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『舟幽霊は毘沙門天に恋をする その5』 作者: かるは

舟幽霊は毘沙門天に恋をする その5

作品集: 6 投稿日時: 2009/10/29 16:09:23 更新日時: 2009/10/30 01:14:21
【ナズーリンside】

 許せない。
 絶対に、許せないッ!!
 正直な所、毘沙門天様の使いでしかない私にとって、ムラサ船長とご主人の恋仲等どうだって良い事だ。
 ご主人とムラサ船長が惹かれ合っている事を知っていたから、恋仲のバックアップを時々してやっただけ……そう、それだけなんだ。
 私には熱情なんて似合わない。無味乾燥に、ドライに生きたいと思う。
 怒りや悲しみ、激情なんてのは、このナズーリンの生き方にはありえない要素なのだ。

 我が眼前の巫女、東風谷早苗我が同胞の首を刎ね、見せ付ける様に床にばら撒いて、踏み砕いている。
 野生において、強者が弱者の肉を喰らうのは必然の理。
 故に、生存競争の過程で弱者を淘汰するのなら、私はあくまでもドライに接する事が出来るだろう。
 我が同胞達は、何故殺された?
 暇つぶしだ。
 愉悦の為だけに、殺されたのだ。
 私を慕い、着いて来てくれた同胞達。
 皆、必死に逃げたのだろう。
 だが、東風谷早苗は同胞達を追い詰め、無慈悲にもその命を刈り取ってしまった。

 ユルサナイ。

 鼠の怒りを教えてやる。

 絶対に、喰い殺してやる!!!


【早苗side】

 小屋の中に戻ってみれば、なにやら騒がしい様子。
 何事かと思ってみればムラサさんを救出しに来た星さんとナズーリンさんに、ばったり鉢合わせになってしまいました。
 小屋の周辺にやたらと不振な鼠が多かったと思ってみれば、案の定ナズーリンさんの部下だったのですね。
 まあ……鼠退治にはさほどの労力を必要としなかったので、どうだって良い事ですけど。
 風でびゅーっと集めて、一気に首をすぱすぱすぱぱーん! でした。

 何にせよ、こうなってしまえば私のするべき事は一つだけ。
 妖怪退治こそ、巫女の本領。
 なればこそ――この三人は、ここで私に殺されるべきなのでしょう。

「――皆殺しです」

 私は、未だ切れ味の衰えない肉切り包丁を片手に宣言しました。
 首、腕、腰、尻、足、胸、肩、頬、内蔵――ズタズタに切裂いて差し上げましょう!!

「貴――様ァァァ!!!!!」

 ナズーリンさんが二本のロッドを手に、私の方へと突撃をして来ました。
 その瞳には、明確な殺意が込められています。成程……鼠達を殺されたのが、そこまで応えましたか?
 ですが、所詮は妖怪風情。この神である私には適うはずも無い。
 懐から妖怪退治の札を三枚程取り出して、一旦小屋の外へ出る為にバックステップ。
 狭い小屋の中で術を使うのは、何かと不便ですからね。

「ナズーリン、気を付けて!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 おやおや……上司である星さんの忠告も無視して、猪突猛進な突撃とは……鼠如きが猪を真似るだなんておこがましい事です。
 私とナズーリンさんの距離、およそ七メートル――六、五メートルまで接近。
 小柄なナズーリンさんの体躯にロッドの長さを加えたとしても、私の身体がロッドの射程に入るまであと三秒はかかる距離です。
 だから、私は妖怪退治の札に霊力を篭めて、真っ直ぐ前方へ向けて放り投げました。
 放り投げられた札は霊力によって加速を受け、矢の如くナズーリンさんの小柄な身体に襲い掛かります。

