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『スネークレンマのテーマ』 作者: 大車輪

スネークレンマのテーマ

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/16 18:16:06 更新日時: 2010/01/17 03:23:16
レミリア=スカーレットが幸運を手に入れた最初の切欠は、皮肉にもある少女の悲惨な死であった。



「あ、レミリアさ〜ん! お久しぶりです」

人里の街路に元気な、溌剌とした声が響く。
振り返れば守矢神社の風祝、東風谷早苗がそこにいた。
どうやら彼女に呼び止められたらしい。

「こんな所で遭うなんて奇遇ですね。今日は咲夜さんと一緒にお買い物にでも?」
「そんなところね。最近雨が多くて外出出来なかったから、今日はその気晴らしに」

「そうだ、今この近くでお祭やっているんですよ。良かったら一緒に行きませんか?」
「いえ、悪いけど私はいいわ。遠慮する」
「でもレミリアさんてお祭とか好きなんでしょう? きっと楽しいですよ?」
「だけど人間のお祭なんでしょ? 妖怪の私が邪魔しちゃ悪いわよ」
「またまた〜、普段のレミリアさんならそんな事お構いなしの癖に〜」

レミリアは早苗の誘いを頑なに拒み続ける。
彼女の召使いであるところの十六夜咲夜は、主の鼻がヒクヒクと動くのを見逃してはいなかった。
すぐ傍には里で美味しいと評判の美味しい菓子屋がある。
その菓子の匂いが風に乗って来ているのだ。

聞くところによるとその菓子は大変な人気で、すぐに売れ切れてしまうのだとか。
ならば愚図愚図している暇などない。
レミリアは内心、かなり焦っている。
それが分からない様では紅魔館のメイド長とは言えない。

「私達のことは気にしないで。お嬢様は館に帰ってやらなきゃいけないことがあるのよ」
「そうですか。咲夜さんもそう言うのなら・・・」
「ごめんなさい。あなたはお祭、楽しんで行ってね」



そこに、一台の牛車がやって来た。
牛は街路の真ん中を悠然と歩み、行き交う人々は彼に道を譲る。
彼は突然『ブルルルルゥゥゥ』と唸り声を挙げた。
それに驚いた鳥達は、裸になった楓の枝から一斉に飛び立つ。
内、一匹が地面にポトリと糞を落とした。
そんなものを見て、早苗は狂った。


「神だ! 神だ! 神が泣いたぞ!!」

早苗は鳥の糞に駆け寄ると、周りの土ごとそれを掬い上げた。

「見たか!? 今、神が我々に語り掛けてくれたんだ!!」

糞の乗った掌を通行人達に突き出し、彼らに見せ付ける。

「信じられない!! 奇跡だ! 奇跡だ! 私は奇跡を体感しているんだ!!!」

しかし、彼女に同調してくれる者は誰もいなかった。

「奇跡だって? よく言うぜ。夢でも見ていたんだろう?」
「神様なんて、いる訳がねぇよ」

周りからそんな野次が飛ぶ。
早苗の顔は見る見る紅潮していき、あっと言う間に茹蛸のようになった。

「そんな馬鹿な、見てないとは言わせない! 確かに神は泣いた!
 分かるか? 我々の為に、人間の為に涙を流したんだ!!
 初めて神と心が通じ合ったのだ。我々は導かれたのだ!!!」

「嘘付け。きっと神を騙ったならず者に違いねぇ」

「何故だ? 何故分からぬ? 全てが許された。それが嬉しくないのか!?」


早苗の口から血が漏れた。
叫びすぎて喉が裂けたらしい。
それでも彼女の叫びは続く。
既にその声は少女のものではない。
まるで何か、恐ろしい獣にでも取り憑れているようだ。


「そうか、分かった。お前らは神はいないと言うのだな?
 目の前に神が降り立ったというのに、見て見ぬ振りをすると言うのだな?
 話にならぬ馬鹿共だ。
 それなら私一人で十分だ。天国には私一人で行く。
 貴様らは一生天罰に怯えて暮らすがいい!」


