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『姉妹の運命交差点』 作者: 木質

姉妹の運命交差点

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/17 05:24:42 更新日時: 2010/02/11 20:44:07
紅魔館地下室
「お姉様と一緒に紅茶を飲むなんて200年ぶりね」
「そんなに昔じゃないわ。せいぜい100年程度よ」
二人は同時にくすりと笑った
軽口を言い合いながらティータイムを過ごす姉妹
その微笑ましい光景を、咲夜は姉妹のかけるテーブルから数歩下がった場所から見ていた
姉妹のどちらかが紅茶や洋菓子のおかわりを所望したとき、すぐに差し出せるよう待機している

「咲夜、紅茶のおかわりを・・・・・・」
そう言ってレミリアがカップ皿を動かしたとき、ティースプーンが机から落ちた
咲夜の能力なら、スプーンが床に落ちる前に拾うことが出来た、しかし、あえてそれをしなかった
あの小さな円テーブルは姉妹水入らずの空間。呼ばれたとき以外に、自分が介入しても良い場所ではない
落ちた後、妹に軽い皮肉を言われて、ムっとする主人の姿が目に浮かんだ。それもまた微笑ましいと思った

レミリアは落ちるスプーンを睨みつけていた。まるで親の仇でも見るかのような形相で
叶うなら、落ちる前に咲夜に回収して欲しかった

スプーンが床に落ちて、耳の奥がキーーンとする甲高い音が響く

音の反響が終わりそうなとき、突然、フランドールは耳を押さえて震えだした
「あ・・・・ぁ・・・・・ぁ・・・」
まるで過呼吸でも患ったかのように、息が荒くなる
「フランド・・・」
レミリアが心配して差し出した
「いやあああああああああああああああぁぁぁぁぁああああぁああああぁ!!!」
大きく腕を振り、その手を払った
「キャッ」
さほど痛くはなかったが、本能的に叩かれた箇所を手でおさえた
そんな姉の姿を見てフランドールの顔が真っ青になる
すぐさまレミリアの足元に跪いた
「ご、ごめんなさいお客様!! 今のは違うんです! ただ手を動かしたら偶然あたっただけで・・・おしおきだけはお許しください!!」
スカートにしがみついて必死に許しを請う
「どうかっ! このことはお父様には御内密に! 知られたら私、わたし」
初めて見るフランドールの豹変に、咲夜は戸惑っていた
(お客様? お父様? 妹様はなんのことを? これが噂の情緒不安定とい・・・)
「咲夜」
考え事の途中で話しかけられた
「は、はいっ」
レミリアは許しを請う妹には一切の目を向けず、従者のほうを向く
「美鈴を呼んできて。出来るだけ早く」
「かしこまりました」
言われた通り、時間を止め、自身が出せる最高速度で門に向かった

門に着き、事情を話すと美鈴は大きく頷いた
咲夜が先頭に立ち、走り出したとき
「なに歩いているの!!」
振り返ると、美鈴の足取りは緩やかだった
「急いでると言ったでしょう!!」
「これでいいんです。お嬢様は咲夜さんに、あの部屋から出て行って欲しくて、私を呼んでくるように言ったのですから」
「どういうこと?」
「見せたくなかったんですよ。情緒不安定なときの妹様のお姿を」

地下に続く階段を降りていると、昇ってくるレミリアと出くわした
「あの子なら部屋の隅で倒れているから、ベッドに寝かせておいて」
「わかりました」
「・・・・・」
返事をしたのは美鈴だけだった
レミリアが言った通り、フランドールは部屋の隅で気を失っていた
「顎が外れてますね。この場所に掌底でも受けたんでしょう」
これでもかという程フランドールの口は開き、上顎と下顎がずれていた。おまけに白目をむいている
美鈴が顎を嵌め直し、咲夜が時間を止めて体を動かさないように慎重にベッドへ運んだ

「お二人は戦っていたの?」
部屋を出てから咲夜は尋ねた
「いいえ。情緒不安定になりパニックを起こす妹様を、お嬢様が殴って気絶させたんです」
「そうなの?」
てっきり暴れまわる妹を、姉が止めたのだと思っていた
「この屋敷で、妹様が暴れたことなんて一度もありません。誤解しているようなので、言っておきます」
なぜか叱られたような気に咲夜はなった





