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『籤』 作者: かるは
「全く……どうした物なのでしょう……」
私、稗田阿求は筆を手にしばしの考え事をしていた。
考えているのは、幻想郷の現在と未来の事。
今からおよそ一年程前より始まった異変によって……この幻想郷は、ゆるやかに滅びの道を歩んでいるのだ。
最初に起こった異変は、降り止まない大雨だった。
何週間にも及ぶ長雨によって、日照りが満足に得られなくなった。
水嵩の増加によって川が氾濫し、人間の集落は水害に見舞われた。
次に起こったのは、害虫の異常繁殖。
雨が止み、ようやく平和になったと思ったのも束の間――空を覆い尽くさんばかりの蝗のカーテンによって、幻想郷の作物は壊滅的な被害を被る事となった。
そして、最後に起こったのは豊穣の神の消滅。
作物が壊滅した時にこそ人は豊穣の神――秋穣子にすがり、その奇跡を願うべきだったのだろう。
だが、心無い一部の人間が「豊穣の神が仕事を怠ったからこんな事になった」と騒ぎ立ててしまった。
その意見は徐々に人間の里に広まり、やがて穣子に対する人間の信仰は憎悪の感情へとその性質を変えてしまった。
結果、豊穣の神・秋穣子は信仰の力を失い……後はもう、回想の必要も無い。
神の最期とは、実にあっけない物だったと記憶している。
幻想郷の食糧不足は、日に日にその悲惨さを増している。
米も、麦も、野菜も、果物も、魚も……何もかも、足りない。
妖怪や幽霊、神であれば数年単位で食事を抜く事も出来るらしいのだが、私達人間はそうではない。
ほんの数ヶ月――いや、数週間食事を抜いただけでも、命の危機に瀕してしまうのだ。
道端には、空腹に喘ぐ子供が伏している。
大人達は、ほんの一握りの食糧を奪い合い、醜い争いを繰り広げている。
弱き者は虐げられ、強き者が食糧を独占すると言う悪夢。
もはや、幻想郷の人間に未来は無い。
ゆるやかに、滅びの日が訪れるまで争い続けるだけ――誰もが、そう思っていた。
しかし、この状況を善しとしなかった御方が居た。
幻想郷を担当する閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥ様だ。
争い、憎しみ合い、強き者が弱き者から略奪を繰り広げると言うのは正に地獄と呼ぶのが相応しい状況。
言うなれば餓鬼地獄である。
そんな地獄には、善行なんて有る筈がない。
四季様は、そんな状況を善しとはしなかったのだ。
瞼を閉じれば、四季様が人間の里を訪れになった日の事が鮮明に思い出される。
三ヶ月前のあの日、四季様は助手である死神の小野塚小町を引き連れて人間の里の広場に来られたのだ。
「困難な状況においてこそ、人は憎しみを捨て、手と手を取り合うべきなのです」
四季様の仰った言葉に耳を傾ける者は、一人として居なかった。
皆、生きるのに必死なのだ。
閻魔の説法よりも一粒の米、一切れの野菜。そんな地獄。
「ですが、この様な状況においてはそれも難しい事でしょう。
手と手を取り合うにせよ、まずは食糧問題を解決しないとどうにもならない――えぇ、私は分かっています。
それ故に、私が貴方方を選別して差し上げましょう」
四季様の合図に合わせて、傍らに控えていた小町が神社にあるおみくじにも似た容器を掲げる。
「私が嘆くのは、暴力を持つ者が、持たざる者から略奪をしていると言う事……暴力で物事を解決すると言うのは、とても悲しい事です。
力で力を押さえつけ、強者が弱者を喰らう……弱肉強食と言えば聞こえは良いですが、結局は単なる理不尽でしかありません。
良いですか? 人間であるならば、手と手を取り合い協力をするべきなのです」
一部の野次馬が四季様に野次を飛ばしていた。
『無茶を言うな!』
『閻魔に何が分かる!』
『俺達は、今日を一人生きるだけで精一杯なんだ!』
四季様はそんな野次を聞き流すと一つ咳払いをし、そしてお話を続ける。
「分かっています。幻想郷の閻魔として、この現状は私も把握しているつもりです。
もはや人間同士のルールではどうにもなりません。ルールよりも暴力、それが現状なのでしょう。
それ故に、私が公平なルールを製作しました。それがこの籤です」
