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『おはよう、妹紅』 作者: タダヨシ

おはよう、妹紅

作品集: 8 投稿日時: 2009/12/10 13:05:02 更新日時: 2009/12/11 21:31:42
 私は竹林を歩いている。冷たい空気が寂しげに纏わり付く。
 足元は色を捨てた竹の葉、頭上の空は濃い墨の表情をして、ちょっとした飾りの黄色い月を身に付けている。足の裏からしゃわりと地面の声がした。
 いつも待ち合わせている場所へと向かう。
 時間が程良く散歩をすると、目的地と待ち合わせている相手が見えた。
 目的地――竹林の開けた場所には長い銀糸髪の少女がこちらに頭を向けている。私はその目を見ると、いつも通りの挨拶をした。
「こんばんは、妹紅」
 自分の口から投げた声は彼女に伝わって
「こんばんは輝夜」
 という音に変わった。
 私と妹紅は視線を重ねた。頭の中はいつもと同じ殺し合い。
 上と下の唇を離し、無駄な戦闘行為開始の知らせを
「さぁ、妹紅。始めましょ……」
 告げようとしたのだけれども。
「待って、輝夜」
 いつもと違う声が流れた。
 私はその音に戸惑うと共に、いつもとは違う流れに喜びを覚えた。
「何?」
 反射的に妹紅の声に喰い付く。餓えた魚みたいに。
「もう殺し合いも飽きたから、別の勝負をしない?」
 銀糸に縁取られた顔から紡ぎ出される言葉は魅力に溢れていた。私は拒否する事ができない機械の如く口を鳴らす。
「あら、面白そうね。いいわよ」
 もしかしたら罠かもしれない。でも、それも良いと思った。退屈を凌げるなら何でも良かったから。
 そう、どんなに苦しんだり、死んだっていい。
 この命は何があっても消える事は無いから。
 頭がそんな感情と回想を巡らせていると、妹紅はこちらに向かって声を投げ付けた。
「家に案内するからついてきて」
 私がその言葉に頷くと、彼女は目的の場所へと足を進め始めた。
 背中でふらふらと踊るリボン付きの銀糸髪が優しいお化けみたいだった。

「着いたわ」
 竹林の和やかな時間を堪能しながら歩くと、彼女の家の前に立っていた。妹紅の住処は私の住んでいる永遠亭と違い、恐ろしく小さかった。
 何故か小さな時に遊んだ竹細工を思い出した。
「どうしたの、輝夜?」
 自分の前にいた銀髪は問い掛ける。
「いいえ、何でもないわ」
 正直に小さな家だと言っても良かったが、ここは平和に済ませた。
「そう? ならいいけど」
 その声を聞いた少女は少しばかり煮詰めた顔をしながら家に上がった。
 私は家に入った妹紅をじっと見ていたが、そのうち彼女はこちらに向かい手を動かす。
 こっちに来てくれという手の動作。
「輝夜が来てくれないと、何も始まらないよ」
 銀糸の彼女は照れ臭そうな顔で言う。私はそれに合わせて
「あら、ごめんなさい」
 と言いながら慌てて家へと入る。
 彼女の生活空間は家の外観と似たような姿を取っていた。
 自分の永遠亭は様々な用途の部屋がからくりの如く組み合わさって存在しているのに対し、妹紅の部屋はたったの一つだけだった。
 こんな場所で、人が住めるのだろうか?
 私は大きく疑問を感じたが、銀糸髪の彼女はその部屋にある囲炉裏に紅いちらつきを踊らし始めた。
「ささっ、今夜は寒いからここに」
 妹紅は囲炉裏の周りに敷いてある茶色い草に手を向ける。私はその動作に頭を傾げたが、彼女が茶色い藁の上に座るのを見て、それが敷物であるという事を理解した。 
 こんな汚い藁を敷くなんて……
 私は密かに戦慄した。でも、それを悟られない様に速やかに座る。
 自分と妹紅はちろりちろりと舌を出す紅い踊り子を挟み込む形で座っていた。
 暫く黙り込んで、何も話さない。目の前の銀髪に顔を向けると、彼女はそれがまるでくすぐったいかの様に顔を逸らした。
 華奢な火が吊るされた薬缶の腹を舐めている。
 部屋を見回すと、家具や食物の類が紅い光に照らされて見る事が出来た。だが、はっきりとした形は分からなかった。
 私がこの珍しい状況に慣れようとしていた時、大人しい夜を乱す音がする。
 妹紅が座の姿を崩した。立ち上がった彼女は部屋の薄赤暗い隅まで歩き、何かをがちゃがちゃ動かしたかと思えば、急須と湯呑みを持ってこちらへ戻ってきた。
 彼女はまた元の位置に座り直すと、吊るされた薬缶を手に取り、その中身を急須の中に入れる。
 熱いうねりを持つ湯が、急須に入っていた茶葉に結び付く。
 大地の滋養物を吸い込んだ葉が潤い、周りに拡散する。
 永遠亭で作りたての茶はいつも飲んでいるが、この時妹紅が薄紅い闇で作った茶はそれよりも遥かに魅力的だった。
 自分を虜にした緑色の水は湯呑みに流れ、すぐに飲める姿になった。私がその様子にじぃと心を滑り込ませていると、銀糸を纏った顔がこちらへと口を開いた。
「ほら、輝夜。美味しいよ」
 そんな喉鳴りが響くと、彼女は茶の入った湯呑みを私に近づける。
「いいの、妹紅?」
 本当に茶をもらって良いのか確認する。その心配を受けた妹紅は日向に生える野草みたいに顔を明るくした。
「大丈夫だいじょうぶ。ほら、早く飲まないと冷めるから」
 首筋に氷の予感が触れる。
 おかしい。絶対におかしい。
 今日の妹紅は友好的過ぎる。絶対に何かある。
 と思ったのだが、私は別に過剰な注意をしなくて良いと考え直した。
「そう? じゃあ……」
 湯呑みの熱い緑を喉へと通していく。
 だって、私は死なないから。
 蓬莱の薬を使ってから、もう死は訪れないと分かっていたから。
 むしろ、不吉が自分に降りかかるのは、退屈を凌ぐ楽しみの一つだった。
 喉を通り、奥底に落ちた緑の匂いが、心と体に朗らかな一瞬をもたらす。
 ああ、おいしい。
 今の、この茶は特においしい。
 心地良さを感じ、瞳を閉じる。この時ばかりは死ねない退屈も無視する事が出来た。
 胸が数回盛大な自己主張をすると、視界を瞼の闇から妹紅のいる世界へと変換する。私は目の前の彼女に礼を言った。
「ありがとう、とても美味しかったわ、妹紅」
 その言葉の後に、持っていた湯呑みを銀糸髪の少女に返す。
 はずだったのに。
 手の間から何かが滑り落ちる。
 かたり。
 渇いた音に目を向けると、先程まで持っていた湯飲みが敷物の上に転がっていた。私はその渋色の焼き物を拾おうと手を伸ばす。
 だが、どうした事だろう。
 手が、動かない。
 いや、それどころか体全体が。
 私は体に起きた異常を訴える為に妹紅に視線を伸ばした。その目を受けた彼女は銀色に囲まれた顔を緩やかにさせる。
 そして、とても楽しそうに唇の間から意味ある音を垂らした。
