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『眠りません。 しかし、眠るかもしれません。』 作者: ぷぷ
・眠りません。 しかし、眠るかもしれません。
1、
「……持ってきたか?」
「ああ、約束のブツだ」
深夜、人里の外れ。
背の高い河童と、中年の人間の男が、何やら二人で話している。
河童の手には薬品が入ったビンの様な物があり、それにはシールが張られている。
どうやら、『CHCl3』と書いてあるようだ。
男はニヤニヤ笑いながらビンを受け取り、河童に金を渡した。
「ヒ、フゥ、…… 確かに」
「あったりめぇさ。 態々こんなもん用意してくれる河童に、嘘なんかつくもんかい」
渡された金が満額かどうか確かめた河童に、男はハハハと笑いながら言った。
「一応言っておくが、乱用はするなよ? あと、保存方法には十分注意するように」
「分かってるさ。 『外の世界の使用法』に則って使うから、安心しな。 じゃあな!」
男はビンを抱え、颯爽と闇の中に消えて行った。
「……しっかし、変わった人間だなぁ」
河童はそう呟いた。
「『使用法』さえ守ってくれれば、別に大っぴらに渡しても良かったんだが……
何故この様な渡し方を強いた挙句、口止めされたんだ?
技術の進歩を目差す人間といったら、我々にとって親友に値するのだが……」
2、
翌日、夜。
人里で昼から人形劇行ったアリスは、得たお金で嗜好品や人形の材料を買い込み、帰路についていた。
「……最近の人形劇。 やけに大きいお友達が多い気がするんだけど……」
里中を歩きながら、アリスはボソッと呟いた。
人形劇と言うだけあって、劇を見る年齢層は、元々は8割以上が子供及びその保護者、後は精精
中年以下の女性と言ったところだったのだが……
最近は客層の3割を若年から中年の男性が占めるようになり、加えて決まって彼らはこんな事を言っている。
「アリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよ
アリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよアリス可愛いよ」
「アリス! アリス! アリス! アリス! アリス! アリス! アリス! アリス! アリス!」
「アリス食べたいよアリス食べたいよアリス食べたいよアリス食べたいよアリス食べたいよ
アリスの心臓アリスの肝臓アリスの膵臓アリスの胃アリスの胆嚢アリスの小腸アリスの大腸
アリスの盲腸アリスの腎臓アリスの舌アリスの目アリスの耳アリスの鼻アリスの唇」
正直、若干怖い。
どうも人形劇を見に来ているのではなく、アリス自身を見に来ている気がする。
いや、それだけならまだいいのだが、上記のような発言をされると、気持ち悪いを通り越して
恐怖を感じる。
「最近人間でも変なのが多いからなぁ…… 気をつけましょ」
身震いしたアリスは、手の荷物を持ち直して飛び立とうとした。
と、その時。
「ア〜リスちゃ〜〜ん!!」
「?!」
突如背後から、男の下品な叫び声が聞こえた。
木陰に隠れていたらしく、考え事で気を取られていたアリスは、奇襲に対応できなかった。
「そ〜れ♪」
「ちょ…! やめ… むぐ!?」
男はアリスに背後から抱きつくと、彼女の口元に布の様な物を押し付けてきた。
右手でそれを押し付け、左手でアリスの胸をまさぐっている。
冷たい感触がした。 どうやら、何か薬品を染込ませているようだ。
甘ったるい臭いがする。
「さ〜アリスちゃん、おねんねしましょうね〜。 そして僕と、楽しいお遊びをしましょうね〜」
「むが、ふぐっ…! はなひひゃはい!」
突然のことに気が動転しているアリスは、男を振り解けない。
人形なり魔法なり使えばいいのだが、そこまで頭が回っていないようだ。
「ほらほら、さっさと寝ろよ! このアマ! 俺がたっぷり嬲ってやるからよ!!」
「んー! んんー!!」
男は癇癪を起こし、躍起になってアリスの口や鼻に布をあてがっている。
そのまま二人は、地面に倒れこんだ。
男が上側、アリスは下側。
有利な体勢になった男は、ニヤニヤ笑いながら、アリスの股間の方に手を伸ばした。
「うへへ…… こっちはどうなっ、でええ!!??」
ゴツン! という鈍い音がした。
その直後、アリスに覆いかぶさる様に倒れこむ男。
「はぁ、はぁ……」
その男を突き飛ばし、真っ青な顔をしたアリスがヨロヨロと立ち上がった。
その彼女の直ぐ傍で、木槌を持った上海人形が宙に浮いている。
地面に倒れこんだ事によって反って冷静になったアリスが、上海人形を操作したのだ。
「はぁ…… この、アンタ、ふざけんじゃないわよ!」
ドスッ!
