刺す。

私は一輪さんに対してマウントポジションを取っている。
これが普通の男が女を押し倒した。という状況なら微笑ましいのだが違う、

一輪さんは泣きながらジタバタする、

私は大笑いしながら一輪さんを見下ろしている。

「ひぃっ、嫌ぁぁぁ・・・許して・・・許して・・・」

泣くぐらいなら・・・一輪さんは私なんかをすぐに殺せるはず。
わかった、怒ってないんだ。よし怒らせよう。よし殴ろう、怒って私を殺してくれるまで殴ろう

ドガッ
「ひぎっ！！」
グシャ
「うげっ！」
ボゴォ、
「うえっ・・・！」
ゴボッ、
「んぎっ。」
ドゴッ
「ががっ・・・」

・・・？どうして怒らないんだい？何で？こんなにも殴り続けても怒らないなんて・・・

「あ、あなたは・・・本心からやって・・・い、ない・・・」

んぎぎ・・・いくら一輪さんだって・・・！ナイフでメッタ刺しにされたら怒るに決まっているはず！！ほら！怒れよ！私を跳ね飛ばして殺せよ。殺せ、殺せ！！！

「あなたは、ほん・・・と・・は」


五月蝿い！！

「あなたは私を殺せない！！だから私もあなたを殺めない！！」

・・・殺せよ！おら！殺さねえと、私・・・・・・
私・・・・・・これからどうすればいいんですか？
憎むぐらいなら殺してください。

「憎みません・・・姐さんがそうしてきたように・・・私も・・・あなたを許します・・・」

・・・一気に殺してください。
憎んで、一生憎んで、一輪さん！
私、死ぬから。ね？

「あなた・・・」

一輪さんしか居ないんです。私を殺してください。
お願いします。殺してください。殺して。
殺せー！！


「嫌です。」

私は一輪さんを絶対怒らせて私に殺意を・・・そして最後にはあなたにこの命。散らしてもらいたいのです。だから・・・

「・・・例えナイフでメッタ刺しでも私はあなたを殺しません。」

黙れ！！！怒れ！！！絶対怒れよ！！そして私を殺せ！！


ブスッ
右腕に一刺し、
「いぎいいい！！」

ザクッ、
右肩に一刺し、
「んがああああ！！」

グチュ・・・
左腕に一刺し、
「んぎい」

グリグリグリ・・・
左腕から左肩まで切り開く・・・
「うぎぎいいいいいいい」

ブシュ・・・
左肩の手前で引き抜く、
「いぎっ！・・・ハァハァ、」

グサッ！！
右肩の傷口に軽く一刺し、
「ぎぎぎいいいい！！！」


両腕が使えないですね。これで・・・これで一輪さん？私を殺してくれますよね？ねぇ？殺してくださいよ。あなたに殺されないと。ねぇ？殺してくれますよね？ほら、殺してくれるんですよね？

「はぁ・・・はぁ・・・このぐらいの傷・・・一日もあれば・・・治ります・・・だから・・・あなたを恨みません・・・憎みません、殺しません。」

一輪さん・・・あなたは真っ直ぐすぎる・・・普通の人や妖怪なら直ぐに私を殺すはず・・・でも・・・これなら・・・殺したくなりますよね？

「何をされてもあなたを憎みません・・・ただ許します。ただ・・・」

くそっ！！！こうなったら一輪さんのその青くて綺麗な目を・・・抉ってやる！！！

「・・・ッ！！」

ふふふ・・・ほら。目は嫌なんでしょう？ほらほら・・・抵抗してくださいよ・・・殺してくださいよ・・・

「何がなんでも私の意思は曲がりません！」

ほらほら、目にどんどんナイフが近づきますよ
「・・・ゴクリ」

ほら。もうすぐ・・・
「ひゅーひゅぅー」

・・・駄目だ・・・いくら何でも一輪さんのその顔を傷つけるなんてできない・・・それに目を無くしてしまったら・・・

だからっ！！

ガンッ！！


「んぎぎぎぎっぎっぎぎぎぎい！？」

はぁ・・・はぁ・・・これで・・・左肩はもっと重傷だ・・・顔なんて狙えない・・・狙えない・・・こんなに・・・綺麗な一輪さんの顔を傷つけるなんて・・・たとえすぐに傷が治療されるとはいえ・・・だめだ・・・できない。

「あ・・・なたは・・・私をころ・・・くは無いんですよ・・・ね。」

うるさい！！ただ顔は狙えない・・・そんなに・・・綺麗な顔を・・・狙えないよ・・・
狙えるわけないじゃないか・・・

「これであなたを憎まない理由と許す理由が同時にできました。あなたがもしあのまま私の目を貫いてたら私はあなたを恐らく、恐らく怒りで許さなかったでしょう。」

私は一輪さんのお腹を再び殴った・・・

「全て耐えて見せます・・・私はあなたを・・・」

うるさいうるさい！！死ね！！早く私を殺せ！！

ドガッ、
「んぐっ・・・」
バキッ
「ぐぅ！」
ボゴォ！
「あがぁ！！」

ドガッ、ドゴッ、ボゴッ、グシャ、グチャ、
「んぎっ！！！がふっ！んぼぉ！んぎぎぎ。んあ！！」


「どうですか・・・私は耐えきりましたよ・・・」

はぁ・・・はぁ・・・なんで・・・なんで・・・殺さない・・・こ・・・ろ・・・せよ・・・

「あなた・・・が私を本気で殺そ・・・うとしない・・・から。です。」


一輪さんは真っすぐだ・・・でもこういう所に私は惚れたんだと思う。
あぁ・・・もう彼女を殺すのは無理なのかもしれない。たとえチェーンソーを一輪さんに振り落とそうとすると体のどこかが急所を外してしまうのだろう。


あぁ・・・もし本当に一輪さんが許してくれるのなら・・・このまま一輪さんにもたれかかっても・・・いいかな・・・ねぇ。一輪・・・さん

「えぇ・・・」


私はナイフを投げ捨てマウントポジションから、一輪さんにもたれかかるように倒れかかった。

「・・・よしよし、やはりあなたは最初から私を殺す気なんてなかったんですね。信じていました。」



一輪さんにもたれかかると一輪さんの血まみれの両手が私の首に優しく手を回してくれた・・・一輪さんにともかく。私は一輪さんに抱かれていることに幸せを感じた。






ごめんね・・・一輪さん、もし一輪さんに嫌悪されるかと思うと・・・怖かった。

「いいんですよ・・・これから・・・変わりましょう・・・大丈夫。もう怖くないですよ。」









人間と妖怪は次の朝に二人で目覚める、そして人間は妖怪の腕の傷が治っていることを確認すると妖怪の手を握った。二人は幸せだった。
再び抱きしめあったまま眠った。だって幸せだったのだから・・・

二人は幸せだった。




fin