「こんな、物でッ!!」

 一枚目の札が右手のロッドで打ち払われ、

「私をッ――」

 二枚目の札も、左手のロッドで打ち払われました。

「調伏出来ると思うなッ!!!」

 そして、三枚目の札もロッドの柄で打ち払われ――

 ええ、計画通りです。
 思わず、口元がニヤリと歪んでしまいました。私ったら、はしたない。

 ナズーリンさんのロッドに三枚目の札が触れた瞬間、札がまばゆい緑色の輝きを放ちます。

「なっ…………これはっ!?」

 一枚目と二枚目の札に私が与えたのは、推進力を得る術だけ。
 ですが、三枚目の御札にはそれに追加して、もう一つの術を仕込んでいた。
 ナズーリンさんの顔に、驚きの色が浮かび上がります。
 もう、遅いのに。

「はぁい、終ぅ了っ♪」
「がぁっ……あ、ぁぎゃぁぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?!」

 歌う様に勝利を宣言すると、私は瞼を固く閉ざし、両の耳に手を当てて保護をします。
 瞬間、三枚目の御札から迸ったのはナズーリンさんの視界を埋め尽くさんばかりの閃光と轟音でした。
 外の世界に、暴徒鎮圧用のスタングレネードって爆弾がありますよね?
 閃光と轟音で、相手の動きを封じるアレです。
 アレの仕組みを札に仕込んでみたら、案の定大成功……一種のボムみたいな物ですね。

「あっ…………うっ、あがっ………………」

 閉じた瞼の上からでも、閃光と轟音の凄まじさが感じられました。
 まともに防御の姿勢すら取れていなかったナズーリンさんの方は、軽く痙攣でもしているのではないでしょうか?
 そっと瞼を開いてみると……予想通り、地面に倒れ、ピクピクと震えているナズーリンさんの姿がそこにはありました。

「あっけない物ですねぇ。妖怪退治なんて、本当に簡単な物です。
 まあ、この私が余りにも強すぎるってのが大きな勝因になっているのは自明の理ですけどね」

 肉切り包丁に付いた鼠の血を軽く指先で拭いながら、私はナズーリンさんに向けてゆっくりと足を進めます。
 焦る必要はありません。
 スタングレネード札の効果は、既に山の天狗や河童で実証済み……あと、20秒はこのまま動けない。
 だから、私はゆっくりと、確実に、自分のお仕事をすればそれで良いのです。

「やっ、どこだっ!? こ、東風谷、早苗ぇ!!!」

 イモムシみたいに地面にうずくまりながら、ナズーリンさんが周囲の気配を探ろうとしています。
 でも、もう無意味。

 だって、ほら――

「ここですよぉ?」

 もう、ナズーリンさんのすぐ傍まで、来ているんですから。
 耳が働いていないと思われるので、とりあえず首根っこに刃を軽く当ててあげます。
 ひんやりとした刃の触感が、ナズーリンさんの首に伝わっている事でしょう。

「ひぁっ!?」
「あらまあ……可愛い声を上げちゃって、そんなに包丁を当てられたのが怖いんですかぁ?」
「くっ…………う、五月蝿いッ!! 私はお前なんかに殺されたりはっ……」
「そんなセリフ、倒れながら言っても説得力がありませんよー?」

 残念ながら、非力な私の腕力でナズーリンさんの首を一撃で刎ねる事は出来ません。
 小さな鼠なら、栗の皮を剥くみたいにサクサク刎ねられたんですけどね。
 ピタリと刃を当てられたナズーリンさんの首筋からは、たらりと冷や汗が流れ落ちています。
 軽く刃を引いてみれば、ナズーリンさんの首の皮に朱色の線が薄らと浮かびました。

「ひィッ――!?」
「どうしたんですかぁー? ちょっと切られただけで声を上げちゃって……なっさけなーい!」

 未だに視力が回復していないナズーリンさんをいたぶるのは、実に簡単な事です。
 血管を切ってはいないのだから、首の傷は致命傷にはなり得ない。
 それなのに……ほんの少し皮を切られただけだと言うのに、ナズーリンさんの目元には涙が浮かんでいるではありませんか!!
 本っ当に……情けない!!
 まだ、鼠達の方が頑張って抵抗をしてくれたと言う物ですよ!!

