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『The game 1-3』 作者: 名前がありません号
12.
慧音はにとりの元に向かっていた。
連日で霊夢に警備を依頼するのは手間であるし、中立の問題があったため、
今日は早苗に警備を頼んでいる。というより、早苗が志願してきたのである。
「今日は私に任せてください。大丈夫ですから」
心配でないといえば嘘になるが、実力は折り紙付きだ。
信用しているし、恐らく今日は襲撃はないだろう。流石にあれだけ派手に暴れれば、犯人も動けないだろう、と考えた為だ。
にとりの工房は、妖怪の山から少し離れたところにある。
普段はあまり立ち寄らないが、思うところがあったため今日はこうして訪ねる事にした。
しばし森を歩いていると珍しい者に出会った。
「ん、お前は白狼天狗の」
「犬走椛です」
「ここはまだ、妖怪の山の領域ではないはずだが」
「いえ、私は用事がありまして」
「河城にとりだな」
「ええ、貴方もですか?」
「そうだが、何かあったのか」
「いえ、最近姿を見ないものですから。まぁいつもの事ですからこうして、差し入れを」
そういっておにぎりが入っているであろう、包みと水筒を見せる。
「ふむ、なら一緒に行こうか」
犬走椛と共に、森を進む。
本来なら空を飛んでいったほうが早いのだが、あまり飛びすぎると天狗が五月蝿いのである。
ここは我々の領域だ、と。
椛が口を開く。
「聞きましたよ。人里で殺人事件があったとか」
「ああ、今それを調査中なんだ」
「にとりを疑っているんですか?」
「確認したい事があるんだ。重要な事を」
「そうですか……あれ?」
「どうした? 煙?」
「にとりの工房の方からですけど、凄い煙……!?」
「まさか……!」
慧音と椛は顔を見合わせると、空を駆けた。
急がなければ手遅れになる。
13.
予想通り、にとりの工房からは黒煙が吹き上がっていた。
尋常ではない量を考えると、恐らく内部は大変な状態になっていることだろう。
「にとり! にとり!」
「くそっ、火の勢いが強すぎる……」
椛は工房の中にいるであろうにとりの名前を叫ぶ。
慧音は工房に飛び込もうとしたが、この火の勢いでは自分も焼け死んでしまいかねない。
どうすればいい。どうすれば。
ふと横を見る。溜め池らしきものがある。
すると慧音は覚悟を決めて、溜め池の水を桶で汲むと、自分に浴びせかけた。
「な、何をするんですか!?」
「助けるんだよ!」
「む、無茶ですよ! 慧音さん!」
椛の静止を振り払って、慧音は燃え盛る工房に飛び込んだ。
工房は酷い状態だった。
ごうごうと火が燃えさかっている。
割れたフラスコや、熱で変形した機材などがあちこちに転がり危険である。
慧音は中にいるであろうにとりを探す。
時間はかけていられない。急がなければ自分も焼け死んでしまう。
「にとりー! にとりー! 何処にいる!」
燃え盛る工房で、にとりの名を叫ぶ。
反応はない。
最悪の展開が慧音の頭をよぎる。
それを振り払うと、慧音はさらに奥へと進む。
そして奥の部屋で倒れこむ、人影がいた。
緑の帽子に水色の服。近づいて顔を見る。にとりだ。
「にとり! おい、大丈夫か? にとり!」
「………あ、うぁぁ」
「生きていたか……良かった」
だが状況は芳しくない。
にとりは苦しそうな表情を浮かべている。
恐らく煙を吸って、呼吸困難に陥っている可能性が高い。
このままでは死んでしまう。
慧音はにとりを背中におぶって脱出した。
そして地面ににとりを置く。
「大丈夫か、にとり! にとり! ダメだ、反応がない」
「私、河童達を呼んできます!」
「頼む」
慧音はにとりの呼吸を調べる。
やはり息をしていない。
慧音は、人工呼吸と心臓マッサージを行う。
「生きるんだ、生きるんだ、にとり!」
「こっちです!」
椛の声が聞こえる。
医療関係専門の河童達がやってくる。
「後は私達に任せてください!」
「頼む!」
慧音は河童達に後を任せた。
椛は慧音を見る。全身煤だらけである。
「意外と無茶をするんですね、慧音さんって」
「……自分でも今気付いたところだ」
冷静になって考えてみれば我ながら軽率な行動だったと自省している。
しかし、あのまま誰かが死ぬのを黙って見ている事は出来なかったのだ。
もう犠牲者はたくさんだ。
14.
