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『月を肴に』 作者: 名前がありません号

月を肴に

作品集: 8 投稿日時: 2009/12/10 06:52:45 更新日時: 2009/12/10 15:54:30
今日も今日とて、月が浮かぶ。

輝夜と妹紅は、そう思っている。
輝夜は煙草を吹かしている。

「ちゃんと後始末しろよ。また火事になったら笑えないだろ」
「それ以前の問題だと思うけどねぇ?」

輝夜は煙草で、眼前の惨状を妹紅に認識させる。
あちゃあ、と妹紅は目の前の光景を見ない振りをしたくなった。
今回の喧嘩はいつも以上に過激で情熱的であった。

ちなみに、二人の格好は輝夜が右半身が吹っ飛んだ状態で、
妹紅が左腕と右足が吹っ飛んだ状態である。
全身の血化粧がなんとも扇情的である。
一般論から言えば、死体が会話しているホラーな光景なのは疑いようも無い。

「今日は私の勝ち、か。何か久しぶりに勝った気がする」
「それはよかったわね。まぁ勝っても何もあげないけど」
「もとよりお前には何も期待しちゃいないさ」
「なによ、この、この」
「あち、あちち、傷口に煙草を引っ付けるな」

笑う妹紅の傷口にぐりぐりと、輝夜が煙草を押し付ける。
彼女らが憎しみから戦わなくなったのはいつのことか。
もっとも彼女らはそんな事を記憶してはいないだろう。

「……なぁ、ずっと聞きたい事があったんだよ」
「何よ」
「どうしてお前は月に戻らなかったんだ?」
「また随分と今更な話ね」
「以前聞いた時は、はぐらかされてそのままだったじゃないか」

そんな事もあったかしらね、と輝夜はとぼけてみる。
しかし妹紅のその眼差しに、あははは、と輝夜が笑った。

「何だよ、人が真面目に聞いてるのに笑うことはないじゃないか」
「いやぁ、何か凄く真剣そうに見つめてくるのだもの」
「悪いかよ」
「いいえ、貴女のそういうところ好きよ。見ていて飽きないし」

そして輝夜がゆっくりと語り始める。

「月に戻ったところで、きっと私の居場所はないからよ」





         ※          ※





「いや、元お姫様なんだし居場所はあるだろ?」
「地位の問題じゃないわ。人間上の問題よ」

ふぅ、と煙草の煙を吐く。
風に煽られて、妹紅の方に煙が行く。
けほっけほっ、と妹紅が嫌そうな顔をする。
気にせず、輝夜は話を続ける。

「仮に月に戻ったところで私の退屈を満たすものは何も無いのよ。帰る意味が無いじゃない」
「そういうものかな」
「今ある幸せを手放すに値しない、そういうことよ」
「まぁなんとなく分かる気がする。慧音にあってなかったらきっと、つまらなかっただろうな」

妹紅は昔を思い出す。
といっても、既に千年単位の記憶を覚えておけるはずもない。
互いが互いを補完しあう殺し合いになってから以前の記憶はおぼろげだ。
それはそれで悲しい気はするが、今を思えば不要になったから忘れたのかもしれない。

「それに、月に戻らなかったのは永琳のためでもあるわ」
「永琳の?」

「あのまま永琳が月に残っていれば、彼女は一生苦悩し続けるでしょうね」
「私は蓬莱の薬を服用した罪で地上に降ろされた。でも蓬莱の薬を作った永琳には御咎めは何も無かった」
「月人は永琳に依存していたのよ。だから永琳ではなく、私に罰を与えた。普通なら永琳も罰するべきだったのにね」
「でもそれは永琳自身を大いに苦しめる結果になったわ。罪の意識はあるのに、誰も自分を罰してはくれない」
「罪を償えない、罰を受けられない、というのは辛いわよ? 特に寿命が長い月人にとっては」
「ある意味、私はそこにつけ入ったとも言えるわね。彼女は月の使者を殺し、さらに罪を深めたけど」
「地上で私と共に暮らす、という罰を彼女に与えたわ。それで少しは救われたと思いたいわねぇ」

煙草の煙が、月をおぼろげに隠す。
しばし話を聞いていた妹紅が言う。

「結局、誰もがお前に振り回されたってわけか。迷惑な話だな」
「ふふ、まさか本当に作っちゃうなんて思わなかったのよ? お遊びのつもりで言ったのにねぇ」
「天才ってのも考えものだな。まぁ私には無縁な話だけどさ」
「まぁ今さえ良ければいいのよ。死の無い生き物にとって、今と過去だけが一番幸せな時間なんだから」
「そういうもんかな………まぁ未来はあまり想像したくないな」

妹紅は残っている右腕を遊ばせながら、思いを馳せる。
慧音はもう居ないが、それでもこうして生きている。
不死なのだから、死ぬはずがないと誰もが軽々しく言うかもしれない。
しかし生きる上で、何かしらの充足を得なければ、たとえ不死だとしてもいつか“死んでしまう”。
慧音が教えてくれた事はそういう事だったな、と思う。

「地上から見る月が一番綺麗に思えるわ」
「灯台下暗しってか。まぁ見えないしな」
「自分達が至上だという考えを捨てない限り、月の民はこの地上を、穢れた地上にしか見えないでしょうね」
「もったいない事をするもんだ」
「まったくねぇ」

二人はあはは、と笑い出す。
ここにお酒でもあればさらによかったのに、と思いながら二人は月を肴に思い出に酔った。
地球を肴に酒が飲めるようになったら、どんな気分になるんだろうか。

自分への鎮静剤を投与してみる。
俺得で申し訳ないね。
名前がありません号
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2009/12/10 06:52:45
更新日時:
2009/12/10 15:54:30
分類
かぐや
もこう
1. 名無し ■2009/12/10 16:57:14
綺麗な月だなぁ。
2. 泥田んぼ ■2009/12/10 21:21:21
俺得でもある。
このお二人には酒を差し入れたい。
3. 名無し ■2009/12/11 09:44:25
きれいな話だな
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