「うっぐっぐっぅう……っぷ……。うっ! おげえええええええええええええっ!!」
魔理沙は手で口を押さえて、腹からこみ上げる圧迫感を封じようとしていた。しかし、痙攣を始めた胃を抑えきれず、遂に中身はぶちまけてしまった。
宴会中に食べたつまみは半端に消化されペースト状になっており、鼻につく胃液と共に博麗神社の境内に広がった。
「なんだ、魔理沙。威勢が良かったのに歯応えが無いねぇ。ま、最後まで席を立たなかった根性は認めるよ。だけど、勝負は勝負。このキノコは私の物だね」
赤い器いっぱいに注がれていた酒を飲み干し、萃香はゲロを吐く魔理沙を見やる。その顔は赤く傍目にも酔っていることがわかるのだが、不思議と呂律は乱れない。頬杖をつきながら、余裕綽々に器を引っくり返す。器からは一滴も酒は滴らなかった。
「ま、まだだぜ……。まだ私は飲める…ぜ……。がくっ……」
「魔理沙、戦闘不能! 勝者、萃香!」
魔理沙は器に手を伸ばした格好で地に伏した。映姫の悔悟棒が萃香を差し、勝敗が決した。萃香は魔理沙の側に置かれていた山盛りのキノコを自分の方に引き寄せ、大きな声で周囲に呼びかけた。
「さあ! 他に挑戦者はいないか!? どんな奴でも相手になるよ!!」
萃香の挑発に周囲のボルテージが上がっていく。萃香は無数の荒々しい視線を受けながら、それでもなお余裕の表情を崩さなかった。
◆◆◆
飲み比べ。宴会の多い幻想郷においてはそれが行われるのはごく自然な流れだった。実際に今までも飲み比べは行われてきた。
だが、そこに萃香という半端ではない酒豪が現れたことで、飲み比べの事態は少し変化した。こんなチビの鬼っ子に負けていてはならないと、負けず嫌いの幻想郷の住人たちは毎回のように萃香に挑戦するようになったのだ。いつしか飲み比べの公式ルールまで作られ、今や宴会の場では弾幕に相当する戦いにまで発展した。
ちなみに飲み比べのルールは以下の通りだ。
『お互い同じだけの量の酒を飲む。
飲んだ後は酒が残っていないことを、器を逆さにして示す。
酒を飲み切れなかった者、途中で席を立った者、場を酷く汚した者は負け。
負けた者は勝者に賭け品を渡さなければならない』
萃香が出す賭け品はいつも同じ。“今まで奪った賭け品全部”だ。ただし、先ほどの魔理沙のような食料や形の無いものの場合はその限りではない。それでも霊夢の陰陽玉、パチュリーの魔道書、アリスの服(使用済み下着付き)、レミリアのティーカップ、咲夜のお嬢様フィギュア、幽香の押し花、橙のマタタビ、にとりの発明品、輝夜の蓬莱の玉の枝、外の世界から流れ着いた品など魅力的な品がこんもりと積まれている。それを狙い萃香に挑戦する者も多い。
スタッフにも審判には幻想郷の閻魔、四季映姫、記録&実況には文々。新聞の射命丸文、万が一の事態に備えてのドクターに永遠亭の永琳という豪華メンバーが揃っている。映姫は「せっかくのアフターファイブが……」とこぼしているが、元来白黒付けるのが好きなのでまんざらでは無いようだ。小町が内緒で死神の鎌を賭け品にしたときは怒り狂ったが。
「惜しくも挑戦者魔理沙ダウン! 今回は15杯とかなり健闘しましたが、やはりチャンプ萃香には勝てない! 吐瀉物の海に沈むその姿は惨めという他ありません! いやあ、ああはなりたくないものですねえ!! ドクターによる診断では命には別状はないとのことなので、そのまま博麗の庭に沈んでもらいましょう!!」