「あははははっ!!! どうしたんですかぁ?
 怖い? ねぇ、怖いの? 視力を奪われてちょっと切られちゃって、怖いのぉ!?」

 ほんのちょっぴりサディスティックな気分になってしまった私は、胸の昂りを押さえる事なんて出来ません!
 ナズーリンさんの髪を掴んで、伏していた頭を無理やりに持ち上げてみました。
 涙を流す鼠の姿には、哀れみの感情すら湧き上がってしまいます!

「く、クソッ……お前なんか……お前、なんかっ……」
「粋がるのは立派ですけど、そんな涙目で言われてもねぇー?」

 じゅぷり。
 何となく、視力を奪うのが楽しく思えてきたので右手親指をナズーリンさんの左目に突き刺してみました。
 ナズーリンさんは、一瞬何が起こったのか分からなかったのでしょうか……? 指が差し込まれた瞬間に、身体がびくっと震えると固まってしまいました。

「あ゛っ……なに、して…………?」
「ほら、美味しそうですし?」
「……っ!? い、イヤ! 違う、止めろ! 止めて……許して!!!」
「断ります」

 私は、短くお断りの言葉を囁くと、親指をクルリと回してナズーリンさんの眼窩から眼球を抉り出しました。
 ふと思い浮かんだのは、白玉をスプーンで掬い上げる情景。
 美味しいですよねー、白玉……プルプルしていてもちもちの触感で、大好きです。
 鼠の肉じゃなかったら、ペロリと一口で飲み込む所なんですけど……そこが残念。

「あ゛ッ、いぎゃっ……あ、あ、ぁあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
「やかましいですよ」

 目を奪われてか、ナズーリンさんが暴れそうな素振りを見せました。
 これはいけないとばかりに、包丁で振り上げられかけていた右指を切断します。
 そりゃあもう、勢い良くずばっと!
 スカァン、と気の抜けた音を立てながら、包丁は地面へ勢い良く激突。
 与力だけで、その進行ルート上に存在していたナズーリンさんの指四本を纏めて切り落としてくれました。
 切断されたのは親指、人差指、中指、薬指――小指だけが、どうにか根元で繋がっています。

「あ、あっ、指っ……私の、指、ゆび、ゆびぃ……」
「哀れですねぇー。汚らしい鼠にはお似合いの姿です。残った指もプチプチ千切って差し上げましょうかぁ?」
「やっ、いや、許して…………ひぃっ!?」

 片手で押し倒してみれば、ナズーリンさんの小柄な肢体はあっけなく地面に倒れてしまって……正直、拍子抜けしてしまいました。

「や、やめて……殺さないでぇっ……」
「ええ、簡単に殺しはしませんよぉー? 少しばかり、ナズーリンさんで楽しもうとは思いますけどねぇー」
「やだぁ!! 痛い事、しないで……やだぁぁぁ!!! 誰か、助けてぇぇぇぇ!!!!!」

 何時の間にか、残された瞳の視力は回復していたみたいです。
 最初の頃の勇ましさは何処へやら。今のナズーリンさんは、泣き叫ぶだけの鼠です。
 でも、私は助けたりなんかしません。
 だって、巫女ですから。

 妖怪を殺すのは、巫女のお仕事ですから。

「イヤです」

 ザクリ。包丁が再び叩き付けられました。
 切断したのは、ナズーリンさんの大きな右耳です。

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 続いて、残されていた右小指を。
 頬を、尻尾を、腿を、腕を、左耳を――少しずつ少しずつ、私はナズーリンさんの身体を切り刻みます。
 ナズーリンさんの悲鳴が耳に届く度に、私の身体の奥から炎の様な衝動が湧き上がり、私の気持ちを良くしてくれます。

