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『彼女は理不尽に、何の意味もなく、意味の分からないものによって死ぬ』 作者: 狼狐
私、アリス・マーガロイドは――脅えていた。いつもなら午後のティータイムの時間だというのに、私の座る椅子の目の前の机には何も置かれていない。
私一人しかいない部屋で、キョロキョロと脅えた目で周りを見回す。そしてパチリと瞬きをした瞬間、私の体は反射的にビクリと震えた。
そんなことを何回か繰り返してから、私はため息を吐きながらだらりと体を椅子に預けた。
「何なのよ、もう……」
そう呟くのは今日で何十回目かしら。今週で何千回目かしら。そう思いながら私はまたため息を吐いた。
いつからだったかは覚えていないけれど、私はただ『視線』に脅えている。例えば寝ているとき、シャワーで頭を洗っているとき、目を瞑ったとき。私は強く、そして悪意のある視線を感じた。
最初はどこかの変態が私をストーカーしているのではと思い、人形たちに監視をさせたりもした。だが何一つ引っかかることはなく、視線に悩まされ続けているのだった。
霊夢に相談してみたものの、「謎の視線を感じる」などと曖昧な話だけで彼女が動くはずもなく。適当な返答でお茶を濁されただけだった。
「お陰で眠れやしないわ」
不眠続きで思い目をゴシゴシと擦るが、眠る気はまるでしなかった。寝たくても、私が視界を闇に落とした瞬間に、正体不明の視線が襲い掛かってくるのだ。寝れるわけがない。
顔でも洗おうと椅子から立ち、洗面所へと向かう。洗面所の鏡に久しぶりに映した自分の顔を見て、私は思わず泣きそうになってしまった。
「酷い顔。目なんか真っ赤じゃない」
視線のせいで、食欲もなかった。お風呂に入る気もしない。頬はこけ、髪は乱れ、目は真っ赤に充血していた。
ひび割れているかのように、眼球に赤い線がたくさん走っている。
「なんて醜い目なのかしら」
そう私が呟いた瞬間――鏡に映った赤い右目が、『私の左目』を睨んだ。
「え――?」
現実離れしたその光景に、呆然とした声を出した後――恐怖が私の脳をかき乱した。思わず鏡から顔を背け、床にへたり込む。
あり得ない。あり得ないはずだ。『私の目が、私を睨んだ』。言葉にするとなんて馬鹿馬鹿しい。そんなことがあり得るはずがない。自分にそう言い聞かせる。
四回ほど深呼吸をして心を落ち着かせてから、ゆっくりと立ち上がろうとした――その瞬間、ぼとりと何かが落ちた音がした。
それに目を向ける必要はなかった。だって、何が落ちたかなんて分かり切っていたもの。私はいま、『私を見ている』のだから。
簡単な話。赤い赤い左目が落ちたのだ。持ち主に逆らうように、自分を見ろとでもいいたげに、左目の視界、視線は私を見続けている。
おそるおそる顔を動かして右目を床に向けた。りんごのように赤い眼球がそこに落ちていて、私をギロリと睨んでいた。恨めしそうに、恨めしそうに――
本能的に理解する。こことのところずっと感じていた視線、それは私の眼球が向けていたのだろう。目を瞑れば眼球が見るのは目蓋の裏。それもまた、私の一部には違いないのだ――
「あっ」
再び、ぼとりという音がした。異常な出来事の連続に頭のどこかが壊れてしまったのかもしれない、そう思えてしまうほど妙に冷静で間の抜けた声が漏れる。
「あはは」
勝手に乾いた笑いも溢れ出してきた。私の視界は違う角度から私を睨んでいた。右目も、落ちたのだ。『それだけ』だ。
――そして再び、ぼとりという音が響いた。三つ目の視界。それもまた、私を睨んでいた。
『見て』いたから分かる。眼球の無くなりただの穴になったはずのところから、目玉がぽとりと落ちてきたのだ。真っ赤な真っ赤な眼球が。血のように、あるいはりんごのように赤いそれが。
「あはは、あは、あははははははははははははははははははははははははは!」
乾いた笑い声が口の中から水のように湧き出すたびに、ぼとり、ぼとりと目玉が落ちてきた。目穴からだけじゃない、次第に口からも、耳からも。
あぁそうよね。眼球がなくなった目は、目じゃなくて穴なんだもの。目玉は穴から溢れ出ていたんだもの。だったら、他の穴から出てきたってなぁんにもおかしくないわよね。
毛穴からにゅるりと、乳首からどろりと、性器からぐちゅりと、肛門からずるりと、赤い赤い目玉が次から次へと産まれていく。
眼球たちの重みで下着が落ちた。そこから転がった目玉は、私を睨める角度でぴたりと止まる。百、千、万と眼球が加速度的に増加していくが、その全てが私の視界で、私を睨んでいた。
洗面所はそう広くない。あっという間に、眼球が部屋の床を埋め尽くした。それでも出産は止まらず、重なっていく。どんどんと、どんどんと。
最初に左目が落ちてから五分も立たない内に、眼球たちは私を自分たちの中に埋めた。それでも出産は止まらない。それでも睨むのを止めない。
ぎゅうぎゅうと、私の体を眼球たちが押し始めた。隙間があったのか、最初は弱かったその圧力も――すぐにその隙間を埋めて、痛みを感じる暇すらなく一気に私の全身をあぎゃ
がちゃりと、誰かがアリスの家の洗面所のドアを外側から開いた。滝のような勢いで、赤い眼球が部屋から雪崩出てくる。
その中にはアリスを潰した時の血が付いているのもあるだろうが――その眼球の元々の赤さで全く分からない。それほど真っ赤な眼球なのだ。
ドアを開いた者が、眼球の一つを拾い――がぶりと噛み付いた。果実のようでいて、それよりずっと甘い芳醇な味わいが広がる。
「これだ。この味だ! これなら――あの雄山に勝てる!」
男はそう叫んで、眼球を袋に詰め始めるのだった。
作品情報
作品集:
7
投稿日時:
2009/12/01 14:10:42
更新日時:
2009/12/01 23:10:42
分類
アリス
しか書かないと思ったら大間違いだぜ!
( ゚д゚)
そろそろ、アリスは死ぬのが快感になって来る頃だろうね、きっと。
車の運転中に目玉がいっぱい出て来る夢だったか映画だったか見たことあるなあ
究極のツンデレ・・・アリス
・・・ハッ!
偵察に使えたのにな
>13 卵黄の味噌漬け思い出した