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『The game 3』 作者: 名前がありません号
0.
稗田阿求はいつものように書をしたためていた。
そして今日の用件を終え、休もうとした矢先の事であった。
突如、何者かに背後から襲われ、布を口に押し付けられた。
意識が薄れる中、おぼろげな視界に移ったのは見知った人。
それは金髪の―――
はっ、と阿求が目覚めると其処は部屋だった。
紅魔館と同じ洋室だが、紅魔館ではないようだった。
なにしろ壁から何から、全て灰色なのだから。
燭台の蝋燭には火がついているが、それさえも灰色だ。
何がどうなっているか分からない。
ふと、部屋を見回すと壁には、見覚えのある人たちの肖像画。
そして、テーブルが一つある。
テーブルの上には一枚の紙と一つの箱。
裏返すと、文字が書かれていた。
「
稗田阿求。
君の記憶力を見込んで、ひとつゲームをしよう。
見てのとおり、この部屋には色がない。
色はそれぞれ、部屋にあるオブジェクトに封印されている。
このオブジェクトの封印された色を解放するには、箱に入っている“色見本”を使う必要がある。
そのオブジェクトに見合った“色見本”を使って、この部屋に色を取り戻せば、
この部屋の扉の鍵を、開けてあげよう。
なお、オブジェクトは君の記憶に関連する物だ。
君の記憶力ならば、全て分かるはずだ。
なお、“色見本”は全て使うわけではない。
そしてオブジェクトには必ず“ひっかけ”が一つ入っている。
また、間違った“色見本”を使った場合、残機が一つ減る。
九つある残機が全てなくなった段階で、君の負けだ。
オブジェクトの中にはひっかけもあるから、気をつけたまえ。
では、がんばってくれたまえ。
」
そういって、阿求は箱の中身を漁る。
中には、幻想郷中の人妖の名前が書かれた、色のついた長方形の板が入っていた。
恐らくコレが“色見本”なのだろう。
灰色の世界で唯一色を持つ事を許されているようだ。
そして阿求は肖像画を見る。
肖像画の下に、板を入れる窪みがある。
ここに色見本をはめ込め、という事か。
肖像画は全部で九つあった。
ともあれ、早くこの部屋から出るために、阿求はゲームを開始した。
1.
阿求は部屋中の絵を見て回った。
壁に掛けられた絵は全部で九。
肖像画には番号が振り分けられており、
肖像画の人物を、自身の記憶と照らし合わせると、
1.博霊霊夢
2.レミリア・スカーレット
3.十六夜咲夜
4.チルノ
5.魂魄妖夢
6.リリカ・プリズムリバー
7.風見幽香
8.アリス・マーガトロイド
9.霧雨魔理沙
となっていた。
対応する色見本を箱の中から探し出し、それを窪みに嵌めていく。
すると色見本を嵌めた絵が、色を取り戻していく。
あとはこれを自身の記憶に照らし合わせて、次々と色見本を嵌めていく。
そして風見幽香までを順調に終えて、阿求の手が止まった。
目の前の二つの肖像画を見比べる。
阿求の手にはアリスと魔理沙の色見本。
よく見ると、肖像画に描かれたアリスと魔理沙の絵には、
自身の記憶と食い違うものがあった。
それは、アリス・マーガトロイドの肖像画には三つ編みがあること。
そして、霧雨魔理沙の肖像画には三つ編みが無い。
それ以外の特徴は全て、自身の記憶と相当するものだ。
どちらが、どちらか。
阿求はしばし迷った後、勝気な表情のアリス・マーガトロイドに霧雨魔理沙の色見本をはめ込んだ。
アリス・マーガトロイドの肖像画がガタンッ、という音と共に落下すると、
大量の槍が、阿求の身体を貫いた。
阿求は突然の出来事に何も出来ないまま、息を引き取った。
2.