日が高くなり、レミリアが眠りにつき、咲夜は残っていた館の雑務にとりかかった

新しい紅茶の葉が届いたので、補充のために図書館を訪れた
「パチュリー様、紅茶の葉をお持ちしました」
「ありがとう。ちょうど切れかかっていたの」
本を読むパチュリーの代わりに、小悪魔がそれを受け取り、本棚の裏に消えて行った
彼女は今、調べ物をしているようで、一行一行を食い入るように目を通している
それがいつも通りの姿なので、気にせず咲夜は話しかけた
「妹様と知り合ってそれなりの時間が経ちましたが、今日初めて情緒不安定になるところを目の当たりにしました」
「そう・・・」

咲夜は先ほどの出来事を話した

「妹様は、頻繁に不安定になるのですか?」
「いつもじゃないわ。何かのきっかけで、稀にああなるの、一度発症したらしばらく尾を引くから、当分は注意が必要よ」

咲夜は普段のフランドールの様子を思い浮かべる
聡明を思わせる発言をするときもあれば、白痴と疑ってしまうような言動をするときもある
レミリアと同様に。吸血鬼特有の冷徹さを持ちながら、他人を思いやれる優しい面だってちゃんと持っている

「情緒不安定というより、多重人格者とお呼びしたほうがしっくりきますね。まるでフォーオブアカインドのように」
「かもしれないわね」
視線は本に向けたまま答える
「生まれたときから、情緒不安定だったのでしょうか?」
「さぁ、どうかしらね」
目次を引いて、目的のページを探す
「ご存知ないのですか?」
「付き合ってまだ100年程度よ。そこまで古いことは知らないわ。レミィも話したがらないし」
お目当てのページが見つかり、そこを開いた
「妹様の気がお触れになったのには、何か原因があるように思えてならないのです」
「誰だって、何でも“壊せる”力なんて持ったら気が狂うわ」
「確かにそうかもしれません。ただ、もっと別の何かがあるような気がして」
しおりを挟み、本を閉じた
「咲夜」
「なんでしょう?」
ようやく二人の目線が交わった
「知って。あなたはどうしたいの?」
「えっと、その・・・」
具体的な言葉が出てこず、口ごもってしまう
そんな咲夜を見て、パチュリーは再び本を手に取り、しおりを挟んだページから読み始めた
読みながら小声で言った
「門番、いるでしょう?」
「美鈴ですか」
「昔から居る分、なにか知っているかもしれないわ」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げて図書館を出た



紅魔館の門
「お二人の過去・・・・ですか?」
「そう、話して頂戴」
「それは『知的好奇心を満たすため』だとか。『メイド長だから知る義務がある』なんて理由で、ですか?」
「いいえ。お嬢様お二人のために知りたいの」
“紅魔館に忠誠を誓うメイドの一人として、紅魔館の未来のために”パチュリーに訊かれて、あれから色々考えて出た答えがそれだった
美鈴は彼女の顔をジッと見る。10秒ほど見ていて緑色の帽子の上から頭をガシガシと掻いた
「わかりました。私の知る範囲で良ければ」
近くにいた妖精メイドに、門をしばらく空けることを伝えて、咲夜を自室に招いた
咲夜は机の前にあった椅子に、自らはベッドに腰掛けた
「これから私が話すのは、幻想郷にやってくるずっと前のスカーレット家の話です。殆ど、前任の門番から口頭で引継いだ内容なので、どこまで真実かは定かではありません」

そんな前置きをして、話しだした









当時暮らしていた土地に、吸血鬼の名家・貴族が数多く存在し、スカーレット家もその一つだった
ようやくレミリアがパーティに参加できる年齢になると、多くの貴族が彼女に注目した
レミリア・スカーレットは幼いながらも、他のどの女よりも美しく可愛いらしかった
沢山の吸血鬼が、彼女に愛情を抱き、劣情を催した

しかし、レミリアはスカーレット家の次期当主。相当親密な間柄にならなければ二人きりになることすら適わない

そこで目が行ったのが、レミリアの妹であるフランドールだった
姉妹だけあって容姿は瓜二つ
ある吸血鬼が我慢できずに姉妹の父親に言った「妹君を一晩、私の家にお預けください」と


「待って。どうして妹様ならいいのよ?」
「位の高い家ほど、兄弟の優劣は大きいんです。特に姉妹になると、その扱いは天と地です。次女以降の娘は、政略結婚くらいしか使い道がありませんからね」