「グヘェ!」
アリスが、男の股間を思い切り蹴飛ばした。
気絶していた男が覚醒し、同時に悶絶し始めた。
「おごごごごご…… いででででで……」
「上海! その木槌でコイツの……… 頭をぶん殴りなさい!」
キン○マと言わなかったのは、アリスの最後の良心だった。
先程より状況が悪化していたら、どう転んでいたか分からなかったが…
ゴッ という音が3回発せられ、男が再び地面に倒れ、気絶した。
アリスはため息をつくと、口の周りの妙な感覚に違和感を覚えながらも、事の次第を慧音に報告する為、
里の中へ戻っていった。
3、
「……で、ようやく腫れが引いたって訳か」
「ええ。 三日もかかったわ」
「とんだ災難だったね」
「全くよ」
その夜から3日後。
アリスは魔理沙や霖之助と共に、香霖堂で歓談に勤しんでいた。
〜〜〜〜〜〜
男に襲われた後、アリスは事の次第を慧音に伝える為、里の中に戻っていった。
慧音の家にたどり着き、家の扉を叩くアリス。
「……どうした? こんな夜中に急用か? …ってアリスか。 どうした?」
「ゴメンネ、こんな夜中に。 ちょっと急用で…… 今から一緒に来てくれない? 詳細は飛びながら
話すから」
眠ろうとしていたのだろうか? 慧音は帽子を取っているのは勿論の事、着ている服も簡素な物だった。
「あ、ああ。 分かった、ちょっとだけ待っててくれ… って、おいアリス」
振り返ろうとした慧音が、驚いた様子でアリスに向き直った。
「何よ?」
「それ、その口。 いや、口の周り。 真っ赤に腫れてるじゃないか。 どうしたんだ?」
「え…… そんなにひどい? なんかやな感じはしてたんだけど……」
「結構腫れてるぞ。 暗がりでも分かるくらいだ。 先に医者に行くぞ、里の医者でいいな?」
「え、ええ……」
慧音に強く促され、アリスは今の自分の顔がどうなっているのか、一抹の不安を抱えながら里の医者の
下に向かっていった。
〜〜〜〜〜〜
「それで、男の持ってた薬品…… 『CHCl3』だったけか?
それ、どういう性質の薬品か、まだ分かってないんだよな?」
「ええ。 里の医者曰く、見た事も無い薬品らしいわ。 つまり、どのような性質を持っているのか、
分からないのよ」
里の医者も杜撰なもので、『3日経っても腫れが引かなかったらこい』との事だった。
眠い所を叩き起こしたのは悪かったが、もうちょっと真剣に診てくれても良かっただろう。
アリスは不機嫌そうな医者の表情を思い出し、自分も不機嫌になって行った。
「それで今日、僕にそれを鑑定してもらいに来たって訳か」
霖之助の発言にアリスは頷き、彼に薬品の入ったビンを渡した。
その小さなビンには、アリスが手書きで『CHCl3』と記してある。
「ふむ……」
霖之助は一瞬考え事をしているような顔をしたが、直ぐに薬品の説明を始めた。
「……名前はトリクロロメタン 。 CHCl3というのは、化学式という物らしい。
通称はクロロホルム。 どうやら、麻酔薬の類らしいよ」
霖之助の発言に、アリスと魔理沙は目を丸くした。
「……麻酔薬って、おいアリス」
「……成程ね。 それで私に「さっさと眠れ」とか言ってたのね」
謎が解けた。
あの男は、これで自分を眠らせ、色々やろうとしていたのだろう。
しかし、ここでアリスは別の疑問が浮かんだ。
「でも私、結構嗅がされたわよ? その薬品。
でも眠くなんか全くならなかったし、意識も飛ばなかったわよ?