 やだ……ドキドキしてきちゃった?
 妖怪退治って……楽しい……あははっ♪

「あははっ♪ 楽しいっ……楽しいですっ!
 見ていて下さい神奈子様、諏訪子様っ! 私は見事、妖怪を調伏して見せましょう!!!」
「あっ……あ゛ぁっ……あ、ああ、ぁぁ……」
「壊れちゃダメですよぉ!? ナズーリンさんが壊れて良いのは、死ぬ瞬間だけなんですから!
 でも、まだ殺してはあげませんっ! ほらほら、見てくださいよぉ……私ったらお料理が上手だから、まだ血管の一本も傷つけていないんです!
 だから、まだ失血死では死ねません。ショック死でも死ねませんっ! 片目と指五本、あちこちの肉程度の欠損じゃあ、妖怪は死ねないのですっ!!
 ナズーリンさんの肉を少しずつ少しずつ抉って裂いて切り取って引き千切って、もっともっと遊ばせてくださいよぉ!!!
 あはっ……あははっ♪ アハハハハハハハハハッ!!!!!!!!!」
「ひぁっ、い゛っ、やめ゛、あぎゃぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 ぐちゅぐちゅと肉を抉れば、ナズーリンさんの身体が面白い様に跳ね上がってくれます!
 もう、溜まりません!
 肉を抉る音ってすっごくエッチな感じがして……えへへっ、何だかドキドキしてきちゃいました♪
 帰ったら、天狗さんを呼んで性欲処理の相手をして貰おうかなぁ♪

「ぎゃっ、あっ゛、や゛、いぎゃぁぁぁぁぁぁ?!?!?!?」
「はぁっ……ナズーリンさん、とっても可愛い……もっともっと、泣いて鳴いて啼いて哭いて下さいよぉぉぉ!!!!!」
「ぎッ!? あ゛、ぁ゛っ゛……い゛、い゛ぎゃっ!?!?」

 切れば斬るほどナズーリンさんは良い声で叫んでくれます。
 カタカタと震えながら、痙攣でもしているかの様に身体を震わせて……可愛い!! 殺したいっ!!! でも、まだ殺しちゃだめェ♪

「あ゛っ――あ、あ゛……あ、はっ…………あはははははっ……あははははは……アハハハハハハハハハッッッッッ!!!!」
「……? 壊れちゃいました?」
「アハハハハハハハハハハハハッ!!!! アッハッハッハッハッハッハハハハハハハハハ!!!!!」

 ナズーリンさんは……どうやら、壊れてしまいまった様です。
 さっきまでは悲鳴を上げていたと言うのに、もう今はそれもムリ。
 ただ、笑い声を上げるだけの肉袋です。

「……はぁ……しょうがない。壊れてしまったら、もう遊べませんから……殺しちゃいましょう」

 私は、ほんの少しの残念な気持ちを胸に、ナズーリンさんの首に包丁を当てました。
 狙うは動脈。それを切れば、終了です。

「アハハッ……アッハッハッハッハッハ……!!!!!!
 東風谷……早苗ぇ……私の、勝ちだな!!」
「……? 気でも狂ったのですか? この状況で己の勝利を掲げるとは……賢将も地に堕ちましたね」

 ナズーリンさんの唐突な一言に、私は否定で対応します。
 気が触れた妖怪なら、突然意味の分からない事を口にしてもしょうがないのでしょう。
 もう、壊れていますから。

「違う、さ……見てみろよ……自分の周囲を、な…………!!」

 血の混じった唾を吐き出しながら、ナズーリンさんが周囲に視線を遣り――

 つられて、私が周囲を一瞥すると、そこには――



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 何十、何百、数千と言う数の、紅く光る獣の瞳が――

「……っ!?」
「気付かなかったのかい? お前が私を刻むのに夢中で……私の部下達に、囲まれている事に」

 何時の間にか、ナズーリンさんの先程までの様相は消えうせていました。
 ……演技、だった……?
 私を引き止める為の、演技……?