レミリアはその様子を見て、まるでツァラトゥストラの様だと思った。
一方、咲夜は少し変わっていて、まるで三島由紀夫の様だと考えた。



そして散々喚き散らした後、早苗は力尽きて死んだ。



「いつまで見ているのよ? 行きましょう」

主にそう言われて、咲夜は我に帰った。
不覚である。いつもの彼女なら決してこんな失態を演じたりはしない。
それほど東風谷早苗の死について悲観的に考えていたのだ。


「本当に、愚かな娘ね・・・」
レミリアの目から止め処なく涙が流れ落ちた。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




翌朝、幼いレミリア=スカーレットはこの悲惨な死のことを妹に包み隠さず話した。

「嘘よ」
「嘘じゃない。全部、昨日本当にあったことよ」
「信じない。お姉様は私を騙そうとしているんだわ」

「ああ、そう。だったら信じてくれなくても構わない。
 だけど、これだけは言わせて欲しい。
 私はあの場で、誰のことを考えていたと思う?」

「誰よ?」

「それはね・・・フラン、あなたのことよ」


「えっ・・・!!!
 ・・・・・・うぅぅ・・・あぁ、ぐぅ・・・
 あがぁぁぁぁぁ!!!! 痛い! 痛い! 痛いぃぃぃ!!!!!!!!!」

フランは堪らず腹を押さえて蹲った。


「あら? どうしたのかしら、フラン」
「お腹が痛いよ! 助けて! お姉様!」
「それは大変ね。とても苦しそう」
「早く、早く助けて! 私、このままだと死んじゃうよ!!!」
「だけど私は医者じゃないわ。可哀想だけど、死んで頂戴」
「そんな・・・酷いよ! お姉様」



「お嬢様、これはどういうことですか?」

いつの間にか、咲夜がそこにいた。
フランの尋常ならざるうめき声を聞いて駆け付けたのだろう。

「私は何もしていないわよ? フランが勝手に死のうとしているだけだわ」
「嘘よ! お姉様のせいよ! お姉様があんなこと言うから・・・」
「だってそれは信じないあなたが悪いんでしょ?」
「うるさい! あんたなんか姉じゃない! 私の代わりにあんたが死ねばいいのに!!」
「やれやれ、これがこの女の本性よ。呆れるわね」

暫くしてフランは完全に息をしなくなった。



「・・・お嬢様、あなたは妹様への愛が足りないです」
「おかしなことを言うね。私がフランを十分愛していたら、あいつは死なずに済んだとでも?」

「はい。お嬢様の愛さえあれば妹様も死なずに済みました」

咲夜にそんな事を言われては言い返す言葉もない。
仕方が無いのでレミリアは少し話を逸らすことにした。


「だけど、そもそも愛って何よ?」
「何と申し上げましょうか?」
「何から出来ている?」
「哀です」
「近い。でも、違う」
「私達には少し難しすぎる問題かも知れません。パチュリー様に聞きましょう」
「・・・そうね」

レミリアは本当はパチュリーに頼りたくは無かった。
彼女の知識を当てにする度に、思考する力を失うのではと心配しているからだ。
しかし今回ばかりはそうも言ってられない。
つい前日、あの少女が狂い死んだばかりだ。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




「パチェ、ここに愛は置いてあるかしら?」
「あるわよ。沢山」

パチュリーはボソリと呟いた。
目当ての物があまりに簡単に手に入りそうなので、レミリアも咲夜も拍子抜けした。

「レミィ、あなた愛が欲しいの?」
「欲しいんじゃないわ。必要なだけよ」
「一体誰の愛よ?」
「私の」
「誰の為の?」
「私の為の」
「我侭ね」
「そうじゃない。私にはそれを要求する当然の権利がある」

