Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『蛙の歌』 作者: アリンコ
こつ。
こつ。
誰かが階段を下りる靴音で、私は眠りから覚めた。
「フラン」
扉にかけられていた結界が消えて、お姉様が部屋に入ってくる。
お姉様は扉を閉めていない。まだ覚醒しきらない頭にも、思い当たるふしがあった。
「そっか。今日は新月なのね、レミリアお姉様」
「ええ。遊びに行きましょうか、フラン」
◆ ◆ ◆
紅魔館周りの森を二人、無言で歩く。
特別歩きやすい道でもないけれど、私達が空を飛ぶことはない。
完全な新月の晩、吸血鬼の力はびっくりするほど弱くなる。
魔法を使ったり何かを壊すことはおろか、羽だってぴくぴくとしか動かない。
きっと、お姉様も似たようなものなのだろう。
「わ」
空を見上げたまま歩いていたお姉様が、転んだ。
スカートに付いた土を払うお姉様を、私はぼんやりと見た。
石にでもひっかけたのか、右の脛のあたりに血の玉がぷくりと広がる。
普通の吸血鬼なら秒と待たずに治るような傷。
お姉様も、吸血鬼じゃなくなっていた。
「大丈夫?」
「ええ。私もフランと同じよ」
そして、私の考え事はすっかり見透かされていた。
「ちょっと座りましょうか」
「うん」
しばらく歩くと森が開けて、目の前に湖が広がった。
湖のほとりの、草のふかふかした所に二人で腰を下ろす。
会話もないまま、お姉様は空を、私は黒い水面を見つめていた。
ぱしゃん。
「かえるがいるわ」
「フラン、今なら私を簡単に殺せるわよ」
水から上がったかえるは、跳ねて森へと向かっていく。
「この湖に落とせば、きっと今の私は助からないわ」
「うん」
「いつも、隙さえあれば館も私も壊そうとしてるくせに」
「うん」
「殺したかったんじゃないの?」
「そうだけど」
かえるは見えなくなってしまった。
「吸血鬼じゃないお姉様は、別に嫌いじゃないわ」
「好き?」
「うーん」
また、二人で黙り込む。
かえるは戻ってこないけれど、風に揺られた木の葉がさらさらと生き物みたいに鳴いていた。
「お姉様」
「何?」
「さっきの傷に触ってもいい?」
「いいわ」
お姉様が脚を伸ばす。
私ははいはいをして、お姉さまの傷口に近付いた。
丸いかさぶたに爪をかけて剥がす。
パスタを押し出すように血の玉がいくつも現れて、やがて一つになり地面へと垂れていった。
親指の爪で、傷口をがりがりと穿る。
傷口はどんどん大きくなり、相応の血が噴き出した。
手についた血をぺろりと舐める。
「まずい」
「おいしくない、でしょ。言葉が汚いわ」
いつもはジュースみたいに感じる血の味だけど、今は鉄錆を噛んだようにしか感じない。
こんな所まで、私はきれいさっぱり吸血鬼ではなくなっていた。
お姉様の血が特別にまずいだけなのかもしれないけれど。
結局私はお姉様の右脚をすっかり血濡れにして、傷口を広げるのも血を舐めるのも、
この分だとお姉様を粉々にしても、今夜はいまいち面白くならないと悟った。
「お姉様、もういいわ」
「そう」
「痛かった?」
「ええ」
「ごめんなさい」
「寝て起きたら、きっと治ってるわ」
お姉様が立ち上がってスカートを払ったので、私もその真似をした。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん」
お姉様がひょこひょこと歩き始める。私は手を繋いであげた。
◆ ◆ ◆
帰り道の途中から眠くなっていた私は、部屋に戻るとすぐベッドに倒れこんだ。
扉はまだ開いていたけど、扉の外側にお姉様が何かをかりかりと描いている。
やがて、扉に結界の光が戻った。
「それじゃ、お休みなさい」
「お休みなさい、レミリアお姉様」
扉が閉まっていくのを見ながら、私はベッドで目を閉じた。
「フラン」
「なあに?」
「またね」
「うん。またね、お姉様」
夢の中で、かえるの鳴き声が聞こえたような気がした。
夜食を買いに出てみたら、いい感じに蛙が鳴いていたのでつい
アリンコ
- 作品情報
- 作品集:
- 5
- 投稿日時:
- 2009/10/14 20:05:51
- 更新日時:
- 2009/10/15 05:05:51
- 分類
- レミリア
- フランドール
本当に申し訳ありません・・・
二人で月の光を浴びながらおさんぽできる日はくるのかな