「ふふ、やっと効いたみたいね」
 私はその目の輝きを見て、焦げ付いた雑音を漏らす。
「妹紅、あなた……」
 そんなに私の出した声が甘かったのか、妹紅は口の両端を引き上げる。
「今からが、勝負の始まり」
 そう言った顔は裏表の無い笑顔で一杯だった。

 飲んだ茶には痺れ薬が入っていた。
 今の自分は妹紅によって仰向けに寝かされている。薬を盛った本人は、がちゃりごたりと道具類をこちらへ集めていた。
 囲炉裏で踊っている小さな赤い光はそんな光景を気まぐれに舐め回す。
 気が付けば道具を弄る物音はすっかり治まっている。私がその事によって目を泳がせていると、銀髪の彼女が自分の上半身を抱き起こした。
 起こされた視線の先には大きな一枚鏡が立っている。妹紅は抱き起こした体勢から私の背中へと動く。
 私の体は麻痺していて首も動かなかったが、これらの動作は立てられた鏡によって確認できた。
 囲炉裏の不確かの紅によって暗く輝く妹紅が口を開く。
「こうして見ると、輝夜の髪って本当に綺麗ね」
 突然の優しい言葉に私は顔を強張らせた。
「ああ、ちがうちがう。皮肉じゃない」
 鏡の中の銀糸は慌てて言葉を立ち昇らせる。
「私と違って綺麗な、夜を切り取ったみたいな黒髪で羨ましいって言いたかったの」
 私はいつもの殺し合いとは全く逆の妹紅を見て、心の底から空寒く思った。
 いつもだったら焼き殺す位の怒りを感じるのに。
 今日は、心地良い位に優しい。
 なんか、怖いな。
 背中にいる彼女とは数え切れない年月殺し合いをしている。よって、彼女の気性について大体の事は知っていた。だが、今日の妹紅はおかしい。
 いつもと違う妹紅。
 私は若干の凍えを感じながら、無作法な口遣いで彼女に聞いた。
「それで、いつもと別の勝負っていうのは?」
 反射する金属板の妹紅はその言葉を耳にして、まるでこれから飴玉を貰う子供みたいに眼を輝かせた。
「うん、がまん勝負をしようと思って」
「がまん勝負?」
 私は日々の殺し合いとは別の平和な単語を聞き、濁った疑問符を吹き散らす。
「ええ、そうよ」
 どうやら耳にした言葉は正しかった様だ。さらに詳しい説明を要求する。
「それで何をするの? あと、勝敗の決定は?」
 その解説を頼む言葉に、彼女は銀髪をふらりとよろめかして応えた。
「私が輝夜に嫌がらせをして、輝夜はそれにひたすら我慢するの。勝敗は私が嫌がらせをするのを疲れて止めたら、輝夜の勝ち。輝夜が我慢できなくなって『降参!』って言ったら私の勝ち。どう、簡単でしょう?」
 今までの殺伐とした勝負と違って穏やかな戦い。私はその落差に戸惑っていた。
「どうする、勝負する? 嫌だったら止めてもいいけど」
 鏡に潜む銀髪はこちらを赤い眼で見つめている。
 その二つの球体の様子は慈愛に満ちて、挑発的。
 鏡に映った彼女の眼を見て、私は胸から頭までが白熱した鉄になった様な感覚に囚われた。
 なにその眼、気に入らない。
 そして、そのすぐ後には、暴力的に口を開く。
「止めない、勝負するわ!」
 何も考えないで、感情に正直な声。
 自分が新形式の勝負を了承する音色を鳴らすと、肩越しの妹紅は何の邪気も含まずに口を動かした。
「ふふ、ありがとう。輝夜」
 鏡には愛しい友人に感謝するみたいな銀糸の少女がいる。
 おかしい、今日の妹紅はおかしい。
 優し過ぎる。
 私はいつもと違う彼女の様子に本腰を入れて戸惑い始めた。
 それとも、私が飲んだ茶には幻覚剤でも入っていたのだろうか?
 銀糸髪に対する困惑の種が芽吹き、百の根を伸ばし、千の葉が群れる。
 とにかく、今存在するこの状況を否定する。
 これは妹紅ではない、と。
「どうしたの、輝夜?」
 鏡の銀糸がこちらへ話しかけたので、私は慌てて答えた。
「あっ、いいえ。なんでもないわ」
「そう? ならいいけれど……」
 そうだ。とにかく今は銀糸髪――この妹紅みたいな少女とがまん勝負をするしかない。妹紅にしろ、そうでないにしろ、逃げようとしても体は動かないし、相手が変わっただけで退屈を凌げる事には変わりないのだから。
 そう思い直した私は鏡を見つめた。その中には薄紅い光に照らされた人の形がふたつ。
 片方は夜みたいな長髪をしている。もう片方は月の輝いている部分のみを切り取ったような銀色髪をしていた。
 その夜色と月色が紅い火に舐められて輝いているのは、目新しく、新鮮で、滑稽だった。
「さて」
 私の肩越しにいた銀糸髪が左手を動かす。そして、口をうっすらと開き、ほとんど聞こえない音を散らした。
「そろそろ勝負を始めよう」
 着物の首元に指が滑り込んでいく。当然、私のではない。
「ごめんね」
 またさっきと同じ小さな声。自分の喉元に彼女の手が動くと、そのまま下へゆっくりと向かっていく。
「ちょっと! 何を……」
 私は慌てて喉を鳴らす。だって、がまん勝負をすると聞いただけだったから。
 その声を聞いた銀糸髪の少女は何を応えなかった。代わりに、蛞蝓を思わせる緩慢な動作でそのまま差し込んだ手を踊らせる。
 自分はその指の蠢きに何度も質問の声を発したが、妹紅らしき者は何も応えない。
 彼女の指が私の着物を滑り終えると、鏡の中には衣のはだけた自分が見えた。
 銀糸の彼女は掛かっている着物をそっと、まるで高価な芸術に掛かっている布を取るみたいに取り除く。
「ふふ」
 妹紅の格好をした者は、よく分からない息を耳に吹き付ける。
 鏡の中には自分のいつも通りの、そして、過去から呆然とする未来の先端まで変わらない、退屈な身体が映っていた。
 この自分の姿を見ると、いつも思う。
 ああ、自分は何とつまらない生き物なのだろう、と。
 いや、生き物かどうかすら怪しいものだ。だって、生き物には死があるから。
 わたしには、それすらも無い。
 そんなちっぽけな事を考えていると、鏡に映った銀色から声がする。
「輝夜、綺麗ね」
 私はその言葉を受けて、鏡にいる妹紅の様な者を睨んだ。
「あっ、いやいや! 嘘じゃないわ。本当の事よ」
 光を映す金属板の中には慌てた銀髪が動いていた。
「眼も珠みたいに綺麗だし、肌だって月が光ったみたいに綺麗だったから。つい、ね」
 何故だろう。
 褒められているはずなのに。
 妙に、寒い。
 いつもと違う妹紅――正確に言うと妹紅らしき者の優しい言動は妙に心を騒がせた。しかし、その動揺を知られたくなかったので口を不機嫌に開く。
「別にどっちでもいいわ。それで、がまん勝負は?」
 その指摘を受けた銀糸の少女はいけないといった顔をした。
「あっ! ごめんごめん。うっかり忘れてた」
 銀糸髪を頭から垂らした影はお茶目な笑い顔を作り、こちらに詫びる。
