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『孤独の月』 作者: 名前がありません号
もしこれが私に対する罰なら、これ以上無い罰ね。
月光に照らされた血塗れの姿の輝夜は、空を見上げてそう呟いた。
永遠亭地下研究室。
いつものように永琳が研究にいそしんでいると、突然輝夜が入ってきた。
ノックするようにと再三言っておいたはずだが、様子がおかしい。
「永琳」
「はい」
「貴方はまだ私に負い目を感じている?」
「ええ」
「そう、なら私のお願いを聞いてくれる?」
「なんなりと」
「後をお願いね」
「はい?」
突然の事だった。
輝夜は永琳の頭を潰すと、そのまま永琳が使っている水槽に放り込んだ。
その中身が酸である事を輝夜は知っていた。
「がはっ……ぐぇぇ……姫…か…かぐ……」
「正直ね。もうお姫様は飽きてしまったの」
「ごぼっ……うがぁ……うげぇ」
「だから貴方は負い目なんて感じなくていいのよ。こんな事をする奴になんかね」
「………か、ぐ、や……」
そして輝夜は永琳の地下の研究所を出る。
ここに入れるのはイナバと私ぐらいだ。そしてイナバは今、外に出ている。
見つけるには時間がかかるだろう。
やってしまった。
最愛の友人であり、同じ咎人である彼女をこの手で苦しめた。
でもこれでいい。どうせなら憎んでくれたままが一番気が楽でいいのだから。
そんな思案をしながら輝夜は空の月を見上げながら、永遠亭の廊下を突き進む。
そして輝夜の前に現れるイナバ。因幡てゐ。
「何か用かしらイナバ」
「……永琳様と何をしていたんですかね」
「貴方が知る必要はなくてよ」
「そうはいきませんねぇ。私はこの館の兎を統括している者として説明していただきますよ」
「貴方は永琳とは違うのだから、死んでしまうわよ?」
「私とて因幡の長。説明してもらうまではここから離れるわけには行きませんね」
そして現れる因幡達。その意思は固いというのは目に見えて明らかだった。
「そう。私の邪魔をするのね。ならいいわ。それなら無理にでも通り抜けるだけよ」
※
結論から言えば、全滅だった。
ものの数秒足らずで因幡達は輝夜の前に捻じ伏せられた。
宝具の力があるとはいえ、それがなくとも因幡達が勝てる算段などなかった。
「あ……あ、ひ、姫…………」
「ごめんなさいイナバ。でも私にはどうしてもやる事がある。それを達成しないと私はどうにかなってしまうの」
「う、うぁ……」
「安心なさい。致命傷は避けたわ。だからおとなしくしてなさい。今度こそ殺すわよ?」
輝夜の目を見たてゐは、気を失った。
それを見た輝夜はてゐを床に寝かせると、そのまま永遠亭を後にした。
※
事の始まりは何だったか。
ただいつものように、妹紅と殺しあっていた時の事だ。
妹紅に勝利し、彼女の上に乗っかって、妹紅の顔を殴ろうとしたときだ。
恐ろしいほど空虚な顔をしていた。
「けぇね……」と力無くかすれた声でその一言を紡いだのだ。
その瞬間、輝夜は思った。
何でそんな顔をするの。
何で殺しに来ないの。
何で私を見ようとしないの。
そう思うと、輝夜は脱力してしまった。
かつて殺し合いをしていた妹紅との変容ぶりは、
彼女から殺す気力を奪い取ってしまった。
最近、妹紅が殺し合いに躊躇いを感じるようになっていた。
もはや恒例となっていた両者の殺し合いは、このところ輝夜の勝利で終わっている。
しかしそれらは妹紅が、明らかに殺し合いを忌避しているからこそである。
妹紅は慧音と親しくしていく内に、輝夜に対する復讐心の牙を抜かれてしまっていた。
友達という関係ではないにせよ、輝夜に対する妹紅の感情は明らかに軟化していた。
