Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『嫌いなものは壊すまで』 作者: レリン
人肌の暖かさは、人間妖怪問わずだろう。
「暖かいな」
「ええ」
腕の中にいるアリスがうなずいた。
私がアリスの綺麗な金色の髪をすくと、アリスはくすぐったそうに身を捩る。
「アリスは可愛いな」
いつもなら「煩い!」と一喝するのに、今だけは恥ずかしそうに身体ごと顔を背けた。
そんな無防備な背中をギュッと抱きしめるとビクリと一度跳ねたが、ゆっくりと抱きしめている私の手にアリスの手が重なった。
*
コンコンコンと音がする。
まるで、料理をする音みたいで…
「ん、…ぁ?」
意識がまどろんだまま、身体を起こす。…が、起こせない。
目を擦ろうとしても、腕が動かない。
どうやら私は、手足を縛られて放置されているようだ。
そこでようやく、目が覚めた。
「……どこだよ、ここ…」
昨日は確かに自分の家にいたはずだ。
で、アリスと一緒にベッドに入って……、?
「…っ、アリス!……アリス、何処にいるんだよ!アリス!!」
「どうしたの、魔理沙。叫んだりして。……って、え、なに…これ…?」
私は声がしたほうを見る。
良かった、アリスは無事だ。
「起きたらもう、こうなってて…、…この部屋に、見覚えあるか?」
アリスは目を閉じて、ふるふると首を振った。
「そういう魔理沙はどうなの?」
「私もさっぱりだぜ。
……こういうことされる理由は思い当たらんでもないがな」
でしょうね、とアリスは苦笑した。
異常がやっと概要を現して私とアリスは落ち着いた。
一応、まとめてみると私とアリスは共に手足を縛られていて、窓のない石造りだと思われる部屋に閉じ込められてた。
互いに魔法を使える状況ではない。
絶望的に思えるが、アリスがいる。
ただ、それだけでどうにかなる、そんな気がした。
ガチャリとドアが開く音がする。
ドアがあったことに今更気づいた。
さっきから断続的に聞こえていた料理に似た音はドアから入ってきたヤツの足音だったらしい。
「おいっ、お前!これはなんだよ!?」
全てを含めた意味でソイツに問いただす。
ソイツは私の言葉など意に介さないようにカツカツと歩いて行った。
アリスの方へと。
「ひ、ぃっ……こ、来ないでよ!」
アリスは引き攣れた声で拒絶を表す。
「アリスに近付くな!」という私の言葉と同時にかえるを潰したような声が聞こえた。
「うぐっ」
ソイツはアリスの腹を蹴った。
そしてそのまま足をめり込ませる、ぐりぐりと。
「柔らかいなんて気持ち悪い」
足を離すとアリスが吐いた。
昨日の晩御飯。
一緒に食べた晩御飯。
ガンッ、…ドスッ、…ドカッ、…。
蹴っては観察、蹴っては観察を繰り返した。
白く柔らかく無駄な脂肪のないアリスのお腹は、今、白と青と紫と赤が綯い交ぜになった色をしている。
「う、ううぅ…」
呻き声に涙が少し混ざった声をアリスがあげた。
「おい、やめろよ!
アリスにそんなことするくらいなら、私にしろ!!」
「ま、まり、ざぁ…」
アリスの目が歓喜に震える。が。
「ぐふっ」
「うるさい、黙って見とけ」
ヤツはアリスが口を開けたところに拳を突っ込んだ。
「気持ち悪い」
そう呟くと、ヤツはまたアリスを殴り始めた。サンドバックのように。
私はただ殴られるだけのアリスを見たくなくて目を逸らす。
「うぇ、えっぐ…もぉ、やべで、よぉ……」
その声で私が顔を上げると、顔も腹と同様に暗色豊かになっていた。
でも、今度は内出血だけでなく歯で切ったのか、所々に血がついていた。
「……、私も手が痛くなってきたから、やめる」
それを聞いて私とアリスは知らず知らずのうちに息をついた。
「それに、見物人も今のは飽きたみたいだから、次はもっと酷いので」
ヤツは心から楽しそうに笑った。
*
「んんっ、ぐ、うぅっ」
アリスは苦しそうにもぐもぐと食べていた。
ぐるぐると包帯を巻いていたヤツがアリスに配慮することなく、ただ作業として乱暴に食わせていた。
私は色々思案しながらそれを眺める。
あのご飯には毒が入っているのではないか、食べ物以外で出来ているのではないか、と。
皿が空になった。
パシン
「簡単には楽にさせない」
ヤツはそう言うとアリスを叩いて出て行った。
「アリ、ス……」
私はアリスににじり寄る。
ガチャ
「あ、まりさのぶんは、今はないから」
いきなりドアが開いたかと思うと、ヤツはそう言って戻ってこなかった。
意味がわからない。ha?
