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『依存する舟幽霊』 作者: おたわ

依存する舟幽霊

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/16 19:55:54 更新日時: 2010/01/21 01:30:59
ゴクゴクゴク

飲む。

ゴクゴクゴク

ただひたすらに飲む。

ゴクゴクゴクゴクゴク

溺れる様に飲む。

「ぷはぁっ」

何秒もの間、私は酒瓶に口を付けていただろうか。
元々よく海で泳いでいたので肺活量に自信がある私だが、その私が苦しくなるほどの長い間、とり憑かれたかの様に酒瓶と長い接吻を交わしていた。
別に特別お酒が好きな訳ではないし得意な訳でもない。だが今の私にはお酒しか頼れるものがないのだ。
飲む、飲む、お酒を飲む。穢れ無き体に穢れた地上のお酒が入ってくる。気持ち悪い、でも飲まなきゃ。
ああ、お腹がタプタプする、気分が悪い、頭が痛い、フラフラする、頭が痛い、めまいがする、吐き気がする、気分が悪い、ろれつが回らない、気分悪い気分悪い……
それでも、



ゴクゴクゴク

飲む。

ゴクゴクゴク

我を忘れて飲む。

ゴクゴクゴクゴクゴク

堕ちる様に飲む。

「うっ、おぅぇぇぇ……」

ビチャビチャビジャビヂィィィ

ポロロッカの様に逆流する汚泥を、ゴミ箱に向かって吐き付ける。口の中に微かに残る苦い味、酒独特の苦みだ。
体内の酒色の穢れを嘔吐という形で洗浄する。こうして私の体からは穢れが抜け、また生温かいピンク色を取り戻した。
だが、体から穢れ――お酒が抜けた途端、急に目の前が暗転していく。暗い、暗い、狭隘の狭間に、自分一人が取り残されていく、そんな恐怖に襲われる。
ああ、お酒、お酒を飲まないと、お酒、お酒、酒、酒、ああ、お酒を、飲ま、ない、と。

「おざけっ! おざけっ! うああぁぁ、おざけぇぇ」

グシャ、パリン、ガシャリ、ガシャン

部屋のそこらそこらに散らばっているガラスの破片を踏みつけ、自らの嘔吐物を踏みつけ、渇望に塗れた両手を振り回しながら、部屋を暴れるように徘徊する。
足が血塗れだ。だが、気にする事はない、私にとって赤色は今や刺激の薄い色なのだ。刺激を求め、自分すらも塗り潰される前に、酒色をただただ求めているのだ。
私はこの部屋を徘徊するだけでなく、俯け、仰向けで、時には宙に浮きながら、駄々をこねる子供の様にジタバタと暴れ回る事がある。おかげで体中傷だらけだ。
しかし安心するといい。私はガラスを踏みつける等の痛み、蚊が刺したほどにしか感じない……まあ、正直言えば、歩くたび少し痛いのだがね。
でもその痛みも欲望には叶わない。私の欲望は強いのだ、それは殊の外強いのだ。だから私はお酒を求める事を止めない。

「みっ、見つけた。うふふふふ、ふふ」

ようやく見つけた、酒瓶を。待望の酒瓶だ、逃してたまるものか、そろり、そろり、虫を捕まえる時の様に慎重に、一歩、一歩、着実に前へ。
私は猛獣ではなく、元々は人間なのだが、野生の本能という奴が私の脳内にも生きていたのだろうか、獲物を仕留める虎の様に射程範囲内に入った酒瓶へ身構えると、私は飛び付いた。
酒瓶は本来逃げない。当たり前だ、だって動かない。だが、私の精神は困憊しきっていたのだろうか、酒瓶が逃げる様な、急に足でも生えて私の傍から離れて行く様な、そんな錯覚に襲われたのだ。だから私は確実に仕留めた、まるで私は酒瓶の猟師だった。
そうして手に入れた念願のお酒、ビンを開けると酒独特の味わいを楽しむ事もなく――正確には余裕がないのだ――酒瓶と熱い接吻を交わし、その酒瓶を私と垂直に交らわせる様に、思いっきり上へと掲げた。

