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『妖精爆弾』 作者: pnp

妖精爆弾

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/09 12:41:22 更新日時: 2010/01/30 14:49:52
 全ての切っ掛けは、幻想郷の住民達が妖精を見下し始めた事であった。
 死んでも復活する彼らは、その命を尊ばれなくなったのだ。
死ねども死ねども、まるで虫の如くに湧いて出る上に、虫には無い、人間同等の感情を、意志を、感覚を持つ。
そんな彼らが、日々の鬱憤を晴らすための道具に成り下がるのは、至極当然の事であると言える。
幻想郷が楽園と言えども、人間が満たされる事などまずない。全てが思い通りになったとしても、また新たな不満を見つけ出してしまうのだから。


 その日も、罪も無い妖精が、何人もの人間の餌食となった。
 正確に言えば、罪が全く無い、と言う訳ではない。ちょっとした悪戯――道に迷わせるとか、何も無い場所で転ばせるとか、その程度の罪なら度々犯す。
だが、これは所謂、自分達のアイデンティティであると、妖精らは信じている。故に止める事などできない。
しかし人間達は、この弱みに付け込み、彼らに必要以上の処罰を下し、楽しみ出したのである。
ある者は死ぬまで暴行を加えた。ある者は火炙りにした。ある者は水に沈めた。ある者は刀の試し斬りに用いた。
 人間に罪悪感などほとんどなかった。
何故なら彼らは死んでも生き返るからである。全く同じ姿で、前世とそう変わりの無い生活を営むからだ。
 人間達は、そんな都合のいい生物を殺し、甚振り、嬲り、楽しんだ。


 被害者である妖精達は、恐怖に震える生活を余儀なくされた。
何の悪戯もしていないのに殺された仲間も沢山いる。もはや隠れる以外に行動をとるのが自殺行為であった。
 だが次第に、隠れている妖精を探すように人間達が妖怪に依頼する事が頻発するようになった。
結果、妖精達に逃げ場はなくなってしまった。
定期的に、まるで義務か何かであるように、妖精達は殺されていく。
数は減らない。生まれ変わるからだ。
 生まれ変わった妖精に、仲間達はすぐに伝える。
「人間や妖怪は怖い奴らだ。何もしていないのに私達の命を奪おうとする。だから、決して近づいちゃいけない」
 生前――生まれ変わる前の記憶が残っていればまだ救いがあったのだが、生まれ変わった妖精達には記憶が無い。
だから人間や妖怪は恐ろしいものなのだと教えないと、本能の赴くままに人間達に悪戯を仕掛け、惨い方法で殺される。



 逃れる術など無いと悟った妖精達は、次第に嘆く事すらやめるようになった。
明日は我が身と、どうしようもない絶望感と虚しさの中で生きるようになった。
 そんな虚無的な生き方が妖精達を侵食し始めていた、その時であった。
ある妖精が声を上げた。
「どうせ死ぬなら、私はもっと抵抗する」
 光を失った幾つもの瞳が、その妖精の方へと向けられた。
「けど、どうやって抵抗するの? 私達はこんなに非力で、こんなに小さいのに」
「生き残るんじゃない。生き残れるなんて考えていない。ただ、抗いたいの」
 妖精は言った。
「刺し違えてでも、人間を殺してやる」



 声を上げた妖精は、その数日後、人間に捕まった。
捕まったと言うより、捕まえてくれと言わんばかりの、大々的な悪戯をやってのけたのだ。
 人里の商店に暴風を吹き込ませ、寝ている人間の鼻を摘み、畑の芋を引っこ抜いて齧って捨てた。
当然、人間は怒った。妖精の癖に、と。
 妖精を捕まえた人間はさあどう甚振ってやろうかと、舌なめずりをする。
これほどの大罪を犯したのだ。普通に殴る蹴るでは勿体無い。歴史に残るような、惨たらしいやり方で殺さなくてはと意気込んだ。
 だが、そう思った次の瞬間だった。
 妖精の体が爆発し、四散した。
妖精の細い腕を持っていた人間は爆発に巻き込まれ、右腕を失った。
 この様子を見ていた妖精が、この事を仲間に報告した。
あの妖精がどうやってあの爆発を巻き起こしたのか、全員で話し合った。
「それはきっと、弾幕の暴発だよ」
 比較的賢い妖精が言った。

