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『鵺的体験』 作者: おたわ

鵺的体験

作品集: 8 投稿日時: 2009/12/04 18:03:24 更新日時: 2009/12/06 20:56:23
朝の博麗神社。
赤く美しい神社だが、燦々と照る太陽の光が、より一層その美しさを強める。
しかし、美しさと人気は比例しない様で、普段は人気は少ない。
そんな神社に、今日は総勢6名(正確には7名)の妖怪がやって来た。
宴会以外の目的でこの神社にこれ程の人数が集まる事は珍しい。

「お、やっと来た」
「おはようございます、霊夢さんに早苗さん。今日は宜しくお願いします」

その妖怪達の長である聖白蓮が、博麗霊夢と東風谷早苗に挨拶をした。
捻くれた性格の妖怪が多い幻想郷では、こうした礼儀正しい妖怪は希少である。

「そんなに畏まらなくてもいいわよ、別に。今日の事はこっちが提案した事だからね」
「正確に言うと、私が立案したものですがね」

今回、白蓮達が神社に集まった目的は参拝ではない。
白蓮が指揮を執る命蓮寺の連中は、今春に幻想郷にやって来たばかりと言う、幻想郷の中では一番の新参の一派だった。
その為、どうやって幻想郷に馴染もうかと四苦八苦しながら悩んでいた。
そこで早苗は一つ考えたのだ。
私達が幻想郷の案内をしてあげてはどうかと。

「私も昔、魔理沙と一緒に新参時代の貴方を案内してあげたものよねぇ」
「ええ、懐かしいですわね。あの時は初めて幻想郷の絶景を見て、感動したものです」
「そうなのですか」

早苗は幻想郷に来て間もない時に、霊夢と魔理沙に幻想郷を案内して貰った事がある。
荒々しくも美しい、日本の原風景を初めて見た時は、本当に強い感銘を受けた。
そのような前歴もあり、早苗は自分が受けた感動を白蓮さん達にも。と思い、案内をする事を決めたのだ。
神社はその集合場所に使われたに過ぎない。

「あー、もう。立ち話が良いからさあ、早く行こうよ」

待ち切れないのか、封獣ぬえは持っている槍状の武器を子供の様にブンブンと振り回している。
それを見て村紗水蜜は呆れた様な顔をしている。

「ぬえ、貴方はワクワクし過ぎだって。もう少し落ち着きなさいな」
「そう言うムラサが、一番昨日楽しみにしてじゃない。ねえ、星?」
「ふふっ。そう言えばそうでしたね。昨日はずっと、ニコニコしてました」

ぬえをあやかそうとした村紗だったが、逆に雲居一輪と寅丸星に突っ込まれて赤くなって俯いてしまった。
そんな光景をナズーリンは、やれやれと言った表情で傍観していた。
仲が良く微笑ましい、いつもの命蓮寺の妖怪達だった。

「そうね。ここでずっと話をしているのも難だし、そろそろ行きましょうか」
「よし! それじゃあ命蓮寺の皆さん、準備は良いですか? 出発しますよー」
「おお、やっとだぁ。楽しみだなー」
「ぬえ、貴方は落ち着きが無いんだから、逸れない様にね?」
「言われなくても分かってるって」

せっかちな妖怪の心情を察したのか、霊夢と早苗は出発する事に決めた。
霊夢は、まず何処に案内しようかと考えていると、一つ忘れている事がある事に気が付いた。

「あ、そうだ。魔理沙が居ないわ」
「そういえば。うーん、集合時間でも間違えたのかなぁ」

実はもう一人、霧雨魔理沙が案内人の一人として来る予定だったのだが、何故かこの場に居ない。

「しょうがない、呼びに行くか」
「えー? 最初の案内地が魔法の森だなんて、印象が悪いですよ」
「まあ確かにあそこは居心地悪いからねぇ」

確かに『幻想郷は良い所だよ』なんて言っておいて、最悪の環境である魔法の森なんかに最初に連れて行っては不味いだろう。
しかし、活動範囲が広く、幻想郷の穴場を色々知っている魔理沙を呼んでおいた方が得だろうと二人は考え、止むを得ず、森へ行く事に決めた。



魔法の森。
奇妙な植物や化け茸が育ち、御世辞にも外観は良いとは言えない。
更には化け茸の胞子や、酷い瘴気が発生する上、得体の知れない不気味な妖怪が屯している。
体が弱い者にとっては、足を踏み入れることすら許されない場所だ。
命蓮寺の妖怪達も、顔を顰ませながら足を進めている。
比較的この森にも慣れている筈の霊夢と早苗も顰めっ面をしている様子からも、森の居心地の悪さが窺える。
そんな中一人、邁進している妖怪がいた。

「いいねいいね、このおどろおどろしい空気感。私ぴったりだ!」

ぬえだ。
自分自身も混沌としている所為か、ぬえはこの混沌とした森が気に入った様だ。
「ここにまた今度遊びに行こうよ」と、村紗と一輪の背中をバンバン叩く。
更に、ぬえにはこの森が好きな理由がもう一つある。

「それにしても知らなかったなぁ。魔理沙がこんな良い所に住んでるなんて
 今度ここにも悪戯しに来よーっと」
「あんた、魔理沙の事好きよねぇ。前に私が神社で魔理沙と話してた時にも来たでしょ」
「霊夢程じゃないけど、あいつ好きだよ
 だって、中々いないもん、あんな正体不明な人間」