ゴクゴク、ゴクゴク、ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク

満たされない欲求を、少しでも満ちた状態に近づけようと、狂ったように、気違いの様に、体の水分を酒色に変えていく。
先程も言ったが、私は酒豪という訳ではない。むしろお酒には強くないくらいだ――妖怪基準で強くないだけであって、人間基準では強いと言える――。なら何故お酒を飲むか、簡単だ。お酒は逃げ道、唯一の光明。暗い洞窟から私を色が生きる世界に導いてくれる、唯一の存在。
しかし何故、私は色を失い、お酒という逃げ道に頼っているのか。ああ、思い出したくもない、忌々しい記憶がフラッシュバックする。あれが無ければ私はここまで墜落しなかった筈なのに。

苦虫を噛みしめる様な表情で私は前を向いた。するとそこには真っ黒な世界と、無数の細長い白と、飛び散る赤と、酒色だけが残されていた。他の色は死んだ様に消えていた。私の中の焦慮の心が私のお尻をガンと蹴る。そして引いていく血の気、取り残される、塗り潰される、死ぬ。底しれず湧いて来る気味の悪い不安。
逃げる、逃げる、漆黒の深淵から這い上がる様に、逃げる、4色の内、酒色を手にとって、ひたすら飲む、ひたすら掻き込む。

ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴククゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴククゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴククゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴククゴクゴクゴクゴク       
        
「ふはあぁぁっ! うぐぐぐぅ……」

意識が途切れるくらい、飲みに飲みに飲みに飲んだ。お腹が妊娠したかの様に大きくポッコリと膨らんでいる。その事実に気が付いた瞬間、まるで殴られているかの様な重く鈍い腹痛が遅れて私を襲った。
痛い、痛い、痛い痛い痛い! じたばたじたばた、私はお腹を押さえて跳ねるボールの様に転がり回る。腹をかっ裂いて中のお酒を取り除いた方がまだマシかと思われるほどの痛みが私を地獄に誘う。
しかしまた目の前が次第ブラックアウトしてきた、でもお酒はもう飲めない、でも目の前の色はそんな私を嫌らしく嘲笑うかの様に徐々に、徐々に消えていく。残されしは4色。その内、白が消えた、赤が消えた。そして――最後の頼みの綱、酒色すらも消えかけている。
酒色が消えたら私に残るは蠢く事すら無い不動の真っ暗闇のみ、そうなれば私は未来永劫、光という光を浴びる事はないだろう。しかし、不自然なほど濃く黒い暗黒がもうそこまで迫っている。
考える余地など残っていない、後先など知ったこっちゃない、限界のお腹を更に酒色に染める、それ以外の選択肢など私に残されていないのだ。



ゴクリ

痛い。

ゴクリ

苦しい。

ゴク、リ

死……

ゴ、ク……

ああ、駄目だ。もう、飲めない。もう入らない。私の小さな体の限界の5割増しは飲んだと思われるお酒は、体中を巡り、手足に五臓六腑に脳にetc.なにもかもの、血管を流れる熱く赤黒い血潮を酒色に塗り替えていった。それでも私は、なおお酒を欲する。欲しなくなったら最後、自分の人格が異質のものに更新されてしまうかも知れないから。異質の仮面で顔全体を覆い隠され、何もかもを識別できなくなるのはごめんだ。
ただ、だからと言ってこのままお酒を飲み続けて体を爆発させるのも、ごめんだ。
斯くなる上は、



グアァァアン!