 それから妖精達は、この爆発の研究を始めた。
どうすればいいのか。どうすれば人間に被害を与える事ができるのか。
何百、何千と言う妖精が集い、その方法を思案し、試そうとした。
 そして遂に、暴発の手法が確立された。
妖精はそれを大事にメモし、永遠に保存する事を妖精間で誓った。


 始めは捕まった時の悪あがきとして使っているだけであった。
 しかし、長期間にわたる恨みを晴らしたい妖精は、部隊を結成した。
人間にくっ付き、自爆し、致命傷を負わせる為の特攻部隊。
 志願制であったそれは、時を重ね、次第に妖精の義務と化した。



 死んでも復活する彼らは、その命を尊ばれなくなったのだ。
死ねども死ねども、まるで虫の如くに湧いて出る上に、虫には無い、人間同等の感情を、意志を、感覚を持つ。


 意志を持ち、かつ死を恐れぬ妖精達による『妖精爆弾』は、幻想郷を恐怖に陥れた。


*


 大妖精は一人、湖に映る月を眺めていた。
風で少しだけ水が波打ち、月が歪み、揺れた。
 そっと水の中に手を入れる。ひんやりとした感触が、手に与えられる。
まだ自分は生きているのだ、と大妖精は思った。そして数日後、妖精爆弾となってこの命が終わるのだ、とも思った。
 どうせまた生まれ変われると、仲間達は言った。
しかし、記憶は消えてしまう。全ての記憶が消えてしまう。
嬉しい事も悲しい事も、全部が、今まで自分達が受けてきた仕打ちへの仕返しの為に消し去られる。
何年も積み重ねてきた記憶は、人間を見つけ、近づき、爆死する僅か十数秒の間に無に帰すのである。
化石の様に残りもしない。歴史として書に刻まれる訳でもない。跡形も無く、消えるだけである。
覚えている者にとっては思い出となって残り、次第に風化していき、やがてやはり消えるのだろう。

「おーい」
 後ろから声がした。
大妖精が振り返ると、氷の妖精のチルノがいた。
「チルノちゃん」
 チルノは大妖精の横に座った。
そして、すぐに俯き、肩を落とした。
大妖精が今後どうなるか、チルノは知っているのである。
「いつだっけ」
 チルノが問うた。
大妖精は首を横に振り、答えた。
「正確には分からないけど、もうすぐ」
「そっか」
 再び二人とも沈黙し、重苦しい空気が二人の間に流れた。
こんな事、今まで一度も無かったと言うのに。
妖精はもっと、明るくて、享楽的で、すっ呆けてて――
自分達みたいなのが普通に生きていれている事が、幻想郷の平和を物語っているとまで思えていたのに。


