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『舟幽霊は毘沙門天に恋をする その1』 作者: かるは

舟幽霊は毘沙門天に恋をする その1

作品集: 5 投稿日時: 2009/10/15 18:57:54 更新日時: 2009/10/16 03:57:54
 春先の幻想郷の空を、一隻の船が遊弋していた。
 その船の名は、聖輦船。
 数週間前に封印より解放された尼僧、聖白蓮を筆頭に集った妖怪達の住処にして、その白蓮の帰依する命蓮寺をも兼ねた巨大な船。
 うららかな午後の空は、至って平和である。
 雲を突き抜け、風を切りながら、聖輦船は幻想郷の空を自由に漂っていた。

 この物語は、そんな聖輦船の甲板から始まる――

【ムラサside】

「…………んんーっ…………ふぁっ…………んっ、んん――っ!!!」

 つい先程まで聖輦船の甲板の上で昼寝をしていた私――村紗水蜜は、眠気を覚ます為に大きく伸びをしていた。
 本日の天気は良好。聖輦船の飛行高度はおよそ地上百メートル。周囲の風速は微風――聖輦船の航海には、影響無し。
 甲板に容赦なく降り注ぐ冷たい風が、寝ぼけている私の頭を徐々に覚醒させてくれる。
 今日は――そうだ、命蓮寺の新入り、封獣ぬえの歓迎会も兼ねて、聖輦船で遊覧飛行をしているのだった。
 自動操縦の術式が発動している聖輦船は、船長である私の操舵を必要とはしない。
 だから、私はこうして、甲板でお昼寝をする事が出来たのだ。

「んー…………まだ、もうちょっと眠いかも…………えっと、他の連中は……」

 甲板をぐるりと見渡すと――数メートル遠くに、もう一人の妖怪の姿が見える。
 金色の髪に蓮の華にも似た髪飾り。鎧を連想させる茶色の服に、虎柄の腰巻姿。
 寅丸星――私の、大切な人の姿だ。

「…………はぁっ…………しょうがないなぁ……聖やぬえは、船室で宴会だってのに……ったく、星はこれだから……」

 寝ぼけ眼を擦りながら、私はそっと星の近くへ歩み寄る。
 星は――寝ているらしい。
 ごろりと甲板に仰向けになって、気持ち良さそうに眠っている。
 足音で起こしてしまわない様に気を付けながら、小さな声で星に呼びかけてみる。

「おーい?」
「…………ふにゅ……………………えへへっ………………らめですよー…………そんなにいっぱいぃ……たべれな…………うみゅ…………」
「……はぁ……どんな夢を見ているんだか」

 どうやら、かなり深く眠っているらしい。
 どんな夢を見ているのだろうか? もう食べられないと言っていたし……夢の中でも宴会? 賑やかな事だ。
 私はそっと、星を起こさない様に気を付けながら、その傍らに腰を下ろす。

「はぁっ。どうして私……こんなのを、好きになっちゃったんだろうなぁ……」

 誰かに言い聞かせる訳でもなく、何となく私はそう呟いていた。
 寅丸星――毘沙門天の代役として、命蓮寺で人間の信仰を一身に受ける妖怪の少女。
 コイツと最初に出会ったのは……聖が、毘沙門天の代理として何処からか連れて来た日の事だった。

 最初は、生真面目で融通の利かない頑固者だと思っていた。
 仏法における十二天の一角、毘沙門天の代理として厳格な正義を貫く、堅物な妖怪。
 それが、私にとって最初の星に対する印象だった。
 けれども、一緒に寝泊りをして、ご飯を食べて、お風呂に入って、航海をして、星空を見上げて、色々な事があって――私は、そんな星に対する印象が誤りであった事を知った。

 宝物である、毘沙門天の宝塔を無くす。
 人間に正体を怪しまれて、危うい所で聖のフォローに助けられる。
 部下である鼠の妖怪、ナズーリンには頭が上がらない。
 星は私が思っていたよりもずっとずっと弱くて、おっちょこちょいで……けれども、一生懸命な妖怪だったのだ。