自らのお腹を、自らの手で創りだした碇で、思いっきりぶん殴ってやった。
当然、腹部には猛烈な痛みが走る。それと共にお腹に入った強打と揺さぶりによる強烈な吐き気も起こる。これが狙いだ。

「ぐぎゃっ、うげぇっ、げぇぇぁ……」

ビジャアアアァァァ、ビチビチビチ、ビチ、ビチャァ

胃の中に溢れかえっていた酒色の液体を、ゴミ箱や紙袋の中でもない、塵が散乱したデコボコとした床に、なにふり構わず吐き付ける。地味ながらも華やかだった花柄の装飾の床は醜く汚らしい薄茶色に染まってしまっていた。
胃の中に入っていた8割は一気に吐いたと思われた。喉が痛い、最近はこういう事を繰り返しているから、胃酸が逆流する度に喉が傷付いているのだろうか。それとも単に、吐き続けたり奇声をしょっちゅう発する為に喉が傷付いているのだろうか。
ま、そんな喉の痛みや原因みたいな些細な事を気にしている時間があらば、酒を飲む事だけを考えた方が今の私には建設的だろう。今の私の生活の100%は酒でできていると言っても、もはや過言ではないのだから。現に、目の前に広がる汚泥の海は、近くに居るだけで酔ってしまいそうな程アルコールの鼻を突く強い刺激臭が臭っていて、未消化の不純物などは見当たらず、嘔吐物と認識するには余りにもサラサラとしていて、自分が此処の所お酒以外を口にしていないのがよく分かる。
体に悪い? 私を誰だと思っている、幽霊だ。もう死んでいるのだから体など気遣う必要性がない。それに、さっきも言ったのだが、体を気遣うなら、お酒を飲んだ方がよっぽどいいと感じられたのだ。

「っづ、ぐぅ、あぅぁ……」

お腹が痛い。しかし同じ腹痛とはいえ、痛みの類は違う。私のお腹を内側から殴る拳は酒色と共に外に出たが、今度は外側から殴りつけてくる。どちらにしろ、痛いには変わりないが。そうだ、痛いに変わりないのだからこんな事考えなくてもいいのだ。でもお酒が飲めない今、何かを考えて無いと、不安で不安で、またあの顔が浮かんでくる様で、それを見せない様に真っ黒な思考が流れ込んできて、また目の前が黒くなって、意識するから駄目だと分かっていても意識してしまって、不安で、不安で。
私があそこで止めておけば、こうはならなかった。雲山という頼もしいお供がいるのだからと、安心してしまった私が馬鹿だった。山にそんな少数で攻め込む事が自殺行為そのものだったのだ。ナズーリンの件で私も妖怪の山に怒りを抱いていたのが背中を押し、「頑張って」と言い送り込んでしまった。そのナズーリンの件も私が止めておけば……
だが後悔したで友人は帰って来ない。
想起する、満面の笑顔の一輪……あの笑顔は、帰って来ない。そう思った瞬間、その一輪の笑顔がぐにゃりと、潰れていって、更に潰れていって、そしてぐちゃぐちゃになったパーツが陰りを見せながら再構築されていって、怨嗟に溢れ冷酷な目で私を睨み笑顔の欠片など一つの残っていない一輪が、まさに目の前にいるかの様に、薄暗い私の部屋の暗がりにぼぅっと現れた様に見えた。

「あ、うああぁ、あああ! あああぁぁああぁぁああ!!」

皮肉な事に、幽霊の私はその幻象の顔に脅えてしまって、腰が抜けてしまった。濃い暗闇の中で、鮮明に写り私を睨んでくる一輪、それは恐怖に他ならない。幻象と分かり切っていても、尚湧いてくる恐怖に、私はお酒への依存を更に強くさせる。
腰が抜けてうまく動かない体を、ぬめった床の上で芋虫の様に必死に這いずり回らせて、お酒を求める。
どこだ、お酒、どこだ、お酒、どこなんだ、どこだ、どこ、どこ、酒、ぎぎぎ、酒、酒、どこ! どこ! お酒! お酒!!