 私はその様子を見て、体の底が冷めていくのを感じた。
 違う、これは絶対に妹紅ではない。
 妹紅の姿をした何かだ。
 馬鹿みたいな年月殺し合いをしてるけれど、妹紅はこんな事言わないし、しない。
 私は鏡の妹紅の姿をした影に話し掛けた。
「あなた、妹紅じゃないでしょ?」
 その疑問を受けた銀糸は耳を引っ張られたみたいに動かす。
 口を釣り上げて、もう演技をする必要は無いか、という顔。
「くくく、よくぞ分かったな! 私の正体は……」
 そう言って妹紅の姿をした者は私の後ろに体を隠した。そして、顔をごそごそ弄る。
 鏡に映った私の後ろから何かが顔を出す。
 その姿は
「なんてね」
 やっぱり妹紅と同じ形だった。
 金属板に存在する銀糸髪は愉快そうな顔をしてこちらに話し掛ける。
「ふふふ、やっぱり輝夜は面白い冗談を言うね」
 その声と顔を目に入れ、自分は銀糸の顔を見つめた。
「本当に妹紅? 妹紅の狂信者とかじゃなくて?」
 私の真面目な疑問も、鏡の妹紅には冗談に聞こえた様だった。
 銀髪が、胸に蓄積した気体を一気に排出する。
「ぷっ! ふふふ、本当に今日の輝夜は冴え渡ってるわね。私は正真正銘の妹紅よ」
 鏡の中に潜む銀髪は明るい笑顔で言い、がまん勝負の準備を始める。
 私は何だか面倒になってきたので、鏡の中の銀髪を妹紅だと思うことにした。

 腰の傍に小箱が置かれる。そして、中には銀光を放つ刃物やら茶色い瓶に入ったちゃぷりと揺れる液体達が存在していた。妹紅はそこから細身の刃物を選び、こちらに質問する。
「ねぇ、これ何か知ってる?」
 私はその銀色の光については何も知らないので、正直に答えた。
「いいえ、刃物みたいだけど、知らないわ」
 その答えを聞いた銀糸の頭は嬉しそうに鳴く。
「そう? だったら教えてあげる。これはメスっていう医療用具でね、人の体を切るのに適しているの」
 私はその言葉によって、これから妹紅が自分にする嫌がらせが何かを理解した。
「だったらこれから私の体を?」
「うん、切るよ。ちょっと痛いだろうけど」
 鏡の中にいる銀糸の髪をした少女は銀色の刃を持ちあげた。
「私としてもこの綺麗な体を傷付けるのは勿体無いけど……」
 彼女の持った輝く道具が、自分の左胸の、ほんのりと紅い山に、触れる。
 妹紅がメスをこちらに押し付けると、私の胸はできたての大福みたいな柔らかさで沈み込んだ。
 自分の体に金属片が取り込まれていく。
 胸から紅い泪が零れる。
 私の体は傷付いていた。
 身体の一部が湿った氷みたいに痛い。焼け付いた何かが零れている。
 という感覚はあった。だが、私は長年妹紅と殺し合っているので、すっかりと慣れていた。
 つまり、痛いと感じるのみで、怒りや恐怖といった感情へと至らないのだ。
 銀色の髪に縁取られた彼女は、そのまま銀色の切断を下へと向ける。すると、私の肌は元々繋がりなんて無かったみたいに解けた。
 メスが通り過ぎると、紅い轍。
 気付けば、鏡の中にいる自分には大きく長い紅の線が刻まれていた。その命が滲み出す路は、左胸から右腰まで滑らかに続いている。
 私を刻んだ当の本人はメスを傍らに置き、小箱から液体の入った茶色い小瓶やら綿を取り出していた。
「ごめん、ほんの少し待ってて」
 私に退屈な休憩を要求した妹紅は、埃みたいな綿に茶色い硝子の液体を滲み込ませる。純白の雲が、得体の知れぬ液体に蹂躙されていく。
 銀糸髪はつぅとする水を吸った埃を持ち、言った。
「少し痛むかもね」
 妹紅は純白を失った代わりに薬品を飲み込んだ綿を私の紅い路に当てる。そしてそのまま命が漏れる線を滑っていく。
 傷口を散歩する埃は、優しく上品に、暴虐で下種に切り口を辿っている。
 ほんの一時、綿の液体が滲みて痛みを感じた。しかし、本当にそれだけで、鏡にいる銀色の加害者にも何の感情も湧かない。
 あぁ、つまらない。
 これ位の事しか思い浮かばない。
 私はいつも殺し合いなんて物騒な事をしている。
 なのに、それにも飽き始めている。
 もう、血や内臓を始めとした肉片を見ただけでは、驚かない。
 普通の生き物であれば大慌てするのに、今の自分は妹紅が傷口に塗り込んだ液体が何だったのかを考える程の余裕があった。
「ねぇ、これだけ?」
 私は鏡の中でお医者ごっこをしている少女に不恰好な愚痴を言う。その声を貰った本人は悪戯をする子供みたいに笑った。
「ちょっと待ってて、今から面白い事が起きるから」
 妹紅はそう鳴いたが、その意味が理解出来ず、頭を傾げる。
 いや、体が麻痺していて実際は出来なかったが。
 暫くすると、私に刻まれた紅い轍が蠢き始める。
 傷が塞がり始めた。嫌気が差して、瞳を閉じる。
 私にとって、この親切で残酷な修復活動は一番の苦悩だった。
 体を損なえば、すぐに傷の時間が逆戻り。
 気付けば、自分の体は新品に。
 常にいつも通りの、命に満ちた体。
 おまけに病になる事も無い。
 でも、心はそのまま。
 もうとっくの昔に磨り減ってぼろぼろ。
 だけど、死なない。
 死とはとっくの昔に失恋した。
「かぐやっ、輝夜ったら!」
 私は妹紅の弾む振動を耳に受けて、陳腐な回想劇からほっぽり出された。
「なに?」
 目覚めが悪い朝の気分で答える。それとは反対に彼女は言う。
「傷を見て!」
 私は妹紅の嬉しそうな顔から切り傷へと目を向ける。
 そこには、傷の治った白く滑らかでつまらない肌が
「なに、この」
 無かった。その代わりに……

「永遠亭の薬師から話は聞いてたけれど、実際に見るとびっくりするわね」
 私はその聞き覚えのある単語を聞き、息をするみたいに言った。
「永琳?」
「そう、あなたの家にいる優秀なお医者さん。メスもさっきの薬も、お茶の痺れ薬もあの人から貰ったの」
 私は妹紅の言葉の意味が分からず、煮詰めた視線で彼女を見つめた。
「いや、何て言ったらいいのかな、その、この前あなたの薬師さんに相談したのよ。『輝夜との殺し合いがつまらなくなってきた』って。それで……」
 鏡の妹紅は傷があった場所に一瞬眼を向けたかと思うと、顔をこちらへ動かした。
「薬師さんが『良い案がある』って言ってきてね、それでメスや薬品、今回の勝負についてのルールをくれたのよ」
 私はその言葉に戸惑い、そんな事は絶対に無いという風に銀糸髪を見る。
「ああ、ちょっと! そんな目で見ないで輝夜。私も驚いてるんだから。でも……」
 妹紅は頭に残っている記憶を味わいながら言う。
「とっても楽しそうな顔をしていたわ。私には理解出来なかったけど」
 私は鏡にいる彼女は正気でないと思っていたが、随分まともな意見を口にしたので驚いた。
 という事は永琳が今回の勝負を?