エロエロと口の端からゲロを吐く魔理沙。すでに意識はないようだ。毎度のことなのでゲロを詰まらせないように横にして適当な場所に放置される。こういった状況は宴会ではもう見慣れたもので、そこら中に萃香に挑戦した者たちの屍が転がっている。
「ひゃ……い……。ぎ、ぎぼぢわるいよぉぉぉ」
驚くべきことにそこには河童のにとりの姿もある。顔を真っ赤にして涙を流し、椛のひざの上で悶えている。
にとりは今回の挑戦者ではなく萃香の「ハンデとして河童が潰れるまで先に飲む」という宣言に巻き込まれたのだ。結果、にとりは萃香に絡まれながらまさしく限界まで飲まされ続けた。最後には萃香と共に樽ごとあおり、ゲロを噴水のように吐き出した。
先に断っておくがにとりは酒に弱い訳では無い。そもそも幻想郷において河童や天狗は鬼と並ぶ大酒飲みだ。それをしてなお萃香は他を受けつけない圧倒的飲みっぷりを発揮しているのだ。
自前の瓢箪から酒を飲みご満悦な萃香。正直、萃香にとっては今まで奪った品などそれほどの価値のあるものではなかった。だが、こうして次々勝負を挑んでくる相手がいるのはとても楽しめることだ。おかげでずいぶんと楽しませてもらっている。
そして、勝負に負けるつもりなど萃香には毛頭なかった。幻想郷中の人間妖怪が束になってかかってきても飲み比べでは必ず勝つつもりだ。その自信と自負が萃香にはあった。
しかし、今夜、萃香は今まで生きてきた数百年の中で最大の恥辱を味わうことになる。
皮肉なことに、それは大好物の酒によって引き起こされた。
◆◆◆
「さて、小腹が空いたね。妖夢、このキノコで鍋を作ってよ。醤油と味噌ありありでね」
「うう……っ。はい。萃香様……」
萃香の側には妖夢がいる。なぜか普段の緑を基調とした服ではなく、露出の多いバニーガールの衣装を着ている。赤いハイレグが股に食い込み、黒いストッキングが脚線美を際立たせている。大胆に開かれた胸元はバストサイズが合っていないのか、服の隙間からピンク色の乳首がのぞいた。素肌を見せることを恥らっているのか、酒が回っているのか妖夢は肌を赤く染めながら、キノコ鍋を作っていく。
「へっへっへっ。姉ちゃん、ええ尻しとるねぇ」
「きゃっ!?」
悪乗りした萃香に薄い布地越しに桃尻を撫でられる。妖夢はキッと萃香を睨むが、萃香は「あーん? ワシの言う事が聞けんのかぁ!?」と意に介さず、妖夢の肩を抱き寄せ薄い胸を揉んだ。もうすっかりセクハラ部長のノリだ。赤い頬を妖夢にすり寄せ、タコのようにくちびるを伸ばしてくる。
「うぅ……っ。幽々子様のばかぁ……」
迫り来る萃香のくちびるを手で受け止めながら妖夢は自分を賭け品にした主人を睨む。当の幽々子は木の下で赤い顔を夜風に晒しながら寝息を立てていた。憎たらしくなるほど気持ち良さそうな寝顔である。
その顔を見ていると怒る気もなくなったのか、妖夢は力なく鍋をつついてキノコをよそった。
「……どうぞ」
「うむ。苦しゅうない。ついでに食べさせて」
「……はい」
「熱いの嫌だからちゃんとふーふーしてね」
「……………はい」
元来の真面目な性格が災いしてか、妖夢は萃香の命令にいちいち答えながら従っていく。キノコにふぅーふぅーと息を吹きかけ、萃香の口に運んでいく。
「あーん。ん、美味しい! もっともっと!」