輝夜はその事実にただただ唖然とすることしか出来なかった。
蓬莱人は決して時間の経過では何も変わらないだろうと思っていた。
それを真っ向から否定されてしまう事は何よりも辛い事実であった。
※
こうなってしまうと最早、殺し合いは互いが互いを求め合う行為ではない。
これでは輝夜の一人遊びでしかない。そんなものが楽しいわけもない。
次第に輝夜も殺し合いをしなくなっていった。
妹紅も慧音もイナバも他の連中も喜んだ。
竹林や近隣に被害が出ていただけに、和解は歓迎すべきものだった。
鴉天狗は『妹紅と輝夜! 遂に和解!』などという記事を書くほどだ。
しかし輝夜にとって、これは和解でもなんでもない。やる意味を無くなってしまっただけなのだ。
慧音が悪いのか、と言えばそれは違うだろう。
一般論で言えば、誰が見ても殺し合いなどたとえ蓬莱人であっても逸脱した行為で、
慧音のした行為で一つの殺し合いが幕を閉じるならそれは喜ばれるべきなのだろう。
しかし、しかしだ。数少ない娯楽を失う事が蓬莱人にとってどれほど辛いものであるかを、
同じ蓬莱人と生きていながら慧音には分かってはいなかった。
平和とは停滞だ。蓬莱人にとって停滞とは死と同義だ。平和とは輝夜にとっての死刑宣告にも等しかった。
それでも輝夜は今の関係を傷つける事をよしとはしなかった。
どの道、あそこまで腑抜けた妹紅を殺しても何の意味も見出せないのは事実なのだ。
とはいえ、ただ永遠亭の中に居続ける事は窮屈でしかなかった。
永琳やイナバの手伝いなどもしていった。彼女らは大いに喜んでくれた。
それでも輝夜はそんな彼女らの感情でさえ、心からの充足にはまるで足りなかった。
※
何でも出来るのが当たり前だった人間が、いきなり多くの行動に制約がついたらそれを甘んじて受け入れられるか?
答えは否だ。それが当然の人間がそれが出来なくなれば、それは苦痛になる。
今の輝夜はまさにその状態だった。しかも質が悪い事に、どんな行動をとっても最悪の結果しか生まれない。
身動きの取れなくなってしまった輝夜はこの時、時間の流れをただただ憎み続けた。
何より彼女にとって苛立たしい事実は慧音自身でもあった。
妹紅と接し続けて、彼女を変えてしまったことだ。
それは自らが体験した老夫婦との生活を思い起こさせて、それがさらに癪に障った。
もう戻らない生活を妹紅が手にしている事実がたまらなく苛立たしかった。
彼女らの微笑みが、笑い声が、どうしようもなく輝夜の心を引き裂いていた。
そして遂にそうした状況に我慢が効かなくなった時、
輝夜は狂った。
※
竹林を歩き続ける。
迷いの竹林と呼ばれたこの場所を、もう歩く事はないだろう。
その一歩を踏みしめて、歩いていた。
こんな風に歩く事も今日でお終いかな。そんな風に思う。
出来ればこのまま誰とも会わず、妹紅の元に行きたいがそうもいかないようだ。
白い霧が竹林に立ち込めたかと思うと、その霧が一点に集まると其処にはあの鬼がいた。
伊吹萃香。
「こんな夜更けにお散歩かな、竹林のお姫様」
「そういう貴方こそ、こんな所で酒飲みかしら」
「月見酒と洒落込もうと思ってね」
「残念ながら生憎の曇り空よ。不器用な言い訳ね」
「……なぁ、後戻りは出来ないのか?」
萃香が哀しそうな顔をして、輝夜を見つめる。
輝夜の胸中の感情が萃香には理解できる。
だからこそ萃香は自分達と同じ末路を歩もうとしている輝夜を止めに現れた。
「出来れば私の目の前から消えて頂戴。このままだと貴方まで殺したくなるわ」
「もう止まれないか……なら私が殺してやる。何度でも殺して、その殺意ごと踏み潰してやる」
声を強く張り上げて、萃香は言う。
嗚呼、それでその顔を怒りや嘲笑で染め上げてくれれば、何もいう事は無かったのに。