気分が悪くなったり、頭痛が起きたりはしたけど……」
そうなのだ。
気が動転していたから、というのもあるかもしれないが、あの時は勿論、あれから暫くしても、アリスは
眠くなどならなかったし、意識も飛ぶことは全く無かった。
寧ろ強姦未遂に会ったことにより、反って意識はさえていた。
嗅いだ事は嗅いだ筈だ。 なんせアリスは、臭いを把握しているのだから。
「うん、それなんだが。
外の世界から流れてくる探偵物の漫画で、このクロロホルムが人を眠らせる手段として使われて
いるんだ、頻繁に」
霖之助は本棚の方に向かい、なにやら漫画を取り出してきて、ページをパラパラと捲り始めた。
「君を襲った男は、何処かしらでそれを知ったんじゃないかな? そして、君にそれを嗅がせようとした訳だ。
実際は、小動物に対して使うことはあるようだけど、人間を眠らせる様な作用は無いみたいだね。
口の周りが腫れたのはクロロホルムのせいだろうけど。 君は魔法使いだけど、その辺は人間と一緒なのかな?」
其処まで言い終わると霖之助は、漫画のあるページを見開き、アリスと魔理沙に見せ付けた。
漫画では、以下の様な事が起こっていた。
・真っ黒な人間が、背後から女性に忍び寄り、ハンカチを口に当てている。
・女性は一瞬目を見開くが、直後に気絶する。
・真っ黒な人間の持つビンは、『クロロホルム』と書かれている
「……つまり、漫画の内容は嘘って事?」
「そうなるね。 嘘でよかったね、アリス」
「要するに今回の事件は、嘘を真に受けた無知な男の暴走、ってことね」
「ま、そういうことだ」
霖之助の言葉を聞き、アリスはホッと胸をなでおろした。
どうやら自分にとっての被害は、胸を盛大に揉まれた事、少々秘所に触れられた事、口の周りに炎症が
起きた事、で済んだ様だ。
……いや、結構な被害ではあるのだが。
命に別状が無いなら、取り敢えずは安心である。
「よーしアリス! 安心した所で、パーッと飲みに行こうぜ! 今回は私が奢ってやるからさ!」
アリスを励ましたかったのだろう。
魔理沙は努めて元気良く、アリスの肩をバンバン叩きながら、大声で言った。
「どこがいい? 妹紅の所か? ミスティアの所か? とにかく出ようぜ」
「ちょ…… 魔理沙!」
ニコニコ笑いながら、魔理沙はアリスの手を引いた。
慌てるアリスなど、物ともしない。
「あ、ちょっと待ってくれ、二人とも。 これはどうするんだい?」
霖之助は机の上に置かれた、クロロホルムの入ったビンを手に、香霖堂から出て行こうとした二人に
声を掛けた。
「んなもんいらないよ。 香霖にやるよ。 なあ、アリス」
「え、ええ…… まぁいいけど」
魔理沙は汚いものを払い除ける様な仕草を見せ、アリスの手を右手で引っ張り、左手で扉を開けた。
「まて、もう一つ。 このクロロホルムの……」
「もういいって! しつこいぜ香霖!
じゃあアリスと飲んでくるから、またな〜」
「ちょっと魔理沙! ……霖之助さん、ありがとね」
そう言うと魔理沙は、箒に跨り、アリスを引っ張るような形で飛んでいった。
「……人体に及ぼす影響が、他にあるのだが……」
霖之助はそこまで言いかけて、ため息をついた。
「……どうしよう? 骨が折れるが……
乗りかかった船だ、永遠亭か慧音に伝えておくか」
霖之助は面倒臭そうに立ち上がると、外出の準備を始めた。
『クロロホルムが人体に及ぼす悪影響について
1、呼吸、心拍機能の低下
2、肝臓、腎臓に対する高い毒性
3、発がん性 』
fin
リハビリも兼ねて&今までとはちょっと趣向を変えて作ってみました。
クロロホルムなんか吸っても眠りませんよって話は結構有名なんで、知ってる人も多いと思いますが、
知らなかった方は…… いないかな?
一つ言っておくと、実際はアリスの様な症状ではないかもしれないです。
私もクロロホルムをガンガン吸ったことはないんで、詳細は分からないんです、御免なさい。
ただこのアリスには、永遠亭で健康診断を受ける事をオススメします。
皆さんも、例え機会があっても、クロロホルムを故意に吸うような真似はしないようにして下さい。
※091025_12:59 修正
「遅効性」の部分を削除しました。 誤解を招く可能性のある表現だったので。
実際に、はっきりと(数値上で)悪影響が出るのって何時頃なんでしょうね?
ぷぷ
http://blog.livedoor.jp/pupusan/
作品情報
作品集:
5
投稿日時:
2009/10/25 00:27:19
更新日時:
2009/10/25 13:01:58
分類
アリス
若干嘘を含んでいる可能性があります、ご注意を
でも初期だったら治せるのかな?
今回は霖之助のお陰で死なずに済みそうだよ。
肝臓にダメージ受けてるところにアルコールなんぞ飲んだら・・・
と思ったけど、遅行性だからセーフかな?
重要な事ははじめに言いましょう。