 いや、そんな事は……
 やっぱり永琳が妹紅にお医者ごっこを?
 違う、そんな筈は……
 ねじれた思考の輪が頭に巣食う。
 答えは明らかだが、認められないという罠。
「さて、続きをしましょう」
 私は妹紅の言葉を受けて、意識を引き揚げた。
 鏡に映った銀糸の少女の手は傷口があった部分へと触れる。
「本当に凄いわね……切り口に薬を塗るだけで、ここと同じになるなんてね」
 妹紅の手は触っていた部分から離れた。そして、私の足の間にある線を指差す。
 紅く、融け落ちそうな色の境界線。
 女性の下腹部にそれがあるのは普通だ。しかし、今の自分にはその境界線が二つ存在していた。
 一つ目は足の間に小さく短く。
 二つ目は左胸から右腰にかけて大きく長く。
 今まで体を損なわれるという事はあったが、この様な事態は初めてだった。よって、頭は動いていても、心は錆びた音色のみを奏でている。
 何も考えずに、鏡にいる変わった自分の身体をただ見つめる事しか出来ない。
 鏡に映る銀糸髪の両手が、私の身体にある大きくて長い境界線に触れる。
 ほんの一瞬、肩に妹紅の肺から生まれた生温かい流れがかかった。
「開けるわよ」
 その合図と同時に胸から腰にかけて伸びている熟れた裂け目が開かれる。
「わぁ……」
 後ろにいる彼女は新しい遊びを見つけた子供みたいに眼を輝かせた。
 鏡の中には妹紅と不自然な境界線を開かれた私。
 自分の身体には大きな紅い穴が穿たれている。
 中身を曝け出した境界線は熟れかけの林檎みたいに紅く、燃え上がりそうだった。
「きれい、輝夜に花が咲いたみたい」
 鏡の中の銀髪は大げさな感想を漏らす。でも、その声は嘘の色が見えず、素直な響きだった。
 暫く私と銀糸の彼女はその紅い大花をじぃと見つめていた。しかし、その内妹紅が開いていた境界線を閉じて、顔を赤くする。
「……ごめん」
 言葉の意味は分からない。しかし、鏡の彼女は本来の目的を思い出したのか、顔をきぃと縮ませた。
「いけないいけない、続きをしましょう!」
 そう言って妹紅はその細くて血の通った芽を思わせる手を私の大きな切れ込みに差し込んだ。鏡の中にある紅く閉じられた線は、その手を歓迎するかの様に飲み込む。
 ゆっくり、しかし絶対に離すまいと貪欲に。
 妹紅の指が、掌が、手首が、私の体に取り込まれる度に、紅い境界線は鼓動する。
 神経が砂糖水に浸されたみたいな、陰気な刺激がのたうつ。
「すごい、輝夜の中に、別の生き物がいるみたい」
 銀糸髪は確実な実体ある幻を見ている様な顔をしている。
「この手を、もっと深くいれたらどうなるんだろう?」
 鏡にいる彼女は抗いがたい夢の沼に食い殺されている眼で言う。そして、手首を私の中へと進ませる。
 鏡にいる妹紅の腕はどんどん私の中へ堕ちていく。
 胸から腰に分布する紅い線は、水気を含む楽器の喘ぎを散らした。それと同時に私の体が揺れ動き、熱くて粘着性の想いが湧き起こる。
「あ、あぁ……あ」
 自然の法則を逆らった痺れに口が閉じられない。
 代わりに、蜜を味わった舌や喉が歌い、よだれが垂れるばかり。
 抵抗出来ない自分に、どんどん妹紅が入っていく。
 見る間に彼女の腕は肩まですっぽりと赤い切れ目に喰われていった。
 妹紅の腕をまるまる一本咥えた私の体は、擦り切れそうな刺激で揺れる。
 それに合わせて彼女も腕を風に揺れる枝みたいに揺り動かす。
 流れる血が甘い液体に乗っ取られて、無様に潰されていく。
 鏡の中に映った私と妹紅は、歪な植物みたいに踊る。
 普通の生き物であれば、大抵は心が磨り潰され、思考が崩落してただの塵になっている。しかし、私は甘い疼きに痺れる事はあっても、冷静だった。
 何故なら身体に対する痛みや刺激はとっくの昔に知り尽くし、飽きていたから。
 正直、自分の身が変わったのには驚いた。
 しかし、その衝撃も始めだけで、後はただ大きな刺激があるだけという温い虚しさに変わった。
 なんだ、ただ気持ち良いだけか。
 だったら『降参!』って言う必要も無いな。
 身体が異常になっても、私は堅実に妹紅との勝負について考えていた。
 鏡の中には精一杯に銀糸髪の片腕を飲み込んだ紅い入り口。
 もう、それ以上入らない。
 この刺激が続くだけだったら私の勝ちだ。
 心には嫌がらせに疲れて敗北する妹紅の姿が踊る。
 とっても無様。頑張ったのにね。
 私は一足先に勝利の味を摘んだ。
 ああ、良い味。
 妹紅が負けた味は最高だ。
 私が空想の戦勝記を執筆していると、銀糸髪は顔をこちらに向ける。
「何、もう負けるの?」
 惨敗への期待を込めた問いかけを送る。しかし、彼女はこちらを見ている様で、何処か遠い場所を見ている様な口調で言った。
「ねぇ……いっしょに」
 会話の流れとも今の状況とも繋がっていない言葉。
 あら、もう疲れてまともに話す事も出来ないの。
 可哀想。
 ふふ、可哀想。
 私は黒ずんだ慈悲を向けて妹紅を見た。その体は辛うじて私を支えている。
 もし銀糸の彼女が倒れたら、自分も倒れてしまうだろう。
 でも、それも良い。
 倒れた妹紅に元気が戻った時、私は彼女に綺麗な言葉を送りつけるのだ。
『妹紅、あなたの負けよ』
 という何とも素敵な挨拶。頭の中だけで喜びいっぱい。
 そう考えている間に彼女の体が動いた。私は妹紅の敗北に期待する。
 私は巻き込まれる形で押し倒される。敗北者によって。
 床に背中が当たり、痛む。しかし、この痛覚は至高の喜びだった。
 顔のすぐ近くに妹紅の眼が見える。私はその紅い球体を視線で舐めた。
 瞼の下に輝く光は囲炉裏の脆弱な火みたいに痩せっぽちで、薄暗い。
 やった、勝ちだ。
 敗北が濃い瞳を見て、私は自分の勝利が確実になったと思った。
 しかし、それは大きな考え違いだった。
 倒れた妹紅がまた動き始める。私に穿たれた紅い穴に突き進んでいく。
 これ以上入るはずが無いのに。
 きっと、妹紅は疲れて正常な思考を失ったのだ。
 私は彼女に正気を促す声を投げ掛ける。
「ちょっと、妹紅。もうこれ以上入らな……」
 しかし、もう一度見た彼女の眼は敗北の火ではなかった。
 ちょっと見ただけでは脆弱で痩せっぽちに見える火。
 だが、よく注意して見るとじりじりと陰気に燃える、拷問の炎。
「……もっと」 
 銀糸髪の肩から先が、私の中に沈んでいく。
 妹紅の体が、また紅い線へと入る。
 そんな、こんな事は。
「これ以上入るはずは……」
 私は湿気りかけの花火の様な思考で鏡を見つめた。
 なに、この、これは。
 わたしの、からだが、妹紅が、はいって。
 自分の体が仕掛けのある玩具みたいに歪み、伸びている。
 普通であればもう入らない彼女の体を、私が拡がり、膨らんで、飲み込む。
 どうなっているの?
