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『口は災いの元 〜ただの子供〜』 作者: 名前がありません号
ある日、幻想郷に妙な紙がばら撒かれた。
「くちはわざわいのもと」
何故ひらがななのかはともかく、誰かの悪戯にしては余りに範囲が広い。
とはいえ、紙には特に細工があるわけでもなく、とりあえず誰も気にしなかった。
―――パチュリー死亡から数日後
レミリアからの命令で、パチュリーの死体は咲夜が片付けた。
以後、パチュリーの事を話す事は紅魔館内ではタブーになった。
「お嬢様、気を落とさないでください」
「いえ、いいのよ咲夜。思えばあの時、大人げなかったかもしれないわ」
「いえ、決して、そのような事は……」
「……そうね。そうよね! 私は悪くない! 私は悪くないんだから……!」
「ええ、お嬢様は悪くありませんよ」
レミリアはパチュリーの死にそれとなくショックを感じているかと思えば、この有様である。
あくまで自分は悪くないの一点張り。同情の余地は無いが、それを咎めるモノがいないのだから、どうしようもない。
「死体は片付けておきました。魔理沙も図書館には来ていないので、パチュリー様が死んだ事は外には漏れないでしょう」
「そ、そう。いいわ、咲夜。貴方は優秀ね」
「お嬢様のためならば」
そんな咲夜の態度に気をよくしたレミリアは、咲夜に言った。
「咲夜、貴方は本当に最高のメイドよ。もう貴方だけいればいいわ」
咲夜は、レミリアのその言葉が心に響いてくる事を感じた。
その瞬間、自分の中に満ちてくるレミリアへの愛情が一層深まるのを感じた。
一方で、不甲斐無い門番とレミリアを煩わせる妹に対する憎悪と一緒に。
レミリアからの賛辞を受けた咲夜は、妖精メイド達への教育をより徹底した。
一定のノルマを課して、そのノルマが達成できなかった妖精メイドには情け容赦のない仕置きが待っている。
メイド達は咲夜により敷かれた恐怖政治とスパルタ教育により、以前よりもより能動的に仕事をするようになっていった。
この咲夜の政策によって、これまでいた妖精メイドのおよそ半分が行方不明になった。
お嬢様に必要なのは優秀なメイドのみ。咲夜にとって、それ以外はゴミ同然でしかなかった。
こうした政策は紅魔館メイド全体に行き渡り、遂には門番隊にも咲夜の手が伸びようとしていた。
しかしそんな活動を、紅美鈴が黙って見過ごすはずもなかった。
「咲夜さん、お話があります」
「何かしら美鈴。今忙しいのだけど」
「門番隊は私に全て任せていただいているはず。咲夜さん、いえ咲夜。貴方の手はいらないわ」
「そうはいかないわ。これまでの失態から考えて、改革すべきだわ」
「あれは形式上であって……」
「そうでなくても、貴方は紅魔館の顔なのよ。その貴方がしっかりしないから私が手を入れなければならないの。分かる?」
「くっ……」
実際、他者の美鈴のイメージはフレンドリーであり、
美鈴に会うためだけに、紅魔館にやってくる輩が多いのは事実だ。
とはいえそれは美鈴自体のことであって、紅魔館全体に影響するものではないはずだ。
しかし咲夜は、あくまで美鈴の勤務態度が紅魔館の名声にも影響すると言っている。
以前の咲夜と比べると、今の咲夜はまるで別人のようであった。
「貴方が真面目に門番をすれば、私も手を引くわ」
「本当ですね?」
「ええ、貴方が門番としての職務を果たしてくれれば文句はないから」
「わかりました。約束は守ってくださいよ」
「ええ、もちろん」
そういうと、咲夜は館に戻っていった。
パチュリー様がおかしくなり始めてから、紅魔館はおかしな気が漂っている。
極めて微弱なのだが、今まで感じたことのない気だ。
とはいえ微弱であるため、美鈴はそれ以上気にしなかった。
それが彼女の運命を決定付けてしまう事になるとは、彼女も遂に思わなかった。
それはとても雨の強い日だった。
いつものように門前に立っていた美鈴は、この雨の中、紅魔館に近づく妙な気配を感じた。
魔理沙ではない。霊夢でもない。
(この感覚は……真下。湖から?)
次の瞬間、湖から巨大な蛇が美鈴に襲い掛かってきた。
咄嗟に美鈴は、その蛇の攻撃を回避する。
(嘘!? こんな奴、湖にはいなかったのに!)