「まあ、いいわ。必要なら勝手に取って行って頂戴」

パチュリーはそう言った。
しかし愛なんてこの図書館のどこにも見当たらない。
あるのは本と埃とカビだけだ。

「どこにあるのよ? 沢山あるって言ったじゃない」
「あるわよ、ここに」

パチュリーが己の胸を指差している。

「あなたの胸の中にあるのかしら?」
「違うわ。私自身が愛なのよ」
「何ですって!? どういうこと?」
「私は、愛しているのよ」
「愛しているって、誰を?」
「馬鹿ね、私は『何か』を愛しているんじゃない。私は愛しているのよ」
「それはつまり・・・あなたはあらゆる全ての存在を愛して・・・」



「違うっ!!! 決してそうではない!
 何か対象がある訳ではない! しかし愛していないのでもない!
 最も純粋な意味よ!!!!」



2人はパチュリーが言っていることの意味に気が付いた。



「パチェ、あなた・・・もしかして病気、なの?」



「・・・そうよ。もしも医者の話を信じるのなら、私は末期の癌に侵されている」

「つまり、あなたは死ぬのね」
「ええ、もうすぐ」

「病気を治す術は?」
「無いわ」

「死なずに済む道は?」
「無い」

「助かる見込みは?」
「無いことは無い」


そしてレミリアは何も言わずにパチュリーの右の頬にキスをした。
続いて咲夜も反対側の頬にキスをする。
それだけで魔女の両目から大粒の涙が零れ出した。



「ねぇ、どこまでもあなた達に甘えるみたいで悪いけど・・・」
「いいのよ、パチェ。何でも言って頂戴」
「私に出来ることなら、何だっていたします」

「それじゃあ、魔理沙の所に行ってくれないかしら?」
「魔理沙ですか?」

「そうよ。嗚呼、愛しい魔理沙!
 彼女は私の太陽。将来を誓い合ったことさえある。
 ・・・でも、私には余りに眩し過ぎた」

「分かったわ魔理沙に伝えたいことがあるのね」

「ううん、今更あいつに何か言えるような権利は私にはない。
 ただ、確かめて欲しい。
 あいつはまだ、あの頃のまま・・・太陽のような奴だって」

「パチュリー様、あなたは・・・」


こうしてレミリアと咲夜、二人の短い旅が始まった。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




「お嬢様、決して私から離れないでくださいね」
「うん、大丈夫よ」

何とも都合の悪いことに、その日の天気は快晴。
吸血鬼にとって最大の天敵が空を支配していた。

こんな日の昼は咲夜がレミリアを守らなければならない。
何事も無ければ良いが、と咲夜は考えていた。



「ねえ! あんた達、ちょっとこっちに来てよ!」

2人は湖の真ん中で呼び止められた。
見下ろすと湖面に張った氷の上に、氷精がいた。

「何かしら? 私達は忙しいんだけど」
「良かったら、私の氷を買って行かない? 冷たいし、きっと気に入るわ」

氷精は『チルノのこおりや』と書かれた看板を掲げていた。
妖精の分際で商売を? そこに2人はとても驚いた。

「あら、素敵な氷屋さんね。でも何故あなたがそれを売らないといけないの?」
「私にはお金が必要なのよ」
「でもあなたは毎日寝て食って過ごすだけの妖精。お金なんて無くたって生きていけるわ」
「そうじゃない。私にとってもお金は大事なの。お金が無きゃ、生きていけないわ」

これが高度資本主義社会か。
咲夜は笑いを堪えるのに必死だった。

「ほら、今ならこんなに大きな氷がたったの120,000円よ」

氷精が自慢の商品を見せる。
西瓜の数倍はあるだろうか? 確かに大きい。

「でも、たかが氷が120,000円なんて、少し高すぎやしないかしら?」
「そんなこと無いわ。大きいだけじゃなくて手間隙かけて作った最高級品よ。
 これでも安すぎるくらいだわ」

氷精の言うことにも一理ある、レミリアは思った。
もしも今の自分に氷が必要だったなら、迷わず言い値で買っていただろう。
だが、どうしても買う気にはなれない。
買う必要がないからだ。