 まさか、これも永琳の薬?
 それとも、これは幻覚?
 一瞬にして頭の中に無数の疑問符が現出する。私が異常の波に飲み込まれている間にも、妹紅はどんどん奥へと進んでいく。
 華奢で生温かい首元、銀糸髪が垂れる頭、もう片方の腕、壊れそうな胸、薄くて柔らかい腹、ぷらりと動く腰、そして……
 折れそうな若木の足が紅い境界線の中に入ってしまった。
 私の腹は妹紅が入ったことで大きく膨らむ。おかげで鏡が見えなくなってしまった。
「あっ、ぁあ、やっ……ぁ」
 何が起こったのだろう。
 目は一連の出来事を脳に送ったが、理解できない。
 わたしの中に、妹紅が?
 そんな、事があるわけは、ない。
 わたしの体が伸びたのも、あるわけが、ない。
 私は人の理から外れた自分を見た事によって、今存在する現実に貧弱な抵抗をした。しかし、それも目の前の人を飲み込んだ腹によって簡単に打ち崩れる。
 暫く私は妹紅を身篭った身体を見つめ、自分の心が剥がれて脆くなっていくのを感じた。
 お腹の中には妹紅がいる。
 じゃあ私は何?
 輝夜。
 じゃあ私の中にいるのは?
 妹紅。
 じゃあ今の私は?
 妹紅。いや、違う輝夜。
 あれ、私はどっちだっけ?
 私は輝夜の中? それとも妹紅の外?
 思考が濁った河の様に滞り、ただ天井へと視線を向ける。
 暗い夜空みたいな闇が張り付いていた。だが、月は見えない。
 ああ、残念。今日は曇り。
 私がそう思った時、体に滲みこむ様な痛みが走った。
 ぶつりっ。
「痛っ!」
 私は火花の如き刺激に触れ、己の体を見つめた。
 しかし、傷付いている所は何処にも無かった。あるとしても薬で変化した紅い裂け目のみで、見える限りでは何の傷も付いていない。
 何、なんで痛いの?
 私は不可視の原因に掴まれて、ただ心を迷わせた。
 ぶちっ。
 痛い。だけどその元が分からない。
 私は焦げ付いた蒸気の不安を携えて、何もせずに自分の体を見つめた。
 囲炉裏の光に嘗め回され、腹が紅く光っている。
 その中には妹紅が住んでいる。
 その家の入り口には草が生えている。
 その草は蒼い銀色で、赤と白のリボン花を咲かせていた。
 私に設けられた彼女の住処は、泥を這い回る虫の動きで蠢く。
 ぶちっ、ぶちちっ。
 いたた。でも……
 私はその蠢きに連動した痛みを感じ、見えない刺激の原因が分かった。
 そうか、自分の中に入った妹紅だったのか。
 妹紅が私の腹を喰い破り、いや、喰い進んでいるんだ。
 その事をはっきりと理解すると、心に異様な崩れを感じた。
 嫌っ!
 妹紅が、わたしを喰い、わたしの血を喉に通すなんて。
 気持ちが、悪い!
 私は体の中にいる彼女への毒々しい心を剥き出しにして、抵抗した。
 すると、不思議な事に四肢が動いた。痺れ薬の効果がもう消失したのかもしれない。
 そんな事も思ったが、とにかく今の私は自分に巣食う不快感を取り除く為に手を動かした。
 はやく、掻き出さないと。
 妹紅を、私から、引き剥がさないと。
 そう思い、私は彼女が入った紅い線に手を伸ばす。
 しかし……
 指が触れる前に赤い線が溶け始める。
 そして、私の指が触れた時には、もうその境界線は消え失せていた。
 そこにはいつも通りの私のつまらない白い肌。
 変わった所と言えば、妹紅の銀髪が完全に取り込まれないで、生えているくらい。
「あっ、ああ、あっ、ぁ」
 妹紅を取り除く手立てを失った私は意味の無い声を散らした。
 そんな自分の事も気にせずに、彼女はどんどん進む。
 ぶちり、ぶちり、ぶちり、ぶちっ。
 妹紅は腹から胸へと動く。
 私の胸は大きく膨れ上がる。しかし、それは女性らしさではなくて、歪な肉腫の膨張だった。
 滲んだ思考がうっすらと考える。
 妹紅が自分に塗った薬の事。
 私の傷口を紅い線にする効果はもう無くなった。しかし、体をおもちゃみたいに拡げ、伸ばす効果はまだ続いている。その証拠に、私の体は彼女を取り込んで膨らんだままだ。
 じゃあ、薬の効果が全て切れるまで、私は妹紅を体の中に?
 嫌だ。
 そんなのは、絶対に嫌だ。
 頭が嫌悪に寒気立つ想像をする。私の思考はそれをどうしても拒否したかったのか、『降参!』の事を考え、それを実行する。
 一刻でも早く、妹紅に自分の敗北を伝える為に、大きな声を上げる。
「降参!」
 私は負けたという合図をする。しかし、妹紅はそのまま蠢いている。
「降参するから!」
 私は潰れた無様な音を漏らす。しかし、妹紅はそのまま喰い千切っている。
「降参っ! 降参します!」
 私は高貴な姫である事も忘れて言葉を鳴らす。しかし、妹紅はそのまま進んでいる。
「お願いだから! 降参……あれ?」
 私は一生懸命敗北の意を伝えていると、胸の虚ろ寒さに気付いた。
 おかしい。何か変だ。
 何故、妹紅はわたしの言葉を聞いてくれないのだろう?
 一体、何でだろう?
 疑問を感じて頭を廻らそうとするが、妙に息苦しい。
 それどころか、息ができない。
 何故だろう?