 毘沙門天の代理と言う重圧に耐え切れず、泣き言を言った時もあった。
 大切な宝物を無くしてしまい、涙目でナズーリンに探索を命じる時もあった。
 書置きを残して寺を抜け出した日は、私と聖とナズーリンと一輪で必死に探したりもした。
 命蓮寺の代表の癖に、大切な時に頼りにならない。
 けれども、周囲は星が受けている重圧を知っているからこそ、支えになってあげようとする――そんな、平和な日々が本当に懐かしいと思う。

 そして何時しか――『堅物な妖怪』と言う私の星に対する認識は『支えてあげないと駄目な妖怪』に摩り替わってしまっていた。
 やがて私は、聖やナズーリン、一輪や雲山より――誰よりも、星の支えになってあげたいと願う様になっていた。
 妖怪を救う力は無い。
 無くした物を探す力も無い。
 雲を操って戦うだけの力も無い。
 海難事故を起こす事くらいしか、私には出来ないけれど――それでも、他の誰よりも星を支えてあげたいと思ってしまったのだ。

 星は、そんな私を受け入れてくれた。
 忘れもしない。
 毘沙門天の代理の重圧に耐えられなくなってか、あるいは何かを無くしてか、寺を逃げ出した星を必死に追いかけていたあの日の事だ。

『どうして私なんですかっ! 聖も、一輪も貴女も……皆、私の気持ちなんか分かっていない癖に!
 私には……私には、十二天の名は重過ぎるんですよ!!
 毘沙門天の代理なら、他にも優秀な候補者がっ――』
『このっ……ッ…………バカ虎ッ!!!
 星の事がどうでも良いなら、私も聖も他も……追ったりしないでしょう!
 私達には星が必要だから……だから、探すんでしょう!!!』

 ……あの後は、どうなったんだっけ……恥かしい事を色々と言った気がするのだけれど。
 その場の勢いで、ついつい『私は星の事が好きだから』なんて事を口走った気もする……そのせいで、想いを伝える事が出来たのだけれど。

 そんな星は、今日も今日とて絶好調でボケボケ気味。
 寝言は暢気だし、未だに物を無くす癖は治らないし、何かあればナズーリンを頼るし、たまに寺を逃げるし。

 でも、あの日からほんの少しだけ、星は強くなった気がする。
 ……ううん。単純に、星が強くなったんじゃない。
 星の中に、私と言う逃げ場が出来たから、ほんの少しだけ気持ちが楽になったんだ。
 勢いで告白なんかしちゃったけど……結果としては、それが星を成長させてくれたんだ。

「……ダメな奴が好き、って事なのかなぁー…………そんな自覚は無いんだけど」

 金色の髪が風に撫でられる度に、星はくすぐったそうで――けれども心地良さそうな笑顔を浮かべるのだ。
 私は舟幽霊だから、星に触れる事は出来ない。
 こんな姿を見ていると、案外、星は虎と言うよりも猫なのかもしれない――なんて事を考えてしまう。

「さてとっ……私ももうちょっとだけ、休ませてもらおうかな」

 どうせ、聖輦船は自動航行なのだ。船長が起きていようが寝ていようが関係ない。
 聖はぬえと宴会中。一輪とナズーリンもきっと、お酌に付き合わされているのだろう。
 確か、ナズーリンが珍しいワインを手に入れていた筈だ。
 私は……洋物のお酒が苦手だから、こっそり抜け出して昼寝をしていたんだったか。
 確かその時、星は聖に付き合わされていた筈なんだけど……今はこうして、甲板でお昼寝中の様子。

 ちらりと甲板の床を見てみれば、私が眠っていた所から星が今眠っている所まで、何かがズリズリと引きずって移動した様な跡が残っていた。
 ……つまり、星は私を追って甲板までやって来てくれて…………そして、横で一緒に眠り出した?
 聖の相手を途中で止めて、宴会よりも私の傍に居る事を選んでくれたって事?
 けれども、船の揺れや寝相の悪さで星が遠くへ転がってしまって――

 …………寝起きで真横に星の寝顔が無かったのは、ちょっとだけ残念かなあ。

「星は寝相が悪いからなぁー。ゴロゴロ転がって、ちょっとだけ遠くまで移動しちゃったのかも」

 星の寝相の悪さにほんの少しだけの恨めしさを感じながら、私は星の横に寄り添う様にして横になる。
 今度は寝相の悪さや船の揺れが原因で、離れてしまわない様に――そっと、手を繋いで――