なんでそんな哀しい顔をしているのよ。
※
圧殺、絞殺、焼殺、撲殺。
ありとあらゆる萃香の一撃を喰らい続けて、何度も死に続ける輝夜。
それでも輝夜の中に渦巻く感情は収まる気配が無い。
それは萃香が一撃で殺しにかかっているからだ。哀しみを拳に込めて。
しかしそんな萃香の思いでさえ、今の輝夜には届かない。
何度吹き飛ばされ、殺され続けても表情一つ輝夜は変えなかった。
その度に萃香の表情は辛いものになっていく。今にも涙を流さんばかりに。
「なぁ、私では妹紅の代わりにはなれないのか?」
「なれないわ」
「不死身ではないけど、私は妹紅以上にお前を満足させられると思ってる」
「無理よ」
「殺し合いになら幾らでも乗ってやれる。だから、な!」
「駄目よ、貴方じゃ無理なのよ」
「どうして!」
「だって貴方は私を憎んでいないもの。私の渇望を満たせるのはアイツの憎悪と殺意だけよ」
「それほどまでにお前は……」
「霊夢を殺せば貴方は私を憎んでくれるかもしれない。でもそれは一時的。永遠でないなら私はまた同じ事をする」
「……」
「それが一番の近道なら私はそれを望むわ。もういいかしら」
萃香は輝夜の意思が変わらない事を理解して、これ以上輝夜を殴れなくなった。
そして輝夜は萃香の横を通り過ぎて、歩いていく。
結局、輝夜は拳の一撃も弾の一発も萃香に放つ事はなかった。
その事実に萃香は地面に自らの拳を叩き付ける。その拳に一滴の涙が零れた。
※
竹林の先。
もう直ぐ慧音の家へとたどり着くだろう。
そんな時だ。
彼女が空間を引き裂いて現れた。
「ごきげんよう」
「貴方自ら出てくるとは珍しいわな」
「萃香は貴方を止められなかったのね」
「だから貴方が直々に止めに来たというの? 八雲紫」
導師服に身を包んだ八雲紫。
それはかつて博麗の巫女と共に、永夜異変解決に乗り出したときと同じだった。
違う点があるとすれば、相方の巫女がいない事だろう。
「貴方がやろうとしている事は、何の意味ももたらさないわ」
「これは私個人が行う事。永遠亭とは無縁よ」
「そうであってもよ。たとえ慧音を殺したとしても、今の彼女が貴方を見てくれる保証は無い」
「今でこそ腑抜けているけども、私への感情は決して良くはないわ」
「だとしても全てを捨ててまで、それを行う必要があるというの?」
「私は既に永遠亭の蓬莱山輝夜ではないわ。ただの輝夜よ」
「何故それだけの意思を持ちながら、その力を他に生かせないのよ」
「性分よ。今更捻じ曲げられるほど単純な話ではないわ」
「今の貴方を月人が見たら、どう思うかしら」
「滑稽だと蔑むでしょう。穢れ切ってしまっていると嗤うでしょう。それでも私は妹紅の憎悪が欲しいのよ」
「月は雲に覆い隠されているというのに、貴方は狂ってしまっているのね」
「とうの昔に狂っていたのかもしれないわ。でも後悔なんてしてないわ」
そう言い続ける輝夜の表情は崩れない。
八雲紫は輝夜から感情と呼ぶべきものを読み取れなかった。
嗚呼、狂ってしまっている。
紅魔館の妹とは完全に別のベクトルで、それも最悪な方向へと狂っていた。
紅魔館の妹はまだ矯正が出来る。それは彼女が自分自身に無知であるからだ。分からせてやればいい。
だが輝夜は違う。自分というモノを確立している。そしてそのまま純粋に真っ当に狂ってる。
そんな人間の矯正の仕方など八雲紫は知らない。
「貴方も私を止めるというの?」
「いいえ。萃香の二の舞になるだけですもの」
「私の無様な姿を肴に酒を楽しもうという魂胆かしら」
「さぁどうかしらね」
「好きにするといいわ。私の目的が達成できたら、私を好きになさい。でも永遠亭は巻き込まないでよ」
「ええ、約束しましょう。八雲紫の名にかけて、ね」
