Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『白蓮の休日』 作者: 黒崎 文太
早朝。私は日の出よりもやや早い、瑠璃色の空を窓から見つつ目を覚ます。 まだ寝惚けている頭を起こすため、外に出て境内を歩いてみる。
苗から稲を植えて育てた小さな田も、今は収穫の季節を終えているため、土と小さな雑草しか見えない。
にわとりの鳴き声が聞こえる、まだ暗い方の空から烏天狗が飛んできた。 彼女は私に新聞を手渡し、東へと飛び去っていった。
犯罪・事件の記事が後を絶たないこの新聞だが、私の見る限り幻想郷はここまで荒れてはいない。 おそらく記事を面白く見せるための脚色だろう。
さて、私の軽い散歩も終わり、目もすっかり覚めたので本殿に戻ろう。 戸を開けると、ナズーリンが朝食を用意してくれていた。
れんこんの揚げ物がとても美味しそうだ。
たずねてみると、秋の神様が送ってくれた物だというそうだ。
星や一輪はまだ起きてこない様だ。
もう少し待って一緒に朝食を、と言ったのだが、彼女達が起きてくるのを待っていたら昼になってしまう、とぬえが腹を鳴らしていたので仕方がない。
一口一口、ナズーリンが心を込めて作った料理を味わう。
輪切りになったトマトと味のないチーズを一度に噛みしめると、「ジューシー」と「サッパリ」が合わさった、えも言われぬ調和が口内に広がった。
”モッツァレラチーズとトマトのサラダ”という、遠い国で生み出された料理だそうだ。
私達の知らない料理を次々と作るナズーリンには、宝探しと同じくらいの熱い情熱を料理に対しても持っているのだろう。
野草をふんだんに使った味噌汁も、濃過ぎず薄過ぎず、私の舌を満足させてくれる。
眼を横に移すと、ぬえが忙しくれんこんを頬張っていた。
前々から思っていたのだが、彼女はどうも食事の量が多いような気がする。
でも、彼女の細いボディラインは少しも崩れない。
初めて聞いたときは信じられなかったが、どうやらこの封獣ぬえという少女は、本物の「食べても太らない体質」であるようだ。
めったにないその体質は、私を含む体型を気にする女なら誰でも憧れるものであり、正直な話、少し妬ましい。
デザートだと言って、ナズーリンは台所から甘い香りのするチーズを持ってきた。
大きな皿に乗ったそのチーズは淡い桃色をしており、どうやら乾燥させて粉末状にしたイチゴを練り込んであるようだった。
乳牛を飼っている知り合いの農家と協力して、ナズーリンは色々な乳製品を作ってきた。
「母親の味を意識して作った」というそのチーズは、
我が侭で知られる紅魔館の主すら黙らせる、とても甘くて美味しそうな物だった。
ただ、ナズーリンには申し訳ないのだが、私は甘いものがちょっと苦手だった。
二十分ほどが経ったころだろうか。ふと食卓に影がさした。
人が立っていた。
はつらつとした声で挨拶をしてきたその少女は、かつて私と戦ったこともある博麗神社の巫女、霊夢だった。
今は冬であり、貧乏な彼女は食料が無くなるので、こうして知り合いの食卓に押しかけては食事をねだっているのだ。
もっと早く連絡してくれれば彼女の分も用意してやれたのだが、時既に遅く、食卓の料理はほぼ全てぬえの腹に収まってしまっていた。
自らの不備を省みず文句を言う霊夢だったが、無いものは無い。 私は丁重に追い返すため立ち上がろうとしたが、
「分かった、分かった」と言いながらナズーリンは霊夢に食器を差し出した。
残っていた星と一輪の分の朝食を霊夢に差し出したのだ。
へそを曲げていた彼女もそれを見て一気に表情を明るくした。
「やっぱり持つべき者は友達よね!」
にこにこと笑いながら、上機嫌で白飯を口に運ぶ霊夢。
とにかくこの霊夢という少女は態度が大きい。
しかし、それでいてどこか憎めない。 むしろ好感すら覚える。
これも霊夢の持つ魅力、いわゆるカリスマというものなのだろう。
もの珍しそうに霊夢はれんこんを見ていた。 どうもれんこんの穴が気になって仕方がないようだ。
理解に苦しむのも分からなくはない。 ある庄屋の息子はれんこんの穴を開ける職人がいるのではないかと思ったという逸話もある。
すこしの間まばたきも忘れてれんこんに見入っていた霊夢だったが、やがて考えることをやめたのか、バリバリと食べていった。
「すっかりお世話になっちゃったわね。 いつかお返しはするわよ」
りんごを台所から持ってきてかじりながら、霊夢はすまなそうに言った。
ナズーリンもぬえも苦笑していた。
いったいこの貧乏巫女がいつ「お返し」をするのか、と。
手を振って霊夢が出て行ったころには、日もすっかり高くなっていた。
いい天気だし、今日は私も外に出かけることにしよう。
留守番をナズーリンに任せ、私は命蓮寺から森の方へと歩いていった。
◆◆◆
星が右手の空から飛んできた。寅丸ではない。
はじけるように勢いよく広がるそれは、霧雨魔理沙の練習弾幕だった。
認めたつもりは無いが、彼女は私を同じ魔法使いとしてライバル視している。
新しいスペルカードの開発に余念の無い彼女だが、私はまず既に持っている技を完全に自分のものにする方が大事だと思う。
仕方がない。 「ライバル」として軽く揉んでやるとしよう。
手加減はしているつもりだが、スペルカードバトルは私が圧倒している。
「いい勝負だぜ、白蓮! さすがは私のライバルだ!」
多くのスペルカードを握り締め、魔理沙が突進してきた。
「だめですよ魔理沙さん、そんな練習不足の薄っぺらいスペルカードでは妖精にも通用しません」
台風の目のように、魔理沙の弾幕にはぽっかりと穴が空いていた。
「悪く思わないで下さい」
高速で穴から魔理沙に接近すると彼女は焦ってスペルカードを連発したが、どれも隙だらけだった。
頃合いを見計らって、一発の弾を撃ち込んだ。
「見ましたか魔理沙さん。 スペルカードはどんなに多彩な物よりも、鍛え抜いた一発が物をいうんですよ。」
たおれている彼女を起こし、魔理沙の練習の無意味さを説いてやった。
がっくりと、魔理沙は肩を落としてしまった。
さすがにちょっときつく言い過ぎたのだろうか?
