そして日傘はレミリアの手の中に。

「門まで送るわ」
「いいわよ。一人で帰れるわ」
「いいじゃない。貴女のそんな顔が見れる機会なんてそうないもの。もっとその顔を見ていたいのよ」
「いい趣味ね。懲らしめてやろうかしら?」
「迷いの篭った貴女では私には勝てないわよ? そこまで怠けている積りは無いからね」

クスクスとレミリアが笑う。
いつもと調子が狂ってしまい、どうしたものかと霊夢は思う。
結局、門までレミリアに送ってもらう事になった。

「心配ならそこな門番に人生相談でもしてもらってはいかが?」
「眠ってるわ」
「どうせ狸寝入りよ。あいつの寝首をかけたやつは一人も居ないわ」
「頭にナイフが良く刺さってるのを見かけるわ」
「殺しあう関係に発展していないから、その程度で済んでるのよ」

良く分からないわねと霊夢が言うと、妖怪なんてそんなものよ、とレミリアが言った。
そしてレミリアが館へ戻っていくと、美鈴が突然声を掛けてきた。

「微笑ましいことです」
「盗み聞きとは関心しないわね」
「保安上の理由ということでご勘弁を」
「あんたは咲夜の行為を黙認するのね」
「大したことではございませんので」
「私には致命傷になりそうな気がするけど」
「あれでも手加減してくれてるんですよ?」
「良く分からないわ」
「まぁ妖怪とそんな妖怪に忠誠を誓う人間ですから。察してください」
「ところでこんな風に喋っているとまたナイフが飛んでくるわよ」
「それも愛情表現だと思えれば、甘んじて受け止められるようになります」
「大したマゾヒストね」
「SMだってある種の愛情表現と言えますよ?」
「ますます理解できないわね」
「理解される必要もさせる必要もないでしょう。当事者で完結する愛に、他人の口出しの余地はありません」
「……まぁ門番らしくピシッとしてみたら?」
「たまにはそういうのもいいかもしれませんね。ともあれ、さようならご客人」
「ええ、さようなら」

そういって霊夢は美鈴との会話を終えた。
紅魔館はやはり変わり者の群である事が分かった。
とても今更ではあるが。
ただ、心の靄は晴れるどころかさらに深まってしまったが。



                         ※



何となくではあるが、アリスの家に行く事にした。
彼女と話している方が今はなんとなく気が楽に思える気がした。

「あら珍しいのが来たわね」
「まぁあんまり来ないのは事実ね」

アリスは変わった様子も無く、私を迎え入れた。
やはりというか、なんというか魔理沙と同じ蒐集家とは思えない部屋だ。
魔理沙が混沌ならば、さながらこちらは秩序とでもいうべきか。
それぐらいの差が誰にでも分かる状態だ。

「それで何か用事があって来たの?」
「いやまぁ特に用は無いんだけどね」
「そう。ますます珍しいわね。まぁ話す気が無いなら聞かないわ」

こういう時、深く立ち入らない彼女は嫌いじゃない。
しかし他に話題も無かった為、結局アリスにも同じ事を話した。

「彼女の愛情に答えるのには抵抗がある?」
「そうじゃないけど……どうすればいいのか分からないわ」
「なら無理に答えを出さなくていいんじゃない? 答えを出さないのも一つの答えよ」
「いい加減なものね」
「あくまでも決めるのは貴女よ。私は選択肢を用意するだけ」
「そういわれてもねぇ」
「柄にも無く悩むのね。やはり母親は欲しかったの?」
「どうかしら……。求めているのかもしれないけど……」
「求め方が分からない?」
「……」
「まぁ迷うだけ迷えばいいじゃない。直ぐに答えを出す必要もないでしょ」
「そうね」
「さて、私は出かけるけど貴女はどうする?」
「私も出て行くわ。話を聞いてくれて有難う」
「ええこちらこそ。貴女のもう一つの側面を見れたのは収穫だわ」
「あんたもレミリアと同じ事を言うのね……」

そういってアリスと共に家を出る。



                         ※



アリスと別れた後、当ても無く空を飛び続けた。
ふと桜の花びらが舞っていた。
いつの間にか、桜花結界まで近づいていたらしい。

不思議と吸い寄せられるように私は桜花結界を飛び越え、白玉楼へと足を踏み入れた。



「侵入者……と思ったら、随分珍しいわね」
「そんなに珍しいかしら」
「滅多に貴女はここには来ないでしょうに。宴会以外で」
「言われてみればそうかもしれないわ」
「それで幽々子様に何か御用で?」
「あんたに用事があるかもしれないとしたら?」
「えっ? 私に用ですか?」
「いいえ、幽々子かしら。どちらかと言えば」
「私では未熟という事ですか……」
「そういう事ではないけどね。余り見せびらかすような話じゃないもの」
「はぁ……お通り下さい」
「やけに素直ね」
「最近、庭内で修行中に誤って盆栽の一つを斬ってしまってそれ以来、館内での帯刀は禁じられました。くすん」
「自業自得ね。でも私に突破される事が分かってるぐらいには成長したのね。ただの辻斬りと思ってたわ」
「私をそこいらの辻斬りや幽霊と一緒にしないでもらいたい!」

そう違いはないでしょうに、という言葉を霊夢は飲み込んだ。



「幽々子様。霊夢がやってきました」
「そう」
「……あの幽々子様。盆栽を切った事は切に反省しております。切腹も覚悟の上です。未だ許しては頂けませんか?」
「その短絡さが私は気に入らないのよ、妖夢」
「短絡……と申されますと」
「切腹とはそう軽いものではないわ。貴女のそれには覚悟が足りないのよ」
「そんな! これほどに覚悟を見せているではありませんか!」
「そういう所が至らないのよ、妖夢。自分で満足しているうちは貴女には帯刀も切腹も許さないわ、分かったわね?」
「……しゅん」