「うわああああああああああああああああああ、いやあああああああああああああああああああ!!!」

お酒が見つからない。見つからない不安を少しでも紛らわせようと喉が爛れるくらいの大声を響かせる。お酒は今の私にとっての全て、それが無い事は死に値するといっても特段間違いではない。



ぎぃ

久しぶりに扉の開く音を聞いた。しかし今の私は来客など構っている暇はない。狂乱状態でただただ叫ぶ。狂人と言われ様と、変人といわれ様と、延命の為なら仕方ないのだ。

「うあああああああああああああああ! うぎぁぁああああぁ! ああああああああ!」
「ム、ムラサ、私、私だよ、分かる……?」
「うるさい! うるさい! お酒、お酒、お酒、ああああああ、お酒持って来てっ!!」
「いや、あそこ、ほら、あそこにあるけれど、でも、もう夜中だよ、いい加減静かにした方がいいよ、ねえ、ムラ……」
「ああああああもおおおおおおお!! うるさいのおおお、静かに、静かにしてよっ! ねえ!」

誰かと思えばぬえだ、鬱陶しい。目の前が霧に覆われた様に掠れ、更には二重にも三重にもぶれて見える劣悪な視界では、相手を識別するのに苦労するのだが、こいつの場合は特徴的なパーツが多いので容易く識別できる。
しかしお酒の在り処を教えて貰った点では少し感謝するべきか、仕方が無いので感謝の印に私の邪魔をした事に対する怒りを消してやる。
そして、「もう来るなよ」と言わんばかりにドアを乱暴に閉めてやった。
さあ、邪魔者は消えた、お酒をがっしりと掴んだ、舞台は整った。後は、私を、そろそろ解放してやって下さい……


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「ムラ、サ……」

ぬえは変わり果てた友人の姿を見て、ただただ悲しくなって閉じられた扉の前に棒立ちしていた。部屋からは度々奇声が聞こえる。
ぬえには何故、あそこまでムラサが豹変したのかが分からなかった。
確かにナズーリンや一輪の謎の不幸があった、しかしムラサは荒事の多い地底で過ごして来た為、友人の死というのは見慣れた光景であった。尤も、昔は妖怪「ムラサ」として大勢の人を溺死させてきた訳なのだが。
ぬえは悩む、聖と再び出会った事で変わったのか、それともその二人の死とは関係ない要因なのか、もしくは、

その二人の死に間接的にでも関与したか。


昔から彼女は自分の責任をとことん追求する性格だった。その線も考えられる。
痛む心を抱えながらも、うーんと唸るぬえに対し、通り掛かった星が声をかけた。

「ぬえ、夜中ですよ。まだ寝てなかったのですね。まだ寺に入門する前の習慣が消えてないのですか?」
「あ、星。深夜の廊下で声かけられたから、驚いちゃったよ」

ぬえは妖怪の私が深夜という理由で驚くのは変だけどね、と頭を掻きながら、星にこう聞く。

「ねえ、あのムラサ、ほおっといていいの? 明らかにおかしいよ、どうしてああなったか大元も掴めないし、永遠亭に連れて行った方がいいんじゃないのかな……」
「どの道、放置するしかムラサを治す方法は無いのですよ。
 ムラサは今、何らかの理由により極限の恐怖と不安を抱えています。その為、お酒に依存してそれから逃げようというのです。
 だから治すにはまずお酒への依存を止めさせる必要があります。だから仮に永遠亭に連れて行っても、精神患者としてお酒の無いところに隔離されるでしょう。
 だったら、ここでお酒を摂るのを止めさせても同じ事なのですから、わざわざ永遠亭に連れて行く事もないでしょう」
「うーん、大丈夫かなぁ」

ちょっと不安げにぬえがこう答えると、星も不安げにこう言う。

「大丈夫、とは言い切れないですけど、こうするしかありません。
 ところで、ムラサの部屋にお酒はどのくらい残っていました?」
「えっとね、あと2、3本かな。あと少しで無くなりそうだね」
「ふむ、それでは急いで寺中のお酒を処分して下さい」
「ムラサからお酒を完全にシャットアウトしようと言うのね。けど、寺の外へお酒を求めて行ったらどうするのさ」
「聖に結界を張って貰います。ムラサには悪いけど、少しの間の辛抱です。ああ、こうして話している間も勿体ない。ほら、早く酒蔵へ」