「七色の魔法使いや七曜の魔女がいるから私もそれを真似すれば強くなれると思ったんだがな……ぶつぶつ」
「えっとですね、彼女達は鍛え抜いた一発を七つ持っているんですよ。魔理沙さんとは大違いですよ」
のの字を描いていた魔理沙が顔を上げた。
医者がカルテを見て病気の正体を推理するように考え込んでいた彼女だったが、やがて納得がいったらしく、破顔して私に礼を言った。
澱みが消えたようなその笑みを湛えたまま、魔理沙は新たな練習のためにと飛び去っていった。
子供のような妖精たちが、湖のほとりで遊んでいるのが見えた。
はねつきのように見えなくもないが、もっと本格的なゲームのようだった。
生まれつき暢気な性格をしている彼女達にしては珍しく、激しくこのゲームで盛り上がっていた。
命を削るように、全力で小さなボールを、植物を編んで作った羽子板を持って追いかけている。
「カットサーブを喰らえッ、大ちゃん!」
牙をむいて打った鋭い一撃が、大ちゃんと呼ばれた緑髪の妖精の立つ地面に叩きつけられた。
「強いわね、チルノちゃん……」
首を振り、大ちゃんと呼ばれた妖精は負けを認めたように試合場を出て行った。
苦しそうな様子をしている相手方の妖精だったが、汗を拭いて肩で息をしながらも得意顔で笑っていた。
と、妖精の一匹が私に気づき、声をかけてきた。
「もしかしてお姉ちゃん、わたし達といっしょに遊びたいの?」
しっぽを振ってなついてくる子犬のように、無邪気な笑顔を私に向けていた。
「なにをすればいいのかしら? この遊びは……」
「かんたんよ! このラケットを使って相手のコートにボールを叩きつければいいのよ!」
蔦で出来た「ラケット」を私に持たせ、妖精たちは私をコートに立たせ、「テニス」というそのゲームが始まった。
◆◆◆
星空が広がっていた。 この季節は日の入りが早いのだ。 先ほど
の「テニス」はどうやら外の世界からやってきた遊びだということで、私も
心から楽しむことが出来た。
「はやく帰らないと、ナズーリンに怒られてしまうわ」
こう見えても、私は彼女に頭が上がらないところがある。
話し方には素っ気ないところのあるナズーリンだが、命蓮寺の家事は半分以上彼女がおこなっている(ちなみに残りは主に村紗である)。
れっきとした「主」は私であり星なのだが、やはり一番働いている者に偉そうな態度はそう簡単にはとれない。
低空を急ぎ気味に、彼女達の待つ命蓮寺に向かって飛んでいった。
しばらく飛んでいると、不意に謎の影が私を追いかけてきた。
「まってよ〜!」
ついて来るその影を振り返ってみてみると、その正体は赤と青の瞳を持つ傘の妖怪、
多々良小傘だった。
。
「そんなに急いで何処に行くの?」
のぼりのように派手な傘を掲げたまま、小傘はその色違いの瞳を輝かせて尋ねてきた。
目と舌の付いたデザインの傘というのは、正直な話、私の感覚では少々受け入れづらい。
「はあ、私の家に帰るところですけど」
何か特別な出来事でもあるのかと期待していた(ように見えた)小傘だったが、私の目的が
物珍しくも何ともなかったと分かると、がっかりしたような表情になり、ため息を吐いた。
「もし良かったら一緒に行かない? ナズーリンが美味しいご飯を作ってくれるわ」
鬱蒼とした木々の上空でそう提案すると、小傘は喜んで賛成してくれた。
視界の端に人間の里が見えた。
提を越えたこちら側を流れる川、その上空で小さな物がパチパチと光っているのが見えた。
なにかと思って目を凝らすと、どうやら小さな機械がその光源であるようだった。
烏天狗――射命丸文――が、その機械を大事そうに扱っていた。
賊か何かのように、目をギラギラと光らせていた。
呪われているかのように、機械に集中していた。
ようやく我に帰った彼女は慌てて咳払いをし、私達のほうに飛んできた。
うって変わった清く正しい笑顔だった。
「にとりさんに頼んで調整してもらったんですよ、このカメラ! もう暗闇でもバッチリでして、これで夜の情事でも……」
光の速さで喋り始める射命丸に小傘は威圧されていたが、今の私達はこの烏天狗に付き合っていられるほど暇ではない。私は小傘の手
を取り、命蓮寺へと急いでいった。
