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『気狂いが追悼してみただけ』 作者: atad

気狂いが追悼してみただけ

作品集: 5 投稿日時: 2009/10/13 12:59:48 更新日時: 2009/10/13 21:59:48
 手が汚れているので、貴女には会えません。
 手を綺麗にするまでは、貴女には会えません。
 私は、それを頑張るつもりですが、かなわないかも知れません。
 叶わなかったら、叶うまで、私は貴女には会えません。
 

 私は貴女が     です。とてもとても     です。
 ですが私はそれを良くないことだと知っています。
 だから私はそれをやめようと思っています。
 しかしやめることは出来ないかも知れません。
 「私が生きている限り」?
 いいえ、違います。
 私はそれをしていないと生きていられないのです。
 前者は微かな可能性を含んでいますが、後者にはそれが皆無です。
 私は後者です。


 私は死んだ人に土をかぶせてしまいます。
 とてもとてもいけないことです。
 だけれど私は死んだ人に土をかぶせます。
 穴を掘ってそのなかに埋めます。
 その上に家を建てます。
 小さな家をいくつも建てます。
 村が出来ます。国が出来ます。
 小さな人がたくさん住んでいます。人には文明が、社会があります。
 造られた河と、造られた海があります。
 造られた木が、林が、森が、山があります。
 世界があります。
 だけれど私は空を造ることだけが出来ません。
 その世界だけの空を造ることが出来ません。
 小さな星を作っても、浮かべる空がありません。
 私の上にもある空を、その代わりにするほかないのです。


 いくら私が死んだ人を新しい世界に移したとしても、彼等の世界に、彼等だけの空はありません。
 それはとても悲しい事です。
 たとえ『空』という名前が存在しないものに付けられた偶的なものだとしても。
 『空色』という色は確かに存在するのです。あの遠い青さは。
 ですが空を作ることが出来ません。
 空は空でしかないのです。



「髪から空に溶けてしまわないでね」



 私は物言わぬ人々に尋ねました。

「悲しいと思いますか?」

「空がないことは寂しいですか?」

「そうですか、でしたら私がおつくりします。」

「さぁみてください私の頭を。」

「私の頭はとても空色をしているそうです。」


 髪の毛を誰かが引っ張っています、
 やめてくださいとはいえません、空に言葉はないのですから。
 沈黙していると血が上ってきてだんだん意識がかすんでいくのですが構いません。私は空です。かすんだ空は綺麗なんです。
 一つ抜けた髪が村に落ちていきます。
 雨が降りました。池を作らない雨が降りました。
 雨は空から落ちてくるので雨は空の一部です。
 私達の雨は湖を作りますがこちらの雨は草原を作ります、緑色の草原が見る見るうちに青色に染まっていってまるでそこは海のようです。
 ああそうです、そこは草原でも山でもないのです、盛り上がっている海なのです。
 これこそ彼らだけのもの。私のものでは全くない彼らだけの独自の世界。


 あぁ、そうなると全てを変えなければ。
 私は失敗をしてしまった、今気付いてしまいました。
 桶一杯に水を汲んで国を洗い流します、家も橋も木も草も全て流れてしまいました。
 土だけがそこに在ります。皆土に還りました。
 そして私はもう一度、真実に気付いたのです。


 土だけは共有し享有せざるを得ないということに。



 目に火がついたような熱さを感じました。
 涙が流れてやみません。
 水の中に落ちては消えていきます。嗚呼落ちていく、しょっぱい雨が落ちていく、海がこぼれていくそして流れていく。


 私はいつまでも箱を覗いて泣き続けました。



 ずっと泣いていて体から水が無くなっていきました。腕が枝みたいに細くて硬くなっていてびっくりしました。ようやく目から何もでなくなったら頭の上からあたたかい水をかけられました、

「絵が流れてしまったね」

 箱を見ながら貴女は残念そうに私に水をかけ続けました。手には如雨露があるので私はお花になったのかなぁと悲しい気持ちも忘れて貴女を見上げました。見上げると水が目に入って痛かったのでやっぱり箱の中を見ることにしました。