当然、父は断った
しかし、明示された条件を聞き、心が揺れた
一晩だけ次女を貸し出したその見返りに「広大な土地を譲る」と言われて、父は渋々ながら頷いてしまった

「そんなことって・・・」
「先代を責めないでください。確かに、父として最低な行為です。しかし、一族の繁栄と、娘一人を天秤にかけるなら当主は重い方を選ばなければなりません。当時、スカーレット家は傾きかけていると聞いたことがあります」

一度頷けば、他の吸血鬼からも依頼が来た
ある者は莫大な金を、ある者は箱一杯の宝石を、ある者は宝刀を、ある者は建物を
娘がどんな目に遭わされるのかを、半ば知っていながら父は何度も送り出した

「吸血鬼の男というのは、どいつもこいつもサディスト揃いです。殺人・拷問など娯楽の一つとしてしか見てません」

女を死ぬまで絶頂させ。その逆で、強力な媚薬を射ち丸一日かけて焦らせて廃人にする
村から子供達を攫ってきて、友達同士で殺し合わせる
死体でオブジェをつくり仲間でコンペを開く
新しい拷問方法や器具を思いついたら、真っ先に人を捕られて試したくなる

「そんなのに一晩も預けられるなら、私は言われた瞬間に自害します」

これまで、すぐに死んでしまう人間を相手にしていた吸血鬼が
殺害以外ならどんなことをしても良いという条件で、幼くも美しい同族を預けられたら、どんなことをするのか
犯すだけですむはずが無い

「どんなエゲつないことをされたのかは、わかりません。貴族の男達の間だけで密かに行なわれていたことですから。あくまで噂程度ですけど・・・」

川の水車に括り付けられて、一晩中、流水の痛みと溺れる苦痛を味わった
ウジが湧いた、腐敗した体を持つ亡者に輪姦された
裸の上に、インクで点数をペイントされ、柱に括り付けられてダーツの的にして遊ばれた
逆さまに吊るされて、足を開いた状態で固定され、露になった箇所を、見慣れない器具で弄り回された
一晩で373個の拷問器具を使われた
手を切り落とされて、目の前で孫の手に加工された
触手だらけの部屋の放り込まれ、時間までずっと放置された
子供の吸血鬼の再生速度を知る実験と称して、体を何度も引き裂かれた
足を液体窒素に浸され、そのあとハンマーで粉々に砕かれた
鳥かごの中に押し込められて、頭から硫酸を浴びせられた
神経に直接、電流を流された

苦しむフランドールを、ワイングラス片手に吸血鬼たちは見ていた
レミリア似の幼い貴族の娘、そんな無垢な存在を蹂躙し、痛めつける背徳感は最高の肴だった

「お嬢様は、なにも知らなかったの?」

パーティに参加出来ない年齢だった頃、姉妹で屋敷を散策したりして一緒に遊んでいた
参加するようになって、妹と会う頻度が減り。普段の暇なときも「彼女は体調が悪いから」と大人に言われて会うことが出来なかった

「知ったのは、妹様が情緒不安定になってしまった後です」


それから長い時が経ち。紅魔館当主の座がレミリアに移り、館ごと幻想郷にやってきた
そこから先は、幻想郷に記録された文献どおりである



「さて」
話しを終えた美鈴は立ち上がり、窓を開けて部屋の換気をした
「こんな話をしたのもですから。空気まで重くなった気がしますね」
夕暮れの冷たい風が、美鈴の長い髪を撫でる
「生まれたとき、妹様はお嬢様と同じ髪の色をしていたと聞きます。しかし、外交の道具として使われはじめて以降、髪の色素がどんどん抜けていって、今の薄黄色のような色になったと聞きます」
現在の羽の形もなにかの影響かもしれないと、咲夜はその言葉を聞いて想像した
「私が知っているのは、大体これくらいです」
「ありがとう」
「咲夜さん」
今日、レミリア、パチュリーにも名前を呼ばれてが、この美鈴の呼びかけが一番重いものだった
「咲夜さんがこの話を聞いて。どうするのかは自由です、一生胸に留めて置くのも、誰かに相談するのも、行動を起しても」
「・・・・・」
椅子に座ったままの咲夜は黙り込んだ
「門に戻りますね」
咲夜を残して、美鈴は部屋を出て行った
一人になってもなお、咲夜は部屋で考え続けた