 私はその疑問達に悩んだが、思ったよりもすぐに答えが出た。
 それは、ほとんど勘に近いものだった。
 ああ、そうか。
 妹紅が私の胸の中身を喰い破ったのか。
 私の空気を取り込む袋を噛み千切ったんだ。
 それも両方とも貪欲に。
 だから、『降参!』って言った時も声が出ていなくて、今も息が出来ないんだ。
 これじゃあ、降参できない。
 私は体に入った妹紅をどうしても追い払えないという事実を知り、嫌悪の泥を無理矢理口に入れられた気分になった。
 でも、心は泣き叫んだり、怒ったりはしない。
 むしろ、ここまで来てしまうと妙に明るい心地になる。
 自分がちっぽけになって、壊れ去っていく感覚。
 私がそんな気分になっていると、自分の膨らんだ胸が萎んでいく。
 あれ、どうしてだろう?
 胸の中には妹紅がいたはずなのに?
 妹紅が、いなくなるはずがないのに?
 もしかして、今までのは薬が見せた幻覚?
 ありとあらゆる質問が、頭や心、手足全てを麻痺させる。
 そう考えている間にも、自分の胸はどんどん萎んでいき、ついには鏡が見れるまでになった。
 ふと、私は目の前の輝く金属板を見つめる。
 鏡に映っていた光景は、自分の問いかけ全ての答えだった。
 おかしいな、鏡の前にはわたしと妹紅しかいないのに。
 鏡には、囲炉裏の痩せた紅に照らされる枝付きの果実しかなかった。
 これは、何だろう?
 私は不思議に思い、鏡が表わした像を慎重に見つめる。
 その果実を始めとした植物はとても不思議な姿をしていた。
 枝は大きな一本の枝から、四本の変わった細い枝が生えている。その小さな枝は人の手足によく似ていた。
 果実の方も随分と変わっていて、まず目の様な輝く球体が二つ付いており、鼻の様な突起と穴が二つ、さらに口の様な縁の赤い線が一つと黒くて長い毛が沢山生えている。
 まるで、人の顔のよう。
 しかし、最も注意を注がれたのが、果実の巨大さだった。
 どれ位大きいかと例えれば……
 そう、人間の少女がひとり入る程の大きさ。
 あっ。
 ぁああ、ぁぁあぁぁ。
 私はそこまでじっくり観察して、鏡に映っていたそれが何かを理解した。
 ちがう。
 これは、枝付きの果実ではない。
 鏡に映っているのは……
 中に入った妹紅が、胸から動いて、喉を喰い進んで、頭が膨らんだ
 私だ。
 これは、頭の中に妹紅が入っている私だ。
 私は暫く鏡の自分を粉々に破砕された心で眺めていたが、すぐにこの現実を摘出する事を考えた。
 そうだ。
 とにかく、妹紅を離さないと。
 わたしの外へ、出さないと。
 でないと、でないと、わたしは……
 口の中に手を入れる。だが、奥まで入り込んだ彼女を引っ張り出すには不十分だった。
 鼻の穴に指を入れる。しかし、赤くて粘着の血が出ただけだった。
 耳の穴に指を入れる。でも、ただきりきりと拡がる痛みが走るだけだった。
 眼に指を入れる。ただ、視界が潰れて、変な涙が流れただけだった。
 おねがい妹紅。でてきて。
 わたしの、頭から、でていって。
 おねがいだから。
 私はひたすら妹紅に哀願した。しかし、彼女は未だに自分の頭に巣食っている。
 その時と同じくして、耳にある音が聞こえた。
 何の、音だろう?
 私は今の苦痛を少しでも紛らわしたくて、その振動に耳を寄せた。
 始めは千切れた紙みたいだった音が、少しずつ鮮明になっていく。
 これはただの音ではなかった。
 この振動は声の姿をしていた。
 この声は自分の外から聞こえるものではなかった。
 その言葉の姿と色は
『カグヤカグヤカグヤかぐやかぐやかぐやカグヤカグヤ輝夜輝夜輝夜かぐや輝夜輝夜カグヤ輝夜かぐやかぐやかぐやかぐやカグヤ輝夜輝夜輝夜カグヤかぐやかぐやかぐやカグヤ輝夜輝夜輝夜輝夜カグヤカグヤ輝夜……』
 ひっ!
 妹紅が、頭の中から、囁いていた。
 理性や本能以前の問題で、私は彼女に恐怖した。
 私が彼女の声におそれていると、いつのまにか潰した眼が元に戻った。
 目の前の鏡にいる大きな果実が愉しそうな顔をして私に笑えといった。
 私はその鏡に潜む住人に疑問を抱いたが、その言葉の通りにしなくてはと感じた。そして口を開いて喉をならしてはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいたのしいぃ……
 私は笑い疲れると、天井を向いた。
 そこには、真っ暗な闇と大きな満月。
 あれ? さっきまで曇りで何も見えなかったのに。
 でも、自分の上に浮かんでいる純白の球体を見ると、すぐにどうでも良くなった。
 あぁ、なんて綺麗な満月なのだろう。
 私に向かって、その光の珠は降りていく。
 私はその穢れの無い月へと向かって手を伸ばす。
 自分の指と白い満月が触れようとする時、指先の球体から香りがする。
 その香りは、白い輝きとは違いありとあらゆる欲望を吸い込んで、下品で、淫らだった。
 私の手が満月に触れる。満月と自分の体が混ざる。
 一瞬、頭に妹紅の姿が浮かんだ。
 私の体がどんどん白く輝く満月に取り込まれていく。その度に、私は妹紅に存在を潰され、喰われ、千切られ、否定されていった。
 私はそんな自分の状態を感じて、ある事を思った。
 妹紅が、私に死を与えてくれている。
 死なない私に、わざわざ死を与えてくれている。
 決して殺されない私を、わざわざ殺してくれている。
 ああ、何て素晴らしいことなのだろう。
 随分とおかしな話だ。
 私は決して死なないはずなのに。
 その時の私は確かに死んだのだ。
 命では味わえない快楽に埋もれて、私は死んだ。
 その時の私は、不死からも解き放たれて、自由で幸せだった。

 家の外で鳥が起床の詩を歌っている。お情け程度に作られた部屋の格子から太陽の恩恵が挨拶する。
 んっ、もう朝?
 揮発性の朝を嗅いで、意識が目覚める。
 私はあの夜、妹紅に弄繰り回されて、死の水溜りに浸っていたはずなのに。
 あれは、夢だったのかな?
 そう思いながら自分の体を見つめると、それが夢ではないという事が分かった。
 人間の少女が入れそうな程、膨らんだ私の腹。
 ちなみに、まだ中身は蠢いて、自分を喰いちぎっている。
 私はその様子を見て微笑ましくなった。
 ふふ、妹紅って健気。
 そんな事を思いながら、私は昨日の夜について考えていた。すると、ある事に気付く。
 それは、自分の中にいるのは間違いなく妹紅だという事と妹紅が優しいという事だ。
 前者は長年殺し合っている時の感覚で、彼女特有のの息遣いや気配で分かった。
 後者は私の体を害している時の彼女の様子で分かった。
 私を銀の刃で刻んで、紅い境界線を弄くり、体の中を喰い進んだ時もそうだった。
 彼女は汚く命を侮辱して泥に押し付ける行為をしているのに。
 丁寧で、上品で、そして何よりも……
 温かかった。
 今だって腹の中身を食い千切っているけどそうだ。
 姿形だけお姫様のわたしとは大違い。
 本当の意味でのお姫様はきっと彼女だろう。
 しかし、何故急に妹紅が優しくなったのか、という疑問が湧き起こった。不可解を抱えた私の心は考える。そして、いつも殺し合いをしている時の記憶を念入りに確認する。
 おかしいな、妹紅は今まで優しくなかったのに。
 回想を強める為に眼を瞼で覆う。
 視覚の暗闇にはいつも彼女と殺し合いをしている蒼い竹林。
 そして、いつもの怒りっぽく、乱暴な妹紅。
 その彼女と眼が合うと、いつも通り挨拶。
 それから、殺し合い。
 私と妹紅は意味無き殺意を振るい、手足や体の中身をぶちまける。これのせいで、緑の竹はよく紅に染まってしまう。
 ああ、ごめんなさい竹さん。
 気を取り直して記憶の中の彼女を探る。
 妹紅はいつも通りの蒼い銀髪と血の通った指をそよがせながら、自分を攻撃する。
 その口は恨みによってぐしゃぐしゃに歪んでいて、眼は怒りで炉の様に激しい。
 あれ?