萃香の命令を受け、妖夢はキノコ鍋の追加を作っていく。その間も萃香に尻に頬ずりされたりして、まるで料理に集中できなかった。
そのせいで、鍋のキノコには十分に火が通っていなかった。
萃香はそれにまるで気付かず上機嫌に鍋を空にしていった。
◆◆◆
「さあさあ、他に居にゃいか!? この萃香様を倒して見りょおおおっ!! ひっく!」
とうとう萃香にも限界が見えてきたのか、呂律が怪しくなってきた。ふらふらと身体を揺らすのはいつものことだが、それが普段よりも激しくなってくる。
「勝機!!」
その様子を見て、この女が動き出した。緑色の髪を揺らし、東風谷早苗が座布団へと寄っていく。
「おお? 次は緑巫女かい? あんた、酒飲めるの?」
「ご心配には及びません。幻想郷に来てから訓練しましたから」
「ふーん。その程度で私を倒せるなんて、見くびられたもんだねえ。で、賭け品は?」
早苗は静かに背後を指差す。そこには神奈子と諏訪子が立っており、その間に山のようにヘビとカエルのイラストが描かれた箱が積まれている。
「守矢神社特製オンバシラ饅頭300個です」
「のった。こっちの賭け品はいつも通りここにあるもの全部だ。妖夢も好きにしていいよ」
萃香を大きな葉っぱで扇いでいた妖夢。何だか、売られていく仔牛の気分になった。
「おおっ!? ここで次の挑戦者が現れました! 守矢神社の現人神! ちょっとアレな緑の巫女! フルーツ早苗だぁーーーーーーっ!! 今回が初挑戦です! さあ、どんな戦いを見せてくれるのか!?」
射命丸の煽りを受け、会場に歓声が大きく上がる。二人に大きな赤い器が渡され、酒がなみなみと注がれていく。
「では、勝負!」
「勝負!」
一度だけ器を合わせて、萃香と早苗は酒を飲み始めた。その様子を固唾を飲んで見守るのは守矢神社の神、諏訪子と神奈子だ。
「早苗に任せて良かったの? 諏訪子が出た方が良かったんじゃない? 昔は供え物の酒を樽で飲んでたんでしょう?」
「まあね。でも、私が出る訳にはいかないんだ」
「なんで?」
「カエルを当てはめられてるから。ゲコゲコ下戸。なんちゃって」
「……………」
「……………」
「まさか、そんな理由で早苗を行かせたの?」
「イメージっていうのは大切なの。私は無邪気なロリっ子って看板で信仰を集めてるんだから、どぶろく片手に笑ってたら信仰が減るの」
「あんたねえ……」
「なによ。神奈子なんか甘酒で酔うくせに。人前でお神酒を飲むときは自分だけ水にしてもらってるくせに」
「う、うるさい!」
「それに神奈子は酔うと……」
「わー! わー! わーっ!!」
何やら押し合いへし合いを始めた神様を横に早苗は順調に酒を片付けていく。すでに3杯目に取り掛かり、器を逆さにした。
「やるね。少しは楽しめそうだ」
「どうも」
そう、早苗はなんの対策もなく萃香に挑んだ訳ではない。この日のために諏訪子と訓練を重ねてきたのだ。物凄いペースで飲んでいく諏訪子に最初はまるでついていけなかったが、今では同じくらいの量を飲める。さらに事前に牛乳を飲み、ウコンを丸かじりした。コンディションは最高、さらに今日は挑戦者も多く萃香はいい感じに酔ってきている。これならば勝機はある。早苗は確かな手ごたえを感じ、ぐいぐいと酒を飲んでいった。
「フルーツ早苗! 良い飲みっぷりです! これは期待できるかあ!?」
(ここで萃香さんを倒せばみんなを見返せる! 私は賞賛の拍手を受け、守矢神社の信仰はうなぎのぼりです!)
