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『森の奥の料理店』 作者: 名前がありません号
幻想郷の人里の外れに一つの小屋がある。
隠れるように建っているその小屋は、知る人ぞ知る料理店だった。
私がいつものように仕込みをしていると、二人の客が入ってきた。
一人は常連さんで、いつも御贔屓にしてもらっている。
もう一人は見慣れない人であったが、その服装から恐らく同じ仕事仲間なのだろう。
「いらっしゃいませ」
私がそういうと常連さんは、いつもの二つで、と言った。
常連さんは、いつもステーキを頼む。
見かけによらず、良く食べる方で何処にそんなに入っているのか、と思ったものだ。
私は鉄板の準備をして、肉を焼き始める。
「今日はいいのが入りましたよ」
「それは楽しみですね。ここのお肉はおいしいんですよ」
「そうなのですか?」
「ええ、そうです。ここを皆に教えたいぐらいです。出来ないのが残念ですけどね」
「? 何故出来ないので?」
同僚さんが、疑問を投げかける。
常連さんが、それに答えようとするところを、私が言った。
「この店は、あまり沢山のお客様が入れるスペースがありませんし、個人経営ですので……」
ああなるほど、と同僚さんは納得したように頷く。
そんな風に世間話などをしていると、肉が丁度いい頃合となる。
肉を皿に盛り付けて、二人に出す。
「どうです? おいしそうでしょう」
「確かに……これは食欲をそそられますね」
「どうぞ、お召し上がりください」
二人は用意してあったナイフとフォークを取り出す。
常連さんは慣れた手つきで食べ始めるが、同僚さんは初めて見るそれに戸惑っているようだ。
「えーと、これ、どうやって食べれば?」
「あ、お箸を出しましょうか? お箸でも切れるくらい柔らかいと思いますが……」
「あぁ、私が教えますよ。いいですか、こうやってですね……」
そういって常連さんが、同僚さんにナイフとフォークの使い方を教えていた。
同僚さんは常連さんの手の動きを細かく確認しながら、目の前の肉を切り始める。
飲み込みが早いのか、同僚さんもナイフとフォークで肉を丁寧に切れるようになっていった。
そして食べやすく切った肉を一口、ぱくっと食べる。
「あぁ、確かに。今まで食べたお肉よりもおいしいですね」
「でしょう。少し値は張りますが、それだけの価値はあると私は見ています」
「ありがとうございます」
料理人としては、これ以上無い賛辞だ。
そして二人は肉を食べながら、世間話に花を咲かせた。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです、それではお会計を」
そしてお会計を済ませて、二人は店を後にしました。
今日は曇っている。
人里の天気予報では、雨は降らないと言っていた気がする。
この天気だと、恐らくあのお方が来られるかもしれない。
そして扉をあけて入ってきたのは、貴族の方だった。
うちの上客の一人で、曇りの日になると、うちに来られるのだ。
「ごきげんよう、店主。相変わらずのようだね」
「そちらこそお変わりなく。依頼されていたものが入りましたので、お出しします」
「ふふ、無理言って済まないね。でも、あれの味が忘れられなくてね」
そして私は奥から、依頼されていた肉を用意する。
昨日、二人に出した肉よりも小振りだが、柔らかな肉質と独特の香りは絶品との評価を頂いている。
特にこの貴族の方は、えらく気に入っていて、以前来て頂いた時に「これと同じのを頼む」と言われていたのだ。
そして肉を焼く。
焼きすぎれば、直ぐに硬くなってしまうため、焼き加減が少し難しい。
貴族の方はグルメでもいらっしゃるため、なおさら注意が必要だ。
肉を焼き終え、皿に盛り付け、最後に赤いソースを垂らして、お出しする。
何も言わずに、貴族の方は一口、肉を食す。
しばし咀嚼して、飲み込んだ。
私はそれを唾を飲んで、見守る。
「……腕は落ちていないようだね。いい腕だよ、店主」
「ありがとうございます」
「出来ればここに、あいつも連れて行ってやりたいんだがな」
「以前言っておられた方ですか?」
「ああ。最近は落ち着いているようだからな。とはいえ、この店を潰されてはかなわない」
「ははは、まったくですな」