情けなく声を漏らしていた先程とは打って変わって、「はいっ」と凛とした声で言うと、ぬえは酒蔵へと走って行った。
そして一人残った星は、白蓮へ現状を知らせに走った。

「ムラサ、苦しいでしょうが頑張って……」

ぬえとは逆で星は、凛とした姿でいた先程と打って変わって、しゅんとした声でそう言った。
こころなしか、クリッとした彼女の目には、薄ら涙が浮かんでいる様に見えた。


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「ふあぁ、お酒、いいなぁ、お酒」

酒瓶を2本ほど掴んで瞬く間に飲んでしまった私は、お酒を飲んで少しの間得られる心の休まりを味わっていた。
しかし2本程度では足りないのだ、もっと、もっとお酒を飲まなければ、ああ、また嫌な思いが想起する。しかしお酒を飲もうと思い、辺りを見回すがお酒が見当たらない。
そして私は半分狂いながら狭い部屋をぐるぐると、実に20分は徘徊した。
連なったガラスの山を足で蹴飛ばしたり、物影の裏を必死に探したりするが見つからない。おかしい、今までは遅くても5分あれば見つかるのに。
せっかく手に入れた安心のケージも、どんどんと削られていく。そして不安のケージが恐るべき速度で伸びて行く。

「あああぁぁああああああ! お酒がないよ、誰か、誰かー!!」

いつもお酒が無い時は大声で叫んだら誰かがお酒を持って来てくれた。しかし今回は誰も来ない。
嫌な悪寒が私に走る。背筋がゾッとして、嫌な思考が頭を巡る。脳味噌がドンドン黒く染まって、全ての思考が黒いネガティブな思考に更新されていく。

居てもたってもいられなくて、自室の扉を開けて、ここ2週間は出て無いと思われた部屋を飛び出た。
酒蔵を求めて、千鳥足で壁に幾度となくぶつかりながら、廊下を走る。痛みよりも欲求が率先するので、痛みは無い。
ふらふらとする所為で普段の2倍の時間は掛けて漸く酒蔵へと辿り着いた。しかしその酒蔵は余りにも殺風景で、今の私にはこの上無く残酷だった。

「ない! ない、ない! だれ、だれなの、だれよ! こんな事したのぉ! ない、ない、ないぃぃぃいいぃぃいぃぃ!!」

酒蔵には貯蔵されていた筈の大量のお酒がすっぽり無くなっていた。お酒が此処にあると信じ切っていた私はパニックに陥った。此処にないなら、人里からとってくるまで。新たな酒を求め、寺の外に出ようする。しかし、碇を幾ら木造の内壁にぶつけても一向に壊れる気配が見えない。何か見えない魔力の壁の様なものに阻まれている感じだった。
暗く冷たい牢獄に閉じ込められた気分になった私は、底知れぬ恐怖を感じた。私は受刑者じゃない、此処から出せ、僅かな空元気を振り絞り、その空恐ろしさを無くそうとそう虚勢を張るも、圧倒的な物量で追い詰て来る恐怖の塊に、私はただ捨てられた子猫の様にふるふると震える事しかできない。
この恐ろしさも、お酒さえあれば、この不安をお酒さえあれば……



「逃げるんじゃないわよ、この殺人者め」
「ふぁっ!?」

――確かに、一輪の声が聞こえた。後ろ、上、横、360度全方位見回したが何処にも見当たらない。幻聴だ、幻聴だ、そう思えば思うほどさっきの声が鮮明に、現実感に溢れて聞こえて、極限の恐怖を私は受ける。

「おい、臆病者。君は誰と闘っているんだ。滑稽だね」
「きゃあ!」

……今度はナズーリンの声が、相手が見えない恐怖に対して私は脅え、ひたすら寺中を駆け回った。しかし幾ら声が聞こえた場から逃げても、その声は何処からともなく聞こえ、私を常に見張っている様な、そんな錯覚に襲われる、否、こんな現実感溢れる幻聴や幻象があるか。死んだ一輪やナズーリンが私を襲いに来たのか。ついに私の元にやって来たのか。そして私を痛めつけようというのか。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

恐怖に脅える私は、少しでもその恐怖から逃れようと、きゅっと目を閉じた。




……









……









……声が、聞こえなくなった。


少しだけだが安堵を覚えて、そっと目を開く。
すると目の前に広がるのは、





闇!

