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『腋臭異変』 作者: Sfinx

腋臭異変

作品集: 8 投稿日時: 2009/12/03 14:20:08 更新日時: 2009/12/03 23:20:08
外の世界で画期的な清汗剤「消臭ワキッド」が発明されて数十年の月日が経った。

その月日の流れにより、罹患者の周囲の人間に「不潔」というイメージを抱かせる病魔「腋臭」の存在も―

人々の忘却の彼方へと消えていった。






人々に忘れ去られし事物の流れ着く場所、幻想郷。

外の世界ではもはや過去の遺物となった美しい自然や、法螺話だと一笑に付されてきた妖怪や神々が、当然のように存在している。

豊かか、と問われればすぐには頷けないような生活ではあったが、人々は平和に暮らしていた。




しかし、今この幻想郷の各地で、悪臭に悩まされる問題が多発している。

各家、2家に1人程度の割合で、腋から猛烈な悪臭を放つ者が現れ始めたのだ。

それも、問題となっている者が不潔であったり、必ずしも汗かきであったりするわけではない。

清潔を保とうと努力している者ですら、この症状に悩まされているのである。







「姫、寄らないでください。」

永遠亭の主、蓬莱山輝夜。

彼女もまた、この症状に悩まされる1人であった。

「朝食は厠に置いておきますから。幸い、姫の部屋が一番近いですし。」

「永琳、貴女、そんな口が利けるほど偉かったの?」

「ご自分の着物の臭いを一度お嗅ぎになってください。」

輝夜は言われた通りにした。

直後、視界が90度上方修正され、後頭部に鈍い衝撃が走った。


「はぁ。それでなくとも、腋の悪臭を訴えて入院してる患者さんが沢山いるのに、うちの姫まで…」

永琳は悩んでいた。

もはや異変と呼べるのではないかと思うほどの悪臭。

どこか鼻につくその臭いは、酸っぱいような刺激臭があり、長時間嗅いでいると頭痛がしてくる。

事実、悪臭に耐え切れずに体調を崩した者や、不潔のレッテルに耐え切れずに自殺を選んだ者もおり、人里全体の問題となりつつあった。



患者本人よりも周囲の人間に被害を及ぼすその症状を、永琳は仮に「Wrong Armpit Kill Ill Granulate Association」、略して「WAKIGA」と呼称することにした。