*
「まり、さ……大、じょーぶ?」
「あぁ、平気だぜ。
それよりアリスこそ、痛く、ないか?」
「……ええ。まり、さが、ぶじなら、へーき」
アリスが途切れ途切れに話す。
正直に言うと、私もお腹が空いてはいるが、アリスがこんな状態なのに空腹なんて些細なことだ。
「ごめんな、アリス……お前を守ること、出来なくて…。
本当に、無力な私で、ごめん…」
「いー、の。私こそ、まり、さにごはん、食べさせれなくて、ごめん、ね?」
私はアリスに謝る。
アリスはそれを受け入れる。
自己満足と、自分を慰めるだけのだけの謝罪。
それをアリスも知っている、けど、アリスは受け入れる。
アリスはただただ気持ち悪いほど優しかった。
*
意味のない謝罪をし続けてたうちに私は寝てしまったようだ。
過度の疲労のせいでもあるのだろうが、空腹で目が覚めた。
「おなかすいた…」
話す気力もそがれるほどだ。
……確かヤツは私のご飯は『今は』ない、と言った。
どういうことだろうか。
……やばい、おなかすいて考えられない。
「ごめんなさい、私だけ食べていて」
どうやらアリスも起きていたようで、さっきの独り言が聞こえたようだった。
「昨日も、言ったろ?アリスが悪い、わけじゃ、ない。謝る、なよ…」
「ごめ……ううん、そうね」
「アリス、こそ、元気、か?」
「……少し痛むけど、私は人間よりも治癒力も高いから」
「そっか、良かった、ぜ」
アリスが元気そうで何よりだ。
そう思った瞬間、コンコンと包丁で物を切るような音が響く。
アリスの肩がわかりやすく震えた。
私はなけなしの体力を振り絞り、アリスのもとに這いずる。
「大丈、夫、だ。アリスの盾に、なる、から」
私がアリスの身体に重なると、アリスはありがとうと小さく答えた。
大丈夫、大丈夫と繰り返し囁いていると、ガチャリとドアが開く。
「……、気持ち悪い」
ソイツは私とアリスを見るなり、そう吐きつけた。
面と向かって気持ち悪いなんて言われると心が折れる。
でも、私がアリスを守るから、アイツに言われたその程度何でもない。
「邪魔」
髪を引っ張られ、逆方向に投げられた。
酷い音を立てて壁にぶつかる。
が、案外力はないらしく痛くなかった。
「魔理沙!魔理沙ぁっぐッ」
「だからアンタは黙ってろってのが理解できないの?」
私が急いでアリスのほうを見ると、アリスが苦痛に顔を歪め俯いていた。
「アリスに、何を…、した…!」
疲労から声が出ない。
「少し黙ってもらうために喉を蹴っただけ」
私は唸った。
また私はアリスを守れていない。
アリスが痛めつけられるのをただ傍観することしかできない。
私は思考に沈んでいたが、ヤツが出て行く音で気づく。
ヤツは部屋の外に出て、何か重たそうに持ってき、もう一度出て行く。
パチン
今まで暗く多少明るかった部屋がその音を引き金に明るくなる。
暗闇に慣れていた目は光を拒み何も見えない。
目が光に慣れてくると、ヤツが何を持ってきたかわかった。
「何に、使うんだよ…そんなもん…!」
包丁、ナイフ、鉈、斧、鎌、鋸、鋏、長剣、短剣、サーベル、薙刀、矛、槍、金鎚、チェーンソー、……エトセトラ エトセトラ。
他にもカッターやホッチキス、楔、杭などがある。
まともな用途に使うならまだしも、こんな場所にこんなモノ。
……使用法は?