そして輝夜は歩を進める。
嗚呼、どうしてこう純粋なのだ。
傍からみればただの狂人だが、あそこまで純粋な人間は最早拝めないだろう。
最悪の結果へ足を踏み入れる事に恐れすらない。
妖怪でありながら八雲紫は、輝夜のその異常な純粋さに戦慄を覚えていた。
※
慧音の家まで目と鼻の先までやってきた。
しかし、珍しい奴らが次々とつるんで来るようだ。
射命丸文だ。
「何か御用かしら」
「いえいえ、滅相も無い。どうぞお先へ」
「そう」
「これは独り言なんですがね」
「慧音さんを殺しても貴方の望みは叶いませんよ」
「貴方の望む妹紅さんは帰ってこないでしょう」
「私は貴方達の記事を書いた後、慧音さんと共に歩く妹紅さんを見てきました」
「とても幸せそうでした。貴方の事を聞いても許してやりたいと言っておりました」
「慧音さんもそれを望んでおられるようです。妹紅さんの意思の固さは貴方と同等でしょう」
「となるとですよ。仮に慧音さんを殺しても、妹紅さんの憎しみがかつてほどの勢いにはならないでしょう」
「それほどまでに妹紅さんは慧音さんに依存しておられる。魂まで根こそぎに」
「あれは異常だ。今の貴方が正常に見えるくらいに」
「彼女の出自は良く知りませんが、人を愛するだけであそこまでおかしくなれるものなのでしょうか」
「いずれにせよ、貴方の行為は空回りに終わります」
「そして貴方はその行為の罰を受けることになる」
「それでもおやりになるのですか?」
「独り言はお終い?」
「あやや、やはり私め如きで貴方を止めるなど無理ですね、残念です」
「何故残念なのかしら。貴方は大スクープの記事を独り占めできるでしょうに」
「ええ、大スクープです。ですが私個人としてはその先の結果があまりに面白くないのが気に入らないだけです」
「それはやってみなければ分からないわよ?」
「まぁどうぞ。嗚呼、蓬莱人という方々はどうしてこう、頑ななのでしょう」
「それは今度、妹紅に聞いてみることね」
「そうさせてもらいますよ」
そして射命丸文は飛び立った。
輝夜はそれを見送った後、慧音の家に再び歩を進めた。
射命丸は飛び立った後、慧音の家の方を向く。
「月人とはいえ、人間を尊敬するのは生まれて始めてかもしれませんねぇ」
「これほどまでに一人の人間に固執できるのは奇跡としか言いようが無い」
「とても愚かしいですが、そんな純粋さは嫌いではありませんよ」
「何分、私にはもう持てない感情ですから。生きていく為に捨ててしまったものですから」
「こんな形でその純粋さが消えてしまうのが残念でなりません」
「では、さようなら輝夜さん。きっと会うことはもう無いでしょう」
そして今度こそ、その場から飛び去っていった。
※
そして遂に慧音の家にたどり着いた。
輝夜はその戸を開けて、中に入る。
「来ると思っていた」
中には上白沢慧音がいた。
後ろを向いていて、顔は見えない。
「考えは変わらないか」
「ええ」
「私はただお前達の殺し合いを止めるだけではなく、殺し合いによって成立するものはないと考えていた」
「一般論ではそうでしょうね。でも、殺し合いが常になっていたらそれは日常なのよ。貴方はそれを奪ったのよ」
「歩み寄り、共に生きる事は叶わないというのか?」
「少なくとも私には無理ね」
「妹紅は変わる事ができた。お前は変われないのか?」
「変わろうとしても無理だったわ。変わるには遅すぎた」
「だが……」
「それにね慧音。私と彼女は決定的な違いがあるわ」
「それはなんだ?」
「妹紅は地上人で、私は月人」
「そんな差はいずれ……」
「いいえ。この差は大きいのよ。私はどこまでいっても月人なのよ」
慧音は何も言えなかった。
地上人と月人。