その理由とは魔理沙が住んでいる事だった。
正体不明の人間だから、という理由はよく分からないが、ぬえは魔理沙の事が好きだった。
話上手でぬえと同じ悪戯好きだと言う理由もあるが、魔理沙のあやかし上手な性格が勢い付けたのだろう。
二人はしばしば悪戯をし合う仲になっていた。

ぬえが村紗に悪戯を仕掛けたり、ナズーリンがビードロを見つけたり……
そうこうしている間に魔理沙の家に到着した。

「ふーん。以外に普通なデザインなんだね。家自体が茸とか、面白い事を期待してたのに」
「茸なんて妖精も住みませんよ、すぐ腐ってしまいますし。キノコ型の家なら外界で見た事あるけど」

早苗がぬえの言葉に突っ込みを入れつつ、呼び鈴を鳴らす。
すると、家から慌ただしい足音が聞こえてくると共に、慌ただしい人間が現れた。
そいつは少し驚いた表情をすると、こう言った。

「いやあ、すまん。すっかり忘れていたぜ、約束。つい研究に没頭してしまってな」

どれだけ没頭していたのか、ボサボサの髪に皺だらけの服を着て身嗜みの無い格好をしていた。
更に謝りながらも顔はニコニコとしている。
それは約束を忘れていた事に対する照れ隠しの顔にしては、随分笑顔だった。
そんな魔理沙を訝しく思って、霊夢は質問をする。

「どうしたのよ、ニッコニコして。嬉しい事でもあったの?」

そう聞くと、更に魔理沙は顔を破顔させ、くくくと笑う。
より怪しく思ったが、さっさと用を済ませたかったので次の質問をする。

「で、魔理沙も一緒にするんでしょ? 案内」

魔理沙は少しタイムラグを置いた後、何故かにやりとした表情をして答えた。

「悪いな、ちょいと急用ができて。手を離したら危険な実験の最中なんだ」
「ちょっと、魔理沙。無責任だなぁ。折角貴方が来る事を楽しみにしてたのに」
「まあそう悪く思うな。ほら、代わりに幻想郷の名所の場所が書かれたメモを貸してやるから」

そう言うと、魔理沙は家の中に入り、少々埃の被った地図の様な物を持って来た。
地図を見てみると、所々にバツ印が付いており、その印の近くにその場所の解説が書かれている。
魔理沙は自分の体験した事、感じた事、相手の弾幕等、何でも書き留める癖がある。
この地図も、魔理沙のその癖から生まれた産物だ。

「それさえあれば、大抵の場所には回れるだろう」
「では、魔理沙さんは来られないと言う事ね。残念です
 また余暇でもあれば我が命蓮寺へ御出でなさって下さい」
「ま、白蓮の所にはまた行かせてもらうぜ」
「また遊びに来てよね?」
「遊びに行くってば。さあ、用は済んだ。とっとと帰れ」

よっぽど研究の続きがしたいのか、魔理沙は乱暴にやって来た人妖を返した。
「態々呼びに来てやったのに」と霊夢は怒っているが、しょうがないので案内を続ける事にする。
地図を見るに、ここからは再考の道が一番近いらしい。
夏なので彼岸花が咲くシーズンではないが、地図の解説を読むと綺麗な河原があるらしい。そこに行く事にした。

「うーん。それにしても残念」
「まだブツブツ言ってるの?」
「だってだって、楽しみにしっ……!」

不意にぬえが喋るのを止め、立ち止った。
何か、頭の中に何かが入ってくる感覚がしたのだ。それも質量を持っていない何かが。
幽霊? 空気? いや、違う。
でも確かに何かが入って来た、正体不明の何かが。

「もし、ぬえ。どうしたのですか? 早く行きますよー」
「え? あ、いや、何でもないよ。何でも」

その場に逗留するぬえを見て、星が急かす。
まあでも、別に頭が痛くなったり、体に異変が出た訳でもない。悪戯好きな妖精が何かしたのだろう。
ぬえはそう楽観的に考える事にした。

「そういやぁ、ナズーリン。そのビードロを少し貸してよ」
「駄目だね。君に貸しては戻ってくるか分からない。物を貸したくない友人ランクナンバーワンだ」
「酷い言い様ね。それに私は借りた物は生きてる間に返す主義よ。どこぞの魔法使いじゃない」
「……妖怪と人間じゃ寿命が違い過ぎるだろう?」

再び楽しげに会話を始める。
さっきの出来事は一瞬にして頭から抜けて行った様だ。

「いいじゃん、そのビードっ……!」

そこで不意に、ぬえの意識が消えた。


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「ふっふっふ、あっはっは。ああ愉快だぜ」

森に住む魔法使い、霧雨魔理沙はご機嫌だった。
それもその筈。
魔理沙はついに完成させたのだ、妖怪を使い魔にできる魔法の術式を。

「これで私も大魔法使いの仲間入りってか? くくく」

魔理沙は昔から他の魔法使いに対するコンプレックスがあった。
それは自分特有の強力な使い魔を持っていない事だ。
何の個性も無い、ただ自分の周りをグルグル回るだけの使い魔だったら扱えるが、やはり強力な技にはならない。
それでも2つ、その面白味の無い使い魔を利用したスペルカードをつくった。
魔符「スターダストレヴァリエ」、黒魔「イベントホライズン」。
両方とも単純な軌道の弾幕しか張れない為、余り強くならない。
この2つのスペルカードはむしろ自分の劣等感を強めるだけだった。
アリスの様な人形、パチュリーの様な賢者の石、白蓮の様な大きい魔法の花。そんな強い使い魔が欲しい。
そんな思いで今まで研究を続けて来た。
妖精を使い魔にする事も考えたが、悉く失敗に終わった。