「まりさを飽きさせない秘密道具」
にやりと楽しそうに笑うアイツを見て背中に氷塊が滑り落ちた。
*
「………にーほんめー」
「やめろ、やめてくれええええ!!」
ガンッ
「ぎいやあぁぁぁああぁぁあああ!
いだいあづいいだいぃぃぃいぃぃいい!!!」
ガンッ、ガンッとリズミカルにヤツは金鎚を下ろす。
その音と共に杭がアリスの肌に吸い込まれる。
一本目は右の二の腕だった。
そして今は、反対側…。
縛る縄は既になく壁に貼り付けることで、今アリスを拘束していた。
私の止めるようにと叫ぶ声が、アリスの悲鳴が、歪なオーケストラみたいで、ならアイツはさながら私たちを操る指揮者だなと、頭の何処かで笑った。
二本目が打ち込まれたことによって、今、アリスは宙に浮くことになった。
足は完璧に地面から離れていて、アリスの右と左の腕に刺し込まれた杭によって支えられている。
杭の上部にアリスの肉が食い込む。
零れ落ちる血はアリスの腕を赤く染めた。
アリスの腕は血が抜けて一層と白くなり、そこに赤い血が流れる様はまるで絵画のようだった。
アリスの顔を見ると目を閉じ、歯を食いしばり、その痛みに耐えている。
すると、いきなりヤツは杭を握って動かした。
縦、横、縦、横、と。
「ひ、ぃ、ぐぁ、いっ、ぁあ、い゛い゛い゛い゛!!」
音を拒めない私の耳にぐちゃ、ぐち、ぐちょ、と他人に肉を蹂躙される音が響く。
杭の周辺の肉が杭と共に動く。
上に動かせば下の方は中身を見せ、上の方は圧迫される。
下では逆に、左右も同様に。
目を逸らす以外私は何もできなかった。
飽きたのか終わったのか、ヤツが杭を動かす音が途切れる。
私がアリスを見ると、息も絶え絶えで、杭の周辺の肉は腫れ上がっていた。
目も当てられない。
私が顔を逸らすと、「まりさを飽きさせるな」とアリスに言い放つ。
「ひぎぃっ」
短い悲鳴にもう一度アリスを見ると、ヤツは王子のようにアリスの手をとり、アリスの親指の爪を剥いでいた。
「まりさが興味持ってくれてよかった」
ヤツは私の方を見ていた。
そして、にっこりと童女のように笑っている。
でも、その顔は、みえない…。
ぐー
その場に場違いなまぬけな腹の音が響いた。
「そろそろ、ご飯、か」
ヤツはそう言うと部屋から出て行った。
コツコツと音が離れて行く。
無音の部屋。
沈黙に耐え切れなくなってアリスに話そうとすると、かすかに声が聞こえる。
「まりさまりさまりさまりさまりさまりさまりさ…」
アリスの口からエンドレスで私の名前が呪詛のように紡がれていた。
引き攣れた悲鳴が出かけて、私はそれを飲み込む。
腹の足しにはならずともアリスに対する恐怖は少し和らいだ。
*
足音がして、ドアが開く。
ヤツは一人前の食事を持ってきて、アリスに食わせた。
アリスはそれを拒絶し私の名前を呼び続けていたが、ヤツに腹を思いっきり殴られたので意図せずに口を開けて黙らざるをおえなかった。
ヤツはアリスの口をそのまま固定して食べ物を流し込み、そして鼻と口を無理矢理閉じた。
アリスはバタバタと苦しそうにもがいてから、口の中のものを飲み込む。
飲み込むのを見終えてから、ヤツはアリスから手を離した。
ぜーはーとアリスが酸素を取り込む。
「…私には、ない、のか…?」
話そうとしても、段々と頭の空白が広がる。
明らかにエネルギーが足りてない。
大体…アリスは多少食べずとも大丈夫だけど、私はそうはいかないのに…。
「今は、ない」
……。やっぱり、アイツは『今は』ないという。
それならば、何時、私はご飯をもらえるのだろう…?