四季様は籤の容器から二本の棒を取り出すと集まっていた野次馬にそれを向け、お話を続ける。
「良いですか? 私が用意したこの籤には、二つの種類しかありません。
一つはこちら……『人』と書かれていますね? この籤を引いたなら、貴方方は間違いなく人間です。ええ、素晴しい。
人間である貴方方には、協力し合う義務がある。協力、慈愛、感謝の気持ち。実に素晴しい事です」
何を馬鹿な事を、と一部の人間が呟いていた。
協力をしようにも――食糧不足のせいで、それが出来ないから人間の里の治安は悪化していると言うのに。
野次馬のざわつきを気にせず、四季様は言葉を続けていた。
「そして、肝心なのがもう一つの籤……こちらの籤の文字が読めますでしょうか?」
四季様が掲げた、もう一本の籤。
そこに書かれていたのは、先程とは異なる文字だった。
ただ一文字だけ、『肉』と書かれていたのだ。
何かを察したのだろうか……一部の野次馬が、青ざめた顔で震えていた。
「この籤を引いたのなら、その瞬間からその者は人ではなく、『肉』として扱われる――ねぇ? 単純なシステムでしょう?」
四季様が、満面の笑みで仰っていた。
「『肉』は『肉』。ただ、食われるだけの存在です。
私の計算では……成人男性の体重を六十五キログラムと仮定するならば、宿便や毛髪、体液や骨等を除外した可食部はおよそ三十キログラム。
一人当たりに毎週二キログラムの可食部を与えるなら、毎週十六人の『人間』から一つの『肉』を選別すればそれで良い事になりますね。
籤で『人』と認定された方々は『肉』を分け合った後、里の復興に力を注いで下さいな。
無論、これは成人男性の話です。女性や子供の場合は、また異なる計算が必要となるでしょうから、子供用や女性用の籤も用意しております」
四季様は仰ったのだ。
人を喰らえ、と。
「ああ、もう一つだけ付け足しておくならば……『肉』の籤を引いた方を殺したとしても、我々はそれを罪とは認識しません。
死後のお裁きで不利にならぬ事、ここでお約束をします。
家畜を屠殺したとして、それが罪となるのでしょうか? 否。なり得ませんよね。それだけの事です」
一部の野次馬は、叫んでいた。
『こんな横暴があるか!』
『そんな籤を引くくらいなら、飢えて死んだ方がマシだ!』
「ええ、この籤を引かぬならそれはそれで宜しい事です。『肉』を食わずに生きるもまた、人の自由なのですから。
ですが……一つだけ、申しておきましょう。
我々十王は、これ以上醜い争いが起こる事を防ぐ為にこの特例を設けたのですよ、とね」
野次馬達の叫び声は止まらない。
四季様の提案は、私の瞳から見てもただ火に油を注いだだけにしか見えなかった。
怒りと叫び声だけが大きくなる。
四季様はそんな中で、涼しげな顔をしていた。
そんな最中、広場の外れで一人の男が弱っていた老人を突き飛ばしたのだ。
老人の身体は枯葉の如く吹き飛ばされ、男は腕に一本の野菜を掴んでいた。
「丁度良いわ。小町、やりなさい」
「はいはいっと」
瞬間、四季様は小町に小声で命令を下し、
次の瞬間には、老人を突き飛ばした男の首が、小町の腕に掴まれていた。
何が起こったのかを誰も認識出来ていなかった。
ただ、男の首だけが小町によって掴まれていたのだから。
数秒の後、広場に絶叫が響き渡る。
閻魔である四季様が部下に命じて、生きている人間を殺させたのだ。
閻魔の仕事は死後の人間を裁く事。生前については管轄外――のはずである。
何が起こったのか、誰も理解出来なかった。
「どうですか? これが、争いの火種の末路です」
諭す様にして、四季様は言葉を紡ぐ。
「我々十王は、『争いを防ぐ為』にこの籤を用意しました。十王とは即ち、幻想郷の法律です。
その十王が用意した以上、この籤は幻想郷の法律となったのです。ここまではお分かりですかね?」
四季様のお話を聞いている者が居たのかは分からない。
ただ、小町が人を殺めた事が恐ろしくて、誰も四季様に反発出来なかった。
「争いをするな。争うくらいなら、籤で公平に『肉』を決めろ……それが十王の決定です。
ならば、こちらが素敵なシステムを用意したのにそれを使わず、人として最低限度のルールを破って暴力を振るう愚かな輩についてはどうすれば良いのか?