「残念だけど、興味が無いわ」
「だけど、氷は吸血鬼にも人間にも必要なものでしょ?」

やはり氷精の言っている事は正しい。
しかし今、この場で買う意味なんてどこにも無かった。


「頼むよ、10,000円に値引きするからさ」
「それでもやっぱりいらないわね」
「だ、だったら! 300円、300円でいいからさ!」
「え・・・?」

「ちょっと待ちなさいよ、そんなに安い値段で売っていいの?」
「本当は良くないわ。大赤字よ」
「ほら、それじゃあなたも困るじゃない」
「ううん、『損して得とれ』よ。次もあんた達が私の氷を買ってくれるなら、それでいい」

「ああ、そう」
遂にレミリアは氷と氷精に対する興味を完全に無くしてしまった。
後はもう、適当にあしらうことにした。


「確かにそれなら買ってやらないこともないけど、氷は一つしか無いのかしら?」
「え!? 一つじゃ足りないの?」
「だって『氷屋』って言うくらいなら、もっと沢山の氷が無いと。
 花を一本しか売ってない花屋なんて、ありえない」

「だけど私、氷は一つしか・・・」
「そう、じゃあいいわ。さようなら」
「あ、待ってよ! こうすればいいんでしょ!?」

客に逃げられると思った氷精は、ご自慢の氷を思い切り殴りつけた。
結果、無残にも氷は粉々に砕け散り無数の破片になった。

「氷は沢山になったわ。これなら買ってくれるんでしょう?」

予想通りの行動に、レミリアはほくそ笑む。

「いつ私が買うなんて言ったかしら?
 私はね、大きな氷が好きなのよ。そんなちゃちな氷、欲しくない」

「そ、そんな! ずるいわよ!!」
「ずるくないわ。あなたの商売が下手なだけ」
「何で、どうして・・・こんなにいい氷なのに・・・」

所詮、妖精は妖精だった。
自分の商売のどこが破綻しているのか、それが分かっていないらしい。


「今まで作った中で、一番いいものだったのに・・・
 みんな、私の氷は素晴らしいって、褒めてくれたのに・・・」

「じゃあね、さようなら。この、ice prostitute!(氷売り女)」




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




2人は魔理沙の住む森を歩いていた。
空を飛んだ方が早いのだが、森の中なら日光を避けられる。
咲夜にとっては当然の選択だ。

暫く歩くと、道は2つに分かれていた。

「どっちに曲がればいいのかしら?」
「魔理沙の家は左です。そこを曲がれば、もうすぐですよ」
「そう、それなら左に曲がりましょう」

しかしその時・・・
「待ちなさい! あなた達!!」

2人は再び呼び止められた。
今度出てきたのは夜雀の妖怪。
物陰に身を潜めていたのか、彼女が右の道から現れた。

「ここは通さないわよ!」

夜雀は鋭く睨みつけると、両手を大きく広げて通せん坊をした。
2人が通る予定の無い、右の道で。

「あら、私達は左に行こうとしているんだけど」
「嘘よ! 本当はこっちを通るつもりなんでしょう?」
「嘘じゃないわ。だってそっちに用はないんだし」
「信じない。誰だってこっちの道を選ぶに決まっているわ!」

夜雀は咲夜の言葉に耳を貸してくれない。
依然として両手を広げたまま微動だにしない。

「どうして私達がそっちに行くと思うの?」
「当たり前よ。だって、こっちの方がいい道だもの」


改めて2つの道を見比べる。

左の道は林道にしては良く舗装されている。
2人が通るには十分すぎるくらいの広さがあったし、邪魔な石や砂利なども取り除かれていた。
通行人が足を滑らせることが無いようにという配慮か、所々に手摺まで設置されている。
頭上の枝がよい日除けになって、散歩でもすれば気持ちが良さそうだ。

一方、右の道は酷い有様だ。
狭くて地面は所々凸凹しているし、真ん中に大きな水溜りまである。
脇から木の枝が飛び出していて、実に歩きにくそうだ。
木々のせいで昼なお暗い、獣道と言っても差し支えがない。