仮に居たとしても、自分が気配で感じないはずはない。
そう思っていただけに、美鈴は驚愕を隠せない。
それを悟られたか、蛇がその身体をしならせて美鈴に体当たりしてきた。
美鈴は防御したが、巨大な蛇の体当たりに壁まで吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁぁぁ!!」
「隊長!」
美鈴の危機に門番隊が現れ、蛇に対して弾幕を浴びせるが、
蛇の鱗には傷一つ付いては居ない。
そればかりか、今度は蛇が門番隊に襲い掛かっていった。
「うわぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁ!!」
「た、たいちょう、たすけ……」
門番隊の断末魔に美鈴は助けに行こうと、
身体を動かそうとするのだが、身体が動いてくれない。
気による回復が間に合わない。
そればかりか、今まで感じたことがないほどの気の乱れが起こっている。
(この天候の乱れ、妖怪蛇……まさか、これは!)
そう考えた矢先、美鈴が最後に眼にしたのは。
自らを丸呑みにしようとする大蛇の口だった。
ごっくん
「美鈴は大蛇の妖怪と戦闘し、大蛇に丸呑みにされました」
「な、なんてこと……」
咲夜の報告を受けて、レミリアは驚愕し、悲しんだ。
「美鈴が、美鈴が負けるなんて……」
「私も思ってもみませんでした。ですが、もう美鈴はいません」
「そうね、そう、よね……」
「大丈夫です、お嬢様。私が付いています」
「あ、ありがとう、咲夜……」
レミリアは咲夜に抱きしめられて、安堵の表情を浮かべる。
しかしレミリアに見えていない咲夜の顔には、邪な笑みが浮かんでいた。
―――数日前
「まさかこんな研究をされていたとはね」
咲夜は、ヴワル図書館のパチュリーの書斎を調べていて、ある資料を発見した。
天人が起こした異変で発覚した、気質の研究資料だった。
そこには龍脈の力を利用して、気質を変化させる研究の概要が書かれていた。
さらにはなんと、この紅魔館の湖の地下には巨大な蛇の妖怪が眠っているという。
普段は起きる事がないというらしいが、気質の研究中に蛇の妖怪が眠りから覚めたというらしい。
その天候についても記載されていた。
(そういえば美鈴の回復力は龍脈によるものだったわね。なら、これを利用すれば……)
美鈴は死ぬだろう。
そう思った咲夜は、早速パチュリーの研究資料の通りに必要な材料と準備を済ませる。
パチュリーの研究室は殆ど手付かずで、咲夜のような魔法をかじった程度でも発動できるようになっていた。
(今回ばかりはあの紫もやしに感謝しなくてはね)
咲夜は笑みを隠さない。
美鈴なんか死んじゃえばいいのよ。
お嬢様に馴れ馴れしく近づいて、酒を飲み交わすなんて。
その場所は私だけのものなのに。
許さないわよ、美鈴。
美鈴に対する憎悪だけが、今の咲夜を突き動かしていた。
そして魔法は発動された。
レミリアは美鈴を失ったショックで、酷く落ち込んでいた。
落ち込んでいる主には悪いと思いながらも、
咲夜は不甲斐無い門番なんていなくてもいいのに、と思っていた。
後は妹さえ始末すれば、お嬢様は私だけを見てくれるはず。
咲夜はレミリアの寵愛を独り占めしたい一心で、フランドール殺害に取り掛かった。
―――フランドールの地下室
「妹様。大丈夫ですか?」
「あ、咲夜。うん、平気。でもなんか凄く眠いなぁ」
フランドールは、目を擦りながらもうつらうつらとしていた。
このところ凄く眠い。
寝不足なんてことはないはずなのに、とても眠いのだ。
咲夜が心配して、たびたび来てくれるけど、
眠気は日増しにひどくなっている。
「余り無理をしてはいけませんよ。悪い病気だったら大変ですから。さぁ、このお薬を」
「うーん、大丈夫だと思うんだけどなぁ」
そういいながらも、フランは咲夜から出された薬を飲む。
“永琳から処方された万能薬”らしい。
「気持ちが楽になってきませんか?」
「あ、うん、凄く楽になってきてる……」
でもフランは薬を飲むと、とても心地よい気分になれた。
また一個、また一個と薬の数を増やして、と懇願した。
咲夜は「しょうがないですね」といいながらも、私に薬をくれた。
お姉さまと違って、咲夜は優しいわ。
「あ、また、ねむく、なって、きちゃ、っ……
「申し訳ありません、妹様。でも妹様がいけないんですよ。お嬢様を悩ませる事ばかりするから」
咲夜はそう言って、残りの薬を処分する。
フランに飲ませたのは、永琳に頼んで作ってもらった強力な睡眠薬であった。
それはどんな妖怪も一粒飲ませれば、夢の中に誘う薬だった。
永琳は咲夜に薬の製作を依頼されると、二つ返事で了承した。
そして、咲夜はフランに毎夜毎夜それを投与し続け、ついにフランを永遠の眠りにつかせることが出来た。
これで、お嬢様は私だけを見てくれる。
咲夜は確信していた。
ある日、レミリアに呼ばれた咲夜はレミリアの部屋にやってきた。
「お嬢様。咲夜です」
「入れ」
「はい、お嬢様」
やけにお嬢様の機嫌が悪い。何でだろう。
部屋に入ると、お嬢様はやはり機嫌の悪そうな顔でこちらを見ていた。
「何か御用でしょうか」
「これを見ろ」
するとそこには、パチュリー様の研究室にあった資料や魔法の材料だった。
「こ、これが何か?」
「パチュリーの研究室にあったものだ。どうやら誰かが使った形跡があった」
「使った?」
「とぼけるな。咲夜、お前が使ったんだろ」
「そんな!」
何故お嬢様がそれを知ってるの?