それが、先程の行為です。暴力を振るう輩は、我々が派遣した死神が問答無用で殺します。……勝てるなんて思わない方が良いですよ。死神、強いですから」
そこから先は、籤のルールに関する補足説明が行われていた。
籤には特殊な術が仕掛けられており、イカサマは出来ない事。
『肉』の籤を引いた相手には呪いが掛けられ、逃走や抵抗をする力が無くなる事。
その他、『肉』の効率的な解体法や保存法……可食部の重量を考えるなら毎週籤引きを行うべきである事等……
四季様と小町の説明は、二時間にも及んだ。
それが、今から三ヶ月前の事。
あれから十二回の籤引きが行われた。
私は今も生きている。
私は『人』を続けている。
何度も何度も、『肉』を食べた。
もう、『肉』を口にする事に抵抗が無くなってしまった。
里の人口減少は、籤引きが始まる前よりもゆるやかになった。
あと半年も耐えれば、待ち望んだ秋がやって来る。
四季様のお話では、新しい豊穣の神が派遣されるとの事だ。
あと半年。
あと半年耐えれば、里は復興出来る。
あと半年……籤引きにして、二十四回の我慢なのだ。
明日は十三回目の籤引きの日。
明日、私は『肉』になるのだろうか。
それとも、『人』であり続けられるのだろうか……
それは、籤のみぞ知る事なのだ。
翌日、籤引きが行われるよりも前に永遠亭の天才薬師八意永琳がクローンアリスの実用化に成功。
人間の里には毎週百体のクローンアリスが支給され、食糧不足は無くなったそうな。
かがくの ちからって すげー! えいりんせんせいのずのうがなければ にんげんのさとは しょくりょうを いじできないんだと
良かったね、阿求!
寺子屋で自分を慕ってくれていた生徒が『肉』になってしまい、泣きながらそれを食べる事になる慧音先生とかのエピソードもプロットでありました
が、慧音先生なら歴史修正でどうとでもしそうなので没に
かるは
http://www.geocities.jp/youjo_teisyoku/
- 作品情報
- 作品集:
- 8
- 投稿日時:
- 2009/12/07 17:57:32
- 更新日時:
- 2009/12/08 03:19:28
- 分類
- 稗田阿求
- 四季映姫・ヤマザナドゥ
本文の世紀末感があとがきで台無しにwww
まぁこれを黒とするかはあれですけど。
それでもこういう四季様は珍しいから読んでて楽しかったです。
あとやったぜアリス。
でも、かがく の ちから の ほう が もっと すげー!
そしてこの映姫様いつの間にか十王入りしてる。前任の閻魔様は……まさかな。
当然、殺される前には陵辱のオマケ付きで
紅魔館は食料となる人間を提供してもらってるから、咲夜が人食いを受け入れれば安泰。
永遠亭は食べてもなくならない食料が二人もいるじゃないですか。
守矢神社は……信仰なくなって消滅はしていないまでも悲惨な状況になってそうだな。
それはそれとして慧音先生のプロットが読みたいです、能力などどうでもいい(ェ
藤子F不二雄の漫画だと、最後は生存者一人きりになってたなぁ。
よく我慢できたこと>里人
つーかリストに名前がない人間は死なないので放置しても問題ないっすよ。
死期になってない人間が冥府につければすぐに生き返せないといけないし
後書きこそ本編です。自分の中では
>>ばいすさん
喜んで頂ければ作者冥利に尽きます
>>3(名無し)さん
四季様は人間の生き死にとか業務の一環として見ているイメージ
ラインの上を流れる部品をじーっとチェックしている期間工みたいに
故にライン全体の流れを妨げるとブチ切れる
>>狗走さん
狼狐さんには適いません
>>soobiyaさん
あれ。閻魔王と十王って同一存在じゃなかったっけ……;
てっきり、四季様=十王の一人だと思っていました。勘違いしていたかも
>>6(名無し)さん ■2009/12/08 10:23:37
家畜を犯しても強姦にはならない
つまりはそう言うこと
>>7(名無し)さん
確かに気になりますね
守矢神社は案外外の世界から持ち込んだ非常食(カップ麺とかカンパン)で凌いでいそうな気もします
一番危険なのは命蓮寺の予感。白蓮なら自分の身を相手に食わせかねない
>>8(名無し)さん
糖尿で早苗シャイン!
>>9(名無し)さん
レディには休息も必要です。多分、寝てる
>>10(名無し)さん
油性マジックじゃなくて刺青で彫ってやるよ!
>>泥田んぼさん
マジですか……慧音ルート、気が向いたら書こうかなあ
>>12(名無し)さん
F先生の短編は良いですよね
カンビュセス以外だとミノタウロスの皿、ヒョンヒョロ、SWDマンが好きです
>>johnnytirstさん
狂牛病が流行る予感? それも面白い
>>14(名無し)さん
仮に生き返ったとしても、其処は醜いこの世の餓鬼地獄
再び死ぬのは自明の理。いっそ完璧に死んだ方がマシかもしれませんよー? ウヘヘッ
>>群雲さん
極限の飢えが、人食に対する禁忌感を払拭してしまった ってのも裏テーマだったりします(最後の阿求の独白とか)
里が復興したとしても、人の肉の味を忘れられない一部の『人食い』共が虐殺を起こすとか そんなのもありそう。実にグロテスク