雲居一輪の死

雲居一輪はその罪を問われていた。
聖輦船に博麗の巫女達を侵入させてしまったことに対して償いを取るべきだとこの一件で宝塔を無くした毘沙門天の弟子、寅丸星に寺を追い出されたのだった。



「ぐすっ、皆酷い…私だって頑張ったよ。なんで、なんで、何年も一緒に居たのに。みんなのばか。もう戻ってやるもんか。姐さん、ごめんなさい、一輪はあなたの元におそらく帰りません。」

三日月が夜空に浮かんでいる。
一輪は泣きながら一人暗闇のなかを飛ぶ。行くアテもない。かといって今更、村紗 水蜜や寅丸星のところに謝りにいくのも恐ろしい。
彼女たちは一輪をもう必要としていないのだから。


三日月の夜。夜空を鼻歌まじりに飛ぶ少女がいた。

「だーれかっ驚かそっかなぁー。誰にしようかなー」

茄子色の傘を持ち、色違いの瞳を持つ少女多々良 小傘が暗闇の中飛び回っている。

「お？おお！？あれはもしかしたら人間！！よーし、驚かすぞぉ！」


小傘は遠くに飛んでいる一輪に近づき。
両手を握ったり開いたりしてから思いっきり後ろから一輪の背中を。

どんっ。と押した。

「きゃっ！！」

「えへへ〜お姉さん。こんな夜に一人で何しているの・・・っていやあああ！！！」

小傘は悲鳴を上げた。先ほど背中を押して驚かした少女が一輪であったことよりも。
飛べるはずの彼女が真っ逆さまに地上に落ちていくのに驚いている。
その目には涙を浮かべながら。



「お姉さん！危ないっ！！」

「え・・！？」


ぐさり、と地上にあった苗木の上に一輪は落下した華奢な体は苗木に腹を貫かれ、苗木には淡いピンク色の内臓が巻きついていた。
私の目の前で。

「わ・・・私悪くないもん・・・私は悪くないもん！
！」
串刺しになった一輪に目を向けず逃げ出す小傘。
私のすぐ上で。

苗木に貫かれた一輪は息を荒げながらも呟く。
私の目の前で。

「・・・ああ、私死んじゃうのね・・・最後に。星や水蜜、ナズーリンにも謝るべきだったかな・・・？」

夜空の三日月に3人の姿と尊敬する姐さんこと白蓮の姿を映し出す。
四人は笑っていたが苗木に貫かれた一輪に目を向けると。


『唐傘ごときに驚かされて死ぬなんて・・・一輪も落ちたものだね。』
「え・・・？」
『所詮、船の周辺の護衛なのよ。私みたいに船長を任されるぐらいの強さがないのよね。』
「そんな・・・」
『少しうっかりしすぎですね・・・ナズ、あなたも気をつけなさい。』
「星！？そんなこと言わないで・・・私頑張ったよ・・・」


月に映ったナズーリン、村紗水蜜、寅丸星は串刺しの一輪を冷たい目指しで睨んでいた。

一輪は泣きながら月に謝り続ける。
私の目の前で。

「ごめんなさい。ごめんなさい。私頑張ります、次から頑張ります。次から頑張ります。お願いします。許してください。許してください。
姐さんにもう一度会わせてください。死にたくないです・・・から・・・うげぇ・・・」


叫べば叫ぶほど苗木は深く、深く刺さる。
私の目の前で。


「そんな・・・せめてもう一度・・・姐さんに・・・あいた・・・か・・・た」


苗木に腹部を貫かれていた一輪は白蓮への思いを最後に息を引き取った。

私の目の前で。


私は一輪の死体を苗木から引き抜き、もう開くことのない唇に唇を重ねる。
仄かに熱を感じた。舌を唇の中に入れても彼女の舌は私の舌に絡みつかない。
何度も何度も一輪の舌を舐めるが一輪はもう動かない。
彼女はもう動かない。