「にとりさん、命に別状はないそうです。ただ意識が戻らないみたいで」
「そうか……」
「慧音さんの応急処置が無ければ、命に関わる問題だって仰ってました」
椛と慧音は、河童達の診療所にいた。
診療所と言っても、人里にあるような物とは違い、
真っ白な壁に、医療用の機械や真っ白なベッドがある。
二人は外の椅子に腰掛けている。
「意識が戻ったら、また連絡しますので」
「ああ、今日は帰らせてもらうよ。余り部外者が長居すると面倒だろうからな」
「すみません、命の恩人とはいえ規則ですから」
「構わないさ。お前が気に病む事はない。それが仕事だろ?」
「ええ、連絡は必ずしますので」
「わかった、それでは」
そういって、慧音は椛に見送られて退散する。
河童達は比較的友好的であるものの、上役である天狗はいい顔はしない。
この河童達が住むエリアも天狗らの管理下である為、部外者の自分がいるのは不味いのだろう。
どの道、にとりが目覚めなければ話の聞き様がないので、今回は退散する。
そして帰る途中で気付く。
この服、なんて説明しようか……。
自分を見て、何があったのか質問攻めにあう自分を見て、少しげんなりした。
心配してくれるのは有難いのだけど。
15.
「それは大変でしたね、慧音さん」
「ああ」
「でもアリスさんの時といい、にとりさんの時といい。私達が調査する所、全部犯人が先回りしてますね」
「そうだな」
「余りこういう事は考えたくありませんが……」
「内通者か犯人が里の関係者、と言いたいんだな」
「え、あ、その……はい」
「私も、そう思っていたところだ」
人里内に、犯人か共犯者がいる可能性。
元々外部犯の可能性は薄かったが、遂に可能性は無くなった。
特に二つの調査の件は、里の一部の警備担当者と里の長、早苗にしか伝えていない。
となると、里の関係者でなおかつ人里でも権威のある人間に絞られる。
なにより今回確定してしまったのは、これを仕向けた犯人が人間という事だ。
人間が人間を襲い、殺す。
ありえてはならないことが、起こってしまった。
慧音は唇を噛み締める。
何故、人間が人間を殺さなければならないのだ。
16.
にとりの工房の火災騒ぎから数日が立った。
今だ椛から連絡はない。
人里の殺人騒ぎも、大分沈静化しつつある。
ふと空気を吸いに外に出る。
すると強い風が吹き付けたかと思うと、高らかに声がする。
「やぁやぁやぁ、こんにちは慧音さん」
「お前か、ブン屋」
「もう、そんな露骨に嫌わないで下さいよ。友好的に、友好的に、ね?」
「攻撃的な記事を書かせれば一級品のお前がよく言う」
「おや、それなりに評価してくれるんですね、うれしいなぁ」
「悪評なら幾らでもしてやるぞ、で、何の用だ」
射命丸文が来るときは大抵、記事を書かせろぐらいしかない。
あーだこーだ言って、時には捏造まで平気に実行する。
以前、真実しか書かないと言っていたのは何処へやら、だ。
「いえ、数日前のにとりさんの工房の火災の事ですよ。凄かったらしいですね、椛から聞きましたよ」
「無理矢理聞いたんじゃないのか?」
「嫌だなぁ、人聞きの悪い。ちょっとだけ、悪戯しただけですよ?」
文に振り回される椛を想像する。
同情するぐらいしか出来ない。
「で、ですねその記事を書かせてほしいんですよぉ」
「いちいち書くような事じゃないだろう。それに書きたければ勝手に書け。聞くまでも無く書くつもりだろ」
「いいえ、確認はとりますよ、私。それに、貴方にとっても悪い話じゃないと思いますよ?」
「……どういう意味だ?」
「実はですね、火災騒ぎの記事作りの為、色々と聞き込みをしたんですけどねぇ。ちょっと面白い話が聞けまして」
「それはなんだ?」
「ノンノンノン。ここからは有料です。ただで情報は渡せません♪」
「……なるほど、それで記事を書くお墨付きを与えろ、ということか」
「ええ、そういうことです」
文は笑みを浮かべながら、言う。
「わかった。好きに書け」
「あやや、即決ですねぇ。いいんですか? そんなに早く決めちゃって」
「私の名誉が貶められる事よりも、今はひとつでも情報が欲しいんだ」
「健気ですねぇ。そんなに里の人達が大事ですか?」
「大事でなければここまでしないさ」
「ふむ。まぁいいです、交渉成立ですし。それで話なんですが、内密にお願いしたいのですが」
「……ここにいけばいいんだな。わかった」
「それでは、今日のこの時間にここで」
そういうと文はたんッと地を蹴って、空に飛び上がった。
これで進展の一つでもあればいいが、と慧音は思った。
17.