 この静寂は破らなくてはいけないものだと、チルノは何か言葉を探した。
しかし、何を言えば良いのか、どう言えば大妖精が悲しまずに逝けるか、全く見当が付かなかった。
 すると暫くして、大妖精が視線を湖に向けたまま静かに言った。
「霧の異変、覚えてる?」
「え? う、うん! 勿論」
「吸血鬼が日光を遮る為に霧を出した。博麗の巫女がそれを阻止しに行った」
「そう、だね」
「花が咲き乱れた。チルノちゃんったら、花の妖怪や閻魔様にまで喧嘩を売りに行ってたね」
「うん」
 大妖精は静かに目を閉じた。
まるで、瞼に焼きついた一瞬一瞬の光景を見るかのように。
澄んだ水の中で、その流れに身を任せているかのように、穏やかな表情であった。
「でいだらぼっちを見たって大騒ぎして、地下へ潜った事もあった」
「暑くて大変だったなぁ」
「ああ、冬が明けない異変もあったね」
「あったね。あんまり長いからレティもおかしいって……」
 チルノがふと大妖精の方を見ると、大妖精は目を瞑ったまま涙を流していた。
あたふたとうろたえるチルノ。
「あ、ああ、あの」
「これ、全部消えちゃうんだ」
「え?」
「霧の異変も、花の異変も、大きな妖怪の影の事も、冬の異変も、それ以外も、全部」
 ボロボロと涙を零す大妖精の頭を、チルノは懸命に撫でた。
だが、涙は収まらない。
「死にたくない、死にたくないの。今までの思い出が全部消えちゃうって思うと、死にたくないの」
「――」
「お、おかしいよね、えへへ……死ぬのが怖くない妖精が考え出した『妖精爆弾』だった筈なのに、私は死ぬのがすごく怖いの」
 心臓が動いていれば。呼吸が出来れば。体が動けば。考える事ができれば。
それは生きている事と同じであった筈であった。
妖精は死んでもすぐに生まれ変わる。心臓が動く。呼吸が出来るようになる。体が動く。考えられる。
これは確実だ。生まれ変わらない妖精など、過去に前例が無い。
 それなのに、この死を恐れる傾向は一体何なのだろうか。

 チルノは、小さな体で、大妖精を精一杯抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫」
「チルノちゃん……!」
「大丈夫だから」
「うう……うあああ……」
 大妖精が泣き疲れて眠るまで、チルノは彼女を抱き続けた。
大妖精が眠ってからチルノは、そっと彼女を木陰に置き、その場を去った。
 どうしても言えなかった一言があった。
『死んでからは、全てを失う事を恐れていたこの時間すら、きっと覚えていない。だから、大丈夫だ』
 死にに行く友人に捧げる言葉としては、あまりにも残酷だと思えたからだ。



 泣き疲れて目を覚ました大妖精は、その日の昼、竹林で死んだ。
自爆する事さえできずに。

人間に踏み潰された。
一撃で逝く事は叶わなかった。
木の枝の様に細い骨はいとも簡単に砕かれた。
作り物であるかのような小さな可愛らしい臓器は、熟したトマトの様に踏み潰され、圧迫されて裂けた腹からその姿を覗かせた。
臓物特有の生臭さが死ぬ間際の大妖精の鼻腔を突いた。
大妖精にまだ息があることを、仲間の妖精は認識していた。だが誰も彼女に救いの手を差し伸べる事は無かった。
 四匹の妖精が自爆し、人間をしとめた。人間は死んだ。妖精達も死んだ。
だが大妖精だけは生きていた。自爆できなかったからだ。
ずりずりと地面を這って、大妖精は湖を目指した。
霞んでいく視界。荒くなっていく呼吸。意識は段々と朦朧としてくる。
 いろんな事を思い出そうとした。
霧。花。冬。物の怪。氷。妖精。
全てが断片的であった。
 進む先でかさかさと音がした。
大きな大きな影であった。
「あ、助けてくだ」

 言い切る前に、ぱぁんと銃声が鳴った。
大きなその音は、周囲に自生する竹を揺らした。
それと同時に、大妖精の頭が四散した。


*


 冬はレティがやってくる季節であるというのに、何とも晴れ晴れとしない気分で、チルノは過ごしていた。
それもその筈、遂にチルノにも、俗に言う徴兵令が下されたのだ。
近い将来、人間を殺す為に、チルノは自爆して死ぬ。その運命が決定付けられた。
 妖精達は、誰もがどうせ死んでしまうのだからと、他の妖精との接触をしなくなった。
どうせ儚く消えていくものでしかない。知識や記憶を溜め込むなど、馬鹿馬鹿しくてやっていられなくなったのだ。
 チルノは他の妖精に比べて、多くの記憶と知識をその脳に溜め込んでいた。
どれも捨てがたく、失いがたい、とても大事なものだ。
そして、いずれ全て捨てなくてはならない。失われてしまうものだ。
逃れる事などできない。

