微笑少女

ここは――――――『ム』の空間。



”　　”に忘れ去られたもの、
抹消されたもの……その全てが集うところ。



「これって見えないんだって！！」
チルノは、手をわきわきさせている。
「本当になんにも見えないよ！すごいね！！」
興奮気味に喋っているのはチルノの親友、ビッグ妖精である。
先ほどから彼女達はこの何もない空間でほのぼのと過ごしていたのだ。

「ほら、見てよ！ この氷を……」
パキパキパキ･･････と音だけ聞こえるが、それは彼女に見えない。
「ほら、いっくよーー！！ そいやっ！」
遠くで氷が割れる破壊音が聞こえる、しかしそれを見る事は叶わない。
彼女達には何も見えないし、見ることも出来ない。
ただ、それが存在しているという事だけは理解できたのだ。

「ここってすごいね！ 皆に教えてあげなくちゃ！！」
「そうだねチルノちゃん、でもどこにいるのかわからな･･････いたっ！」
どうやら彼女は激突してしまったらしい。
お互いに見えないというのは実に不便なものである。


そこからかなり離れたところには一人の少女が座っていた。
そう、なにもこの空間にいるのはふたりだけではない。
もう一人の招かざる来訪者……藤原妹紅もここにいたのだ。

「･････････････ボッ」
彼女は手のひらに火をともす。
手馴れた様子で五本全ての指に炎を宿し、火球を放った。
（五指爆炎弾……こっちは特に問題は無し……か。）

妹紅は行く宛も無くトボトボと歩き続ける。
しかし、どこへ歩けど歩けど、風景はまったく変わらない。
まるで、迷いの竹林に入ってしまったかのような既視感だけがそれを支配した

「それにしても、ここはどこなんやら……っとこれは」
妹紅は歩いていると、ある地点では壁があることを発見した。
彼女は拳に力を込めると、何も無い空間に向け攻撃を加えた。

「カイザーフェニックス！！」
妹紅から放たれた不死鳥がその空間を焼き尽くす。
そして、焼き尽くされた空間にはぽっかりと穴が空いた。


―――その先には見覚えのある風景が広がっていた。


「よっしゃあビンゴ！さっさと帰るか。」
妹紅はルンルン気分でこの空間から脱出した。




それから長い時間がたった。



とても長い時間が経ったと思う。



最初は面白がっていた妖精たちであったが、
何も見えないという恐怖がだんだん心を蝕み始めていた。
声は聞こえる。でも何も見えない。
何をしても何も見えない。自分の存在は分かる。
そんなチルノの心の支えは唯一の親友、大妖精であった。

「ねえ、大ちゃん？聞こえる？」
「････････････････。」
「ねえ？お願い！返事をしてよ！！」
「･･･････････････････････。」




「ねえ！！ねえ！大ちゃん！！大ちゃん！！！」






「うわぁあああぁあぁあぁああぁあん！！」









チルノの泣き声がこの空間を支配する。
しかし、それを聞くものはいない。








何故ならここは








　ム
『�E』の空間なのだから････････。












※馬鹿には見えない文字で書いております。