再び目覚めると、阿求は灰色の部屋にいた。
ただ、今度はオブジェクトが変更されていた。
肖像画は人形に変わっていた。
肖像画の台座には、色見本をはめる為の窪みがある。
やはり色は無い。
テーブルの上には紙と色見本の入った箱。
先ほどと要領は同じだ。
人形はやはり九体存在する。
さっきと同じ失敗は繰り返せない。
順調に成功させるが、また最後に二つ残った。
スターサファイアと蓬莱山輝夜。
しばし考えて、蓬莱山輝夜の人形に、蓬莱山輝夜の色見本をはめ込む。
ドゥンという音と共に、心臓を何かが貫通した。
よくよく見れば身長が違う事に気がついたのだが、既に手遅れであった。
3.
このゲームを考え付いた者は随分とひねくれている様だ。
私が一度見たものを忘れない事を知っているのだろう。
やはり先ほどとオブジェクトが変更されている。
今度は幻想郷の名のある人妖の衣装を来た人型が置かれている。
衣装にはご丁寧に、名札がつけられている。
阿求はしばし考えて、色見本をはめ込み始める。
そして残ったのは、まったく同じ巫女服。
博麗霊夢の巫女服だ。
服にはそれぞれ、霊夢1と霊夢2とついている。
阿求は1に赤の、2に青の色見本をそれぞれはめこんだ。
ぐしゃ。
阿求は何が起こったか察知する前に死んだ。
潰された事だけは理解した。
4.
バスンッ!
5.
バガンッ!
6.
ドキャッ!
7.
ズシャッ!
8.
ガオンッ!
9.
いよいよ残り最後の残機となった。
すでに精神は擦り切れて、疲弊しかかっていた。
しかし阿求は確信していた。
脱出できる確信を。
ここは最初の部屋と同じだ。
最初はミスをしたが、既に間違いは記憶してある。
阿求は迷う事無く、色見本を嵌めていく。
全ての肖像画に色が戻ると同時に、部屋全体に色が戻っていく。
それと同時に、扉の鍵が開く音がした。
阿求は扉に手をかけ、外へ出た。
目の前は真っ黒だった。
上も下も右も左も分からない。
出たはずの扉は無くなっている。
阿求は急に怖くなった。
頭の中からどんどん自分の記憶に靄が掛かっていく。
阿求は恐怖に覆われはじめる心を守る為、
そっと目を閉じた。
9.5
「駄目ね」
「なんという事だ……」
永琳の診断結果を聞いた慧音は、手で顔を覆った。
阿求宅に何者かが侵入し、阿求が襲われたと慧音が聞いたときには、
既に阿求は永遠亭に運びこまれ、ベッドの上であった。
「彼女は生きているわけでも、死ぬわけでもない状態になっているわ」
「不死ではないのか?」
「違うわ。不死といえども、時間は進む。精神も磨耗する。でも今の阿求は停止しているの」
「停止とは、すなわち何も動いていない状態。全てが停滞しているから、彼女に手の打ちようは無い」
「彼女から動こうとしないかぎり、永遠にね」
永琳の説明のとおりだとすれば、阿求から自発的に動かない限り、このままだ。
そして彼女が動く見込みは無い、と永琳は断定した。
鈴仙による精神波長検査を行った際、何の反応も返ってこなくなった故の、判断だった。
「くそ、またか……」
「この犯人の目的は何なのかしらね」
慧音の手に握られた紙。
そこには、「稗田阿求さんはゲームに敗北しました」と書かれていた。
色に満たされた部屋に一人の女性が入ってきた。
阿求を襲った、金髪の女性。
テーブルのメモを裏返す。
そこには阿求の見た内容と、一番下に強調して書かれた一文が追加されていた。
「部屋から出たら貴方の負け」と。
結論から言ってしまえば、阿求は自身の能力故に、再確認という行為を忘れていた。
ここでこのメモを確認していれば、彼女の運命は変わっていただろう。
しかし8度の死亡体験は彼女から判断力を奪っていた。
それゆえ、彼女はメモを見ることすらしなかった。
彼女は、自身の記憶に殺されたわけである。
金髪の女性は部屋を出る。
次のプレイヤーを招待するために。
※ ※
今回はこれでおしまい。
2よりも短くなりました。
途中、間を持たせる為に音声のみでお送りいたしました事、真に申し訳ございませんでした。
※わかりにくかったようなんであとがきだけこっそり加筆
名前がありません号
作品情報
作品集:
9
投稿日時:
2010/01/02 13:18:58
更新日時:
2010/01/05 11:04:21
分類
阿求