 大妖精の感じていた不安や悲壮や恐怖を、チルノは今になってひしひしと感じていた。
『死んでからは、全てを失う事を恐れていたこの時間すら、きっと覚えていない。だから、大丈夫だ』
 大妖精に掛けてやらなかったあの言葉。
掛けてやらなくて本当によかったと、チルノは心の底から思った。
何も大丈夫ではなかった。


 この記憶を永久に保存する方法はないものかと、チルノは思案した。
全ての記憶をコールドスリープさせておきたかった。
だが、記憶には形が無い。故にそんな事はできない。
 真昼間から日が暮れるまで考えて、結局思いついた方法は只一つ。
生き延びる事だ。
自爆で死なずに、人間に殺されずに生き続ける。
そうすれば、この記憶は護られる。
ずっとチルノの中にあり続ける。
 そして、生き延びるにはどうすれば良いかを考えた。
戦意の無い妖精は、仲間に殺されてしまう。
仲間の為に死ねない奴など、誰も必要としないのだ。
 つまりは人間や妖怪を殺しさえすれば、生き延びれるかもしれない。
チルノはそう考えた。
自身が強力な妖精であることを証明し、実力で人間、妖怪を殺しさえすれば――




 大空をすさまじい速度で飛んでいく天狗、射命丸文。
こんなご時勢でも、彼女は新聞記者としての仕事を全うしていた。
 妖精達の大反乱について、彼女は一度も新聞を書いた事がなかった。
書きたくないネタは、完全に無視する。これが彼女のポリシーである。
その身を賭して死んでいく妖精達にスポットライトを当てた所で、書く事など決まっている。
――彼女らの愚かさを嗤う、と言う内容だ。
 妖精を恐れて人間達の外出はめっきり減った。
しかし、こんな状態になって尚、人間は妖精を殺したがる。
恐れているのか、蔑んでいるのか、はっきりしない。
これだから人間は、と文は溜息を付いた。

 その時、地上から突如として氷柱が飛んできた。
見覚えのあるそれに、文は翼を止めた。
「チルノさん?」
「て、天狗! 私と勝負しろ!」
 何を言い出すのかと、文は困惑した。
チルノの瞳には、冗談の色など含まれていない。
妖精には珍しい殺気と、僅かな威圧感を、文は感じていた。
「何があったのです」
 文が平静を保ちつつ声を掛ける。
「私は、私は生き延びるんだ」
「は?」
 文の返答を待たず、チルノは攻撃を始めた。
 『妖精爆弾』としてでなくても、妖怪を倒せる事を証明すれば、きっと生き長らえる。
チルノはそう確信していた。
弱い相手ではダメだ。蛙なんて凍らせてるくらいじゃ、生き長らえない。
だから文を選んだ。
古参の妖怪である天狗なら、仲間にもその脅威が伝わる筈だと。
 しかし、文も妖精に敗北するほど弱くは無い。
向かってくるチルノに強風を叩きつける。
体の軽いチルノはいとも簡単に吹き飛ばされてしまう。
その隙に文が弾幕を叩き込む。
チルノに勝機など、まるで無かった。
「あなたに私は倒せません。諦めなさい」
「ううっ、まだまだ!」
「チルノさん」
 巨大な氷柱を手中に作り出し、チルノは文を殺そうと飛び掛る。
しかし、強い風に行く手を阻まれ、超高速の弾幕の餌食となってしまう。
それを繰り返した。何度も何度も。
 次第に、チルノの動きが鈍りだした。
挙句の果てには、立ち上がって、すぐに倒れてしまった。
リボンが取れ、服は破れ、体中に切創や擦り傷を作り、見るも無残な姿になっている。
「懲りましたか?」
「……だ」
「何度やっても同じですよ」
「嫌だ……」
「?」
「死にたく……ない……」
 残りカスのような気力をかき集めて作った氷柱は、あまりに小さかった。
血が混じって若干黒っぽく変色している。
「生きたい……生きたいんだ……私は、私は……!」
「チルノ――」
 文が言葉を掛けようとした瞬間、後ろから数体の妖精が飛んできた。
チルノが襲撃を受けていると勘違いし、攻撃を仕掛けてきた『妖精爆弾』達であった。
 素早くそれらをかわし、文はその場を後にした。