 私は頬に触るおかしさを感じて、彼女の様子をもう一度確認する。
 特に、眼に注意を傾けた。
 その珠は怒りの炎で真っ赤に燃えている。
 いや? 何かが違う。
 炎の後ろに何か別の明るさが見える。
 私はその隠された何かを見つめた。
 これは、この、光は……
 優しさ?
 何という事だろう。
 怒りしかないと思っていた彼女の瞳には、心地良い太陽の優しさがあった。
 どういう事なのか?
 私は今までは違った事実を知り、混乱した頭の中を整理する。
 そして、一つのごく単純な答えを導き出した。
 それは、妹紅が優しくなったという訳でも、おかしくなったというものでもなかった。
 つまり、妹紅は最初から優しかったのだ。
 いつも私と殺し合いをしている時から。
 その事実を知り、口がほんの少しだけ開く。
 肺の空気が、滑稽な楽曲を奏でる。
 ぷっ、くすくす。
 馬鹿だな、わたしって。
 世の中の全てを知ったつもりで、飽きたなんて。
 妹紅の優しさでさえも、今まで知らなかったのに。
 退屈なのは、わたしだけだった。
 簡素な、だがそれ故に難解な問題を解くと、何だか澄んだ気持ちになって目を開いた。
 そこには、自分の中に身篭った妹紅。
 私は彼女から視線を外すと、天井を見つめた。
 そこには真っ暗な夜も無かったし、純白の満月も浮かんでいない。
 でも、その代わりに心は不思議な鮮度に溢れていた。
 世の中はまだまだ私を飽きさせない。いや、生きている間は決して飽きさせてくれないのだろう。
 まるで、常に姿を変える月みたいに。
 そんな事を感じていると、頭に薬師の顔が浮かんだ。
 とても嬉しそうな表情をしてこちらを見ている。
 ああ、そうか。
 だから永琳は妹紅に薬や勝負のルールを与えたんだ。
 死なない私の退屈を殺す為に。
 この世はまだまだ面白いと教える為に。
 私は薬師の考えを知り、安心すると共に感謝の気持ちでいっぱいになった。
 帰ったら、永琳にありがとうって言わないと。
 頭はそんな思考を走らせていたが、今の体と心は別の場所へと集中していた。
「でも、その前に……」
 私は腹の膨らみをそっと撫でた。
 妹紅の温かい優しさにおかえしをする様に。
「ふふ、これじゃあお母さんみたい」
 和やかな感想を述べていると、自分の体にある変化が起こった。
 ぴりっ。
「あら?」
 妹紅が住んでいる伸縮性の家――私の膨らんだ肌に小さな裂け目が走る。
 まるで、使い過ぎた皮袋。
 見ている間にも稲妻状の破損はどんどん伸びていく。
「何だろ、これ?」
 自分がその現象を理解していなくても、亀裂は繁殖する。そして、その変わった破損は自分の腹のありとあらゆる部分へと成長した。
 その裂け目で肌が破れそうになった時、私はやっと理解する。
 あぁ、成る程。
 もう、永琳の薬が切れたのか。
 私の体は通常に戻り、もう腹の彼女を孕みきれない。
 ぱぁん。
 白い肌が、幻想郷では珍しい風船みたいに弾ける。
 わたしの紅い水やら、肉が飛び散る。
 迷惑なお祝い花火。
 だだし、材料はわたしの体。
 赤色の吹雪が自分を、妹紅の家を染め尽くす。
 心地良い命が跳ねる音。
 一瞬、飛び散った自分のせいで何も見えなくなった。
 視界が真っ赤。
 暫くか永遠に近い時間を過ごすと、視界が開いていく。
 そして、そこにいたのは……
 なんて、きれいなのだろう。
 私の中にずっといた、いてくれた妹紅だった。
 彼女は自分の破裂や視線を気にせず、未だに肉や血を啜り続けている。
 蒼い銀髪を纏うその姿は紅い水に濡れ、獣じみた眼の輝きで眩しかった。
 妹紅が、あの妹紅があんなにも私に熱心にしてくれている。
 私は彼女を見つめていると、胸の奥に温かい湯を注がれた心になった。
 ほんの少し、もうちょっと、妹紅を見ていたい。
 私は願った。小さな願いだったが、貪欲な甘みに溢れている。
 こんなに私を殺してくれるなんて。
 わたしは何と幸せ者だろう。
 妹紅がいれば、不死の退屈なんてどうでもいいや。
 できればずっと銀糸の彼女を見つめていたかったが、ある事を思い出す。
 そうだ、がまん勝負。
「ねぇ、妹紅?」
 私は彼女に言葉を向ける。向けられた本人は口を私から離して訊く。
「何?」
 口を開き、今回のがまん勝負の勝敗を伝える。
「降参! 私の完敗よ」
 目の前の彼女はその声を耳にした瞬間、一気に顔を喜びに染め上げた。
 まるで、はしゃぐ子供だ。
「やった! やっと輝夜に勝った!」
 妹紅は手に私の一部を持ったまま両腕を掲げた。つまり、万歳の姿。
「ひゃっ!」
 その仕草に自分は慌てる。だって……
「ちょっと! 妹紅、はらわたが」
 私のひも状の肉が引っ張られて恥ずかしかったから。
「えっ? あっ、ごめん輝夜!」
 羞恥の心を込めた声を受けた銀髪は慌ててはらわたを私に戻す。
 ぐにゅりとした音が自分のお腹に戻っていく。
 その感覚は少しばかりお茶目で、くすぐったかった。
 私は妹紅の紅く輝く姿を視界の中に独り占めして言う。
「ねぇ、妹紅。その姿」
 その振動を耳に入れた銀糸の彼女は反射的に口を動かした。
「ああ、汚れの事? 心配しなくてもいい……」
「綺麗よ」
 妹紅への、素直な気持ち。
 今まで感じていたけれど、使うのを躊躇っていた想い。
「なっ! ななななな……」
 その言葉を受け取った彼女は視線を乱暴に振り回す。
 眼はまるで転がる紅色の硝子球。
「何言ってるの輝夜! 気持ち悪い!」
 その拒絶とは裏腹に顔には食べ頃の果物みたいな紅が燃えていた。いつもの怒りの炎とは全く別の紅が彼女を染めている。
 わぁ、こんな妹紅は始めて。
 長年妹紅を見てきたが、こんな姿を目にしたのは初めてだった。その様子はいつも殺し合いをしている憎い炎ではなく、ただの少女のちろちろと燃える火だった。
 そうだ、いいこと思い付いた。
 これは、いつもやっている殺し合いより酷い。
 私の頭は妹紅に対する悪だくみを産出するべく、全力稼働する。口はえげつない悪事を働く為に狡猾に開き、喉は暴力を体現する震えを起こす。
「いや、妹紅は本当に綺麗よ」
 私がその悪言を発送すると、彼女はさらに紅くなりながら必死に抵抗する。
「嘘! その顔は嘘を吐いてる顔だ!」