「とりあえず橙よりは強い妖怪を奴隷にしないとな」

そんな中、紫が藍を、藍が橙を式神にしている姿を見て、妖怪を使い魔にする事を考えた。
その為には、操る為の術式をつくらないとならない。
実は、妖精に術式を組み込んで操ろうとした事もあった。
しかし妖精は自然の具現である故、難しい事は考えられない。
頭の情報機関がパンクして、その緑の髪をした妖精は破裂してしまった。
なので、結局妖怪を使い魔にする事に決めたのだが。
それから苦節幾年、漸く術式は完成した。

「ふふふ、私の奴隷タイプのスペルカードもこれで大幅強化だな」

魔理沙の頭に様々な弾幕が浮かぶ。
妖怪と一緒に彗星となって体当たりなんてどうだろうか。二人で複合型の美しい弾幕を張れば皆凄いと思うだろうな。
魔理沙はすっかり有頂天になっていた。
そこに、良い気分に浸っている魔理沙を現実に引き戻す呼び鈴が鳴った。

「全く誰だよ。この術式を早速試したいのに」

ブツブツ言いながらもしょうがなく対応する。
すると目の前には見慣れた人間と妖怪達がいた。
そうだ、すっかり忘れていた。3人で命蓮寺の妖怪を案内する約束をしてたのだ。
しかし、早くこの術式を試したいという気持ちの方がが強く、適当に対応した後断る事に決めた。

「いやあ、すまん。すっかり忘れていたぜ、約束。つい研究に没頭してしまってな」
「どうしたのよ、ニッコニコして。嬉しい事でもあったの?
 ……で、魔理沙も一緒にするんでしょ? 案内」

魔理沙の頭に妙案が浮かんだ。
せっかく目の前にこんなに妖怪がいるのだ。それも強力な妖怪ばかり。ちと鼠は弱いが……
だったら只断るだけでなく、こいつらの内一体で魔法を試してみるとするか。
しかし、この寺の妖怪は妙に連帯感が強い。割とすぐバレてしまうかも知れない。
だったらぬえなんてどうだろうか。
あの悪戯好きの嘘付きだ、寺の妖怪では一番信頼が無い筈。
それにあいつは何故だか知らんが私に懐いている。もしバレてもあいつは私を援護してくれるだろう。
そんな考えが高速で頭を巡った。

その後、その場凌ぎの為に地図を渡したりして、適当に受け答えをした。
そして帰り行くぬえを窓からこっそりと見つめる。
窓の隙間から魔法をぬえに浴びさせるのだ。
いよいよ自分にも有望な使い魔が付くのだと思うとワクワクして来たが、同時に緊張もしてきた。
期待と緊張が葛藤してきたが、自分がぬえを自在に操る姿を想像すると可笑しくなって緊張の気持ちも消えた。

「まあ安心しな、ぬえ。多分破裂はしないから」

そう一言言うと、ぬえ目掛けて魔理沙は小さな声で魔法を詠唱した。
魔法を喰らったぬえは少しの間立ち止ったが、また再び歩き出した。
再びニコニコと会話している様子を見る限り、とりあえずはバレていない様だ。
暴走などの奇行も見られない。どうやら、とりあえずは成功のようだ。

この魔法の特徴は、魔理沙がこうしろ、こう言えという指示を頭で浮かべると、ぬえにそれが反映される事だ。
指示が出されている間はぬえの意識は無く、ぬえは魔理沙に操られている事には気付かない。いや、気付けない。
つまり、藍や橙の場合、使い魔にされている間でも自我があるのだが、ぬえは完全にそれが無くなってしまう。
ちなみに、この魔法で被妖怪を操れる範囲は魔理沙の視界の範囲に限る。
なので魔理沙が視界の範囲内からぬえを離してしまうと、ぬえは意識を取り戻すのである。
少々不憫ではあるが、それを補える分だけのメリットがあるので、魔理沙はまあよしとした。

そういう訳もあり、ぬえを操るには視界から失くしてはいけないので、人妖の集団をこっそり追尾する事にする。

「元々泥棒だ。忍ぶのは手慣れたもんだぜ」

魔理沙は泥棒は泥棒でも真正面から泥棒して行くのだが、そんな事は関係無しに尾行する。

「さて、そろそろテストして見るか
 そうだな、最初は……単純な指令で『殴れ』なんてどうだ?」

魔理沙がぬえに誰を殴れとも指定せずに、大まかに『殴れ』と指令する。
すると、ぬえが周りにいる奴らを殴りだした。魔法は大成功だった様である。
魔理沙は喉まで来た「やったぜ!」と言う歓喜の叫び声をぐっと飲み込んだ。そして立ち止って観察を続ける
すると、誰を殴るか指定していなかった為、近くにいる霊夢と早苗までも殴りだした。
少し離れているので良くは聞こえないが、「キャー」とか「うわぁ」とか、そういった叫喚も微かに聞こえた。
二人は魔理沙の無二の友である。その二人が殴られるのは都合が悪い。
指示を止めないと、と考えていると、白蓮が簡単な封印魔法を掛けたのか、ぬえの動きが止まり、固まった。