「『嵌められた』とでも言いたげな瞳をしているね。私にのこされた片方の瞳でも、君の焦りが手に取る様に分かるよ……
 ああ、その通りだとも。私は、君の注意を引く為だけにわざと醜態を晒したのさ。
 泣き叫んだのも、発狂した様に見せたのも、全ては君の注意を私に寄せる為。
 ……あまり、感情を露にするのは好きじゃないんだが……まあ、しょうがないだろう。
 聞こえなかっただろう? 私の部下達が、徐々に包囲の輪を狭めている音なんて」
「……やってくれるじゃないですか…………巫女であるこの私を、罠に嵌めるなんて……」

 正直な所、これには参りました。
 私を囲んでいる鼠の数は、少なく見積もっても二千匹……多過ぎます。
 たかが鼠と言えど、この軍団では相手をするには骨が折れる存在と言えるでしょう。

 真面目に相手をするなら、ですけどね。

 私は、無言でナズーリンさんの体躯を抱き寄せると、鼠達に見せ付ける様に抱き上げました。
 今の私の姿は、外の世界の刑事ドラマで見た人質を取っている犯人みたいです。

「……何を、するつもりだい?」
「貴女を人質にして、この軍団から逃げます。
 部下なんでしょう? 主を人質に取られてしまっては、手出しは出来ない筈です」
「…………っ……あははっ!!! 君は本当に――バカだな!!」
「何を!?」
「私はねぇ……もう、生きて帰ろうだなんて考えてはいないのだよ。
 一応教えておいてやろう。私が、部下に下した命令はね――」

 そして、鼠の妖怪は、私に宣告を下す様に囁きました。

「『何もかも全て、喰い尽せ』さ」
「――っ、まさかっ!」
「ご主人と船長は、もう遠くに逃げた頃だろう……存分に、こいつ等の食欲を解放してやれる」
「だから、星さんが助けに来なかった……最初から、私を道連れにするつもりだった!?
 貴女、死ぬつもりなんですか!? 鼠なんかに食われて、ここで死ぬつもりで!?」
「どの道、君に斬られた傷でもう長くはないからな。
 私に出来るのは、こうして道連れを増やす事くらいだよ」

 じりじりと、ギィギィと、じゃくじゃくと、ごしゃごしゃと、鼠の包囲が近寄って来て。

「と、止めなさいっ! 鼠達に命令をしなさいっ!!!」
「断る。侮っていた鼠達に喰われて終わる人生なんて素敵だとは思わないかい?」
「思いませんっ!!! 良いから……早く、この鼠達を制御しなさいッ!!!!」

 包丁の柄で頭部を二度、三度と殴りつけましたが、ナズーリンさんはクールな笑みのまま、私を見つめています。
 してやったり、とでも言いたいのでしょうか?

 この……溝鼠のくせにッ!!!

 神である、この私を……罠に嵌める!?

 そんな事があってなるものですか!?

 絶対に、絶対にあってはならない!!!

「ああもうっ! こうなったら予備の御札でっ――」

 予備のスタングレネード札を取り出そうと、懐に手を差し入れました。

 鼠如き、光と音の濁流に飲まれてしまえば――しまえ、しまえば…………!?

「え……? え、ちょ、ちょっと……え?!」

 ごそごそと、何度も何度も巫女服の懐を探します。
 けれども、見つかりません。

 御札が、無い!?

「あははははっ!!! こりゃあ傑作だ!!」
「どうし――て……!?」

 ナズーリンさんの、比較的傷が浅い方の手に握られていたのは……私の、御札でした。

「気付かなかったかい? 私が切り刻まれながら、こっそり御札を掏っていた事を」
「か、返しなさいっ! 早く、その御札をっ!」
「断る」

 ビュリリと音を立てて、ナズーリンさんの手の中で御札が紙切れに変わりました。

 残っていた最後の力を振り絞って、私の御札を、この、溝鼠、はァァァァ!!!!!!