夕日が沈みだしたころ
咲夜は地下の階段を降りて、フランドールの部屋の前までやってきていた
来たはいいものの、どうするかまで具体的に考えていなかった。とりあえず彼女と会話がしたかった
(寝てるかしら?)
レミリアが就寝中の今、彼女も寝ている場合が多い
立ち去ろうか、ノックしようか迷っていると
「あ、咲夜」
「妹様」
内側から扉を開けたフランドールと目が合った
「なにか用?」
「あ、あの。その・・・」
しどろもどろになっていると、フランドールは扉を大きく開いた
「とりあえず、入ったら」

フランドールの為に、紅茶とクッキーの乗った皿を用意する
「咲夜の分は?」
あるのは一人分だけだった
「私だけ飲むのもなんか落ち着かないし」
「では、お言葉に甘えて」
咲夜は自分の分の紅茶を置いて座った
「今日は恥ずかしい所を見せちゃったね」
「・・・・」
なんと言って良いか分らず黙った
「私ね、昔、ちょっと嫌なことがあったの。トラウマっていうのかな? その時のことを思い出すような光景や、音を聞くとああなっちゃうの
 一回スイッチが入っちゃうと、もうどうしようもなくて、考えることも出来なくなって、気がつくとベッドで寝てるの。嫌になっちゃうよね」
頬の筋肉を無理矢理引き上げて、笑ってみせた
「あの状態になると、もう身を守ることしか考えられなくなるの。相手に嫌われないように、暴力を振るわれないように必死になって」
「妹様」
「?」
「お辛いのなら、無理にお話にならなく・・・」
「違うの」
言葉を言い切るまえに否定された
「誰かに聞いて欲しいから話すの。話せると、とっても楽になるから」
「失礼しました。続きをお聞かせいただけますか」
「うん、それでね・・・・・あ」
フランドールは右手を顔に、左手を胸に当てた。すこし辛そうな様子だった
「こんな話をしたからかな、胸がざわざわする」
今日、発作を起こしたばかりである。パチュリーはこの症状は尾を引くと言っていた
「大丈夫ですか?」
顔色が悪いため、額に触れようと手を伸ばした
フランドールの目の前に、自分の顔を包み込める大人の手、それが迫る
それがスイッチになってしまった

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

椅子から転げ落ちて縮こまった
「大丈夫ですかっ!?」
上着、スカート、肌着、下着を。震えながら、脱ぎだした
咲夜の前で、生まれたままの姿になる
「す、すぐに準備しますからっ」
手に唾液をつけて、それを秘所に擦りこむ
顔をしかめながら自慰を始めた
「私です、咲夜です! 何もしませんので、どうか落ち着いてください!」
止めさせようと、女性器を弄るフランドールの手を掴む
「ヒィッ!」
その手を振り解き、逃げるように壁に体をくっつけ、頭を抱えた
怯えた表情で咲夜を見る
「ぶたないでください! ぶたないでください! いい子になりますからぁ!!」
体の震えが一層強くなる。目の端に涙の粒が出来ていた
壁に背中を預け、まったく濡れていない秘所を、ぐずりながら目一杯広げて見せた
「お好きなように、お使い、くだ、さい」

フランドールの前にいるのは、咲夜ではなく、かつて自身を慰み者にした吸血鬼たちだった
欲情を煽るために、恥じらいの仕草をし。意味を理解していない淫語で誘う
自分の体で満足してもらえれば、傷つけられることは無いと、信じて疑わなかった
可愛がられようと、愛してもらおうと必死だった
その姿が、吸血鬼たちを喜ばせ、残虐な行為をより過激なものにさせた


咲夜は時間を止めて、この部屋から出て行こうと考えた
その時
「退がりなさい」
いつの間に居たのか、レミリアが咲夜のすぐ横に立っていた
「胸騒ぎがするから気になって、わざわざ起きて来てみれば」
フランドールの頭を掴む。そのまま掴んだ頭を床に乱暴に叩きつけた。額が床にぶち当たる
「ゴゥッ!」
鈍い音のあと、肩を痙攣させて、フランドールは動かなくなった

「ここまでする必要があったのですか?」
服を着せて、ベッドに寝かしつけながら言う
「近づいたら怯え、離れようとしたら『何もしないで帰られたら、お父様折檻される』と泣きつく」
妹を傷つけた自分の手を、忌々しそうに見た
「なら、どうしろというんだッ!!」
その手を壁に思いっきりぶつけた。壊れたのは壁のほうだった
キッと咲夜を睨みつけた
「必要最低限のこと以外、もう妹には関わらないで頂戴。これは命令よ」
「・・・・はい」
「私はまた寝るから、あなたも寝ておきなさい」
「・・・・はい」
二人とも表情が暗いまま、それぞれの場所に戻った