気合十分に酒を処理していく早苗。その様子を萃香は器に口をつけたまま観察していた。
(頑張ってはいるねえ。でも、あんたじゃ私には届かないよ)
実は先の呂律の変化は萃香の演技なのだった。場を盛り上げる為にわざと追い詰められているように演出したのだ。実際にはまだまだ余裕がある。
(これも嘘に入るかな? でもみんな楽しんでるし、いいかな)
自分で自分に言い訳し、萃香は苦笑した。わざわざこういう演技をするなんて自分は鬼らしくないな、と。
そう思いながら酒を飲んでいく。実にいい気持ちだった。
そうこうしているうちに、早苗の方がペースダウンしてきた。もともとそれほど飲める口ではないのだ。自分のペースを作り、無理をしないのは当然の対策だ。だが、この時点でそんな小細工をしているようでは萃香に勝てる見込みは無い。
(残念だったね。でも、楽しく飲めたよ)
心の中でひとりごちる萃香。
その瞬間、
ちくっ。
「?」
萃香の腹の奥底に小さな痛みが走った。
その痛みに気付きつつも、正体がわからず萃香は酒を飲み続けた。
もし、萃香が普通の人間ならこの痛みの正体に気付き、トイレへと急いだかもしれない。
だが、なまじ鬼という頑丈な身体に生まれついたため、萃香はこの痛みが何を意味するか知らずに生きてきてしまった。
ちょっと食べ過ぎた。その程度にしか認識できなかった。
しかし、心地良い酔いと共に、萃香の身体は着実に毒素に侵されていたのだ。
◆◆◆
(ぐぅぅ! ぅぅっ!)
ぎゅるぎゅる……っ、ごろろろ……っ。
萃香は苦しげに顔を歪め、座布団の上でお腹を押さえていた。
宴会の喧騒もあり、周りには萃香のうめき声は聞こえていない。だが、実際には萃香は生と死の境を漂うような思いをしていた。
トイレを我慢したことのある人ならわかるだろう。あの腹の内側から針を刺されるような痛み。そして、無理矢理押し広げられる肛門。それが断続的に萃香に襲いかかり「ここから出せ!」と主張してくる。
腹を壊したことの無い萃香でも、ここまで来ればこの痛みが何なのかはわかっていた。排泄の合図、便意だ。うんこが萃香のお腹の中で暴れまわっているのだ。
(なんで!? どうして!? ……つぅ!)
原因がわからず萃香は目尻に薄く涙を溜めた。
宴会の参加者も萃香と同じように酒を飲み、鍋やつまみとつついている。それなのに中毒症状が出たのは萃香だけのようだ。あのキノコにしても魔理沙が普段から食べているものばかりだったのだ。
萃香が知るはずもないが、魔理沙が持ってきたキノコの中にアルコールと一緒に食べることで中毒症状が出る種類が混じっていたのだ。それでもしっかりと熱を通せば毒素は分解されるのだが、先の事情で熱が通りきっていなかった。
「ふふっ……。萃香さん、どうしました? ずいぶん苦しそうですね?」
空気を読まずに話しかけてきたのは早苗だった。その顔は酔いが回り真っ赤になっている。
どうやら早苗はアルコールが入ると気が大きくなる性質らしく、萃香を挑発するように言葉を投げかけてくる。
「萃香さん! ついに貴方を玉座から落とす者が現れたのです! それはこの私! 東風谷早苗です!!」
大声で宣言して、早苗は器の酒を一気に飲み干した。それを見て回りは大きくはやし立てる。なにせ、萃香が酒を飲む手を止めるなど今まで一度もなかったのだ。注目しない方が無理というものだ。諏訪子と神奈子は早苗をえんやえんやと応援し、射命丸も口が回る回る。
「おおっと! これはどうしたことだ!? 常勝無敗のチャンプ萃香が酒を飲む手を止めてしまったぁぁぁぁぁぁ!! まさかこのまま終わってしまうのか!? いいやそんなはずはない! 今までも萃香は私たちに奇跡を見せてきた! 頑張れ萃香! 負けるな萃香!」
人の気も知らないで!