まさか妖精メイドの誰かが告げ口をした?
あらゆる可能性を考えながら、咲夜はこの状況の打開方法を模索していた。
「お前はこのところ様子がおかしかった。妖精メイド達への教育や美鈴との衝突。いつものお前とは大違いだ」
「そ、そんなことは……」
「理由は知らないが、お前は美鈴を憎み、あんな方法で美鈴を殺した」
「違います! これは何かの間違いで……」
「これだけ証拠が揃っていてまだシラを切る積り!? 私が美鈴をどれだけ買ってたか知っていたでしょう!?」
レミリアの激しい罵声が咲夜に突き刺さる。
しかし今の咲夜にとって、レミリアが美鈴の事ばかり話すことがただただ辛かった。
「何故です……私は、私は、お嬢様が私を求めてくださったから……」
そういってレミリアに近づこうとするが、レミリアの一言で咲夜の運命は決定づけられてしまう。
「近寄るな人間!! 美鈴を殺したお前なんか、お前なんか、死んでしまえばいいんだッッッ!!!!!」
咲夜はこの世の終わりのような思いだった。
レミリアはそれだけ叫んで、咲夜を部屋から出そうとする。
しかし咲夜は部屋を出るどころかナイフを取り出した。
「何よ、咲夜? 私にそれで挑もうっての?」
「いいえ、お嬢様。私はお嬢様の命令に従います」
「そうか、掛かって……え?」
「お嬢様は本当は私が嫌いだったんですね。ごめんなさい、私のせいでお嬢様が辛い目に……」
「え、ちょ、何を言って……」
「せめて私の命で、お嬢様の悲しみが癒えてくれる事を望みます」
「さ、咲夜、早まるな、早まるんじゃない! 早まらないで!!」
咲夜は自らの心臓にナイフを突きつけて、レミリアに最期にこう言った。
「さようなら、お嬢様」
ザクッ
ナイフは深く咲夜の心臓を貫いて、咲夜は死んだ。
「え、あ、さ、さく、や? ちょっと、なに、なにしてるのよ」
レミリアは錯乱状態で、血塗れの咲夜の身体を揺さぶる。
その身体からは温かみがなく、酷く冷たくなっていた。
身体に触れれば、真っ赤な生暖かい血がレミリアの手を温めた。
「あ、ああ、わ、わたしは、わたしは、わるくない、わるくないわるくない」
レミリアはそう繰り返す。
「わたしはわるくない、わるくないもん。わたしわるくないもん。わたしわるいこじゃないもん」
レミリアは壊れたように自分を弁護する。
「わたしはなんにもわるくない。わるいのは、わるいのは、だれ?」
レミリアはふらふらと、自分の部屋を出て行く。
「わたしはわるくないの。なにもわるくないの。わるいことなんかしてないの」
レミリアは館の扉の前に立って。
「わたしは、なにも、わるくなんか、ないんだよ?」
扉を開けた瞬間、日光がレミリアを焼いた。
レミリアが最期に見た太陽だった。
無責任な言動には注意しよう。
自分が思いもしない展開を招いてしまうから。
名前がありません号
作品情報
作品集:
6
投稿日時:
2009/11/11 18:17:39
更新日時:
2009/11/12 03:17:39
「この紅魔館からは複雑な感情を持った魂ばかりがさまよっています」
無意識のうちに運命でも操っていたんだろうか?
他の紅魔館の人員の死に様のと比べて、フランちゃんの死に方だけ安らかだったのが彼女にとって唯一の救いだったんでしょうかね
それはそうと丸呑まれ美鈴の溶け行く様を想像するとえらく興奮します
天才ババァ絶対許さない