×××××× ××××××



見知らぬ屋敷に連れて来られ、そこで今日も男の吸血鬼に犯された
幸いなことに、この吸血鬼は拷問まがいな行為は一切してこなかった
その代わり、一晩中フランドールの中に精液を吐き出し続けた
まぐわっている間、吸血鬼はずっと彼女の名ではなく、彼女の姉の名を呼びながら腰を動かしていた
フランドールは、ずっと心の中で姉の名を唱え、助けを求めていた

擦り切れるほど使われて、ようやく彼女は解放された

朝になり迎えが来て、屋敷を出る際、吸血鬼から飴玉を一つもらった
これまで、何人相手にしたかなんて覚えてはいなかったが。この飴が初めて、自分に向けて送られた労働の対価だった
うれしくて迎えの門番の女性にずっと見せびらかしていた

館に戻り、門番と別れて玄関を潜ると、広間に沢山の荷物が積まれていた
気になって近くにいたメイドに訊いた
「あれはなに?」
メイドは怪訝な顔をした
「皆様から送られたレミリアお嬢様への誕生日プレゼントですが? ご存知ないのですか?」

プレゼントが入っていたであろう様々な大きさの箱
可愛い人形が入っていたかもしれない、ふかふかのぬいぐるみがあったかもしれない、素敵な洋服もあったかもしれない
キラキラと輝く宝石、お洒落なアクセサリーなんかも貰ったのかもしれない

誕生日を祝うメッセージカードと手紙
パーティーで知り合った沢山の友達や、親族一同、他所の人。知らない名前ばかりだった

テーブルの端から端まで並べられたお菓子の山
両親が用意してくれたもの、プレゼントされたもの、一日使っても、とても食べきれる量ではなさそうだ

すべてがすべて、姉を祝福していた

「フランドールお嬢様も、まだでしたら何か送られては? 最愛の妹からのプレゼント。きっとお喜びになりますよ」
そう言ってメイドが去った後、すこし迷ってから手の中の飴玉をテーブルに投げ入れた。もう、どれが自分の飴だったか区別がつかなくなった

この時、彼女の中の何かが壊れた
否、壊れなければならなかった
壊れないと、形が保てなかった
取り返しがつかなくなる前に、大至急で壊れる必要があった




×××××× ××××××



自分のではない、誰かの夢を見た



半分の月が浮かんでいる夜空
レミリアは自室のベッドで目を覚ました
少しだけ頭痛がした
今しがた見ていた夢を思い出そうとしても、出てこなかった
時間が経つごとに、どんな夢かすら分からなくなった
唯一思い出せるのが『悲しい内容』ということだけだった