「右の道は、どこに続いているの?」
咲夜は言った。

「決まっているじゃない、家よ」
「家って、あなたの?」
「そうよ。私はここを通らないと家に帰れない。あなた達もそうでしょ?」


どうやら、これ以上彼女と話しても無駄のようだ。
それより早く魔理沙の家に行かなくては。

「それじゃ、私達はこっちの、左の道に行くわ。それでいいでしょ?」
「だ、駄目よ! 待ちなさい!」
「何よ?」
「どうせ違う道に行った振りをして、後で戻ってこっちを通るつもりでしょ!?」
「そんなつもりは無いわ。私達はそんなことはしない」
「嘘よ。この道は私の道よ! 誰にも通させない!!」

「これは困りましたね・・・」

何と言うことだろう?
通ってはいけないのは右だけの筈が、結局両方通行止めだ。
これには流石のレミリアも困ってしまった。

「ねえ、私達はここを通らなきゃいけないんだけど」
「駄目。来た道を帰りなさい」
「そんなに頭ごなしに言われたら何も生まれないじゃない。チャンスが欲しいわ」

すると夜雀は少し考えた後、こう言った。


「だったら、何か綺麗なものを頂戴」

「綺麗なものですって?」
「それもすっごく綺麗なもの。ちょっとやそっとじゃここは通さない」

「それならこれは・・・」

レミリアは胸に着けていたブローチを差し出した。
エメラルドやダイアモンドなど幾つもの宝石がついた、とても高価なものだ。
所々に細かい細工が施されており、非常に美しい。
殆どの人は、そんなものを貰えば喜んで跳び上がるだろう。


「駄目よ。そんなものじゃ私は満足しない」
「ああ、そう」

しかし夜雀は気に入ってくれなかったらしい。
ならば何を与えればよいのか?
今のブローチで駄目なら、2人の持っている他の宝石類も駄目だろう。
あれが最も高価なものだったのだ。

目に見えないものならどうかとも思ったが、そんな貴重なものをあげてしまう訳には行かない。
レミリアと咲夜は困ってしまった。

だが夜雀がエゴイストだということを考えれば、答えは案外簡単だった。


まずレミリアは足元に落ちていた石を5,6個ほど拾い上げた。
そして片手の掌の上でそれらを積み上げいてく。
そうして出来た小さな石の塔を、崩れぬように慎重に夜雀に渡す。
成功した。
石の塔は崩れることなくレミリアの掌から、夜雀の掌へと移動した。

すると夜雀は満足し、表情も弾ける様な笑顔に変わった。

「いいわ。通してあげる」


許された2人は足早にそこを通り抜ける。
いや、殆ど走っているといってもいいスピードだ。

何故なら2人は知っているからだ。
今日、価値があるものが何かなんて、明日にはもう変わってしまうことに。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




「魔理沙、いるかしら? いたら返事しなさいよ」

こうして2人は魔理沙の家に辿り着いた。
しかし、幾ら呼んでも魔理沙は出てこない。

「もしかして、留守なのではないでしょうか? 鍵も掛かっていますし」
「そんな筈はないわ。そんな筈はない」

レミリアは諦めずに魔理沙を呼び続ける。
それでも反応は一切返って来なかった。
こうなったら裏に回ってみようか、レミリアがそう考え出した頃・・・


「あれ? なんでしょう、これは?」

咲夜は植木鉢の裏に一枚の手紙が隠されているのに気が付いた。

「魔理沙の書置きか何かでしょうか?」
「だとすると、変よね。普通、書置きはそんな所に隠すみたいにして置かない」
「まあ、とりあえず読んで見ましょうよ。どれどれ・・・」



『私の家を訪ねて来てくれた人へ
 私の家を訪ねて来てくれて、ありがとう
 
 だけど、私はここにはいません
 何故なら私は出掛けているからです
 どうか、私がいないからって落胆しないで下さい
 おそらく私はすぐに帰ることでしょう
 それまで私が帰ってくるまで待つか、改めて出直してください
                             霧雨魔理沙より』



「・・・らしいです」
「つまり魔理沙は今、外出中なのね」
「すぐに戻ると書いてますが、どうします? ここで待つか、一度館に戻るか・・・」
「そうね、また改めて夜に出直すというのも・・・」