 私の指先は、星の指をすり抜けてしまった。

「…………そう、だよなぁ……あははっ、私ったら、幽霊なのに………………」

 分かっている筈なのに、どうしても胸の奥から悔しさが込み上げてしまう。
 幽霊だから、触れられない。
 舟幽霊だから、柄杓と航海用具に触れる事は出来る。
 聖輦船の備品を使えば、食事だって楽しめる。
 柄杓で大量の水をばら撒いて、船を沈める事だって出来る。
 数十の碇を叩き付けて、相手を倒す事だって出来る。

 だけれども、私が一番触れたいと願う相手に触れる事は出来ない。
 愛する相手の温もりを、一度も感じる事が出来ない。

「…………っ…………分かっている筈なんだけどなあ……」

 きゅぅっ――と、胸の奥が締め付けられる様な気がした。
 私と星は、こんなに近くに居るのに――こんなにも、遠いのだ――

「でも……っ…………………………一度くらい、手……繋ぎたいよ…………」

 好きな人の隣に居ると言うのに、涙が流れてしまう。
 幸せで、居られる筈なのに……大好きな星の隣に居られて、本当に嬉しい筈なのに…………

 私は、星と触れ合う事が、出来ない。

「…………んくっ…………泣いてても、どうにもならないよね。
 あははっ、目を真っ赤にしていたら、星に心配されちゃうよ…………」

 袖で涙を拭うと、私はそっと星の隣で横になる。
 触れ合えなくても、隣には居られる。
 星は、私の想いを受け止めてくれた、大切な人。
 それだけで……私は、きっと幸せなのだ。

 もう涙は流さない。
 大好きな人の隣に居られる幸せが、私を慰めてくれるから。

「それじゃあお休み、星。
 ――大好きだよ――」

 私は大好きな星の隣に横たわると、静かに囁いた。
お久しぶりです。作品集1と2で小傘改造SSやもやしSSなんぞを投下していたかるはと申します(ぶっちゃけ、忘れられていますよね!)
この度は短編SS5〜6編くらいでムラサと星の物語を綴りたいと思い、再びこちらの方で投下をさせて頂きました
紅楼夢の自サークル原稿が終了し、ようやく時間が確保可能になったのがつい二週間前の事
その癖に今更投下を始める辺り、己の遅筆っぷりが恨めしく思います

ではこれよりしばし、ムラサと星の物語にお付き合い下さいませ……なるべく早く続きを投下したいと思うので、どうか宜しくお願いします
かるは
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2009/10/15 18:57:54
更新日時:
2009/10/16 03:57:54
分類
寅丸星
ムラサ船長
人は死にません
エロはありません
グロもありません
産廃に相応しくないかもしれません
1. 白米 ■2009/10/16 04:54:01
水星!水星!水星!水星!
かるは殿・・・あなたは同志だ。

イヤッホゥウウウウ!!!!!!!!!!!

なぜ産廃?という疑問はあるけれど、筆者が考えての上の投稿だろうから、無粋なことは言わん!!
2. 名無し ■2009/10/16 05:04:20
これからグロくなるの?
3. 排気ガス ■2009/10/16 09:42:00
心が折られそうだ
4. 名無し ■2009/10/16 09:47:32
産廃は全てを受け入れる・・・はず
5. 名無し ■2009/10/16 09:53:43
好きにすればいい
好きにするから
6. ぐう ■2009/10/16 10:05:16
水星か、いいなぁ
7. 名無し ■2009/10/16 11:12:43
いいじゃん
続き待ってる
8. 詩祈乃 ■2009/10/16 12:39:29
水星同志ktkr!
好きなのに触れられないとかみっちゃん切なすぎる…。
これからどうなるのか楽しみですw
続き、正座して待ってます!
9. 名無し ■2009/10/16 18:00:27
心の汚い俺には堪える、心などもう折れた
10. 名無し ■2009/10/16 23:05:10
痛みに強くても愛に弱い産廃民はきっと妖怪
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