「そろそろ、いいかしら?」
「ごめんなさいね、ほら妖夢。お茶とお菓子を持ってきて頂戴」
「はい? ですがそれは他の幽霊が」
「それには別の仕事を任せてあります。いいからさっさと準備なさい。分からないわけではないでしょう?」
「は、はい」

そういって妖夢はそそくさと、台所へと向かっていった。
そんな姿を見守る幽々子の視線は紫に似ているようで、何処か違って見えた。

「貴女がやって来るとは思っていたわ。だから妖夢にも伝えておいたわ」
「じゃあ私の評価は取り消しね」

へっくしゅんと、誰かのくしゃみが聞こえた気がした。

「でも何で私が来るって思ったのよ」
「何となくという事にしておこうかしら」
「あんたが言うと、色々な意味に取れるわね」
「変な勘繰りは不要よ」

笑顔で幽々子は言う。
その笑顔をその通りに受け入れられないのは、彼女が亡霊である事と能力だろうか。
ともあれ、事の成り行きを幽々子に話す。

「何故紫が貴女を気に欠けるのか、それは貴女が自由だからよ」
「自由?」
「そう。空を漂う雲のように自由な貴女だからこそ、誰もが貴女を気に掛けるの」
「ますます分からないわ」
「その自由さは多くの人が憧れます。でも貴女はその代償に誰もが持ちうるものを持てないのよ」
「その持てないものは何なのよ?」
「その答えはもう、貴女が持っているのではなくて?」
「……」
「もう夜も近いわ。紫は多分、まだ神社にいるんじゃない? 貴女の帰りを待ってると思うわ」
「何でそんな事が分かるのよ?」
「勘かしらね」
「あんたから勘だなんて言葉が聞けるとは思わなかったわ」
「ふふ、まぁ行ってあげなさいな。貴女が帰ってきたらきっと喜ぶわ」
「まぁいいわ。あいつの期待通りの答えが出るか分からないけど」

そうして霊夢は白玉楼より飛び立った。
答えは持っている、か。
相変わらず痛い所を突いてくる。
でもだからこそ怖い。
それを得てしまったらどうなってしまうのか。

不安と共に飛び立つ霊夢に幽々子は呟く。

「心配せずとも貴女と紫の愛は芽吹くわ。どんな形であれ、ね」



                         ※



神社へと戻る帰路の事。
未だ霊夢は紫への返答に困っていた。
正直な話、アリスが言ったように答えを出さず、そのままにしておくべきなのかもしれない。
迷いは晴れない。

そんな時、後ろから迫るソレに気付く手段を霊夢は持っていなかった。



                         ※



紫は幽々子の言葉通り、神社に居た。
霊夢が自分から逃げるように立ち去った事に紫は怒っていなかった。
無償の愛情とはそういうものだ。
愛と言えば聞こえはいいが、それは本質的には相手を束縛する行為に他ならない。
その束縛を望むか否かは、霊夢自身が決めるべきで紫自身が望むべきではない。
一方的な束縛は、ただの自己満足に終わってしまう。それは紫が望むものではない。

紫の目に霊夢の姿が見えた。
血塗れの巫女装束を纏った霊夢。腹に手を当てて出血を抑えているようだった。
紫はすぐさま霊夢に駆け寄っていく。
霊夢の手をどけた。おぞましい出血。
傷を治そうとする紫に霊夢が言う。

自分はもう駄目だ、と。

そこで紫は悟ってしまった。
彼女は博麗の巫女ではなくなってしまったのだ。
紫は自分の個人的な愛情で霊夢を惑わせてしまったと深く後悔した。
だがそんな風に顔を覆ってしまった紫に霊夢は言った。

―ごめんね。
―ほんとうは、ゆかりのあいじょうがうれしかったの。
―でもわたしは“はくれいのみこ”だから。
―そのあいにこたえられなかった。
―でもいまならいえるきがするの。
―あいしてるって。

紫は涙が止まらなかった。
もういい、もういいの、と紫は何度も霊夢に言う。
それでも霊夢は言う。もう息をするのも辛いはずだというのに。

―ねぇ、ゆかり。
―おかあさんってよんでもいい?

紫は言葉にせず、首を縦に振る。
すると霊夢は

―おかあさん、あいしてる。

そういって事切れてしまった。
紫はただ霊夢の血塗れの身体をずっと抱きしめていた。
>この後紫帰宅後とうとう耐え切れなくなって号泣するまで幻視した
>それはちと希望的すぎるか(´・ω・`)

後日談は用意できなかった。過去は用意した。一つの可能性として考えて欲しい。
うーん、迷走気味だなぁ。
名前がありません号
作品情報
作品集:
4
投稿日時:
2009/10/01 19:56:37
更新日時:
2009/10/02 04:57:50
1. 名無し ■2009/10/02 05:18:58
なんだコレ・・・
人生って大概こうだよな・・・
2. 名無し ■2009/10/02 05:55:16
なんという……なんという話だ…
3. 名無し ■2009/10/02 12:43:53
泣いた
4. 名無し ■2009/10/02 13:16:04
ありがてぇ……ありがてえっ……!
コメントの者ですが過去とはいえ書いて下さるとは思ってなかた
あああ霊夢愛されてんなあ…
5. どっかのメンヘラ ■2009/10/03 00:44:21
切ない・・・切な過ぎる・・・。
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