同じ人間でありながら、しかしその考えの溝は慧音の想像以上に深かった。
輝夜の中に流れている月人の血が、融和を拒んでいた。
それは幻想郷らしからぬ、しかし多種族が交じり合う幻想郷だからこそ起こりえる問題でもあった。
輝夜は地上に暮らしながらも、やはり本能的には月人のそれなのだ。
そしてそんな彼女が唯一分かり合えるのは、あの憎悪と憤怒に燃える妹紅なのだ。
それを慧音が取り上げてしまった。
「謝罪はいらないか」
「ええ。今となっては言葉に価値はないわ」
「妹紅はお前と本気で和解しようとしているんだ」
「そんなのは貴方とあいつの勝手よ。そうやって私から生き甲斐を奪っていくのよ」
「かつての生活に戻る事は出来ないんだな……」
「ええ、あんなにも愉快で楽しい時間を取り戻すには、慧音。貴方を私が殺す必要があるの」
「………そこまでお前はあいつを」
「それ以上は言わない事ね。それじゃあさようなら、慧音」
輝夜は蓬莱の玉の枝を取り出す。
そしてそれを慧音に振るった。
慧音の眼前を光が包み込む瞬間、慧音はごめん、と妹紅に言った。
※
慧音の声が聞こえたような気がした。
妹紅が自分の家に帰ろうとした時の事だ。
慧音の家の方角を見る。
煙があがっていた。
妹紅が辿りついた後には、燃える慧音の家が見えた。
気が付いたら、燃える家に走り出していた。
燃える家の中で妹紅が見たものは
身体中を蜂の巣にされた慧音と
無表情のまま、慧音の亡骸を見つめる輝夜の姿であった。
※
「何やってるんだ、輝夜!」
「慧音を殺しただけよ。見てわからないかしら」
「何で殺したんだ……」
「貴方と私は分かり合えない事の証明よ」
「そんな事の為に慧音を殺したのか!」
「ええ。そんな事の為に」
「輝夜ァァァァァァ!!」
烈火の如く、怒りを放つ妹紅。
その背中からは赤く燃える鳳凰の翼が見える。
しかしそれでも、輝夜は無表情のままだ。
笑うわけでも蔑むわけでもなく。
ただ妹紅を見つめているだけだった。
されるがままに輝夜は妹紅に殴られ、燃やされた。
何度となく殺され続けたが、それでも輝夜は満たされる気配が無い。
それは妹紅が哀しい表情で輝夜を殴っているからだ。
哀しみだけが伝わってくるだけで、憎悪も殺意も無い一撃は輝夜に何も与えてはくれなかった。
「あなたまでそんな哀しい顔をして殴るのね」
「私は……復讐だけで生きる事をやめたんだ!」
「そう」
「それは慧音がいてくれたお陰だ。それにこんな身体でも人の痛みは分かる!」
「そう」
「お前だって分かるだろう! お前のそばには永琳も鈴仙もてゐも居たじゃないか!」
「ええ、居たわ」
「ならどうして!」
「彼女達は私を満たしてはくれなかったわ」
「……!?」
「いい事を教えてあげるわ、妹紅。優しさは凶器になるのよ。今の私にはね」
「……ッ」
「残念だわ、妹紅。貴方はもう手遅れなのね」
「……出て行ってくれ」
「霊夢に伝えなさい。私が慧音を殺したと」
「……」
黒こげの慧音を抱いた妹紅はただ涙を流した。
その様をしばし見てから、輝夜はその場を立ち去った。
輝夜はふと空を見上げる。
月は雲の隙間から僅かに顔を出していた。
その姿が今の自分のように見えて、どこかおかしかった。
月を見上げる輝夜の頬に伝う血が、涙のように見えた。
- 作品情報
- 作品集:
- 4
- 投稿日時:
- 2009/10/03 09:23:02
- 更新日時:
- 2009/10/03 19:29:43
- 分類
- 輝夜
- 妹紅
- 慧音
- 永琳
- てゐ
- 萃香
- 紫
- 文
- 長文注意
考えたら普通な輝夜ってここに居ないな
ありがとう
これから輝夜はどうやって生きるつもりなんだろうか
結界の隙間の中で永劫生きるのか
だが、良い