「あっ、お嬢様! 見てください、ここ!!」

そう叫んで咲夜は手紙の隅を指し示した。
よく見ると、そこに小さくこう書かれていた。



『もしあなたがこれを見たのが水曜日なら、それはとても残念な事です』



「・・・ねえ、咲夜。今日って何曜日だっけ?」
「・・・・・・・・・」

咲夜は答えなかった。
レミリアが答えを求めていないのは分かっていたし、彼女自身も途方に暮れていたからだ。



「これから・・・どうしましょうか?」
「何処かに道がある筈よ。希望だって、きっとある」
「ですが、私達のせいで魔理沙は・・・」
「ええ、私達には反省が必要よ」
「反省? 悔い改めることですか」

「いえ。私達は皆、覚醒せねば・・・」
「覚醒、ですか・・・」

2人は黙り込んでしまった。
自然と涙が零れる。
レミリアは自分達の置かれた境遇を大いに恨んだ。


しかし、咲夜はこう言った。
「あの・・・でしたら山は、どうでしょうか?」

「山、ですって!?」
「そうです! 山ですよ。私達には山があるではないですか」

「そうか! 山だ! 私達にはまだ、山があったんだ!!」






「あははははー! 待ちなさい、咲夜!」
「うふふふ。嫌ですわ、お嬢様。捕まえられるものなら、捕まえて御覧なさいな」

静かな森に陽気な声が響き渡る。
2人は追いかけっこをしていた。

やがて、レミリアが咲夜を捕まえる。
咲夜はバランスを失い、2人一緒に転げ回った。
立ち上がった後、泥にまみれたお互いの顔を見て高らかに笑った。

「今度はあなたが私を捕まえる番よ、咲夜」
「あら、私に出来るでしょうか?」
「命令よ、絶対に私を捕まえなさい」

レミリアは暫く咲夜に追いかけられた後、捕まった。
それから咲夜はレミリアを抱え上げ、森の中を歩く。
その後、今度はレミリアが咲夜を背負って森を走る。

広い森の、小さな広場の中に小さな泉を見つけた。
その傍らで2人は休憩がてら昼寝した。

レミリアがふざけて大きな菖蒲の葉で咲夜に目隠しをした。
暗闇の中、咲夜はレミリアの声に導かれる。
ボスン、と正面に柔らかい感触がした。
レミリアは咲夜にキスをして、そして目隠しを外してやってから、もう一度キスをした。



何を暢気なことを、と人は思うだろう。
しかし2人はそれで良かった。
何も怖く無かった。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




すっかり日が暮れた頃。
2人はようやく山の頂、守矢神社に辿り着いた。

「あっ、レミリアさん! お久しぶりです」

ちょうどこの神社の風祝、東風谷早苗が境内の掃除をしているところだった。

「レミリアさんがここに来るなんて、珍しいですね」
「ええ、そうかもしれないわね」
「咲夜さんも一緒で・・・参拝でしょうか?」
「ちょっと違うけど、八坂神奈子はいるかしら?」
「神奈子様ですか? はい、今は本殿にいらっしゃいますよ」
「そう、それは良かった」



本殿の中、客間に八坂神奈子は鎮座していた。
未来も絶望も、きっと全てここで終わる。
そう考えると2人は緊張してきた。

「吸血鬼とそのメイドが、私に何の用だい?」
「どうしてもあなたに伝えたい事があるのよ」
「それは今日じゃなきゃ駄目なのかい?」
「そうね。もう時間がないわ」
「一体どうしたって言うんだ?」