現在、WAKIGAに関することでわかっていることは次の3つ。

1.汗かきな者に多く現れる

2.割と厚着な者に多く現れる

3.とにかく臭い

被害が如実に現れている以上、異変である可能性は無視できない。

この3つの情報を、とりあえず巫女に伝えに行くことにした。






「というわけなのよ。」

「腋の臭いで、ね…」

永琳の話を聞き、何とも言えない表情になる霊夢。

「そういえば魔理沙も物凄く臭くなってたわね。臭いから2度と来るなって言ったら泣きながら帰っていったけど。」

「ひどいわね。」

そうは言ったものの、身近に実例がいる永琳としてはその気持ちが痛いほどわかる。

「実は私も、とっくに紫に相談してるのよ。」

「あら。それで紫はなんて?」

「外の世界で、この症状の特効薬が発明されたらしいのよ。人々がその特効薬を当たり前のように使うもんだから、症状の方が幻想入りしちゃったんだって。」

「じゃあその薬の方が幻想入りすることはないわね。なんとかして私が薬を作るか…」

ここまで言い、永琳はある事実に気がついた。

「山の上の神社の巫女、わかる?」

「ああ、あの腋を露出させた巫女ね。私も人のこと言えないけど、腋の臭いを自分で嗅いで陶酔してるのはどうかと思うわ。」

「そう、彼女も発症していない。貴女と山の上の巫女、共通点は何?」

「腋の露出かしら。」

「そう、腋を露出してる貴女達2人は罹患していない。おそらく、腋が外気に触れていることが関係しているのでしょうね。」

「なるほど、じゃあみんなに腋を露出してもらえば…」

「ええ。ある程度の効果は認められるでしょうね。」

「じゃあ、早速慧音に相談してくるわね。」

「ええ、よろしくお願いするわ。」

永琳は霊夢を見送ると、どうやって輝夜の着物をカットするか考え始めた。






その独特な格好は誰にでも受け入れられる様なものではなく、慧音の説得も難航した。

特に男性からは反発が大きく、このままでは男性に腋露出法を実践してもらえない。

やむを得ず、紫の協力によって「衣服の肩と腕の境界」を弄ってもらうことになった。

これにより、全幻想郷住民の衣服から腋部分が消失した。




そして1週間が経過した。

初めは拒否した男達も、腋露出法がWAKIGAの治療に効果的であることがわかってきてからは、むしろ積極的に脇を露出していくようになった。

腋どころか、全てを露出し始める者すら現れた。

段々と腋の悪臭が消えてゆき、人里に笑顔と活気が戻ってきた頃。





紫が、何者かの手によって重傷を負った。

原因は刃物による刺傷であったが、特別な呪いが掛けられており、術者が解かない限り永遠に能力の使用が制限される。

そんな状態となってしまった紫に、とても衣服の境界を弄る余裕は無く、腋露出法も自然消滅していった。

そして悪化していくWAKIGA。

一度は希望が見えただけに、里からはみるみる活気が失われていった。






「全てが順調、と言えるでしょうね。」

そう呟いたのは守矢の巫女、東風谷早苗であった。

「ああそうだね。あんたの腋と、私の呪いで、着実に幻想郷の信仰は私達に集まりつつある。」

呟きに答えた諏訪子は、この幻想郷全土を巻き込んだ異変を思い返していた。



外の世界から来た早苗達は、この症状を知っていた。

また、学生だった早苗が所持していた「清汗スプレー」なるものが効果的であることも。

人里がWAKIGAの悪臭に苦しむのを見て、早苗達は信仰集めのために、一つの作戦を考えた。





砂漠で脱水症状を起こした人間は、何の変哲も無い水をこの上なく美味そうに飲む。

ならば、腋の悪臭に苦しむ人々に、爽やかな腋の香りを嗅がせてみたらどうなるだろうか。

みな、その香りを求めるのは間違いない。

早苗は学生時代に太っていたため、2柱が人一倍汗を気にしていた。

そのため、清汗スプレーは山のようにある。

清汗スプレーを代価に、信仰を集めようと試みたのだ。



ところが、霊夢達が考えた「腋露出法」が広がり、計画が破綻しかけた。

WAKIGAが完治しようとしているのだ。

WAKIGAが完治してしまっては、清汗スプレーなどありがたがるはずも無い。

そこで、諏訪子の呪いを込めた包丁で、紫に重傷を負わせることにした。



結果、早苗の投げた包丁は命中し、計画は続行となったのだ。

一時悪臭の無い状況にあった人々は、悪臭への耐性も低下していた。

以前よりも信仰は盛んになり、範囲も拡大していった。

「ええ。本当に…」

そう呟く早苗の声には、どこか翳りがあった。

しかし、信仰が増えて浮かれている諏訪子は、その翳りに気付かなかった。






永琳、霊夢、慧音は悩んでいた。

やっとWAKIGAの治療法が見つかったというのに、紫の能力が使えないためにそれが実践できないのだ。

「やはり、犯人を見つけ出して呪いを解かせるべきでしょう。」

「とは言っても、まるで犯人に検討がつかない…」

「呪いが使えそうな奴を片っ端からあたってみたけど、どいつも違うと思うのよね…」

「包丁も、どこにでもあるようなものだったわね。」

一通り言い合ったところで、みな口をつぐむ。

今回の話し合いも進展の無いまま終了することとなった。





しかし、それから数日後。

突然、博麗神社に手紙が届いた。

その内容とは、以下のようなものであった。

「私は犯人を知っている。しかし、私にとって密告はマイナスにしかならない。よって密告を求めるならば、私の要求を呑んでもらいたい。承諾すると言うのならば、3日後の正午に人里の茶屋に来い。」