 銀糸の彼女を残虐な拷問にかける為にまた唇を動かす。
「嘘じゃないわ、妹紅は私の知ってる女の子で一番きれい」
 悪徳に富んだ言葉は蒼い銀髪にぶち当たる。そうすると、また彼女は紅くなって仕草を幼い少女みたいにさせる。
 でも、まだ負けを認めないのか妹紅は懸命な努力の声を投げ返す。
「絶対に綺麗じゃ無いっ! それに今は服も何もかも汚れていて汚い!」
 小さな虫が足掻く様なか細い音を聞き、私は勝利の予感を確実にした。
 そして、歴史上初めての大罪を犯す極悪人の気持ちで喉を鳴らす。
「どんなに汚れていても、妹紅は綺麗よ」
 その言葉が決定的な攻撃となったのか、彼女は溶けた氷菓子みたいにゆっくりと私の上に伸し掛かった。
 ぬちゃり。
 剥き出しの自分に彼女が沈む。私は妹紅に勝利した事に喜びを覚えた。
 敗北した彼女を見つめる。
 私を心地良い敷物にした妹紅は、顔を極限まで白熱させ、身体は抵抗する事を知らぬ初恋した少女の様だった。
 ふふ、やった。
 がまん勝負には負けたけど、この勝負ではわたしの勝ち。
 私は彼女を言葉で打ち負かし、心を溶かした事によって暫くの間大きな勝利を感じていた。
 おいしいな、妹紅の敗北は。
 今日の勝利は格別だ。
 そんな事を感じていると、身体に倒れていた蒼い銀糸髪が口を開く。
「いきなりあんな言葉なんてずるいよ、輝夜」
 私はその言葉によって自分の勝ちを更に補強して、幸せな心になった。
 そう、わたしはずるい。
 とっても、ずるい。
「でも……」
 えっ?
 彼女の言葉にぎりりとする違和感を覚えた。てっきり、敗北の声だけだと思っていたから。
「ありがとう」
 なっ! ななななな……
 私はその言葉を発した彼女に眼を集中させる。
 そこには、そこにいたのは。
 ただ純粋に礼を言った少女。
 かわいい、女の子。
 指先は赤ん坊みたいな柔らかさで丸まっていて、細い首からは若い花の芳香、厚さの無い胸にはオルゴールの鼓動、そして眼には……
 紅くて優しいちろちろとした火が踊っている。
 それを目にした私は一気に自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
 ああ、だめだ。
 またわたしの負けだ。
 身体を流れる命が速くなり、心が無理矢理温められる。
 ずるいよ、妹紅。
 わたしもずるいけれど。
 あんなに近くで、あんなに愛しい顔で、あんなに真っ直ぐな言葉を言うなんて。
 まったく、見ているこっちが恥ずかしくて死んでしまう。
 妹紅の、ばか。
 私は妹紅と触れ合っている部分からどんどん熱くなっていく。その炎は何もかも焼き尽くす程の温度だったけれど、温かかった。
 ああ、もう……
 妹紅と重なり合ったわたしは熔けて、混ざり合う。そして、生も死も超えた何処かで彼女と一緒にまだ食べた事の無い蜜を賞味する。
 銀糸の少女がわたしの髪を舐めた。
 わたしもその真似をして妹紅の髪を舐める。
 髪に触れた舌に月色の味が広がる。
 あまい、なんてあまいのだろう。
 互いの味を確認すると、銀糸の彼女がこちらを向いた。
 わたしはその事がとても嬉しくて、微笑みかける。
 妹紅は私を見て恥ずかしそうにしていた。だが、やがてこちらにも笑顔を返してくれた。
 このやり取りは時間にすればほんの数分。
 しかし、この時の私は永遠以上の永遠の中で至福の時を過ごした。
 私は妹紅との幸せを充分に味わうと、ある事を思い出した。
 あっ、そうだ。
 まだ、していない。
 私は自分の行為に不足を感じ、口を開く。肺から空気を送って声にする。
「おはよう、妹紅」
 その声を受けた蒼い銀糸髪の彼女は、時折こちらの眼をちろちろ見ながら恥ずかしそうに返す。
「お、おはよう……輝夜」
 その様子を見た私は今まで殺し合っていた彼女に、憎しみや怒り以外の印象を持った。
 かわいい。
 妹紅ってこんなにも可愛かったのか。
 そう思いながらも、彼女と視線を合わせるのが恥ずかしくて家の中に眼を滑らせる。
 そこは紅い血や肉のせいでめちゃくちゃ。
 おまけに臭いもひどい。
 だけど、心は生まれたばかりの赤子の様な新鮮さに満ち溢れていた。
 ふと、窓の外に視線を向けると、外は本格的に朝へと傾いている。
 さて、今日は何をしよう?
 私はこれからどうするか考え始める。
 昨日まで自分を苦しめていた退屈は、もう何処かへ走り去っていた。
輝夜と妹紅は色々な意味で勝負をしていると思う。
タダヨシ
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2009/12/10 13:05:02
更新日時:
2009/12/11 21:31:42
分類
エログロ?
1. 群雲 ■2009/12/10 22:32:24
お疲れ様でした。俺もいつか長編書けるようになりたいです。
2. risye ■2009/12/10 22:47:35
イイハナシダナ-。

グロいのに綺麗で感動的な話ってすごい…
3. ばいす ■2009/12/11 06:16:44
エロティックかつ幻想的だった。タダヨシさんにしかできないことだわ。
4. 給仕 ■2009/12/11 07:52:00
すらすらと読めました。二人ともなんて可愛いんでしょう。
5. 泥田んぼ ■2009/12/11 21:08:06
この二人の勝負には介入できそうにない(;_;)
6. 名無し ■2009/12/13 09:22:49
三行で
7. タダヨシ ■2009/12/13 21:26:56
>>6
すてきな感想ありがとう!
『三行で』ってつまり
「文章ながったらしくて読む気しねぇよ! 三行にまとめろよファック!」
の事だよね!
だから三行にまとめてみたよ!


妹紅といつもと違う勝負をしたよ!
え〜ん。妹紅に体喰いちぎられて痛い!
でも本当は妹紅はすごく優しかったんだ。そしてとっても可愛い!


これでどうかな? これが今の私の限界だよ!
あと終わりに私のお話にコメントを付けてくれてありがとう!
これからの季節は寒いからからだに気をつけてね!
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