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『氷劇』 作者: zuy
この世には、触れてはならないものがある。
魔理沙のような人間はそれを本能的に知っていたと思う。
しかし、幻想郷の暖かい陽気は彼女の頭をどうかさせていたのかも知れない。
魔理沙はその日、寝不足だった。
彼女の頭は回っていなかった。
「頭の良くなる薬」
ラベルにそう書いてあった。
香霖堂に売っていた。
それを魔理沙は随分前に買った。
それきり、忘れていて、そんなものは下らなかったのだが、ふと思い出した。
といったのも、小規模の地震が家を揺らし、戸棚の上に押し込んでいた小瓶が彼女の頭に降ってきたからであった。
「おい、これ飲んでみないか」
魔理沙はチルノに言った。
朝の湖だった。
チルノは眠っていたが、起きた。
「何、それ」
「頭が良くなる薬だと」
「えっ、本当に」
「本当」
「嬉しいな嬉しいな」
チルノは小瓶の中身を全部、飲んだ。
どうやら苦かったらしい。
魔理沙はチルノが死ぬかも知れないな、と思った。
しかし、自己中心的で享楽的な彼女は、死んだら死んだでいいや。妖精だし大丈夫だろう、などと思っていたりもした。
その日、魔理沙は紅茶と日本茶を少し買って、帰路、アリスにちょっかいを出して怒らせてから何度か弾幕ごっこをして、家に帰ってウィスキーを飲んで眠りに付いた。
ウィスキーは彼女を深い眠りに導いてくれた。
彼女は薄れゆく意識の中で、「こんな日々が永遠に続けばいいのにな」と思った。
魔理沙は周囲の妖怪や人間達が好きだった。
だから、彼女のいたずらには悪意が無かったし、一種の愛情表現であったとも言える。
しかし、彼女はいつか死んでしまう。
人間だからだ。
魔理沙が目を醒ましたのは夕方だった。
そして、ふとチルノのことを思った。
魔理沙は薄暗い空へと飛び出した。
魔理沙は耳を疑った。
「何だって?」
「やあ、魔理沙かと言ったけどね」
チルノは落ち着き払った様子だった。
全く予想外だった。
尻尾が生えるとか、目が三つになるとか、愉快な副作用、あるいは無効果を期待していた魔理沙は冷や水をぶっかけられた訳だ。
「私、この通り頭が良くなったみたい」
チルノはふう、と息を吐き出した。
「嘘、だろ」
「喜んでくれないんだ?」
チルノはただ口だけを動かした。
「あなた、私のことを馬鹿だと思っていたでしょう?」
「う」
「そりゃ喜ぶわけないわよね。全く期待してなかったわけだものねえ。私は遊び道具だったわけでしょ?」
魔理沙の帽子が風に吹き飛ばされて落ちた。
「お、怒ってるのか?」
「まあね。でも、許してあげる。私、生まれ変わったような気分だから」
「へえ」
「そう。誰にも負ける気がしないの」
魔理沙は咄嗟に一歩、退いた。
すると、間髪入れず、そこに氷柱が突き刺さった。
「な、何だよ」
「ちょっと相手してあげる」
魔理沙の背中にぞくりと寒気が走った。
「止めろよ」
「よく分かったんだけど、体の動かし方って脳の使い方そのもの。私、今まで潜在能力の3%も使ってなかったみたい……、あなたは何%使っているのかしら」
突如、魔理沙の八卦炉が火を噴いて、湖の表面を薙いだ。
必殺のマスタースパークだった。
確実に戦闘不能に出来る角度と威力だった。
しかし、チルノは横の雑木林の中からおもむろに姿を現した。
「何」
チルノは溜息を吐いた。
「今まで、私に負けたことがないから勘違いしてるのね。次からは勘違いしちゃ駄目。すごくむらがあって、読まれやすい砲撃だったわ」
「ひっ」
魔理沙の怯えをかき消すようにして、周囲の林と地面がたちまち氷漬けになったかと思うと、爆砕してダイアモンドダストが起きた。
「霙符・インペリアル=レジティメイト」
チルノは厳かに言った。
魔理沙はあまりの涼しさに驚いた。
「何だと」
「分かったわ。あなたじゃ私に勝てない。あなたも分かった?」
チルノは再び静かになった湖上に舞い上がった。
「もういいわ。今日は帰ったら? 薬はご馳走様……」
魔理沙は途端、金縛りから解けたように走り出した。
そして、箒に飛び乗った。
すでに真っ暗になった空を飛んでいる内に、真っ白だった彼女の頭に考えが戻ってきた。
「大変だ、大変だ、大変だ、どうしようどうしよう、どうしよう」
チルノはもはや化け物だった。
その化け物を作り出したのは、そう、自分自身だ。
「何とかしなきゃ、何とかしなきゃ、何とかしなきゃ」
薬を売ったのは香霖だ。
彼なら何とかなるだろうか、いや、無理だろう。
アリスならどうだろう。
これもまたどうだろう。
文ですら危うい。(上手い、上手い)
「そ、そうだ」
魔理沙は思いついた。
親友の霊夢がいる。
普段はいたずらしたり喧嘩ばかりだけど、いざって時に頼もしい巫女だ。
彼女なら何とかなる。
「助けて、霊夢」
魔理沙は真っ直ぐ神社へと飛んだ。
鳥居をくぐって、境内へと駆け込む。
見慣れた賽銭箱。
石畳に反響する足音。
住まいまでが異様に遠く感じる。
顔を真っ赤にした魔理沙は勢いよく戸を叩いた。
「霊夢、霊夢」
彼女はきっと、今頃、夕食を取っているのだろう。
中から物音がした。
途端に魔理沙の目から涙が溢れてくる。
「助けてくれ」
魔理沙は零れる涙を拭いながら、必死に状況を説明しようとした。
「大変なんだ」
もう、何が何だか分からなくなりそうだった。
「とにかく、話を聞いてくれ」
魔理沙は戸にもたれかかった。
すると、霊夢の返事が聞こえた。
「もう顔も見たくないって言っただろ、クズ」
- 作品情報
- 作品集:
- 4
- 投稿日時:
- 2009/10/11 07:12:52
- 更新日時:
- 2009/10/11 16:20:52
分かります
まさかのH展開にやられました
一本とられたwww