もはや打つ手が無い霊夢ら3人は、この手紙に従うほかなかった。





「来ましたね、霊夢さん、慧音さん、永琳さん。」

「早苗!あんただったの!?」

霊夢が驚く。そもそも腋露出法は、早苗と霊夢の姿がヒントになっているのだ。

モデルとも言うべき早苗が、腋露出法を封じた犯人と繋がっていたとは。

「ええ。今から全てお話しようと思っているんですが…」

早苗が一枚の紙を取り出す。

「これは…」

「ええ、誓約書です。密告や要求の前に、まずはそれに署名をお願いしたいんです。」

誓約書の内容は、密告や要求がどのようなものであっても、早苗の罪を問わないというものだった。

「なぜ、こんなものを?」

「私は今回の件で、不本意ながらとは言え犯人に協力してしまった部分があります。密告するとなれば当然それも言わなければなりません。」

「なるほど。つまり保身か。」

慧音が吐き捨てる。

彼女はそういった人間の醜さが大嫌いであった。

「そうおっしゃるのも仕方ないことと思います。ですが、正義のための密告で罪に問われてしまうというのなら、私はとても密告などできませんよ。」

早苗が答えた。

確かに、密告が無ければ解決しないし、その密告者だって自らの安全を買おうとするのは当然のことだろう。

「署名、していただけますね?」

3人は、渋々、といった様子で署名を行った。




「有難うございます。それでは、要求と密告、どちらを先にしましょうか?」

満面の笑みで早苗が言う。

身の安全が保障されたと思ったら、すぐこれだ。

やはりこの巫女は、容易く信用できる相手ではないな、と慧音は思った。

「先に要求を言ってくださるかしら?」

落ち着いた物腰で永琳が言った。

他の2人も同意見であったのだろう。どちらも反対はしなかった。


「では、要求をさせていただきますね。――――――、――――――をお願いします。」

これを聞いて3人とも驚き、また訝しがった。

「確かに不可能ではないけれど、――何故そんなものを?」

「今までと逆転した発想ね…確かにそれならその条件も呑めないことはないけれど……」

「何故そんな回りくどい方法を取らなければならないのか、理由は話せないか?」


「申し訳ありませんが、話せません。……要求、呑んでいただけますね?」

またしても渋々といった様子で、3人は頷いた。




「では、犯人や事件について、詳しく話してもらおうか。」

「はい。全てお話します。事の発端は、信仰を集めようとして――――」

早苗は全てを語った。清汗スプレーの件に、諏訪子の呪いの件、また自分が包丁を投げた件。

自分が包丁を投げたことを話した際には、涙まで流し始めた。

――先の誓約があるんだから、情を誘う必要など無いだろうに。

慧音はやはり、早苗に好感が持てなかった。




「わかった。直ちに守矢神社に向かって、2人と話をしてくるわ。」

言うやいなや、霊夢は瞬く間に飛び去っていった。

また、永琳は早苗の要求のため、永遠亭へ帰っていった。

残る慧音は、何か言いたげに早苗を睨んだが、結局何も言わずに寺子屋へと戻った。




「計画通り………」

そして一人残された早苗は、口の端を歪めて、不気味に笑っていた。








紫への傷害事件の犯人、守矢諏訪子が封印され、しばらく経った。

身内を売った早苗に嫌気が差し、神奈子も出て行ってしまったため、守矢神社の住人は東風谷早苗一人となっていた。

はずだった。




「早苗様、これでよろしいでしょうか?」

「ええ、ありがとうございます。みなさんのおかげで、私の夢も叶いました。」

「いえいえ、こんなに素晴らしい物を下さった早苗様のためでしたら。」

そう言って男は笑った。

「じゃあ次だ、みんな、スクワット100回!」

「はい!!!!!」

男達が汗を流しているこの場所は、守矢神社の敷地内にある小屋であった。

もっとも、小屋と呼ぶにはかなり大きいものであったが。

また、非常に風通しが悪いようで、室温は非常に高かった。

そんな居心地の悪い場所で、早苗は一人微笑んでいた。
















〜早苗の計画〜


早苗には、一つの性癖があった。

それは、男の腋臭がこの上なく良い香りに感じるという、非常に特殊な性癖であった。

外の世界にいた時からそうであったのだが、外の世界では過保護な2柱のために、その性癖を自覚することはなかった。

腋臭の辛さだけを2柱に聞かされていたために、そうはなるまいと清汗スプレーを多用し、腋臭を嗅ぐ機会などなかったのだ。



しかし、腋臭が幻想入りし、罹患した者が守矢神社を訪れた際、早苗は己の性癖を自覚した。

みなが嫌がって顔を背ける腋臭が、この上なく甘美な香りに感じる。

それも、女性や優男ではなく、筋肉質な男性の腋臭が特に素晴らしく感じられた。

早苗が自分の性癖を悲観したのは一瞬で、その後は神社にやってくる人々の腋の臭いを嗅いでは、一人陶酔に浸っていたのであった。



だが、諏訪子は信仰集めのために、極悪非道な案を提示した。

――清汗スプレーである。

早苗としては、目の前にある大好物に泥をかけられるような心境だった。

しかし、腋臭を嗅ぎたいなどと言えるはずもなく、早苗のストレスは日に日に溜まっていった。