真っ暗な、闇!

自然界には存在しえない、黒い、闇を超越した闇。
何だこの世界は、これが、私がさっきまで住んでいた、現実世界なのか。いや、おかしい、どう考えたっておかしい。もう壊れそうだ。ああ、いっそ壊れてしまいたい。誰か、誰かいないのか。

「もう、だれでもいいから、ぬえでも星でも聖でも、ああ、このさいナズーリンでも一輪でも雲山でもいい。
 さっきは悪くいって悪かったから、だれでもいいから、ねえ、ねえ、だれか、だれ、か」

幾ら声を送っても、その声は反響せずにただただ無限に広がっていると思われる暗闇の奥に消えて行くばかり。さっきまで脅えていた一輪やナズーリンでも、誰でもいいから、とにかく来て欲しかった。とにかく癒して欲しかった。

「ああ、おさけ! おざげ! ああぁあぁ、おじゃけがあるよ、わたしのこわいのを、ぜんぶふりはらってくれるおさけ……
 あああああああぁああああああああぁああぁあああああああああ!! だれかわたしにおさけをおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」

わたしのさい後のつな、お酒をもとめてひたすらわめきさけぶ。お酒、お酒、それさえあらば、わたしは暗やみからぬけ出すことができる。



えいきゅうにつづくとおもわれるくらいながいとんねるを、おさけをもとめて、かいらくをもとめて、

いっぽ

いっぽ

また、いっぽ





















その暗闇で酒を求めるようでは、永遠に抜け出せないかもね、船長さん
そして、その一歩は確実に破滅への一歩だ



あい、今回は書きたい単語を羅列させました
書く側からしては楽しくて仕方が無い、読む側からしたら迷惑な事極まりない。多分そんな感じ

幽霊は精神的な要因に弱いのですから、一つの不幸でこのくらい荒れても不思議ではありません。ええ、ええ
何かに依存して抜け出せなくなるみっちゃんはかわいいと思います
一応、ナズと一輪さんの件は詳しい設定を考えてあるのですが、無理矢理入れてもあれなので、皆様のご想像にお任せさせて頂きます

【コメ返信とか】

1. 白米氏:みっちゃんがえじでぇぇぇぇぇぇ

2.:村紗の場合は舟幽霊なので物理的に虐めるのが難しいから、どうしても精神的な虐めが多くなりますね
  まあ精神的に追い詰められるみっちゃんは可愛いからいいのだけど

3.:自傷行為にも依存していると考えられますね
  タイトルで酒に依存していると明確に提示しなかったのは、酒によって得られる副産物にも依存しているからです

4.:少しでも船長の事を愛でる人が増えてくれるのは嬉しい事です
  ただ、なるべく自分みたいに歪んだ愛には走らないでね
おたわ
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/16 19:55:54
更新日時:
2010/01/21 01:30:59
分類
村紗水蜜
命蓮寺の皆
お酒
>>4までコメ返し
1. 白米 ■2010/01/17 08:19:03
みっちゃんみっちゃん、そんなにお酒が呑みたいならうちにおいで。うちに。
そして俺に依存すれば良いと思うよ。
2. 名無し ■2010/01/17 11:06:48
産廃での船長の立ち位置は何時もこんな感じ。

素晴らしい。
3. 名無し ■2010/01/17 21:21:24
なるほど自傷行為に依存しているのか
4. 名無し ■2010/01/18 11:07:03
船長可愛いよ船長
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