呼吸が落ちついたアリスはヤツを睨みつけた。
「ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる・・・」
目にははっきりとした害悪や殺意が込められているようだ。
ヤツは白々しく溜め息を吐き、道具を漁り始めた。
手にとっては違うと首を振って、それを元に戻す。
ヤツがそんなことを繰り返す間もアリスは呟いている。
私はボーっとそんな2人を眺めていた。
どうやら、“道具”が決まったらしい。
……金鎚とスパナとバットのようだ。ボールもある。
すると、ヤツは最初にバットを握り、ボールを持った。
そこから…
ノックを打った。
アリスに向けて。
「んがぁっ」
肩に当たる。
「いだ!!」
太ももに当たる。
「ぎぃあっ」
手の甲に当たる。
「あががががが」
顎に当たる。
ノーコンなのか上手いのかわからない。
ただ当てられる。
短い悲鳴が聞こえる。
ただそれだけ。
単調な作業だ。
助けられない私には何も面白くない。
ガチャン!
その音に、ハッとした。
どうやらバットが投げ捨てられた音のようだ。
アリスを見れば、見える場所は青紫色に変色していた。
昨日よりも色が濃い。
ヤツは金鎚をとる。
アリスの目から憎悪から恐怖に歪んだ。
「いあぁぁぁぁああああぁぁああああぁぁああああ!!!」
金鎚が振り上げられた。
耳につく甲高い悲鳴が五月蝿く感じる。
ゴンッ、ぐちゃ、
ゴンッ、ガキリ
ゴン バキっ
チャイムという楽器を鳴らすようにヤツは振り下ろし続けた。
その度に金鎚と骨と肉の音が鳴り、アリスが悲鳴をあげる。
そんな不協和音が部屋に響く。
アリスの、人形を操るアリスの、美味しい料理を作るアリスの、私と手を繋ぐアリスの、手が指が跡形もなくなっていく。
所々で骨が皮膚を突き破り、歪なオブジェになっていく。
今では、どの指の爪を剥がされたかもわからない。
ただ、醜い、肉の塊。
焼いたらおいし……、
……って何考えてるんだ、私は。
いくらお腹が空いているとはいえ、人の指、よりにもよって恋人の指の成れの果てが美味しそうだと思ってしまうなんて。
首を振って邪念を払う。
そんな間も釘のない大工は続いている。
アリスは止まることのない悲鳴をあげ続け、今は掠れ始めているが相変わらず叫んでいる。
よく、そんな元気あるよな……あぁ、こいつはご飯食べていたっけ?
「わだじのゆびがあ…ぁー…、うでぎゃぁ…」
指だけではなく大工は腕まで侵食していっていた。
少し腕の中身が見える。
赤く、時々白く、そして白いところから赤いものが流れている。
ゴン、と肉の混じらない金鎚で石を殴る音がした。
見るとどうやら腕の上、丁度アリスの顔の横に金鎚が振り下ろされたいた。
身近に大音量が鳴ったはずのアリスだが、既に焦点が合わずブツブツと腕と指という単語を唱えていた。
ヤツは金鎚を放り投げた。
ゴン、とまたそんな音がした。
そして、ヤツは疲れたと言わんばかりに右手を振って、腕を回した。
私はそんな整理運動を傍観する。
ヤツは整理運動を終えると、スパナを手にした。
そして、ギュッと握るその様子を私は見ていたがアリスは見ていない。
ヤツはスパナを振り上げる。
ゴギーンー……。
音が狭い部屋に反響する。
スパナはアリスの頭に振り下ろされた。
アリスは「ガッあぁ!」と短く叫ぶと意識を落とした。
ヤツはそれを見届けると、ドアの外に出て行った。
話し相手も話す気力もない私は意識を闇に沈めた。
*
「………、……さ、…りさっ、魔理沙っ!!」
ハッとする。
意識が戻された、ようだ。
「どうした、アリ、ス」
「よかった、反応がないから私みたいにされたかなって思っちゃった」
あはは、と苦笑交じりに笑った。
幾ら治癒力が高いとはいえ今回の傷は治っているはずもなく、痛々しく、醜く、美味しそうに―――
「だから違う!!」
アリスが吃驚した表情で私を見ていた。
「どうか、した…?」
「いや…、なんでも、ない…」
心臓がバクバクと早鐘を打つ。
違う違う違う違う…そんなこと思ってないそんなこと思ってないそんなこと私は思ってなんかない!!