「このっ……溝鼠如きが、神である私をぉぉおおおおおおおおッ!!!!!」

 もう既に、鼠の包囲は私のすぐ傍、もう五センチも無い、距離にいて。
 鼠のニオイ、体温、呼吸、全て感じられる距離で。

「止めろ! 止めさせろッ!!! 私は……私は、こんな所で死ぬワケには!!!」

 半狂乱になって、ナズーリンさんの顔を掻き毟りながら命令しました。
 どうせこの鼠は部下を止める方法を知っているんです!
 だから、拷問でも尋問で洗脳でも何でもすれば! でも時間が、だから暴力で、だから、早く、早く、はやくはやくはやくはやくハヤク!!!!

 ガジリ、と私の足が鼠に齧られました。
 あまり痛みはありません。けれども、数百数千の鼠に噛まれては命に関わります!

「早くしろ!! この鼠を止めさせて、そうしないと、死んじゃうでしょぉ!?」
「あははっ……あはははははっ!!!!
 だから、言っただろう――」

 視界が鼠の体毛で埋め尽くされそうになる最中、ナズーリンさんは口元を軽く歪めて、私に宣言していました。
 それの表情は満足げな物で、まるで勝利を宣言するかの様で――たまらなく、私にとっては憎らしい表情でした。

「――鼠を舐めてかかると、死ぬよってね」

「このッ――ドブネズミがぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!!!!」

 そして、私とナズーリンさんは、鼠の濁流の中へ――
インフルが治り、執筆再開してみれば今回のパートではムラサも星も出ませんでした
次回いよいよ最終回

ナズーリン可愛いよナズーリン
かるは
http://yagamiharuka.blog84.fc2.com/
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2009/10/29 16:09:23
更新日時:
2009/10/30 01:14:21
分類
ナズーリン
東風谷早苗
1. 名無し ■2009/10/30 01:28:31
最後のナズの台詞が格好良過ぎる件についてw
状況が違うと感じ方も違うものですね〜。

早苗ザマァwww
2. 名無し ■2009/10/30 01:28:35
うわああああああああ
展開が気になる!!!!!!!
3. 名無し ■2009/10/30 01:29:39
早く続きを!!
4. 名無し ■2009/10/30 01:43:51
ッしゃ最新話きたああああああ早苗クソざまああああああああああ
手癖の悪いナズかっこいいよ今日はいい夢見れそうだ
ありがとうありがとう
5. 排気ガス ■2009/10/30 01:48:19
ナズーリンてば格好いい死に方が多いんだから素敵
ああ素敵
6. 名無し ■2009/10/30 04:02:02
これ程までに格好良い1ボスがかつて存在しただろうか、いやない(反語)
7. 名無し ■2009/10/30 05:19:40
ナズかっこよすぎる
流石賢将だ


次回が楽しみ
8. 非共有物理対 ■2009/10/30 07:16:00
なんかもうかっこよすぎてうふふ、うふふふふふ
9. 名無し ■2009/10/30 07:23:20
ナズーリン格好良いよ、ナズーリン。
そして、早苗ザマァwww
10. どっかのメンヘラ ■2009/10/30 19:36:09
もうナズさんがかっこよくてかっこよくて・・・

じょっぱー
11. 名無し ■2009/10/30 19:57:46
溝鼠がぁああああああ!
S苗さんもなずーも大好き
笑い声から命乞いまで全部好き
ネズミになってカジカジしたいお
12. 名無し ■2009/10/31 01:58:27
>>10が漏らしたぞー
みんな逃げろー
13. 名無し ■2009/10/31 21:48:34
ナズ格好良い。ただただカッコいい
14. 名無し ■2010/08/31 17:06:52
ヤダこのナズカッコいい…。
早苗ざまあww
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