失策だった。
いそいでいるからと無視されたためか、射命丸はムキになって私達を追い掛け回し始めた。
「鬱陶しそうにしないで下さいよ白蓮さん! この素晴らしさが分からない訳ないですよね!? 何ですか、その
『ろくでもない奴に会っちまった』みたいな目は!」
二十分ほどの間射命丸のマシンガントークを聞きながら進み、命蓮寺が見えてきた。 境内では村紗が手を振っていた。
笑顔で私達を出迎えてくれた。
「っと、小傘さんに文さんも来ているんですか。 今日は千客万来ですね」
たたみの敷き詰められた大広間に私達は案内された。
まるで紅魔館のパーティーのように、大勢の客が集まっていた。
「まあ、一体どうしてこんなにたくさん……。 霊夢さんまで……」
「次はアリスのところでお世話になろうと思ってたんだけど、追い返されちゃってね」
「聞きたいですね霊夢さん! あのアリスさんに追い返されるなんて一体何をしたんですか!?」
のしのしと霊夢に歩み寄って取材を試みる射命丸だったが、平手で張り倒された。
「世渡りが下手ですよ霊夢さん! それじゃアリスさんに嫌われても仕方ないですよ!」
貝を蒸した料理が私の興味をひいた。
かつて私が封印される前には見たことがあるが、海の無い幻想郷ではほとんど生息していない動物だ。
藍色の前掛けを着た狐の妖怪が私を見て微笑んでいた。 どうやら彼女が貝を持ってきて作ったようだ。
出所は彼女の主というところだろうか。 今は冬眠中のはずだが、外の世界から食べ物を持って来られるのは私の知る限り彼女しかいない。
手の込んだ料理だった。
この貝だけでなく、食卓に出ている料理の大半は集まってきた客が持ち寄ってきたもののようだ。
「なんとなく命蓮寺にやって来た」と言ってはいるが、はたして偶然でここまで賑やかな場が出来るだろうか?
くるりと部屋中を見回すと、星のあたりに料理と客たちが集まり、彼女に話しかけていた。
なるほど、このごろどうも気分が優れない彼女を励ますためにこの人妖たちは集まってきてくれたのだ。
つくり話であるのはほぼ間違いないが、そう考えると妙に納得がいき、私もこの夜を心から楽しもうという気分になれた。
タル入りの酒を持ってきた大鬼や薄い赤色の羽衣を着た女性と談笑しているうちに、夜が更けていった。
◆◆◆
星がいつもより輝いていた。
五十人近く集まっていた客のほとんどはそのまま居残り、一晩泊まっていくことになった。
めったに見られない彼女達の意外な側面が、入浴や就寝の様子から見て取れてちょっと面白い。 例えば、
「んん、白蓮さまの中、気持ち良すぎ……」
などといった下品な寝言を、純朴な少女として知られる早苗が呟いている。 正直、少し恥ずかしい。
さて、私もそろそろ眠るとしよう。 とは言っても、今日の客が(星や村紗も)大広間で雑魚寝しているので、自室に戻る気は起きなかった。
いっしょになってこの大広間で寝よう。今夜は皆とこの部屋で寝たほうが「温かさ」があって好きだ。
……おやすみなさい。
たまにはいつもと違ってほのぼの作品もいいのではと思い、平和な一日を書いてみました。
さて、SSには一人称で書くパターンと三人称で書くパターンがありますが、
私はよほどのことが無い限り一人称の方が書きやすいです。
むらさみなみつ大好き
私の中でムラサ船長は家事担当のイメージなのですが、
不思議とナズーリン達より目立たない印象があります。
ムラサの曲のイントロとサビはものすごく印象的で耳について離れないし、ムラサ自身も地味な感じは全く無いんですけどね。
黒崎 文太
http://otohime199.blog51.fc2.com/
- 作品情報
- 作品集:
- 10
- 投稿日時:
- 2010/01/14 14:54:26
- 更新日時:
- 2010/01/16 06:29:06
- 分類
- 白蓮
- 命蓮寺
- ほのぼの
- ねこ大好き
それはそうと、後書の4行目は要らないと思うんだ。
一粒で二度おいしいとはまさにこのこと
こんなに長いのはじめて見た
どうやって考えてるんだろう
すごいな、これwww
黒崎氏にとっての早苗さんとはいったい…