「魔理沙、」
アリスの言葉が動転した頭に響く。
「ご飯、食べた?」
当たり前の疑問にさっき過ぎった想いのせいでドキリ、と心臓が大きく跳ねた。
「ま、まだ、だぜ」
「えっ、あ…ごめんなさい」
アリスが謝る。
昨日は落ち着けたそれがやけに雑音として耳に残る。
“私は悲劇のヒロインなんだ”と主張しているように、補正がかかる。
『魔理沙はいいわね、殴られてなくて』
言ってはいないはずのアリスの言葉が聞こえる。
『私はアリスだから殴られるのよねいいわねまりさいいわねまりさいいわね…』
「…お前こそ、ご飯が食べれていいじゃないか…」
静かな部屋にその言葉が大きく響いた。
心の中で、あ…、と思いはしたがどうしようもない。
アリスの傷だらけの顔が真っ赤になる。
「魔理沙は、…っ魔理沙は!
殴られてもノックを受けても金鎚で腕を潰されてもスパナで頭を殴られてもいないじゃないっ!!」
アリスは叫んだ。
多分、ずっと胸の中で抱き続け押さえ込んでいた感情を。
それは客観視したら思って当たり前だし正しい。
寧ろ今までそれを言わず、傷ついても私の心配をしてくれたアリスは逆に褒められても可笑しくはない。
それなのに、私の言い草はあまりにも酷いだろう。
だが、
それはあくまでも、客観視したら、の話だ。
閉じ込められてから日も月も、自然の光が射さないこんなところでは日にち感覚も何もないが、寝て起きてを繰り返したのは既に2回。
つまり、私的に私は今日で3日間飲まず食わずなのだ。
どれだけ痛かろうと私は痛くない、がご飯を食わねば飢え死にする。
自然と、私の口からは言葉がでてきた。
「だから、なんだよ…」
低く、暗い声が私から溢れる。
アリスの肩がビクリと跳ねた。
「お前は人間が何日飲まず食わずで死ぬか知ってるか?
そして、今、私たちがここに連れて来られて何日経ったかわかるのか?」
アリスが私を見て、がたがたと震えているのがわかる。
だけど、私は止まらない。
「お前は魔女だから!お前は魔法使いだから!お前は、人間じゃないから!だから!だから!!私のことなんてわから――――ガチャ
「あら、喧嘩?」
ヤツが部屋に入ってくる。
手にはなんかの筒を持っているが、私には関係ない。
キッとねめつけた。
アリスはさっきから変わらずにがたがた震えたままだった。
「さぁ、今日で最後よ?」
ヤツの言葉に私とアリスはハッとさせられる。
今日で最後?
今日で終わる?
今日で帰れる?
食べ物を食える?
知らず知らずのうち顔がにやける。
それを抑え込もうにも腕は拘束されたまま。
せめて、叩き潰されていても、杭で縫い止められていても、自由な腕のアリスが羨ましい。
ついっとアリスを見ると、先ほどよりも一層震えていた。
……震えが増すほど嬉しいのか?
「…ゃ…、ぃ、や…いや……いやいやいやいやいやいや…」
アリスが否定の言葉を唱えながら首を左右に振る。
何故だ?