「ありゃ、これはまずったか?」

白蓮はぬえを抱え、歩き出した。遠目で確かでは無いが、白蓮の表情は怒りと言うよりも悲哀な表情を浮かべている様に見えた。
よく見ると、周りの人妖にも顔に傷ができていて、服も破れている。ぬえに殴られた為のものだろう。
妖怪は治癒能力が高い為、この程度の傷などなんら造作も無いが、人間の二人は当分消えないだろう。
乞食の如くボロボロな集団は、沈鬱な雰囲気を醸し出しながら森を抜ける様に歩き続けている。

「あちゃー。目も当てられん事になってるな」

好奇心は時に残酷とはよくいったものだ。
魔理沙は残酷過ぎる程の底抜けの好奇心を持っていた。
これ以上、魔法のテストを続ければ取り返しのつかない事になるというのは、魔理沙自身もよく理解していた筈なのに……
魔理沙は自分の好奇心に適う事はできなかった。


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「……ううん?」

ぬえが意識を覚醒させる。
……はて、私は何をしていたのだろうか。
そう思い、ぬえはまだ暗闇から解放されたばかりの弱く開く目で辺りを見回した。
古臭い装飾の床、壁、天井。全部なんとなく見慣れた様な装飾だ。
見慣れた装飾に、嗅ぎ慣れた古臭い独特の寺の匂い。
間違いない、ここは命蓮寺だ。
でも何故? さっきまで森に居た筈なのに。何故、寺に私は居るの?
ぬえはここまでの経由を必死に思い出そうと、まだ寝惚けている頭を回転させる。

「目覚めましたか? ぬえ」

不意に声がしたもんだから、吃驚して、寝惚けて半開きの目を全開に開く。
その声の元へ恐る恐る目を動かす。
そこには、怒っているとも、悲しんでいるとも、何とも言えない顔をした白蓮がいた。
眉は垂れ下っているのに、何故か怒気を感じる。本当にどうとっていいか分からない表情をして。

「目覚めたばかりで悪いのだけど……
 まず、何故このような行動をとったのか、事細かに教えて頂戴」
「え? 何の事?」
「そう言って貴方はまた嘘を吐く……正直に言って、怒らないから。ね?」

正直に言ってと言われても、本当に覚えが無いのだから言える訳が無い。
ぬえは返答に困って固まってしまった。
尚も白蓮はぬえを見つめ、情報を聞き出そうとする。
ぬえはどうしてもその間に耐えきれず、目を横に逸らす。
すると、白蓮ばかりに注目してしまい、全く見えなかった他の妖怪達の姿が見えた。

「わっ! どどど、どうしたのよ! 皆!」

原因は分からないが、白蓮を除く命蓮寺の妖怪全員が傷を負っていた。
全体的に擦り傷と言うよりも、打撲による傷が多く、肌が紫に変色している者もいる。
そして、何故か皆、ぬえの事を白い目で見つめていた。
何故私をそんな目で見るの? もしかして、その傷と私に何らかの関係があるとでもいうのか。
ぬえは悪戯が好きで、偶には度が過ぎた悪戯もする。
しかし、皆をここまで傷付ける悪戯はしない。何故なら皆が好きだからだ。
最初こそは飛倉をバラバラにしてしまい、白蓮達に迷惑を掛けたという罪悪感で、少し皆に遠慮がちだったが、
最近はそんな事も無く、全員と気兼ね無く楽しく遊んでいる。
そんな、皆を愛する私が、そんな事をすると思う?
ぬえは瞋恚に燃えた。

「白蓮、もしかしてこの皆の傷は私が負わせたとでも言うの!?
 違う! 私はそんな事は知らない! 第一記憶も無い!」
「貴方はいつも『そんな事は知らない』と言って誤魔化して来ました。言い逃れは通用しません」
「違う違う違う! 私は悪くない悪くない悪くない!」
「いい加減にしなさい!」
「!」

いきなり、白蓮の感情に怒りの比重が重くなった。
滅多に見る事の無い温厚な白蓮の大喝、強情なぬえも怯んでしまった。
ぬえだけではない。少し離れて傍観している妖怪達も反射的に背筋をピンと伸ばした。
白蓮が放ったフレーズは、割と叱る時には定番のフレーズだったが――寺子屋の生徒には特にお馴染みのフレーズだろう――それでも場に居る全員に戦慄が走った。
それだけ、白蓮が怒りを露わにするのは珍しいという事だろう。 
それにしても、事を全く知らないぬえからしたら理不尽極まりない叱られ方だ。
勿論、意地っ張りなぬえは反論すると思われたが、予想に反し彼女は完全に縮こまってしまった。初めて見る、白蓮の強い叱咤を受けて。
本当は罪の無いぬえだが、もう彼女には謝る以外の選択肢が頭に浮かばなかった。