 チルノが目を覚ましたのは、いつもの妖精達のたまり場だった。
「あ、目ぇ覚ました」
「大丈夫?」
 数体の妖精がチルノが目を覚ました事に安堵した。
「危なかったね」
「私……負けたのね」
「もう、無茶しちゃダメだよ」
「そうそう」
 妖精達は微笑んでいた。
「もうすぐ爆弾になる身なんだから」
「そうそう」
「もうあなた一人の体じゃないんだから」
「そうそう」
「死なないでよ」
「そうそう」
「せめてバクシしてよね」
「そーそー」
「ムダジニなんてユルさないんだからね」
「そウそウ」

 チルノは体を起こした。
「嫌だ」
「?」
「嫌だよ、私は」
「何が?」
「『爆弾』になんてならない! 私は生きるんだ!」
「何を言っているの?」
 妖精達がギロリとチルノを睨み付けた。
まるでこの世のものではないものを見るかのような、冷ややかで、侮蔑を含んだ視線であった。
「今までだってみんな死んだんだよ」
「チルノだけ生き延びるなんてバカな話がある訳ないじゃん」
「なぁに? 妖精より人間が好きなの? 死んだ仲間達の事なんてどうでもいいんだ? へぇ」
「じゃあチルノなんて仲間じゃないね」
「死ぬ?」
「死のうか」
「うん。死のう」
「死ね」

 満場一致でチルノの処刑が決定されると同時に、チルノは遠慮なく目の前の妖精に氷柱を突き刺した。
小さな体に大きな径の氷柱が突き刺さり、刺し傷とは到底言えない程巨大な傷が出来上がる。
その穴からぼたぼたと臓物が零れ出てくる。
 周囲にいた何人もの妖精が、わぁっと束になってチルノに襲い掛かる。
傷ついた体に鞭を打ちつつ、チルノはその妖精の束に抗った。
 氷塊をぶつけて妖精の顔を潰した。
氷柱を投げつけて数体の妖精を串刺しにした。
柱状の氷で妖精を殴り殺し、巨大な雪玉で轢き殺し、氷の剣で斬り殺した。。
とてつもない冷気を発して妖精に極度の凍傷を負わせ、腐って脆くなった身に蹴りを食らわして壊した。
氷を纏って体当たりして体を粉々に粉砕した。
周囲は血と妖精の死体だらけになっていく。
 しかし、文との戦いで疲弊したチルノは、数に物を言わせた妖精達の攻撃を食い止め切れなかった。
一体の妖精が、遂にチルノにくっ付くことに成功した。
そして、その体を破裂させた。
「うぎゃあっ!」
 左目が機能を失った。左手と左足が動かせなくなった。
そもそも激痛の所為で、左半分は何も感じなくなっていた。
それもその筈、『妖精爆弾』の直撃を食らったチルノの体の左側面はなくなってしまったからだ。
 残った右手と右足で、チルノは地を這って逃げようとした。
「いやぁ、いやだぁ。しに、しにたぐない、いきだい、いぎだい、よぉっ」

 そっと、別の妖精がチルノに抱きついてきた。
その時、長い緑色の髪が、チルノの右目に映った。
 チルノは振り返ろうとしたが、妖精が自爆したので、それは叶わなかった。


*


 暗い洞穴の中で、リリーホワイトは震えていた。
おかしい、おかしい、おかしい、おかしい――
 仲間達がどんどん死んでいく光景を見て、リリーホワイトは耐え切れなくなったのだ。
おまけに仲間達も、自分に死を強いてくる。
こんな事は一度も無かったのに。
 ある日、突然人間が妖精を殺し始めた。
 人間を恐れる日々を送っていると、今度は妖精が人間を殺し始めた。
 自分も人間を殺さねばならぬ日が来ると怯えていると、今度は幻想郷中の者達が妖精を片っ端から殺し始めた。
 全てに恐怖しながら、リリーホワイトは生きている。
人や妖怪は勿論の事、野生動物や、虫、洞窟の天井から滴る水滴が水溜りに落ちた音すら恐怖の対象だ。
「どうしてこうなっちゃったの?」
 自問してみた。
リリーホワイトは殺されていないし、殺しても無い。
この幻想郷を包む混沌には何の関与もしていない。
だから、何も知りえなかった。