やっと帰れるのに。
「五月蝿い」
一言、ヤツはそういうと腕を振りかぶった―――赤が咲く。
アリスの顔はきょとんとした後、段々歪んでいった。
ただ顔に赤い線が入っただけなのに。
「あ、あ、あ、あ…!!」
アリスの目の追う先はヤツの手元。
ヤツはナイフを持っていた。
アリスの声が金切り声へと変質していく。
「●●●●●●●●●●●●!!!!!」
私の耳には拒絶したかのように音が入らない。
アリスは叫び、悶え、足掻き、暴れ、を繰り返す。
ヤツは冷めた目でアリスを見ていた。
そして、アリスの抵抗から被害を受けない位置からナイフを投げた。
「●●●!!」
短い音。
ナイフは骨に当たらなかったのか太ももをさっくりと貫いた。
アリスは叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ、ヤツは冷めた目でナイフをとり、また投げる。
脇腹に刺さる。
…次は外した。
顔に刺さった。
顔にかすっただけ。
右肩に入った。
あっちゃー、完璧場外。
アリスは喉がかれてきたのか甲高かった叫び声が掠れていった。
それでも叫んでるなんて元気なやつだ。
なんて思っていると、ヤツはごそごそと道具箱を漁る。
………あれは、斧、か?
アリスは叫んで疲れたのか何処も見ていないような目で、あ、だの、う、だのを呻く。
が、ヤツが斧を振り上げたとき、斧を視認した。
「いやあ゛あ゛あ゛あ゛!●●●●●●●●●●!!」
ボトリ、とズタボロだったアリスの右腕が胴体から離れた。
アリスは左腕で傷口を押さえようとするが、動かないらしく小さく動くだけだった。
アリスの右腕――ノックを受けて、金鎚を打たれまくったアリスの右腕。
そんな攻撃を受けていたはずなのに、斧に切られた切り口から鮮やかな血がだくだくと流れていた。
その血の赤と真ん中の白を眺めていたら、ヤツは今日持ってきた筒状のものを手に持った。
そして……アリスの腕を焼いた。
アリスは支配を捨てた腕なのにそれを凝視して、また叫んだ。
痛みからか息は浅く早く、だが目は見開かれている。
肉が焦げる匂いが鼻をくすぐる。
…確か、人肉の焼ける匂いは人間あらかた嫌悪感を示す、と聞いていたが、そんなの、嘘だ。
私には、アリスの皮が焦げ、肉が焼かれ、火が通る様があまりにも、とても、ものすごく、美味しそうにしか見えない。
無意識に口が開き、涎が垂れる。
あの肉はどんな味がするのだろうか。
やっぱり柔らかくて美味しいのだろうか。
それとも、硬くて美味しいのだろうか。
食べたい食べたい食べたい……食べたい!!!
「はい、まりさ」
私はヤツを見る。
ヤツは邪悪そうに笑みを浮かべて私に言い放つ。
「まりさのご飯だよ?」
*
その部屋の中には咀嚼音と調理の音が響いていた。
アリスの声はもう聞こえない。
と、いうよりも、私にとってそんなものどうでもいい。
ヤツが私に“ご飯”と言った後に私の耳が拾う音は私が食べる音と私の食べる“モノ”を作る音だけ。
ヤツの言葉を聞いて、私はその“肉”へと這って、口をつけた。
歯を当て、力を込める。
思っていたよりも楽に千切れた。
口の中で咀嚼する。
噛む。噛む。噛む。
肉の味が人肉の味がアリスの味が舌に広がる。
美味しい。
もう一度歯を当てる。
私は久しぶりの“ご飯”に泣きそうになった。
“ご飯”がこんなに美味しいものだなんて思ってもみなかった。
“ ご 飯 ”こ ん な に 美 味 し い な ん て !!