そう怒る余裕も萃香にはない。いま少しでも動こうものなら、一気にお腹の中のものが溢れ出してしまいそうだからだ。
ぷるぷると小刻みに身体が震える。顔は蒼白になり、視線が定まらない。なんとか痛みを逃すために萃香は気力を振り絞り、深呼吸を繰り返した。
ぎゅぅ……るぅぅぅぅ……。
ここが萃香の最後の分かれ道だった。お腹の中の痛みがじょじょに引いていったのだ。もちろん、便意が完全になくなったのではなく、一時的に波が引いて行ったに過ぎない。
しかし、今なら何とかトイレに向かうことができる。便意は気まぐれだ。次はいつ襲ってくるかわからない。腹を壊したことのある人間だったらここは即座に立ち上がり、トイレへと駆け込むことだろう。
だが、萃香にはそれができなかった。
席を立つことはすなわち負けを意味する。事情を説明するということも考えたが、それも却下だった。誇り高い鬼が「うんちが漏れそうなんです!」などと恥知らずな宣言をみんなの前で言えるはずがなかった。
それでなくても、一度でも席を立てばあの閻魔は萃香の負けを宣言するかもしれない。決められたルールを遵守するのが閻魔であるし、融通が利かないのも閻魔だった。
事情はどうあれ『自分が飲み勝負で負けた』という事態だけは萃香は避けたかった。幻想郷の住人たちに漏れず萃香も相当な負けず嫌いだったのだ。酒という自分の土俵で負けるなどあってはならなかった。
そして、早苗が限界ギリギリであることが目に取れたことも萃香の判断を鈍らせた。あの宣言の後、早苗はふらふらと左右に揺れ始め、目線も定まっていない。あと一杯か二杯……。いや、このまましばらく放置すれば、それで早苗もダウンするに違いない。早苗が負ければ自分は大手を振ってトイレに行ける。そう考えてしまえばもう止まらない。
一気に勝負を決めようと器に口をつけた瞬間、
ぐぎゅぅぅぅっぅぅぅぅぅぅぅ!! ぎゅるうるるるるるるるるるるるうるるっ!!
先ほどまでと比べ物にならないくらいの便意が萃香を襲った。
「ひぅ!!」
あまりの痛みに萃香は悲鳴を上げ、うつむいてしまう。腸をぶすぶすと五寸釘で刺されるような痛み。神経を直に掴まれたようだ。萃香の頭に電流が走り、視界に白い光がいくつも瞬いた。
そして、不幸なことに萃香にはさらなる追い討ちがかけられた。
「萃香さん!? 大丈夫ですか!?」
「#$¥?+@〜〜〜〜!!」
バニー妖夢が萃香の背中をさすってきたのだ。それは命令されるでもなく、妖夢が萃香を心配して行ったものだった。もし、これが単なる酔いだったら妖夢に礼の一つでも言っただろう。だが、萃香を襲っているのは酔いではなく便意。そして、妖夢のその行為は排便を促す以上の効果は持ち合わせていなかった。
(さわるなこのカス! 今、うんこ我慢しているのがわかんないのか!!)
口汚い罵倒の言葉を心の中で叫ぶ萃香。だが、妖夢は半霊であり妖怪「覚」ではない。萃香の心の叫びなど聞こえるはずがなかった。口をパクパクさせる萃香を見て、妖夢はますます激しくさすってくる。
(やめろ! やめろ! やめろ!! や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! 出ちゃうから! 本当に出ちゃうからあああああああああああっ!!)