 ふと、外を見た。
雪がしんしんと降り注ぎ、幻想郷を白く染め上げている。
まるで、血みどろの幻想郷の赤を覆い隠そうと言わんばかりに、ただただ降り注いでいる。
 そこでリリーホワイトは、ふと思った。
今は、冬だ。
冬は死の季節だ。
だからみんな殺しているのだ。
死の季節が――冬が終われば、きっと幻想郷は元に戻る筈だ。
春さえ来れば、幻想郷は――
 雪が降っていようと、もう関係ない。
リリーホワイトは目一杯羽根を広げ、空へ飛び立った。
「春です!! 春をお伝えします!!」
 必死に叫んだ。
死の季節を――冬を終わらせようとした。
「春です!! 春ですよ!! 春――」
 そこで彼女の意識は途絶えた。
彼女の左胸を弾幕が貫いた事を、彼女は気付けないまま死んだ。





 『妖精爆弾』の恐怖に耐え切れなくなった人間、妖怪は、妖精の淘汰を行っていた。
『妖精爆弾』の原理を知る妖精を、一斉に皆殺しにするのである。
殺せば、記憶は初期化される。
『妖精爆弾』の原理を知る妖精がいなくなれば、妖精達にそれが教えられる事もなくなる。
特攻も終わる。
 ある日を開始日とし、それは幻想郷中で行われた。
 結果、『妖精爆弾』を知る妖精はいなくなった。


*


 射命丸文は、新聞のネタを探して幻想郷を飛び回っていた。
ある森に着地した時、彼女はあるものを見つけた。
「……」
 妖精の死体であった。
股から血を流している。白濁した液が体中に付着している。
人間の子種であろうと、文は推測した。
首にある痣から、死因は窒息死だと思われる。
 恐らく人間に犯され、殺されたのだろう。

「学習しないんですねぇ」

 溜息を付き、文はその場を後にした。
 淘汰すべきものを間違えたのかもしれない、と思った。
 こんばんは。昼間見た人はこんにちは。朝見た人はおはようございます。pnpです。

 Mr.Childrenの「HANABI」聞いてたら、ふと思いついた「妖精爆弾」と言う単語が全ての始まりです。
ギャグなんだかシリアスなんだか分かり辛い単語ですね。結果、シリアスでしたが。
 かなり軽い気持ちで書きました。
どれほど軽い気持ちかと言うと、「嫌われ姉妹」「かわいそうな魔理沙」くらいです。
なので、軽い気持ちでお楽しみください。
 グロいもの書くって宣言していましたが、グロいのは現在がんばって創作中です。
その息抜きにこれを書いた感じです。軽い気持ちで。

 なお、サニーミルクらは漫画読んでいないので登場しません。
リリーブラックは公式なものか分からないので書きませんでした。

 そう遠くない内に、次の投稿ができたらいいなと思います。
 ご観覧、ありがとうございました。

++++++++++++++++++++
>>1
少なくとも作中では繰り返してます。
故に私は心のどこかで、人間は同じ過ちを繰り返すもんだと思っているのでしょう。

>>2
みんながみんなそうじゃないかもしれませんが、きっとそうです。

>>3
どう言った訳かその発想はなかった。
私は人類を見くびっていたようです。

>>4
妖精ならやはりルナチャイルドがかわいいですよね。巻き髪が。
いや私は別に犯したくはないんですけど^^;

>>5
セルの声がが若本さんて事くらいしか分かりません。

>>6
私は死ぬのが嫌なので、なんでもはできません。
人怖いです。あんまりリアルでかかわりたくないです。

>>7
それはよかった。需要に答えれる事ができてよかったです。
ありがとうございます。

>>8
妖怪が跋扈する幻想郷では、人間は弱小生物っぽいですね。
で、妖精はその下をいくらしいですけど。

>>9
たまにはかっこいい射命丸も書きたいですよ。元が結構かっこいいですから。
まあ、基本的には被害者派なんですけど。

>>10
人間を虐殺するSSはあんまり書いたことないので分かりませんが、
見知らぬ人間が加害側なのは私もあまり好みません。今回は設定に用いただけなのでなんとかなりましたが。