着替えたレミリアは、クローゼットの奥にしまってある箱を手にとり、妹のいる地下室を目指した






「フランドール?」
ノックをして、返事を待たずレミリアは中に入った
部屋を見渡すと、ベッドの上がふくらんでいた
「寝てるのね」
近づいて、起すために手を伸ばした
肩に手が触れようとした瞬間、フランドールが目を開けた
「ああ、起きてたの・・・・・ぃッ!?」
レミリアの手を掴んでベッドに引き込み、うつ伏せになるように倒した
うつ伏せになる姉の背中に膝を置いて、行動を制限させる
「ついさっきまで、すごく不愉快な夢を見ていたの、そのせいで、起きてしまったわ」
耳元に口を近づける
「だから、今はとっても機嫌が悪いの」
ベッドに押し付けられたレミリアのスカートを下ろして、ドロワーズの上から秘所をなぞる
「お姉様は、ここを使ったことがあるかしら?」
「さあ、どうだったかしら?」
動揺をさとられないよう、気丈に振舞う
「もう。ちゃんと答えてくれないと、そこから先の質問が出来ないじゃない」
爪を立てた手を見せ付ける
「膣に手を入れられて、中を思いっきり引っ掻かれたことはあるかしら? 昔、預けられた先に、私と年が同じくらいのご令嬢がいてね、その子に遊び感覚でやられたの」
それがどれほど苦痛で、屈辱的だったのか、レミリアは、想像し唾を飲み込んだ
「痛いとかいうモンじゃないの。上半身と下半身がまるで違う生き物みたいな気持ち悪さのあとに、グチャグチャに潰れたトマトの映像が頭に浮かぶの
 痛みがくるのはそれから、鞭で叩かれたことある? ないよね? あれが中に直接叩き込まれた感じかな。多分、同時にペンチで歯を抜かれても気付けない痛さ」
「説明はいいから。さっさとやりなさい」
「抵抗しないの?」
不思議そうに首を傾げる
「覚悟なら出来てるわ」
「覚悟? なにそれ?」
押さえつけていたレミリアから飛び降りた、それにより立ち上がることが出来た
「私には覚悟するヒマすらなかったわ」
「・・・・・」
吐き棄てるように言った言葉に、レミリアはただ俯くことしか出来なかった
「もういい。寝なおす。だから出てって」
「その前に」
「ん?」
レミリアは床に落ちている箱を拾った。自分の部屋のクローゼットから持ってきたものだった
「あなたに、譲ろうと思って」
両手で持って渡した
「ふーーん」
蓋を開けると、ドレスが一着入っていた。一目で高価だとわかる品だった
レミリアは気恥ずかしそうに頬を掻きながら説明する
「私がパーティで着てたの。保存状態は完璧だったから、すぐにでも着れるわ」
「いらない。お下がりなんて。お姉様が新しいのを買ったから、押し付けたいだけでしょう」
レミリアは首を静かに振った
「この紅魔館でそれより価値のある衣装はないわ」
「でも私、パーティ出たことないから」
蓋をして、レミリアに返そうとする
「着なくていい、ずっと持っててくれればそれで良いの」
突き返された箱を拒否した
「これを持てるってことは、すごい名誉なことなの、これを着られるってことは・・・」

続きが言いたかったのに、喉が詰まって上手く言えなかった

「『着られるってことは』・・・なに?」
フランドールが続きを促すが、無視して背を向けた
「おやすみなさい」
素早く踵を返す。胸中で様々な想いが渦巻き、これ以上、顔を合わせることが出来なかった
「あ、お姉様。ちょっと?」
逃げるように、地下室を立ち去った


箱を持ったまま、呆然とするフランドール
一度は閉じた蓋を開けてみた
闇を閉じ込めたかのような漆黒のドレス
「綺麗」
思わず魅入ってしまう
「どうやって着るんだろう。洋服と同じだよね?」
注意深く衣装を観察しながら体を通し、一緒に入っていた装飾品を試行錯誤しながら身に着けていく

10分ほどで、着終わった

着てみた最初。まるで別の存在に変身してしまったかのような錯覚を覚えた
「えへへ」
両手を広げてくるりと回った、自然と笑みがこぼれた
部屋に鏡が無いのが惜しまれる

目を閉じて、パーティ会場の風景を思い浮かべる

賑やかにひしめく広場
煌びやかな装飾
テーブルに並んだ、豪華な食事の数々
弦楽器と管楽器の演奏

自分に笑みを向けてくれる人たちに対して、スカートの両側をつまんで優雅にお辞儀をしてみせた
生まれて初めて参加するパーティ。喜びが隠せない。幼い頃から密かに憧れていた光景だった

「・・・・・・」
ここで、フランドールは目をあけた
暗い地下室
殺風景な部屋
薄汚れて、何も乗っていない小さな円テーブル
いるのは自分だけ

「・・・・・・ぅぅ・・・」

嗚咽する小さな小さな声だけが、今の地下室の音だった













数日後。レミリアの怒声を聞きつけて、咲夜は地下室に飛び込んだ

「いったい何のつもりだ貴様!!!」
激昂したレミリアが、フランドールの胸倉を掴みあげて怒鳴りつけていた
フランドールの足元には、ズタズタに裂かれた黒いドレスがあった
「どんな気持ちで私がこのドレスを送ったのか、汲み取れないほど愚か者ではないでしょう!!」
掴まれ、持ちあげられたためフランドールは、足が地に付いていなかった
「アテつけのつもりか!! どうして面と向かって責めない!! 物に当たらず、直接私を罵ればいいでしょう!?」
「おやめ下さいお嬢様!」
二人の間に割って入る
「こないだねー」
焦点の合っていない虚ろな目で、しかし普段の顔色でフランドールはポツポツと話しだした
「あのドレスを着てみたの。素敵な素敵なパーティ会場を想像して・・・・・・虚しいだけだった」