「手、土がついてる。こっち出して」

 後ろに差し出すと水をかけられました。どんどん綺麗になっていきます。でも、いつのまに土がついていたんだろう。

「流れるっていうのがよくわからないよ」
 箱の中には何もなくなっています。木も人も橋も土も何も。

「あんたの描いた絵を今、あんたは水を入れて流したんだろう」

 描いた絵って言うのは何だろうってもう一度聞くのはもう面倒なのでやめました。ああそうか、そういうことなのか、と何かに納得している妙な気持ちになりました。

「そうなんだ」

 箱の中には少し濁った水が溜まっていました。箱の面を見るとぼやけた緑色や水色や茶色が見えました。ああ小さい、小さい世界が小さい世界で…小さいな。

「ダメなのかな、よくわからないや」

「ダメだよ」



「新しく世界を作り直してもきっとあんたはダメだ」

「思う世界を作ったらあんたは結局何も出来ない」

「何も崩したくないと思うから」

「あんたは私に何も言えないさ」



「あんたは私が好きだろ?」







 何も言えない。貴女の言う通りだ。






 如雨露から流れ続ける水が切れました。ああ寒くなってきました。ガタガタ身体が震えます。

「水を汲んでくるよ」

 貴女がいなくなったのが分かります、足音がどんどん遠ざかって私の耳には水の滴る音しか聞こえなくなりました。
 私は考えていました。何で死んだ人に土をかぶせることがいけないのか。そして何がいけないことでそれをしないと生きていられないのか。わからないと思いました。
 すると私の足はいきなり勝手に立ち上がりました。そしてそのままどこかへ駆けていきます、ものすごいスピードで私はどこかへ向かっていきました。
 何処だろう、何処だろう、とても困るこういうのは。足さん、足さん、止まってください、上半身だけ困惑して足が勝手に前へ進む、私は思わずこけそうになるのに何故か倒れることもない。


 何処へ、何処へむかっているのでしょうか。…ようやくたどり着いた、何処だここは、人が死んでいる。そして隣に箱がある。元にいた場所に戻ったようです。先程までは何も無かったはずなのに。


 その人はうつぶせになって死んでいました。
 よく見るとびしょぬれで、土が流れた後があります。
 何で死んでいるって分かるかといえば何故だろう、わからないけれど死んでいるということがわかるのです。
 私はわからないことをわかろうと思うようになりました。死んでいることがどうして分かるのかを考えて、もしかしたら肌が蒼いからかもしれないと考えました。そしてダメなことをどうしてダメなのかがわからないから理解できるようになるためにダメなことをしてみようと思い、私は死んだ人に土をかぶせました。
 手で土をかき集めて何度も何度もかぶせました。指先が痛くて痛くてたまらないのだけどそれでも土をかぶせました。

「まだだろう?」

 上から声が聞こえます。貴女がいる。

「私が土をかぶせてあげるよ。だけどあんたはダメだ。まだ終わっていない」

 私が懸命にかぶせた土を貴女は如雨露で流しました。そうか貴女がこの人の土も流したんだな、ダメっていうのは貴女がダメと言うからダメになったのだ。なんてこと。私は四つん這いになったまま貴女をにらみつけました。

「ダメ、だよ」

 貴女には何も言えない。だからこれは私の独り言です。

「何がダメなの」

「何が終わっていないの」

「何で私は」



「何で私は貴女に何も言えないの」

 貴女が水をかけてくれたおかげでまた涙が溢れてきました。口から言葉がどんどん溢れてこのままでは私はからっぽになってしまうかもしれないと思いました。

「そんなことはないんだ、きっと気のせいだ、勘違いをしているんだ、そういうわけじゃないんだ、本当はもっと違うところにある、だから全くそんな事実はありえないんだ」

 虚栄が溢れて消えていきます、身体がどんどん透き通る。何かが言葉を圧迫して大きく膨らみ弾けているのを感じました。

「だけどそれは無理だ、ダメだ、ダメなんだ、それが理解できてしまったらわたしはダメになるんだ、だからダメなんだ、真実は常に掲示されるべきものじゃない、隠し通さないといけないこともある」

 牽制が流れて消えていく、声と一緒に見えなくなってもう私の手の甲から地面が見える。私はどんどん透明になっていきます。

「…わたしは、わたしは、わたしは、わたしは、わたしは………」

 土まみれの手を伸ばして貴女の手を握りました。溢れる何かを感じてもそれは次々に弾けてしまってどう言葉にして良いかが分かりません。「わたしは、」という言葉以外が全て消えてとても歯がゆくて、涙も全然止まらなくて身体が殆ど見えなくなって、貴女がまた如雨露でお湯をかけました。

「泣くなよバカ」

 水に涙がまぎれて泣いていることを隠してくれました。薄れている私の頭を数度撫でて貴女は言いました。


「まだ見える、空色」


 私は貴女の指を握って透明になりました。






 透明なまま転寝をしていたら貴女はいなくなっていました。
 箱も死んだ人もいなくて、土は青くて、私はもう透明じゃなくて、何がなんだかよく分からないままうつむいたら、ずっと下の方に貴女がいました。
 貴女はぼうっとたたずんでいて、その目の前には棺がありました。
 中には蒼くなった私が横たわっていました。

 生きていなくても私は貴女が好きでした。
もこけねといいはる

あたまがいいかんじにキチガってたときにかいた
あのときは二人ともお花畑ウフフだったはずなのに
いまではいみがよくわからない
まさに産廃
これぞ惨敗
シャンハーイ
atad
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2009/10/13 12:59:48
更新日時:
2009/10/13 21:59:48
分類
キチガイ
意味不明
よくある寿命ネタ
1. どっかのメンヘラ ■2009/10/13 23:19:59
そんなあなたを
産廃は祝福します
2. サレ ■2009/10/19 20:16:00
気狂いな作品もいいと思います
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