>>11
崖から落としたところで、結局人間は妖精を殺すでしょう。

>>12
面白ければよかったです。
作品集2は自身最高のコメントを頂けた作品のある場所ですが、雰囲気はよく覚えていません。

>>13
人間の性だけものすごくどうしようもない気がするのは、自分が人間だからでしょうかね。

>>14
どう言った訳か大妖精はまとめ役の優等生キャラが染み付いているのです。不思議です。

>>15
外「の」のミスでしょうか。(違ったら申し訳ないです)
 人間が調子に乗るSS……相当胸糞悪い作品が出来上がりそうですね。

>>16
かっこいい発想ですね。参りました。

>>17
原作でリリーを初めて見た時は、可愛さより恐ろしさが先行しました。
うわ何こいつめっちゃ神々しい→ボスが虹川姉妹→あれ?^^;
デザイン的は大好きです。リリーホワイト。

>>18
やはりいろんな考えを持っている人がいるのですね。

>>19
途中からはそうなってしまっていますね。
ザンボット3は全然分かりません。

>>20
人間相手ならチルノはそのまま戦った方がよかったかもしれませんね。
妖怪が相手になってくると、チルノも弱者ですが。
 あんまり難しく考えなくても大丈夫ですよ。まったりと楽しんでください。

>>21
自己満足の為に人に迷惑をかけるのは止めていただきたいですよね。
成人式で暴れる人とか。

>>22
シャチも面白半分に命奪うんですか。すごいですね。
かわいい見た目しているのに。

>>23
こんなSSで勇気付けれたのなら、光栄です。
これからもよろしくお願いします。

>>24
それはよかったです。
 大妖精って名前が無いんですけど、「大ちゃん」って呼ぶと何か雰囲気壊れる気がしたので、
実はチルノが彼女の名を呼ばないようにしていました。

>>25
確かに、魔理沙には苦しい世界ですね、きっと。抵抗らしい抵抗もできないかもしれない。
優しいですね魔理沙。おおかわいい^^

>>26
聞いた事がない。すごく気になります。
 私はHANABIからこの作品を連想しました。あれってコードブルーの主題歌だったんですね……知らなかった。

>>27
お褒めの言葉、ありがとうございます。
視点の変化で作品の雰囲気や感じ方が変わってくるものなんですね。
pnp
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/09 12:41:22
更新日時:
2010/01/30 14:49:52
分類
大妖精
チルノ
リリーホワイト
シリアス
1/30三回目のコメント返しに成功。
1. 名無し ■2010/01/09 22:00:28
繰り返すんだろうなぁ……また
2. どっかのメンヘラ ■2010/01/09 22:05:42
本当にバカね・・・人間って
3. 名無し ■2010/01/09 23:12:25
なぁに、そこはずるがしこさと残虐性に定評のある人類。
今度は対策か予防法くらいは編み出しているはずさ。
4. ばいす ■2010/01/09 23:22:02
俺も妖精捕まえて犯したいなあ
5. だにお ■2010/01/09 23:27:00
栽培マンの自爆思い出したよ
6. 名無し ■2010/01/09 23:36:29
死んだと思えばなんでもできる!…はず
この世で一番怖いのは人間ですな
7. 名無し ■2010/01/10 00:54:00
最近シリアスが足りないと思ってたところなのでこれは嬉しいです
8. おたわ ■2010/01/10 03:07:50
死んでも蘇るという設定がこう生かされるとは
この世で一番怖いのは人間かも知れないけど、幻想郷においては所詮、人間なんて馬鹿で弱いゴミクズの集まりでしょうね
9. 名無し ■2010/01/10 09:39:32
その人間がいないと幻想郷は維持できないのがまたね
しかし久々にまともな(マスゴミじゃない)文を見た気がする
10. 名無し ■2010/01/10 10:14:32
罪の無い人間達が虐殺されるSS見ても何も思わないのに
人間達が他の種族殺すSS読むの殺意湧く不思議
11. 名無し ■2010/01/10 13:24:24
原作みたいに崖から落とそうとする悪戯とかをしないあたりで、
逆に人間から舐められるとは皮肉ですね。
12. 名無し ■2010/01/10 14:21:21
すごいなあ
面白いなあ
ここしばらくの投稿は、作品集2くらいの産廃の香りが戻ってきたみたいだ
13. 名無し ■2010/01/10 15:06:41
幻想郷に住んでる以上、妖怪も人間も妖精もお互いの性をそれぞれ受け入れるしかないわな
14. 名無し ■2010/01/10 15:21:14
大ちゃん……
15. johnnytirst ■2010/01/10 21:45:23
人間に外に力を与えたくなったSS…