「ううぁ……ご、ごめんな゛ざっ……!」

突然、目の前の白蓮が二重にぶれて見え、焦点が合わなくなる。
そこで再び、ぬえの意識は途切れた。


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「何だか不味い雰囲気だぜ。私の所為だとばれなければ、奴等がどうなろうと関係無いが」

森を抜ける途中、霊夢と早苗は命蓮寺の妖怪達に、非難、難詰を浴びさせていた。
傍から見れば、人間二人のしている行為は外道に見えるかも知れない。だが、それも仕方が無い筈。
そりゃそうだ。下手したら商売相手と成行く相手に、親切にも幻想郷の案内をしてやろうと言っているのに、この様な仇を返されたら怒るのは当たり前。
命蓮寺の妖怪達もそれを理解しているのか、ばつが悪そうな顔をしながらも、誹謗を黙って受けていた。

森を抜けきると、人妖は人間組と妖怪組に分かれた。
人間組の二人は永遠亭の方に向かっている様だ。
確かに早めに治療をしないと傷跡が残ってしまうかもしれない、万が一顔にでも傷が残ってしまえば少女としては致命的だろう。賢明な判断だ。
魔理沙は治療の様子を見てみたいところだったが、本命はこっちではないので後は追わない。
本命である妖怪組は命蓮寺の帰路についている様だ。

「ふむ、ぬえに命蓮寺の中に入ってもらうと困るのだが」

魔理沙の予想通り、妖怪達は命蓮寺の中に入って行った。
これではぬえを視界に捉えることができない。視界に捉えられなければ操る事もできない。
こっそり忍び込んでやってもいいのだが、ばれるリスクが高まる。
仕方が無いので、ぬえが外に出てくるまで、魔理沙は命蓮寺の裏で待ち伏せする事にする。

「ふあぁ、それにしても眠いぜ」

待ち続けて早半刻、ぬえが出てくる気配はない。奥の方で大目玉でも喰らっているのだろうか。
そう思いながら体育座りで待っていたのだが、昨晩から研究で一睡もしていない為、緊張の糸が途切れた今、急に睡魔に襲われた。
そして魔理沙は、ゆっくりと夢の中へ……



「いい加減にしなさい!」
「うおっ!」

大きな大きな大喝が聞こえて来て、魔理沙は夢から現へと特急で帰って来た。
何だ何だと窓を覗くと、そこには怒気溢れる白蓮と、今にも泣きそうな潤んだ目をしたぬえが居た。
態々待っていたのに、何だ、自分が居た場所のすぐ隣の部屋に皆集まっていたのか。待ち惚けを食らった。
まあ、実験の続きを行うチャンスには変わりない。
さっきは指示通り行動を起こすかのテストをしたから、今度は指示通り喋るかのテストだ。

「ううぁ……ご、ごめんな゛ざっ……!
 ……なんてね、私が反省すると思った? 正直言うと、あいつ等がどうなろうと、私は関係無いよ?」
「!? 何ですって? もう一度言ってみなさい」
「だーかーらー、私はあいつ等が幾ら傷付きようが、それこそ死んでも、何とも思わないよ」
「ぬえ! 貴方、自分の言っている事がどんな事か分かっているの!?」

「くっくっく、あーっはっはっは! 可笑し過ぎて笑いが止まらん、くく」

実験は大成功だ。ぬえは私の指示した事に全て従う、誠に優秀な奴隷だ。
それに見たか? いつもは穏やかな表情をしているあの白蓮が、怒りで顔を醜く歪ませる姿。
たまに怒ったかと思えば、馬鹿なもんだ。見当違いにも程がある。
ま、私の術式、指示が完璧だった裏返しでもあるがな。

「……誰かいるの?」
「うひょ!」

魔理沙が窓を覗くと、村紗がこちらへ近づいて来るのが見えた。
すっかり気分を良くした魔理沙は、近くに妖怪がいるのにも関わらず、何時の間にか大声で笑っていたのだ。
勿論、ぬえと白蓮の言い争いで魔理沙の声は粗方相殺され、殆どの妖怪は気付かなかったが、洞察眼の鋭い村紗には気付かれてしまった。
魔理沙は急いで逃げようとするが、長い間体育座りをしていた所為で足が痺れて思う様に立てない。
急げば急ぐほど、足は絡まり余計焦慮を高める。言うなれば深い渦巻(ディープヴォーテックス)に巻き込まれた人間の気分。
それでも何とか箒に跨る事ができた。
一度箒に跨ってしまえばこっちのもん、魔理沙は空高く飛び逃げた。


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バチィッ!

「……えっ?」

甲高い音と、左頬の痛みと共に、ぬえの意識は再び彼女の頭に戻って来た。
左頬がヒリヒリと痛み、目の前の白蓮の右手が手刀の様な形をしている事から、ビンタをされたというのは安易に想像できる。
でも、ぬえは想像したくなかった。
だって、あの白蓮が、優しさの塊、母性の象徴の様な、あの白蓮が、自分に激怒した挙句、頬を叩くなんてあり得るのか。
きっと、白蓮にここまでの仕打ちを受けた者は世の中に自分だけだろう。自分は白蓮に完全に嫌われたに違いない。
そんな現実を、ぬえは受け入れられなかった。
受け入れられなかった分の気持ちは、涙として体の外に排出される。