早苗には、今日は遅くなるので先に寝ていてくれ、と言っておいた。
そして文に指定された人里の郊外の小屋の中に入る。
しばらくして、コンコンと言う戸を叩く音がする。
どうぞ、と慧音が言うと、文が入ってきた。
「あやや、すみませんねぇ。会議が長引いて遅れちゃいまして」
「いや、いい。そちらも大変だな」
「まぁ組織でそれなりの地位にいる人間には良くある事ですから。ってそういう事を話してる場合じゃないですね」
「で、にとりさんの火災騒ぎの件ですが」
「実はにとりさん、ある河童と口論になってる所が目撃されていまして」
「その河童にもコンタクトを取ろうかと思ったんですが、留守でして」
「他の河童に聞くと、もうしばらく姿を見ていないそうです」
「口論の内容はなんだったんだ?」
「何か、機械がどうたらこうたらって話らしいですよ」
「機械……」
「続けます。で、その河童なのですが、ある洞窟で目撃されてるって話なんです」
「どこの洞窟だ?」
「人里近郊の、ここの洞窟ですね」
文は幻想郷の地図を広げると、ここと指を差す。
「ここは、確か妖怪の住処だった気がするが」
「まぁ下級妖怪の住処でしょうね。こういう場所は」
「明日、調査を試みるか、ありがとう、文」
「いえ、こちらとしても、毎回のように辛気臭い記事を書くのは気が滅入りますからね。さっさと終わらせてください」
「ああ、そうさせてもらう」
それでは明日の記事を楽しみにしてくださいね、と文は飛び去っていった。
慧音は思う。
取引と言いつつも、文側には割に会わない取引のはずだ。
ということは、これは取引に見せかけた情報提供か。
素直じゃないな、と慧音は思いつつ、明日の行動は決定した。
18.
文から貰った情報を元に、慧音と早苗は洞窟に向かう。
かつて里を脅かす妖怪がいたが、博麗霊夢によって退治された。
洞窟は薄暗いが、途中から松明が取り付けられており、誰かが住んでいることが分かる。
「本当に誰か住んでいるみたいですね」
「ああ、気をつけろ。何があるか分からんぞ」
「はい」
しばらく洞窟に進む。何か音がする。
音のする方に向かうと、其処にはあの人形があった。
「これって……」
「人里で霊夢が倒した人形と同じものだ。確定、だな」
「ええ。早く犯人を捕まえましょう!」
「ま、待て、早苗!」
早苗が洞窟の奥に走りだす。
慧音もそれを追いかける。
早苗が扉の前にいた。
「多分、この先に……」
「よし、開けるぞ」
そして慧音が扉に手をかける。
扉の前に広がったのは、砂嵐のモニター。
パソコンと思しき箱が破壊された状態で散乱していて、
椅子には誰かが座っている。
手はだらりと垂れ下がり、その手には拳銃が握られている。
早苗と慧音が近づく。
「駄目だ……死んでる」
「自殺、ですかね」
「多分な……」
文から聞いていた河童と特徴が一致する。
テーブルには三枚の硬貨が置かれている。
襲われた妊婦が持っていたものと同じものだ。
「どうやらこの人も、この硬貨を集めていたみたいですね」
「何の意味があるんだ? この硬貨には……」
「わかりませんねぇ」
とりあえず硬貨を回収しておく。
そして洞窟から出て行くと、突如眼前に天狗らが現れた。
「天狗がこんなところに何の用だ?」
「中には河童がいただろう。何か無かったか?」
「不思議な機械以外は特になかったが」
「本当か? 何か隠し持ってるんじゃあるまいな?」
「お前達こそ何をしに来た。答えろ」
「答える必要はない。何か持っているなら直ぐに寄越せ」
慧音に天狗らが迫る。
それを早苗が静止する。
「おやめなさい。貴方達の目的は河童ではないのですか?」
「風祝殿か。この件はそこの半獣との件だ。邪魔をしないで頂こう」
「いいえ。あの河童は人里で殺人事件を起こした犯人の可能性が高いです。それを見過ごす訳には参りません」
「……わかりました。ですが、死体はこちらで引き取りますよ。それで構いませんね」
「ええ、わかりました」
天狗は早苗の言葉に渋々従った。
守矢との関係をこんな所で崩すのは望ましくない。
そういうとリーダー格の天狗が、他の天狗らに命令を発する。
「もう用は済んだだろう? さぁ、帰った帰った」
19.