悲痛な叫びを上げる萃香。だが、その声は外へとは発せられない。善意という拷問を受けながら、萃香は妖夢に届かぬ懇願の思いを叫び続けた。
「おおっと、どうしたどうした!! 萃香さん全然器が進みません! まさかここで終ってしまうのか!?」
「う……あ…ああ……っ」
蒼白を通り越して萃香の顔は真っ白になっていた。
だが周囲から聞こえてくるのは無情な一気コール。萃香がここで終るはずが無い。萃香ならまだまだ行けるはず。そんな野次馬根性むき出しの住人たちは手を叩きながら萃香の一気を望んでいる。
『いっき! いっき! いっき! いっき!』
『萃香ちゃんの! ちょっと良いとこ見てみたい!! はいはいはいはいっ!!』
『萃香! どうした! 鬼の根性見せてみろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
何とも無責任な言葉。しかし、その声に萃香は歯軋りをして器に手を伸ばした。それは鬼の持つ最後の意地だった。酒のことで無様な姿は見せられない。どんな理由でもだ。
赤い器を大きく仰ぎ、清酒を飲み込んだ。
大きな歓声が上がり、拍手が送られる。
だが、
ぶりゅ……。
酒に気を取られ、肛門の力が緩んだのだろう。萃香の着ていたふんどしに茶色の柔便が広がった。ぬるま湯のような温かみが尻に広がっていくのを感じて、萃香は声にならない悲鳴を上げた。
「っ――――――――っっつ!!」
赤い器が地面へと落ちる。恥もプライドも忘れて萃香は座布団から立ち上がった。視界には博麗神社の厠。だが、一度崩壊を始めたダムはそう簡単に止まるはずもない。今でも「ぎゅぅ! ぎゅるるるっ!!」と恥じらいの無い音を響かせている。だが、それを耳にしているのは、まだ萃香だけ。
「ま、待って……っ! あ、あと少し……、あと少しだけ……っ!」
ぐにゅ……っ、にゅるにゅる……っ。
なんとか排便を止めようと、萃香は自らのふんどしをスカート越しに押さえた。下痢便は萃香の手に潰され形を変える。おぞましい感触に背筋凍る。だが、足を止める訳にはいかない。まさしく鬼の形相で萃香は視界の遠くにある厠の扉を目指した。
「なんということだ! チャンプ萃香が席を立ってしまった! 皆さん、遂に無敗神話が崩れたのです!!」
「席を立ったのだから負けね。しかし……」
「何かあったのかしら?」
周囲の人間は何が起こったのか理解できていないようで、どうしたのだと萃香の奇行を見守っていた。映姫は顔をしかめ判決を保留し、永琳は救急箱を掴み、射命丸は嬉しそうに実況を始めた。その間にカメラのシャッターを切ることも忘れない。
「やめろぉぉぉぉっ!! 撮るな! 撮るなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
萃香は目に飛び込むフラッシュの光に、あらん限りの叫び声を上げた。射命丸としては何か面白いことが起きそう、くらいの気持ちでシャッターを切っていたのだが今の萃香にとっては致命的だ。射命丸たちの実況席は飲み比べ席と厠の間にあり、萃香の前方しか映せないのが唯一の救いか。
両手でお尻を押さえ、ガニ股で境内を駆ける萃香。そのスカートにはじわりと茶色のシミが広がり始めていた。点々と茶色の雫が萃香の走った後に残っていく。
「はぁ……、あ……、うぅ……、あ、あとちょっと……っ!」
幸い厠には誰も入っていないようだし、今ならなんとか場をごまかせる。飲み比べの勝敗などもはやどうでもいい。傷ついたプライドは次の宴会で必ず回復してみせる。とにかく、最悪の事態だけは回避できそうだったのだ。
だが、その希望さえ木っ端微塵に壊された。
「うおおおおおおおおおおっ!! 私はまだ飲めるぜえええええええええっ!! 酒を持ってこーーーーーーーーーーーーーーーい!!」
最悪のタイミングで最悪の場所で、のびていた魔理沙が起き上がったのだ。
魔理沙がのびていたのは萃香の前方数メートル。
まさか釣り上げられた魚のようになっていた魔理沙が突然起き上がるとは思わず、萃香は魔理沙に身体をぶつけた。
「ひ―――――――ぃっ!!」
盛大に尻餅をついた萃香。それが最後の堰を破壊した。
「や、あ――――っ。やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
ぶりゅっ! びりりぃぃぃぃっ!! ぶしゅぶしゅっ!! ぶりゅりゅっ!!
萃香の肛門が決壊した。一度放出された下痢便は全てを出し切るまで止まることは無い。萃香のはいていたふんどしでは大量の下痢便を吸い取りきれず、こんもりとふくらんだ布地から下痢便がはみ出していきスカートまで届く。
細い足に下痢が流れ、白い靴下を茶色に染め上げていく。
エグイ匂いが辺り一面に広がり、近くにいた人々はその匂いにゲロを吐いた。
無情にもそこにカメラのフラッシュが瞬いた。
射命丸の持つカメラは河童印の連続撮影機能付だった。
世紀の大勝負の結果に記事にしようと射命丸は連続撮影機能をONにしていた。
パシャシャシャシャッ! パシャッ! パシャッ!