「うぐ、えっぐ、何で……どうして……私は、何に、も、してないの、に
 白蓮は、わ゛だじの事、ぎらいになっぢゃっだの……」
「ええ、嫌いになりました、さっきの行為で。
 破門です。命蓮寺から、出て行きなさい」

元々薄暗い寺だが、白蓮の一言で完全にぬえの目の前は真っ黒になる。
生物には、嫌われたと思っていても、内心、実は嫌われてないのではないか、という思いがあるもんである。
ぬえもそれに例外ではない。本当は、白蓮は私を嫌ってないんじゃないか、という気持ちもあった。
しかし、それも打ち砕かれてしまった。

「ま゛、ま゛ってよ! 私を見捨てるのぉぉ。私は悪くないのにぃぃ」

ぬえは自分は悪くないと主張するが、彼女の行動を一番近くで見て来た白蓮だ。
信じれる筈がない。

「お願いぃ、おいだずのだげはやめ゛でぇ」

顔をくちゃくちゃに歪ませ、白蓮にしがみ付く。

「星、その子を寺の外に出して来なさい」

ぬえの子供の様な抵抗も聞き入れられず、彼女は星に抱えられ、寺の外へと追い出された。
星は抵抗する私を、可哀相だとも、不憫だとも思った顔でなく、ただ神妙な表情をして見ていた。
そんな表情をした事の無い自分には、その真意は分からない。
まあ、私は寺を追い出され破門された身。分かったところで意味もないけど。
ぬえは悟ったのだ。もう、この寺に戻って来れる事はないと。
だから抵抗する事は止めた。

抵抗を止めると、心にぽっかりと穴が開いた様に、放心状態となった。
心に穴が開くと、涙も止まる。心に穴が開くと、感情も湧かず。
今の自分の周りにあるものは静寂のみ。その静寂は心の穴を広げる役割しか持たない。
妖怪の精神は脆い。心の穴が広がりきれば、ぬえは心が壊れてしまうかもしれない。

ぬえはとぼとぼ歩く。行く先も無く歩く。
気が付くとぬえは人里にいた。そこでぬえはお腹が空いている事に気付く。
命蓮寺に入門してからはする事はなくなったが、昔は人間の恐怖を食べて飢えを凌いだものだ。
でも今のぬえには人を驚かす力すらない。
彼女の一番の恐怖の源である正体不明は、入門する際に捨ててしまったからだ。
あちらこちらでぬえの正体は知れ渡り、今や正体不明が売りの妖怪という肩書きは消えてしまった。
ぬえはぐーぐーと鳴るお腹をさすって、また心の穴を深め広げた。

そこに、一人見覚えのある人間が話しかけて来た。

「おう、ぬえじゃないか。どうした? しょんぼりして」

魔理沙だ。
もう何でも良い、ぬえはとにかく心の穴を埋めてくれる存在が欲しかった。

「ああ、魔理沙ぁ、聞いて。私、寺から追い出されちゃったの」
「また唐突だな。何かやらかしたのかい?」
「……分かんない。けど、悪い事をやった覚えは無い」
「そうかい、可哀相な奴だ。もし良かったら私の家に来るか? 茶くらいは出せるぜ」

ああ、魔理沙は何て優しいのだろう。
人の優しさに触れ、少しだけ穴が埋まった気がした。
そうさ、白蓮がいなくても私は生きていけるさ。こんなに良い友達がいるではないか。

「でさ、ぬえ。ちょっといいか?」
「うん?」

にんまりと笑った魔理沙の顔を最後に、ぬえの意識はまたしても途絶えた。


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「いやぁ、獲物からこっちへやって来てくれるとはな」

ぬえを再び使い魔に戻す事に成功してご満悦の魔理沙。
それにしても、ぬえが命蓮寺から追い出されたのはラッキーだ。
これで白蓮の監視の目が無くなって、ぬえも操りやすくなった。
こりゃ、視界から外しても常に奴隷の状態を保てる様に術式をまた研究する必要があるな。
そう思いながら、魔法の森に向け空を飛ぶ。



「おーい、アリスいるかぁー? おーい」
「はいはい、ドアを乱暴に叩かない……って、どうしたの? その妖怪」

同じく森に住む魔法使い、アリス・マーガトロイドは驚いた。
それも仕様がない、魔理沙が奇妙な妖怪を連れて来たのだ。

「あん? お前、こいつ見るの初めてか
 紹介するぜ、封獣ぬえだ」
「ぬえです。大魔法使いである魔理沙様の奴隷をさせてもらっています」
「……貴方、どういう手を使ったの?」
「どういう手も何も、私の実力に惚れ込んでこいつが勝手に付いて来たんだ
 だから奴隷にしてやった。って訳さ」
「本当かしら、貴方なんかに惚れ込む妖怪がいるっていうの?
 もっとマシな奴は一杯いると思うのだけど」

アリスは魔理沙の言っている事は信用ならなかった。
何故なら、魔理沙如きに付いていく妖怪なんてまずいないからだ。
そして、見る限り目の前のぬえと言う妖怪は、割と強そうに見える。
一体どうやって使い魔にしたのやら。

「でさ、アリス。早速だが、こいつを試してみたいんだ。弾幕勝負しようぜ
 ほら、あっちの方でもドンチャンやってるぜ」

魔理沙が指を指した方向を見ると、ド派手な空中戦が行われていた。
超大型の炎弾を操る者とゾンビの様な妖精を遣わせている者が勝負を交わしている。
勝負を見ていると、アリスも気分が高揚して来た。

