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『博麗霊夢のいつもの日常』 作者: 名前がありません号
いつものことだ。
霊夢はそう思う。
やることも実に単純だ。
だから気分も乗らない。
霊夢は、退治した妖怪を見る。ぶちまけられた血液が地面を濡らしている。
霊夢は隣でありがとうございます、と何度も声を掛ける女性を見る。
言葉とは裏腹に、その眼は霊夢に対する怯えが見て取れる。
それもしょうがないのだろう。
霊夢の巫女服を濡らす血の匂いが、女性を恐怖させているのだろう。
自分の半分も生きていない少女が、自身の二倍ほどの体躯の妖怪をいとも容易く退治する。
それを見れば、その少女へと感謝以上に恐怖を感じるのは人間としては当然かもしれない。
里はあっちよ、と霊夢が言うと、女性はありがとうございます、と言ってそっちの方向に進む。
距離としては、そう遠くない。妖怪に襲われる心配はもうないだろう。
袖が汚れちゃったな。
霊夢はそう思う。
スカートや服は赤いため、そこまで目立たないが、
袖は真っ白なので、血がつくと目立ってしょうがない。
袖には、僅かに赤い斑点がついている。
最後に向かってきた妖怪を迎撃した時に、ついたのだろう。
換えの袖はあったかな。
神社に戻ったら、確認しよう。
こういうとき、袖と巫女服が別々だと便利ね、と霊夢は思う。
妖怪退治の度に、巫女服を血で汚す私を見かねた霖之助さんが、新しい巫女服を作ってくれる事になった。
まぁ私がお店に血塗れで入ってくると、血の匂いが商品につくからやめてくれ、とか言われた気がするけど。
気のせいよね。
そういえば最近、早苗も妖怪退治を始めたという。
しかしあの服は妖怪退治に向かない気がするけどなぁ。
噂によると、妖怪を虐めて楽しんでいる姿を目撃されているらしい。
変な癖がつかなきゃいいけど。
霊夢は森の方を見る。
獣達の眼が見える。
霊夢はその場を立ち去る。
獣達が妖怪に群がっていく。
妖怪の肉を貪る獣達。
しばらくすると、その場には何も残らない。
赤い血溜まりは、ゆっくりと大地に帰っていく。
そして何も残らない。
霊夢は神社に戻る。
冬の寒い時勢だが、やらなければならない事がある。
うう、寒い……。
いつもの巫女服を脱ぎ、白装束に着替えると、
井戸から水をくみ上げ、桶の水を自分の身体に浴びせる。
風邪を引きそうだが、こうして体を清めておかないといけないのが、
巫女の仕事の辛いところかもしれない。
血塗れの巫女服は洗濯桶に放り込んでいる。
後で洗う予定である。
お清めを終えると、霊夢は身体を拭くと換えの巫女服に着替える。
今日の妖怪退治は終わりなので、袖が独立していない普通の巫女服だ。
「おーい、霊夢」
いつものように、魔理沙がやってくる。
必ず決まった時間に来る辺り、マメである。
「あんたに出すおやつは無いわよ」
私がそういって追い返そうとするのだが、
魔理沙はにやにやして袋から、小さい箱を取り出す。
「何それ?」
「人里で買ってきたんだ。新商品らしいぜ」
「ふーん」
魔理沙が箱を開けると、赤い金平糖が入っていた。
「金平糖ね」
「金平糖だな」
「血がねりこんであるとかいうオチ?」
「まさか。人間用だぜ」
魔理沙が金平糖を一つ、口に放り込む。
「イチゴだな」
「無難ね」
霊夢も金平糖を一つ、口に放り込む。
「甘酸っぱい」
「イチゴだしな」
魔理沙と霊夢はそれぞれ、一つずつ金平糖を口に運ぶ。
「ところで、あの巫女服は洗濯しなくていいのか?」
「するわよ? 今は水につけてるだけ」
「あっそ」
しばし縁側で、のんびりしている魔理沙と霊夢。
日向ぼっこというには、少々雲が掛かっているが。
ふと魔理沙が霊夢の格好を見て、言う。
「今日の仕事はおしまいか?」
「何言ってるのよ。これから境内の掃除とお茶を飲む仕事が待ってるわ」
「前者はともかく後者も仕事かよ」
「仕事よ」
大層な巫女様だぜ、と魔理沙は言う。
巫女様よ、えっへんなどと柄にも無く、霊夢はふんぞり返る。
「ふんぞり返っても胸は平らだな」
「あんた、思いっきり自爆したわね」
「うん」
二人ともがっくりした表情になる。
日が傾き始めた頃に、魔理沙はふぁぁとあくびをする。
「そろそろおねむの時間だから、帰らせてもらうぜ」
「今日は泊まらないのね」
「んぁ? 人恋しくて眠れないか?」
「いいえ。寝顔を観察できないな、と思って」
魔理沙は赤面して、箒に跨ってすっ飛んでいってしまった。
金平糖の箱を置きっぱなしにして。
霊夢は金平糖を一つ、口に放り込む。
「うん、おいしい」
こうして霊夢の一日は終わる。
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2009/12/21 16:25:44
更新日時:
2009/12/22 01:25:44
分類
霊夢
日常
日常を表現するのは楽しいけど難しい…
霊夢も毎日こんな生活だったら少しは笑うのかな。
ちょっと前にあった殺人した人がしばらく普通に生活してマスコミにインタビューまで受けてた事件思い出したわ。