「うわああああああああああああああああああああああああああああっ!! や、やめろぉぉぉぉぉぉぉっ!! やぁっ! とまって! とまってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
萃香はせめて顔だけでも隠そうと両手で顔をかばう。無論、そんなことをしても写真の人物が萃香なのは誰の目にも明らかだ。むしろ、目線を隠されたその写真は背徳的な欲望すら揺り起こす。その手が便液で濡れているのも見逃せない。
やがて、その茶色の軟便を出し切った萃香は、まだ消化不良の黄土色の便を出し始め、遠め手わかるくらいにスカートを染め上げていった。
「あ……あ……あ……」
ぼろぼろと見た目相応の幼女に戻ったように涙を流しながら、萃香は下痢便を排泄し続けた。もはやそれを止める術など萃香にはなかったのだ。
すーっ、と萃香の中から現実感が引いていく。
こんなことが起こるはずがない、自分がこんな目にあう訳がない。そんな何の根拠も無い妄想が萃香を襲う。
足からお尻までに広がる生温かい糞便の池も、周囲でざわめく住人たちの視線も、絶え間なく焚かれるフラッシュも、鼻にこびりつく悪臭も全てが悪い夢だ。萃香はそう信じる以外になかった。
ビチィィィッ! ブチュッ! ブリリリッ!!
「あ――、ははっ……、あはははっ……」
自分のお尻から上がる音を聞きながら萃香は引きつった笑みを浮かべた。
涙を流しながら笑う萃香。
まるで、涙すれば全てが水に流れると信じているように。
黄土色に染まった両手で頬にふれる。
ドロリと軟便が流れ落ちる指の間から、虚ろな目がのぞいていた。
「嘘だ…嘘だ…嘘だ……。こんなこと起こるわけない……。私がうんちなんか漏らす訳ないよ……。下痢になるはずなんてないよ……。わはしはわはしは……。うっ! ぷぅっ! おげえええええええええっ!!」
萃香は上の口からも汚物を吐き出し始めた、大量の酒とキノコがゲル状になって当たりにぶちまけられた。すっぱい匂いが汚物臭と混ざり合い、鼻の曲がりそうな悪臭を放つ。さらに、肛門の崩壊とともに緩んだ尿道から黄色い小便を流した。
下痢、ゲロ、小便。
三種の汚物を撒き散らし、萃香の意識は遠ざかっていく。
最後に感じたのは、止まぬフラッシュの音と周囲の喧騒。そして、自分の全身を汚していく汚泥の感触と高らかな早苗の勝利宣言だった。
おわり
目を背けたくなるイタさと、それを哂える楽しみとの狭間で揺られる展開。
「戻れば俺の中の萃香はかっこいいままだ」と思いながらも、
結局最後まで読んでしまいました。とても面白かったです。
スカトロももちろん大好きなのですが、それ以上に話が面白かったです♪
翌日の文文。新聞は要チェックですね!!!!!!!!!!!!
奈落に落ちながら絶望してゆく萃香がえらい可愛い。
こういう自業自得チックな恥辱もいいなぁ……非常に面白かったです。
極上の排泄劇よりも
バニー姿のみょんに目が行きました、申し訳無い
私も一瞬ウンコに見えましたwwwww
しかし、排泄主義者シリーズのあの完全無敵?なすいかがここまで落ちるというギャップが素晴らしい。派手にぶちまけちゃったのが最高の一言。
あと酔った神奈子はどうなるんですか?
ウナルさんの作品はHENTAIなのに読み物として非常に面白いのがずるい
スカ押し作品でもちゃんとキャラを立ててほんとにすばらしいと思います
いやいやいやいやいやいやいy
自信満々の萃香が三種の神技(3K)で落っこちていく姿が愛おしい!
ゲロ少女だらけの宴会とかそれなんて楽園・・・?
後片付けは全部霊夢がやるんだろうな