「ま、いいけどね。
 でも、貴方の妖怪より、私の人形の方がよっぽどうまく扱えると思うけど」
「ふん、やってみないと分からんぜ」

早々に魔理沙が、新スペルカード、奴隷「封獣ぬえ」を発動させ、戦いの幕を開けた。
魔理沙とぬえが左右に分かれて、2方向から攻撃したり、
逆にぬえと魔理沙が一体となって、超高密度な弾幕を展開したり。
多彩な弾幕がアリスを苦しめる。

「ふふん、これだけで終わりじゃないぜ
 本番はこれからだ。行け、ぬえ!」

魔理沙が指示を下すと、ぬえは雲を突き破る様に高く飛んだ。

「さあ、乾坤から飛んでくる弾幕に恐れをなすがいい!」
「魔理沙、危ない!」
「……って、せっかく決まったところで水を差すなよ
 弾幕勝負中は常に危険なんだから、態々言わなくていいぜ」
「そうじゃなくて、後ろ! 流れ弾!」
「あん?」

魔理沙が振り向くと、目の前に巨大な太陽の様な弾があった。
「あっ」と言う暇もなく、魔理沙はその弾に直撃した。

「魔理沙ぁ! 魔理沙あああぁ!」

いくらアリスが叫んでも魔理沙は反応しない。
超高温の核弾に直で被弾したのだ。生きていた方が不思議なくらいだ。
しぶとい人間の最期は、割とあっけないものだった。


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「……あれ? 魔理沙?」

気が付くと魔法の森上空にいた。魔理沙の姿はそこにはない。
……もしかして、夢だったのかな。だったら、白蓮に追い出された事実も夢であって欲しいのに。
しかし、まだ左頬に僅かにだが痛みが残る。その痛みが現実である事をぬえに伝える。
ああ、どうしてこうなったんだろう。私は何をしたのだろう。
私だけが知らない事実で、私だけが理不尽に怒られて。
自分が何をしたのかも分からないから、この広い天に悔悟をする事すら叶わない。
今までやってきた悪戯の罰が当たったのか。
ならば、この青い空に誓います。もう私は良い子になるから、絶対に悪い子にはならないから。
お願いだから、私を御救い下さい。
ああ、私は今日、誰も傷は付けていない。常に空から全てを見降ろすお天道様なら、私の身の潔白を信じてくれる筈です。
だから、私を御救い下さい。

ぬえには、もう空くらいしか頼れる存在はなかった。
空なんかに頼んでも、何にもしてくれないのに。ぬえは頼み続ける。
次第に、ぬえ自信も空を頼っても事態が好転しない事に気付いた。
そして、ぬえには頼るものがついに一つも無くなった。

スッと荒野に降り、ぼぉっと地平線を見つめる。ただ、ひたすら。
少し時間がたつと、後ろから人影やって来て黒くぬえを塗った。

「魔理沙っ!?」
「残念、私よ」

その人間は、魔理沙で無く、霊夢だった。

「……何か用?」
「うん、ちょっとね」
「だから何?」
「私的な怨みと、おまけを」

そう言うと、懐から針を取り出し、ぬえの腹部に刺した。
余りに至近距離だったので、ぬえも避ける事が出来なかった。

「ぐっ……かはぁっ!」

少しの間は痛みでのたうち回っていたが、動きは弱弱しくなり、ぱったり動かなくなった。

「これで少しは大人しくなると良いんだけどね」

はぁ、っと溜息を吐き、ぬえを見る。
霊夢が突如ぬえを針で刺したのには理由がある。
勿論、私的な恨みもあるが、最近、人里に奇妙な妖怪が悪戯をよくしに来て困っているという苦情を受け、咎めとして刺したのだ。
妖怪は治癒能力が高い為、この程度の傷、どうという事はない。更に急所も外している。一日寝てれば治る程度の傷だ。

「うぅぁ、こ、ころされるぅ」
「んん?」
「あああ! 死ぬの、いやああ!」
「ちょ、駄目よ! その傷で動き回っちゃ!」

源頼政の弓をくらった時でも思い起こしたのか、ぬえは殺されると勘違いして、霊夢の制止を振り切り逃げてしまった。
本当は、神社で一晩寝かせて、命蓮寺へ届けるつもりだった霊夢は、急いでぬえを追ったが、
ぬえは尋常ではない速度で飛んでいて、あっという間に見失った。


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腹部が尋常じゃない程、熱さを伴って痛む。
少し気を抜くと今にも気絶して地面に落下してしまいそうなくらい。



死にたくない……死にたくない……

まだ、白蓮に許しを貰っていない……



死にたくない……死にたくない……

皆の顔を見てからじゃないと、死にきれない……



死にたくない……死にたくない……

死にたくない……死にたくない……

死にたくない……死にたくない……


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「ああ、大丈夫かしら、ぬえ。ああ、心配だわ。心配だわ」

白蓮がおろおろしながら、「心配だわ」とずっと呟いている。
そんな白蓮を見てふっと笑い、星が言う。

「大丈夫ですよ。ぬえも何時も強く反抗して、泣いて、寺を出て、結局また戻って来るではないですか」
「とは言っても、今回は特別強く言っちゃったし……ああ、心配だわ」
「姐さんは心配性ですねぇ。大丈夫ですよ、ぬえは。ねえ? ムラサ」
「あーいたた。まあ、ぬえの事だしね。すぐ帰って来ますよ」