レミリアの手から力が抜け、フランドールは床に落とされ、そのまま座り込んだ
「なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない」
壊れた蓄音機のように、同じ言葉を繰り返す
「止めなさい」
「なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない、なにもない」
これ以上、狂った妹の姿が見たくなくて
これ以上、糾弾されたくなくて
レミリアは手を振り上げた、数瞬の間を置いて振り下ろす
乾いた音がして、フランドールの頬は赤くなった
叩かれたことがわかると、しゃくりだした
「うわああああああああああん! おねえざま゛ああああ、たすけでぇぇぇ、グスッ、しらないひとが、たたいてくるぅぅぅぅ!!」
錯乱し、見た目相応の子供のように大声で泣き出した
「やめなさい」
「たすけてよおぉぉぉぉぉぉ! わたし、いいコに・・・・いいコに、なるからあああァァァあああぁぁああああぁぁあ!!おねえざま゛あぁぁぁ 」
「ヤメナサイ」
再び、手を振り上げる。レミリアもボロボロと涙を零していた

赤くなった頬に、もう一度手が振り下ろされる


咲夜は、ただ黙ってそれを見ていることしか出来なかった
原作を見る限りだと、お嬢様と咲夜さんって、フランちゃんにメチャクチャ冷たい気がする

今後、仲の良い姉妹も書いてみたいと思う、今日この頃

※2/11誤字・脱字修正
木質
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/17 05:24:42
更新日時:
2010/02/11 20:44:07
分類
紅魔館
スカーレット姉妹
設定妄想捏造フィルターがフルスロットル
1. johnnytirst ■2010/01/17 15:12:33
これはいいな
貴族楽しそうだ


フランざまぁ...と思った俺は
2. ばいす ■2010/01/17 15:38:15
木質さんがそんな心を締め付けるようなフランちゃんを書くせいで、俺は反発してしまう
良い狂気の理由だった。そして現在のどうしようもなさが読んでいて苦しかった
仲良し姉妹を楽しみにしてます
3. だにお ■2010/01/17 15:55:09
声に出して「くう!」と言ってしまって床の上でのたうちまわってビクンビクンしてしまって奇声をあげてしまった。
なんとやるせない・・・
4. 名無し ■2010/01/17 17:41:54
こういう、同じ境遇なのにちょっとした差から正反対の運命を辿るようになる話、好きだなぁ。拷問内容にゾクゾクしたわ。
5. 名無し ■2010/01/17 18:39:37
うわぁ、こういう現実で起こりうる悲劇って苦しい。
咲夜さん、なんとかしてくれえ。

そしてめーりんが無闇に格好いいですな。
6. 名無し ■2010/01/17 19:09:47
涙腺が痛い

ギャグ、鬱、ほのぼの。全部こなせる作者が情緒不安定なんじゃないかと勘ぐってしまう
こんなのをポンポン書ける人を、鬼才というのだろうか
7. 占任 ■2010/01/17 19:41:31
こういう(今存在してる人は)誰も悪くないのに最悪の状況から抜け出せない話は、
なんともやるせなくて大好きです。

しかし、木質さんは本当にいろんな話が書けるなあ……
8. 名無し ■2010/01/17 19:55:48
>女を死ぬまで絶頂させ。その逆で、強力な媚薬を射ち丸一日かけて焦らせて廃人にする
>村から子供達を攫ってきて、友達同士で殺し合わせる
>死体でオブジェをつくり仲間でコンペを開く
>新しい拷問方法や器具を思いついたら、真っ先に人を捕られて試したくなる
なんだ排水溝民のことか

いやぁ拷問描写と悲壮感がすごいすごい、実際にこれほど酷くなくとも中世ではこういう風習ってあったんですかね
9. 名無し ■2010/01/17 21:19:14
俺たちがフランちゃんにここまで深い傷を負わせていたというのか・・

でも、やめないよ
10. 名無し ■2010/01/17 21:30:43
混乱した時に殴って気絶させるという方法しかとらないからフランちゃんは治らないのではないか
11. 名無し ■2010/01/17 22:30:15
別に誰かが悪いというわけではない…
このやるせなさがイイね
12. 名無し ■2010/01/17 23:08:54
ここが出来た頃から居るけど、コメ欄読んで自分は産廃に向いてない事が分かった
13. 名無し ■2010/01/17 23:14:07
(つД`)産廃に来て日は浅いけど、一番泣けたし感動した
14. 名無し ■2010/01/18 00:08:16
いい話(良い話ではなく)だった
ただ、少し誤字脱字が多いのが気になる
15. 名無し ■2010/01/18 00:25:34
男の吸血鬼貴族共が全員ベルモンドさんに八つ裂きにされてしまえば良いと思った俺も産廃には向いてないとコメ欄見て分かった…
16. 名無し ■2010/01/18 01:59:26
滅茶苦茶面白かった
乙です
17. 名無し ■2010/01/18 10:34:50
運命交差点て響きが良いね
一度交わって、それからずっと離ればなれ・・・


