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『もしも封魔録2面中ボスが男だったら』 作者: 与士口
「あのですね、東方封魔録二面ボスの明羅さん」
「なんだ、同じく二面中ボスの名無し」
風呂上がり、縁側で茶を啜るのどかな一時。私は静かに切り出した。
「人里であなたのことがイケメン剣士として有名になっております。どうするんですか」
「知らん。お前は自分の出番の無さをどうにかしろ」
茶漬けをかき込み、明羅さんは全く気にした様子がない。
自称彼女の配下として放っておくわけにはいかない。
「私の出番などどうでも良いのです。期待してなどおりません」
「どうでも良いよ。箸が進んでないが、油淋鶏は嫌いか?」
割烹着に三角巾という彼女の姿を見て、人里で店を開けば人気が出るだろうになあと切に思う。
うなじの辺りなど、たまらない。
「いえ、とっても美味しいですよ」
「世辞ばかり言うなよ、ばかもん」
「明羅さんの作る御飯なら毎日食べたいですね」
「知ったことか。大体、既に朝昼晩お前には食わせてやってるだろが」
顔を背け、明羅さんは舌打ちを一つ。照れたらしい。
「かわいいですね」
「褒めても何も出んぞ」
「おかずが一品増えるかも知れません」
「ハッ……精々明日に期待するんだな」
明羅さんは溜息を一つ。作ってくれるとのことである。びっくりだ。
「まあそんなことより人里の噂ですよ明羅さん」
「人の噂もなんとやら。知ったことではない」
彼女はそう言って目を細め、幸せそうにお猪口に口づけた。
こくん、こくん、と喉が動く様が非常にいやらしい。
私は下戸なのでちびちび啜るに留まった。
彼女が次の一口を呑み込もうとしたその瞬間を見計らって、私は呟いた。
「デートとかしましょう。奴らの目を覚まさせるのです」
「ぶーっ!!!!」
見事な噴霧だ。
「明羅さん、人間霧吹き目指せますよ」
「ふざけるなッ、ばかもん!!」
明羅さんにばかもんと言わせると何か勝った気分になる。
「何がデートだ何がッ!! 私に何をさせる気だお前は!」
「いえ、腕を組んでイチャイチャラブラブ、往来のど真ん中でちゅうしようかと」
「ただの変態ではないかそれではッ!! スプラッタの方がまだマシだ!」
「スプラッタでは良い噂は立ちません。オカズになるだけです」
「ちゅっちゅはオカズにならんと申したか!」
「世の中にはちゅっちゅよりもアリスをハチの巣にしたがる奇人が大勢居るのですよ」
「アリス……喋ったことあんま無いけど、不憫なやつだな」
ハチの巣で済めば僥倖である。
「そんなことより『明羅さんちゅっちゅ☆いやんばかん、恥ずかしいよ! てぃひっ///』大作戦です」
「は?」
「復唱!!」
言うと、明羅さんは渋々
「明羅さんちゅっちゅ☆いやんばか……貴様ぁっ!! そこに直れッ!!」
「素直なあなたが大好きです。これからも純真で在り続けることを私めは祈っておりますよ」
「お前……私をからかって遊んでいるだろそうなんだろ」
「滅相もない」
私はブンブンと首を振った。
「疑念を晴らすという名目であなたとラブラブデートがしたいだけですよ」
キラリン、と歯を輝かせてみせる。
「……いや、歯にネギひっついてるから」
「しくじったし……過去の私は爆散するといいし」
注意すべきは青のりのみと思っていた時代が私にもありました。
「どーしてもデートがダメならここでちゅーしましょうよちゅー」
「うるさいなネギ」
オーバーリアクションが出来ない程凹んでしまった。所謂灰になるというやつである。
見れば、明羅さんは口許に握り拳を押し当て、くくっ、と笑っている。
「い、いや……すまんっ、くくくっ」
目尻に涙を湛え、必死に笑いを堪えている様を見ていると、なんというか。
胸がとくんと高鳴るわけだ。
私は明羅さんが大好きなわけだ。
「まったく、笑わせるなよ。このうつけが」
そう言って、左手をこっちに伸ばす。頬にでも触れるのか。そう思った瞬間。
ぴんっ、と。
私の額が弾かれた。
「期待しおってからに。私はそんな安い女じゃないぞ」
くくくっ、と彼女はおかしそうに笑い続ける。
酒なんて呑まねば良かった。ドキドキいっぱい胸一杯である。
とりあえず頬の赤みを隠そうと酒を呑み。
「オウフ」
くらりと反転、意識が闇へ落ちていく。
ぱちり、と目を開くとあきれ顔の明羅さんが目に入った。
「んぐぅ……」
酔い潰れるのは早いが、宿酔いしないのが私である。
意識も明瞭、彼女を見ただけでドキドキフルスロットルだ。
「いきなり潰れよってからに。驚いたぞ」
鼻を鳴らせば、甘い匂い。どうやら明羅さんの膝の上らしい。
「はっはっは、明羅さんがあまりにも好き過ぎて意識がとんでしまいました」
「阿呆が。これに懲りたら酒はもう少し控えるんだな」
それは困る。
「明羅さんとの晩酌が私の一番の楽しみなのです」
「知るか」
にべもない。そういえば、私たちは未だ縁側に居るようだ。
倒れていた時間はそう長くないらしく、瓶の中身は減っていない。
「そういえばお前」
「なんでしょうか」
首を傾げると、さも不思議そうに明羅さんが問う。
「お前が私を必死でデートに誘うなど珍しい。さっさと引き下がると思ったが」
「う……お気になさらず」
言うと、明羅さんがにんまりと口許を歪めた。
「さては何かあるな? ほれ、言ってみろ」
「お気になさらずッ!」
明羅さんにからかわれるのは苦手だ。
もちろん、嫌ではない。
頬を切るような風が吹き抜け、彼女の長い髪が僅かに揺れた。
酒で頬を染め、意地悪な笑みを浮かべている。
ああ、ああ。
「本当に、綺麗だなあ」
言うと、明羅さんはきょとんとして、やがて空を見上げた。
丸い月が出ているというのに、ふわりふわりと雪が降り出していた。
彼女はそれを見て、フッ、と表情を緩めてみせる。
「変なところで風流なやつめ」
綺麗というのは明羅さんの事を言ったのだが、まあ良い。
こういうのも、ロマンティックで悪くはない。
華美に過ぎる陽光よりも、静かで冷たい月の光が明羅さんにはよく映える。
凛とした顔立ちに混じる仄かなあたたかさは、私を捕らえて離さない。
「お慕い申しております」
「百年早い、未熟者」
真摯な言葉を鼻で笑われ、まあそれも悪くないと思う。
僅かに残る酔いの残滓が夢のような心地よさを運んでくれる。
折角のクリスマスデートがふいになってしまっても。
こんな一日を過ごせるならば、それも良いなと思った。
東方封魔録二面中ボス。
決して目立たず。決して強くなく。惚れた女性は振り向かない。
それでも私は、幸せだ。
この中ボスは勿論私なのでそこのところワンプリーズ。
明羅さんは私の嫁――にしたいけどふられる。
居候で片思い。そんな関係マイジャスティス。
与士口
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2009/12/23 10:10:23
更新日時:
2009/12/23 19:10:23
分類
明羅さん
そういう関係だからこそ、好きな人への愛が冷めないのでしょうね。
どうかお幸せに
マジでお願いします。
産廃。