命蓮寺は、仲の良い命蓮寺のままだった。
ただぬえが過剰に心配し過ぎていただけの様だ。

「すみませんが、ナズーリン。ぬえを探して来てはくれませんか
 どうしても聖が心配との事で」
「……結局、探して来る役はいつも私なんだね」

ぬえが悪戯をして、注意されて、反抗して家を出て、ナズーリンが探しに行く。
これはもはや命蓮寺ではありふれた光景であった。

「ん? なんだこれは」

ナズーリンが寺を出ると、まず先に血塗れの死体があった。
所々黒い服の繊維があり、短めの髪の毛が僅かに頭に残っていて、どちらかといえば幼児体型。
多少特徴は残ってはいるが、妖怪がそこら中噛んだ後があり、誰かは判別しきれない状況だ。

「誰だかは分からないが、こんな所で死ぬなんて迷惑極まりない」

そう言うと、ナズーリンは子ネズミに死体を焼却炉に運ばせた。

「これでよしっと。さて、おーい、ぬえー。どこにいるんだー?」

そして再び、ぬえの捜索を続けるのだった。
うい、どうも。鵺的なぬえにぬえぬえしたいという一心で頑張ってつくりました。新型インフルエンザで家に隔離されて時間が有り余っていた、ってのもありましたが。
それにしても、星蓮船のキャラクターは皆、良キャラ揃いなので、各々の個性を出せるように頑張りたいと思います。

それと、排水口の掲示板で某氏のレスを見て思った事。
やはり、前書きで注意と称して言い訳をするのは所詮『逃げ』でしかありませんね。
僕は自分の作品に努力を惜しまずSSを書いているつもりですが、周りのレベルの高さからつい逃げ道をつくってしまいたくなります。
だけど、何時までもその逃げ道に頼っていては、自分の腕の上昇は望めないでしょう。
という訳で、今回はその逃げ道を排除してみました。

あ、誤字脱字が多いと思うので、報告大歓迎です。

【コメント返しとか】
誤字脱字を少しですが修正致しましたー。
1. 名無しさん :可愛い可愛いゴミクズの魔理沙には、それなりの報復をさせて貰いました。
2. 名無しさん :地味に破裂させちゃって大ちゃんごめんね。でも、妖精は死んでもすぐ復活しますのでご安心を。
3. 名無しさん :最近は割と減ってますが、魔理沙が理不尽に死ぬっていうのは定番ですよね。
4. 名無しさん :星蓮船のキャラクターは皆、優しいイメージです。だからこそボロボロにしたくなってしまう。
5. 名無しさん :その通りでございます。殺人でしかキャラへの愛を描けない不器用な人々が多く集う産廃が大好きです。最低、自分はそういう物でしか表現出来ないのですよ。ああ、不器用。
6. 泥田んぼさん:報告ありがとうございますー。修正しました。ナズーリンが最後の最後に大仕事。
7. ARKさん   :次は是非、魔理沙Bでぬえぬえして来て下さい。とっても楽しいです。
8. 名無しさん :大ちゃんは完全にとばっちりですね。それにしても僅かな登場である大ちゃんの人気に吃驚。
9. pnpさん   :長編の書き手として尊敬するpnpさんからのお褒めの言葉を貰ったのが嬉し過ぎて爆発しそうです。
おたわ
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2009/12/04 18:03:24
更新日時:
2009/12/06 20:56:23
分類
封獣ぬえ
霧雨魔理沙
その他命蓮寺の妖怪
長文注意
1. 名無し ■2009/12/05 03:28:28
ゴミグズ死ね
と言いたいけどもう死んでるね
2. 名無し ■2009/12/05 04:20:55
大ちゃん……
3. 名無し ■2009/12/05 08:07:47
この産廃ではよく魔理沙が理不尽に死ぬ。
そのせいで、最近可愛そうなイメージがあったのだが……
ありがとう。最初の気持ちって奴を思い出したよ
4. 名無し ■2009/12/05 10:57:50
星蓮船組の仲良しな感じが伝わってきて凄く癒された。
そして今後を思うと……。
5. 名無し ■2009/12/05 11:35:25
憎いから殺すんじゃない
愛しいから殺すんだ
6. 泥田んぼ ■2009/12/05 19:51:13
最後の落ちで泣いた。ナズ……お前って奴は……

>>酷い瘴気発生する上
>>魔理沙自信もよく理解していた筈なのに……
誤字脱字?
7. ARK ■2009/12/06 00:13:57
ぬえ可哀そう・・・
星EXで憎しみしか抱かなかった自分が言うことじゃないけど
8. 名無し ■2009/12/06 02:25:30
魔理沙は置いといて、ぬえがちょっと可哀想
しかし大ちゃんはとばっちりばっかり受けるんである意味もっと可哀想
9. pnp ■2009/12/06 08:05:28
魔理沙はやっぱりこうなるのだね。むしろこうなるべきだ。

とても面白かったです。長いかったですが、あっという間に読みきれてしまいました。
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