レミリアの能力でも修復不可能だったのかな?
18. 名無し ■2010/01/18 11:45:31
他の産廃作品みたいに、ただ壊してカタルシスを放出して終わりじゃないのが素敵だと思った。
ドロドロした色んな視点からのリアリティーが、簡単に終わることなく続いていくスパイラル感が好きです
19. Explorer ■2010/01/18 16:21:34
フランちゃぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁん
おぜうさまぁぁあぁあぁあぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ
書いてて「あ」がゲシュタルト崩壊した。何が言いたいかと言うとスカーレット姉妹可愛いよスカーレット姉妹
つまりGJでした!
鬱・虐め・かっこいい美鈴・きれいな咲夜さん・・・あひぃ!それ以上はらめぇぇえぇ!名作過ぎてトんじゃうに゛ょ゙お゙お゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙

>>8・9で盛大な吹いたw

>>15
男の吸血鬼に子種の元以外の価値があるとでも?れみりゃやふらんちゃんの元出す以外の存在理由があるとでも?

あ゙ーな(泣・啼)かせてぇ。壊れてレイプ目でぺたんと座って涙も涸れて狂った微笑み浮かべさせたい。姉妹揃って。
SS書けるようになりたいです(^p^)

読み返して思った、これじゃ俺荒らしO。。TLちょっと紅魔館の食料になってくる...λ
20. 名無し ■2010/01/18 20:24:13
う・・・うわあ・・・
・・・妄想システム起動!
・・・ちょっとレミリアもいぢめてくる・・・
21. どっかのメンヘラ ■2010/01/18 21:08:44
出た!!木質氏のガチ鬱虐めSS来た!!これで勝つる!!!
22. 穀潰し ■2010/01/18 21:52:23
とりあえず、男の吸血鬼共を狩った後に。
私がフランちゃんを頂いて愛でます。
23. ぷぷ ■2010/01/18 22:20:40
フランは原作でも黒歴史化されてる感じのキャラですよね
げっしょーでのパーティーに呼ばないとか何なんだよ
24. 名無し ■2010/01/18 23:57:39
なんだろう・・・フランちゃんが苦しむ話がもっともっと見てみたい
25. 名無し ■2010/01/19 01:50:59
>23
俺はSSよりも何よりもその“黒歴史”という言葉に一番傷ついたぜ・・・
26. かるは ■2010/01/19 12:13:05
文章にグイグイ引き込まれました
やっぱ木質さんのフランはすげぇ
27. 名無し ■2010/01/19 17:55:03
>25
いいじゃない「黒歴史」でも
これ以上のイメージ破壊・ろくでもない設定追加はなくなるのだ
28. 名無し ■2010/01/20 19:15:59
>>25
逆に考えるんだ、早苗さんみたいにならずにすむと考えるんだ。
29. 名無し ■2010/01/20 23:52:15
フランちゃんうふふ
30. 名無し ■2010/01/22 19:48:39
フランちゃんは愛のあるSEXを知るべき
というか、教えたい
たっぷり愛撫して、ベッドの中で優しくしてあげたい
31. 名無し ■2010/01/23 08:48:03
飴と、ドレス着てパーティ想像してるシーンで泣いた

>「近づいたら怯え、離れようとしたら『何もしないで帰られたら、お父様折檻される』と泣きつく」
>「なら、どうしろというんだッ!!」
ネチョネチョしたらイイトオモイマス
32. 名無し ■2010/01/24 10:26:00
紅魔館が移住してきた理由がなんとなく
33. 名無し ■2010/02/11 15:39:33
>>取り返しがつかなくなる前に、大至急で壊れ必要があった

脱字かな?
空気の重さがここちよかったです。
34. 名無し ■2010/04/24 18:53:02
フランちゃんもだけど紅魔館組皆味があっていいな……
35. 名無し ■2010/04/26 20:00:30
 
男前な美鈴ヤバすぎる…
36. 名無し ■2011/07/17 06:10:10
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