どう変わるんでしょw
蹂躙されてしかるべき>妖精、妖怪
16. 名無し ■2010/01/10 22:30:19
人間はこれでいいんだよ。
後は、淘汰される時に泣き言を言わない潔さが必要なだけ。
17. 名無し ■2010/01/10 23:25:39
リリーが春を伝える理由が素敵だ。
リリーかわいいよ。
18. 名無し ■2010/01/11 06:28:06
※10と全く逆の自分が居る
19. 名無し ■2010/01/11 11:00:28
爆弾になる為に生まれてきたのか・・・て
ザンボット3にも人間爆弾てえげつないのがあったな
20. soobiya ■2010/01/12 01:11:08
チルノは生かしておいて戦わせた方が有用だということにも気づけなくなるとは……
自爆はあくまで最終手段。安易にやっちゃ非効率。多用をすりゃあ価値観狂るう。そして強要美しく非ず…
元々は欧b…、人間が悪いのにね。
それにしても、この纏まり様はもう一つの国。つまり、妖精帝k……っと、誰か来たみたい。

とにかく考えさせられる作品でした。
21. 名無し ■2010/01/12 04:31:10
快楽の為に他の命を奪う動物は人間だけだからなー
ほんとアホだよ…人間は…
22. 名無し ■2010/01/12 17:21:19
>>21
つシャチ
23. 名無し ■2010/01/13 01:49:24
最近人間失格ぎみな俺
でもこれ見たら生きる勇気がわいてきたよ!
24. ぐう ■2010/01/13 14:58:41
大ちゃんがチルノに泣きつくシーンで胸が痛くなった
25. 名無し ■2010/01/16 07:30:41
こんな殺伐とした世界じゃ魔理沙は生きられそうにないな
人海戦術で速攻ダルマにされそう
26. 名無し ■2010/01/21 09:56:23
このSSを読んでいる時、松田博幸の「悲しい時はいつも」が脳内再生された
既に上でも言ってるけど自殺攻撃を常套手段にした時点で詰んでるよなぁ…
27. マジックフレークス ■2010/01/22 23:43:47
発想が素敵だとか、人間妖精それぞれの種族の有り様を表現する手法が素晴らしすぎるとか色々と感動しながら一度読みました

そしてもう一度、今度は人間の側について(味方になって……なのかな)読み直させてもらいました
最初は客観視点から妖精達に同情的に読んだので、最後の文の言葉は染み入るものがありました
しかし、人間側につくとやはり感じ入り方が変わりますね。文の言葉も、人間が妖精を見下すように妖怪が人間を見下すような感じはありますし……
自分が相手よりも貴い者だという意識がある以上、悪行であれ善行であれ無関心であれ、行動そのものに対して差は無いのかも

妖精が悪戯する事をアイデンティティというのなら、もしかすると人間のアイデンティティは全ての生きとし生けるものと関係を持つことなのかも
捕食も戦争も駆逐も繁殖も保護も愛玩も利用もされていない生き物などこの世界には殆どいそうには無いでしょうから
28. あまぎ ■2013/07/31 02:47:14
すばらしい作品でした。
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