“ご飯”はすぐに骨と化した。
物足りなくて、全然足りなくて、私はヤツを見上げた。
ヤツはニコニコと笑っていた。
あの笑顔は昔『アリス』が私にお菓子やらご飯やらを作ってくれたときに、私が「美味しい」と言ったときに見た笑顔に似ていた。
ヤツはその笑みを顔に貼り付けたまま“ご飯”の方へ向く。
そして、斧を振り上げた……
*
「ふう、お腹いっぱいだぜ」
私は意識せずにその言葉を紡ぐ。
「美味しかった?」
ヤツはそう私に訊く。
「あぁ、本当に美味しかったぜ。
空腹は最高のスパイスだというがまさに今、って感じだな」
意図せず、私は笑う。
「ならよかったわ」
ヤツも笑う。
そして不自然なほど自然に口を弧に歪めた。
「恋人を殺して食べ終えた気分はどう?霧雨魔理沙さん?」
その言葉が耳に入り、脳が単語を理解する。
イミがワカらない。
ワタシがありすヲ殺シテ、たべタ?
「は……はは、そんなことあるわけないだろう?
私が?アリスを?
そもそも私が人間を食べるわけがないだろう?」
私は笑う。
あるわけないと笑う。
「そうかしら、魔理沙。
あなた、口元を見たら?」
ヤツはそういうと鏡を取り出して私に突きつける。
鏡には、赤やら赤黒い液体と脂が口元について歪な笑い方をしている私がいた。
「これは、食べた肉の血と脂で、べ、別にアリスのってわけじゃあ……、
なあ?、アリ…ス……?」
私はアリスがいたところを見る。
そこにアリスははり付けられてはいない。
が、地面に生首が転がっていた。
「うっ、」
私が食べた肉があった場所を見る。と、そこには白い骨。ちょうど、寄せ集めたら人一人ほどの。
「う、うぅ…」
私は思い出す。
私がアリスに言った言葉、
ヤツがアリスに何をしたか、
私がアリスをどうしたか!!
皮肉にも、空腹で動かなかった頭は今、ちゃんと活動しているから。
私は思い出せる。
「あ、ぁ、あああああ……」
ヤツはもう一度、嗤って問いかけた。
「恋人を殺して食べ終えた気分はどう?」
「うあああああああああああああああ!!! うっ、うええぇ」
私は声をあげる。
そして、“アリス”を吐き出す。
「あっ、ぐぅえ、えぇっ」
吐いて出てくるのは“アリス”のはずなのに“アリス”ではない。
吐いても吐いても気分も、よくならない。
“アリス”も戻らない。
「う、う…ぅ、うああああっ、あ、ぐっ、あああああああああああ!!」
涙が溢れてきた。
もう、私は何故泣いているかもわからない。
ただ、ただ謝ることが許されなくても謝りたかった。
「シアワセな2人も、少しつつけばこんなものか」
ヤツがナニかを言ったが、わからなかった。
嗚咽が私の口から零れてくるだけだった。
「リア充なんて死ね」
その言葉とともにふっと意識が飛ぶ。
重いまぶたが遮る視界が最後に捉えたのは、アリスの首と首の無い私の身体だった……。
お初にお目にかかります。レリンと申します。
産廃の素敵な作者さまたちに憧れて、やっとのことで拙いながらも小説を書かせていただきました。
もっとグロで深めたかったけど、知識がなかった…残念。
でも、アリスを愛でながら、ゴミクズと呼ばれるような魔理沙を書きたかったので、僕としては嬉しい限りです。
そして、ここまで読んでくださった皆様に感謝感激雨霰。
最後に、
リア充なんてしねばいいのに(
レリン
- 作品情報
- 作品集:
- 9
- 投稿日時:
- 2009/12/16 16:33:51
- 更新日時:
- 2009/12/17 01:33:51
- 分類
- アリス
- 魔理沙
いい感じに精神が切迫してる
アリスのココロにたまった鬱屈も、それを隠した非人道的なまでの優しさもなんだか共感が持てました
うーむ、マリアリ食事ネタは負けた気分なので自粛しよう
腹が減るとどうしても精神が不安定になる
産廃初心者の俺でもすっきり読めました。
いい気味だw