「実はね、私達・・・もうすぐ死ぬのよ」


「何だって!? それは本当か?」
「ええ、本当よ。どうやたって、避けられそうに無い」
「でも! 怖くは無いのか? この世から消えてしまうんだぞ!?」

「いいのよ。『その時』が来たら私は運命に従う」
「私も、お嬢様と運命を共にします」

そしてレミリアは咲夜の肩を抱き寄せる。
その姿がまるでジョン&ヨーコの様であったので、神奈子も安心した。

「だけど、一つお願いがあるのよ」
「・・・分かった。力になれるかは分からないが、やってみよう」

そう言って神奈子が部屋を出て行った。



・・・・・・・・・・・・



一時間ほど経過した。

「来ませんね」
「そうね。何かおかしいわ」

神奈子はまだ戻ってこない。
どこに行ったのだろう?
いくらなんでも遅すぎる。
遂に痺れを切らした2人は、行儀が悪いとは知りつつも神奈子を探し始めた。

「誰か! 誰かいるの!?」
「誰もいませんね」
「変ね。ここには神がもう一柱と、あの風祝がいる筈なのに」
「そうですね、もしかしたら・・・お嬢様! これは!?」

その部屋のふすまを開けて、咲夜は驚いた。

「どうしたの!? 何があった!?」
「お、お嬢様・・・見て下さい」



薄暗い部屋の真ん中で、東風谷早苗が首を吊って死んでいた。

死に際の彼女が垂らしたのか、床にカナダドライが水溜りを作っている。
糞尿の悪臭が鼻についた。



「何故、どうして早苗は死んでしまったのでしょうか?」
「待って、何か紙がある」
「もしかして、遺書ですか?」
「分からない。でも読んでみる価値はありそうね」

その内容は、要約するなら以下の通りであった。



『4×5×5÷2−4×2×2×3=2』



勿論、それだけが書かれていた訳ではない。
計算順序を変え、パラメータを変え、何度も検算した跡がある。
余程無念だったのだろう。
一番下、最後の検算においてイコールで結ばれた2などは泣き出していた。



「お嬢様・・・」
「まだよ。まだ、何も終わっていない」

全ては振り出しに戻った。
これから何が起こるかなんて、今の2人には想像も付かない。
ただ、全く収穫が無かったとも言い切れない。
レミリアの言う通り、まだ何も終わっていないのだから。
強い覚悟を胸に、2人は神社を後にした。




−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−*−




もう辺りはすっかり暗い。
夜の不思議が世界を包む。
この時間はレミリアが咲夜を守らなければならない。
何事も無ければ良いが、とレミリアは考えていた。


「もしもし。そこの人、少しいいでしょうか?」

麓も近くなってきた所で、またしても2人は呼び止められた。
現れたのは雪の様に白い髪の、狼の少女だ。

「あの、このお地蔵様の頭を知りませんか?」

狼の少女が指差した先に7体の地蔵がいた。
その内、1体には頭が無い。

「早くお地蔵様の頭を見つけないと、私は怒られてしまうんです」

そう言いながらも、少女は地蔵の近くの草むらを必死に探している。
既に彼女がとても長い時間、地蔵の頭を探していることは容易に想像付く。
袖や裾が泥で非常に汚れているからだ。
だったら、そんな所はとっくに探しているだろうに。

「ああ、どこだろう? どこにあるのだろう?」

咲夜は、レミリアの口元が僅かに歪んでいるのを見た。
笑いを噛み殺すのに必死なのだろう。
咲夜自身も、少しでも油断すれば噴出してしまいそうだった。



諸兄等も、もしもこの場にいれば笑いを堪えるのには苦労する筈だ。
その地蔵には初めから頭なんて無い。
そんなことは一目で分かるからだ。                  □
本気で意味の無い話を作ろうと思って書きました。
学が無いのを曝け出す様で、少し心苦しい
大車輪
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/16 18:16:06
更新日時:
2010/01/17 03:23:16
分類
レミ咲
1. 名無し ■2010/01/17 04:58:09
意味がないこともない。卑下するな
最後まで読んでしまったからなチクショウ
2. 名無し ■2010/01/17 09:06:55
娯楽に意味を求める必要なんてないだろ
求めたい奴がいるとすればそれを作った人間くらいだ
3. 名無し ■2010/01/17 12:42:03
え?ひょっとしてナポリタン?
4. 名無し ■2010/01/18 00:46:02
物語は意味より目的の方が大事な時もある
5. Explorer ■2010/01/18 14:54:52
これぞナンセンス
6. 暇簗山脈 ■2010/01/24 00:56:22
早苗がいい感じにフリーダム
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