天狗らに追い返されたが、硬貨だけは回収できた。
妊婦が持っていたものと合わせて、四枚だ。
「結局、天狗達にしてやられたわけか」
「みたいですね。天狗達が機材とか機械とかも全部持っていっちゃいましたし」
「かもな」
天狗が去った後の洞窟は、まるではじめから何もなかったかのような状態であった。
其処に誰かがいた、という痕跡は一つも残っていなかった。
「どうします? 慧音さん」
「まだ犯人全員が捕まったわけじゃない。調査は継続する」
「私も頑張ります」
「ありがとう。だがそちらも風祝の仕事があるだろう」
「いえ、人々の不安を払うのも私の仕事ですから」
「そうか、すまないな」
早苗もこの事件の解決に全力を注いでいる。
これぐらい頑張れば、信仰を獲得できると思うんだがな、と博麗神社の方を見る。
まぁそれが出来ないのを、無理に言っても仕方ないか、と考え直す。
「早く終わらせたいな。こんな事は」
「そうですね」
20.
調査とはいえ、既に犯人の一人は死亡し、また振り出しに戻った。
せめてグループで行動しているのか、ばらばらに行動しているのかさえ分かれば良かったのだが。
早苗は既に床につき、慧音は日記を書いていた時の事だ。
コンコンという音がする。
外を覗くと、鴉が戸を叩いていた。
慧音が外に出ると、鴉は低く飛び始めた。
ついてこい、という事か。
戸の鍵を閉め、慧音は鴉の飛んでいく方向に歩き始めた。
しばらくすると、以前文と会話した小屋にたどり着く。
やはり文の鴉だったようだ。
戸を開けると、文がそこに居た。
「やってくれたな、文」
「いやぁ、すみません。思ったより上の動きが早かったみたいで」
てへへ、といった顔で謝る文。謝る気はさらさらない事が窺える。
「それで、何故私達にあの洞窟を調べさせたんだ?」
「以前、会議の話をしましたよね? その時に洞窟の調査が決まったんですが」
「上層部直属の天狗隊が派遣される事になりまして」
「そして調査報告についても極一部の幹部クラスのみ、となって」
「私達、鴉天狗にも情報が流れない、という事に」
「つまり私達を通して、上がやっている事を知りたかった、というわけか?」
「ええまぁ、そうなります。幾ら殺人を犯したのが河童とはいえ、精鋭を投入して証拠隠滅に掛かるのは異様です」
「深く突っ込む気はありませんが、何も分からないのも気持ち悪いので」
「貴方に協力を頼んだ、というわけです。で、何か出ました?」
「これだけだ。この硬貨。見覚えはあるか?」
そういって慧音は文に、その硬貨を見せる。
「んー? 何かのお金ですか?」
「わからない。そんなお金は見たことがない?」
「うーん……あれ? そういえばこれ、何処かで見たような……」
「知っているのか?」
「何でしたっけねぇ……あ、思い出しましたよ。確かこれ、人里にあった賭博場で使ってたコインですよ」
「賭博場……? あの賭博場か」
「ええ。間違いありません。以前、ネタ探しに一回立ち寄った事があります」
慧音もその賭博場については、覚えがある。
人里に以前、娯楽目的で以前の村長が立てた賭博場があった。
ある理由から慧音以下の現在の村長派により、粛清され、解体された。
賭博場があった場所も、現在は何も無いはずである。
「……調べてみる価値はある、か」
「ま、何か進展があったら教えてください。記事に書きたいので」
「気が向いたらな」
「うわっ、酷いですね。折角情報提供したのに!」
「またダシに使われては敵わないからな」
「うっ」
文はそれ以上、強くは言えずやむなく退散する。
そして慧音は小屋を出て、空を見上げる。
月は満月から少し欠けていた。
「あの場所か。何か因縁でもあるというのか……?」
慧音は呟くように、そう言った。
C氏がゲームから脱落しました。
A氏は順調にコインを回収していますね。
B氏も頑張って追いついて下さい。
なお、今回より時間制限を設けさせていただきます。
明日までに10枚のコインを回収すること。
それが敵わなければ、このゲームはお流れになります。
苦情等は受け付けません。
途中のルール変更には従う事も、ルールとして最初に了承していただいたはずです。
この契約書は絶対ですよ?
それでは、あと24時間。
頑張ってくださいね?
※ ※
次辺りで一区切りとなるかもしれませんよ、奥さん。
名前がありません号
作品情報
作品集:
8
投稿日時:
2009/12/16 09:09:04
更新日時:
2009/12/16 23:50:10
飽きて、他のプレイヤーを探すのかな
ゲームマスターは何を考えてるんだろうか?
話が急展開になりそうだ目が離せない・・・
C氏は河童だったみたいだけど……。
C氏からコインを奪えた可能性のある存在のA氏はなんとなく文っぽいんだけどB氏が全くわからない。