貴族の方と私は笑いあいながら、食事を楽しまれた。
「それじゃあね、店主。また頼むよ」
「はい、ありがとうございました」
今日は珍しいお方が来られた。導師様だ。
私にこの幻想郷で仕事を下さった方である。
「これはこれは導師様。珍しいですね」
「ええ、たまには、と思ってね」
「導師様には何もかも、お世話頂いて感謝のしようもありません」
「ふふ、繁盛しているのね」
「ええ、お陰様で」
「それじゃあ、振舞ってくださる」
喜んで、と私は言って、早速肉を持ってくる。
「何処を食べますか?」
「全て、余すところ無く」
「それはまた」
「用意できているのでしょう?」
「はは、導師様には敵いませんね」
私は早速、調理を始める。
この仕事も長いが、今までの肉では一番、料理しがいのある肉だった。
そうして肉料理のフルコースを導師様に振舞った。
「綺麗なものね」
「折角、導師様に来て頂いたのですから当然の事です。どうぞお召し上がりください」
「ええ、頂きます」
そうして、導師様は肉料理を一つ一つ噛み締めるように食べて下さいました。
そしてお食事を終えられた導師様に、上質の酒を開ける。
私と導師様で互いに酒を飲み、語りました。
「それじゃあ、さようなら」
「ええ、さようなら」
その後、森の奥の料理店に、東風谷早苗と上白沢慧音、人里の住人らがやってきた。
この料理店の店主は、集落や人里の人間を誘拐し、“調理”して妖怪達に振舞った疑いがある。
彼女らが料理店に押し入り、保存室と書かれた部屋に入ると、
誘拐された人間らと一緒に首を吊って死んでいる、店主の姿があったという。
その手には、大きな人斬り包丁が握られていたそうな。
とある男と妖怪の会話
「人里で耳にしたわ、貴方、どんなヘマをしたの?」
「はは、我ながら情けない話なんですが、子供を取り逃がしたんですよ」
「珍しいわね。女子供に容赦するなんて」
「いやぁ、そんな積りは無かったんですよ。ただね、子供の顔を見ちゃったんですよ」
「顔を?」
「ええ。まるで私を妖怪みたいな目で見るんですよ。怯え竦んじゃって。一瞬考えてしまいまして、その隙に」
「私は自分が人間だと思っています。実際貴方にこの仕事を教えていただいた時も確かに私は人間だった」
「ですが、それを日常にしてしまったせいか、私は人間から離れていったのかも知れませんね」
「そう。恐らく明日、ここに人里の代表らがやってくるわ」
「でしょうな。まぁ潮時でしょう。もとより人殺しが長生きできるはずも無い。これも順番です」
「残念ね。貴方の料理はとてもおいしいのに」
「準備する前に一つ聞いてもよろしいですか?」
「何かしら?」
「妖怪と人間の違いって何なんでしょうか?」
「さぁ。案外大差は無いのかもしれないわよ?」
「なるほど」
※
妖怪を一線を飛び越えた存在、人間をそうでない物と区別すると、
妖怪というのは案外身近な存在なのかもしれない。
実際、神と妖怪の差も大した差ではないのだし。
どうでもいい設定として、料理店の店主は外で人殺しだった人間。いわゆる殺人狂と呼ばれる類の。
吸血鬼のバロットを読んだ後だと、いまいち感は拭えないかもしれないが、俺が満足したのでよしとする。
料理に詳しくないのに、書くなよとか言わない。
※なんとなく返信
>>1
ぐもんしきでは人里に妖怪専門の店があるらしいけど、何の店かは明言されていないんだよなぁ。
>>2
正解です。
天狗の特徴的な服装から推測して、という。
名前書かずに東方キャラを書き分けられたらいいなぁ。
名前がありません号
作品情報
作品集:
7
投稿日時:
2009/12/02 15:30:08
更新日時:
2009/12/03 01:14:22
分類
料理店
肉
あと書きスルー推奨
食材の入手方にさえ問題がなければ末長く舌を楽しませることができたろうに
似たような服着てる奴らってあんまいないし。
こういう文章に名前の描いてない登場人物を台詞やらから誰か考えるのは楽しい。
人間と妖怪の境界?
…導師…服?
…!
まさか紫が黒幕か?
特に、あとがきの会話で凄くまとまった感が出ていて良いと思う。
場所のせいもあるだろうけど、オチが想像できちゃったのが残念。
最初の来客が誰かわからなかったのと、ステーキ自体の描写が少なかったようにおもった
素敵な話です。
お箸でも切れるくらいやわらかいお肉、すてき。