腋臭を嗅げない日々が続く中、突如霊夢が訪れてきた。

諏訪子の手伝いで紫に重傷を負わせた件について、呪いをかけられる者を片っ端からあたっているらしい。

だが、そこは祟り神とまで呼ばれた諏訪子のことである。

自分に都合のいいように能力を説明し、自身を容疑者から外すことに成功した。



早苗としても、腋露出法が復活してしまっては、やはり腋臭が嗅げなくなるため、諏訪子が容疑者から外れることは嬉しかったのだが、このままでは埒が明かない。

――霊夢達が犯人を見つけられずにいることを利用し、なんとかこの状況を打開できないだろうか。

そう考え、思いついたのが密告である。

紫の能力が不完全であることは、幻想郷にとって非常に重大であるはず。

代価として要求できるもので、腋臭が思う存分嗅げる楽園を作れないだろうか。

考えに考え、早苗は以下の3点を霊夢達に要求することにした。



1.嗅覚に作用し、腋臭の悪臭を感じなくなる薬の発明、またその使用権利の独占

2.紫が復活しても、衣服の境界を弄らないこと

3.筋肉質な男など、特に腋臭が酷そうな者には守矢神社に住み込んでもらうこと




それぞれの理由はこうだ。

1、2については、腋臭に対処できるのが守矢神社だけという状況を作り、財や信仰を得るため、3については、自分が腋臭を好きなだけ嗅げる状況を作るためであった。

3の表向きの理由は、腋臭が酷い者は薬代も多くかかるため、住み込むことにより薬代がかからないように、というものである。



怪訝な顔をされても押し通せば済む事、と思っていたが、予想外に簡単に承諾してくれた。

諏訪子が封印されもしたが、長らく腋臭を嗅げなかったため、むしろ清々しい気持ちであった。

里の人々が薬を買いに来るため、金にも余裕ができ、腋臭を嗅ぐための離れまで建てることができた。








「こういうのを、世間では幸せと呼ぶんでしょうね……」

早苗は、最も体格の良い男の腋に顔を埋めながら、そう呟いた。
あとがき

正直、腋臭の人が身近にいないので、どんな臭いなのかわからないんですが(^_^;)

名前からして臭そうだなと思ったんでイメージだけで書いてみました。



〜早苗の計画〜までで、早苗が守矢神社を乗っ取る話だと思ってくれた人が1人でもいるのなら、私はそれで満足です。

こんな臭そうなSSを最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
Sfinx
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2009/12/03 14:20:08
更新日時:
2009/12/03 23:20:08
分類
どうしてこうなった
絶対許早苗
シリアスなんだかギャグなんだか
1. 名無し ■2009/12/03 23:31:43
以下↓ゲロの海に沈んだ人々の声なき声
2. 名無し ■2009/12/04 00:28:19
ねっないにゆるななえ
3. 名無し ■2009/12/04 01:04:20
おいゲロ吐くなよ!これ以上の悪臭は………う゛っ
4. 名無し ■2009/12/04 01:17:13
うぇ
げろにおぼれそう・・・
5. 名無し ■2009/12/04 01:31:06
(…へんじがない。ただのしかばねのようだ)
6. 名無し ■2009/12/04 01:40:29
ペロッ…
これはゆかりんのゲロ!

うぼぉえぇ
7. 名無し ■2009/12/04 02:06:29
ゲェェェ
  ∧_∧
 (ii´Д)
 ノ つi‖。゚・
と__)川|;;:⊃
  ⊂;:;;;::;:⊃
8. 名無し ■2009/12/04 02:11:17
ゲロちゃんがわいぞうでウボエエエエエ
9. 名無し ■2009/12/04 06:42:42
早苗策士すぎる…
地霊殿は全体的に暑そうだから悲惨だろうな
硫黄臭とワキガ臭が混ざってまさに地獄
10. ぐう ■2009/12/04 07:55:42
うぷっ・・・
11. 名無し ■2009/12/04 09:02:30
腋臭とか非衛生にもほどがある
12. 名無し ■2009/12/04 21:50:58
外人のほとんどは腋臭だと聞いたことがある
日本が過敏すぎんのかもね
13. 暇簗山脈 ■2009/12/04 22:35:55
あえて言おう
臭い魔理沙は大好物だと
14. 名無し ■2009/12/05 03:02:34
一方紅魔館では香水を使った
15. 名無し ■2009/12/06 07:22:33
腋臭と香水が混じった臭いって嫌だな
16. ■2009/12/06 10:25:36
そも、香水は体臭と一緒にかがせることを目的としたもので以下略
17. 名無し ■2009/12/08 20:05:20
腋臭って、なんていうか香ばしいよね
18. 名無し ■2010/05/30 19:14:45
コーカソイド(白人・アラブ人・インド人)の8割、ゲルマン人の9割、ネグロイド(黒人)の10割だったかな
日本人より中国人の方が腋臭率は若干低い
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