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『ナズーリンが欝になりそうな話を書く』 作者: 名前がありません号

ナズーリンが欝になりそうな話を書く

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/19 17:42:48 更新日時: 2010/01/20 02:42:48
7.

「はは、ようやく見つけたんだ、これ」
「何言ってるんだ。君が死んでしまったら意味が無いじゃないか」
「なぁ、ナズーリン」
「なんだ」
「これで、薬を作ってくれる人を探して、妹に飲ませて欲しい」
「馬鹿言うな、それこそ君がするべきじゃないか」
「だから、もし、できなかったらだ」
「諦めが早いなんて、君らしくもない。大丈夫だ、君も、妹も助かる」
「ありがとう、ナズーリン」
「そう思うなら、もう無理をしないでくれ。君のこんな姿を、君の妹に見せたくないんだ」













1.

馴れ初めというほど、二人の出会いはいいものではなかった。
青年は、森をうろつき妖怪に襲われた所を、
偶然通りかかったナズーリンに助けられた。
そんな程度のものであった。

「こんなところを備えもなしにうろつくなんて、無用心だね。あるいは自殺志願かい?」
「あ、ありがとう。でもなんで助けてくれたんだ? あんた、妖怪だろ?」
「まぁ、別に放置してもよかったんだ。けど」

そういって、ナズーリンは尻尾のバスケットを指差す。
中には昼食用のおにぎりが入っていた。
ちなみにネズミ達はいない。

「ちょうど昼食時という時に、人間の死体なんか見たら食が進まないよ」
「助けた理由はそれなのか……」
「それで充分じゃないかな? 理由なんて」

そういって、尻尾を器用に動かして、青年の方にバスケットを向ける。

「ここで会ったのも何かの縁だ、食べないかい?」
「い、いや、俺は……」

青年が言い掛けた時、青年の腹の虫が食事を催促する為に、大きく鳴いた。

「……いただきます」
「恥ずかしがる事は無いよ。素直なのはいいことさ」

赤面する青年に、ナズーリンはクスクス笑いながら、そう言った。








2.

青年はナズーリンに連れられ、森を抜けると、人里を一望できる場所にやってきた。
最初にこの場所を見つけた時は、夕日が美しかった。

それ以来、たびたび散歩や気晴らしついでに行く機会があった。
そのため、まだ星にも教えていない場所である。

ふと青年の方を見ると、おにぎりを頬張っている。
よほど腹が減っていたのか、うまいうまいと言いながら、食べている。

「そこまで早食いしなくたって、おにぎりは逃げないよ」
「あ、いや、そうなんだけどさ。腹減ってるし」
「まぁ、食べれる事は元気な証拠さ」

そして急いで食べていた青年が、案の定、喉に詰まらせた。
ナズーリンはバスケットの中の水筒を手に取ると、それを青年に飲ませる。

「だから言ったじゃないか」
「面目無い……」

そして結局、殆どのおにぎりを平らげてしまった。
青年が落ち着いたところを見計らって、ナズーリンが男に問いかける。

「ところで君。何故、森に居たんだ? いかに昼と言えども、森は暗い。妖怪に襲われる危険があるだろう」
「ああ、それは……」

そういって、青年が少し悲しそうな顔をしながら、言う。

「病気の妹がいるんだ。医者に見せても、今まで見たことのない病気だって」
「それはまた大変だね」
「それで人里で、永遠亭の医者に見せれば、治せるかもって聞いたんだけど」
「だけど?」
「最近、竹林で騒ぎがあるって聞いて、行くに行けなくて」

「そんな時なんだ。人里のある医者が、どんな病気でも治せる薬草があるって聞いたんだ」

青年は藁にもすがる思いで、その医者から薬草のありかを聞き出した。
そしてその薬草は、この森の何処かにあるというらしい。
ナズーリンはしばし、考えてから青年に対して、こういった。

「よし、わかった。それなら私に任せて欲しい」
「え、いいのか?」
「うん、でも条件がある」
「条件……? で、でも俺、金なんて持ってないし」
「いや、お金はいいよ。そうだね、その首飾りをくれないかな」
「こ、これ?」

そういって、青年の首にぶら下がっていた赤い石の首飾りを指差す。

「これ、別に大したものじゃないけど、いいのか?」
「ああ、それでいいよ」
「た、頼む! 探し出してくれ!」
「わかった。とりあえず薬草についての情報をくれないかな?」
「わかった、医者から聞いた話だと……」

そしてナズーリンは、青年の話す薬草をねずみ達に命じる。
どこからともなく現れるネズミ達に、青年は少したじろぐ。

「安心してくれ。探し物をさせれば彼ら以上に信頼できるものはいない。食べ物以外はね」
「薬草も一緒に食べないでくれよ」
「ああ、流石に彼らも好き嫌いくらいはある。でも、多分その心配はいらないさ」
「何故だい?」
「直ぐに分かるさ」








3.

しばらくして、ネズミ達が捜索から帰ってきた。
ナズーリンの予想通り、薬草は見つからなかった。

「彼らが言うには、この森にそんな薬草はないようだ」
「そんな、もっとよく探してくれ!」
「彼らは嘘は言わない。そんな薬草は存在しないんだよ」
「え、どういう意味だよ、それ」
「これは私の想像だが、君は騙されたんじゃないかな」
「だ、騙された?」

ナズーリンは、青年に自分の推測を話し始める。

「君が医者から聞いたその薬草の情報。どうやって聞き出したんだい?」
「え、それは……」
「お金、だね」
「あ、ああ」
「やっぱりか」

はぁ、とナズーリンは溜息を吐く。

「大方、その医者は金欲しさに君を騙したんだろうね。今頃、もう居ないんじゃないかな」
「そんな……!」
「いずれにしても、これ以上、この森で薬草探しをするのはやめた方がいい。無駄死にはするものじゃないよ」

青年は、がっくりと肩を落としている。
少し言い過ぎたか、とも思ったが、事実は突きつけるべきだった。
しばらくして、青年はゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫……」
「しょうがない。人里まで送ろう。そんな顔してる君を放っておくのは、いい気分じゃない」
「面目無い……」









4.

ナズーリンに連れられるように、里へと戻ってきた青年。
青年の案内の元、医者が居たという場所には人っ子一人居なかった。
分かっていた事だが、青年は改めて事実である事を理解する。

そして今度は青年の家に向かう事になった。
少し古い家で、家には布団ですぅすぅと眠る少女が居た。
恐らく青年の妹なのだろう。
隣には、上白沢慧音が居た。

「こんな遅くまで、何処に行ってたんだ。ん、そちらは確か……」
「ナズーリンです。以後よろしく」
「命蓮寺の者だったか。しかし何故、彼と共に?」
「探し物の手伝いをしていたのさ」
「そうだったのですか。それで、探し物は見つかったのか?」

すると青年は口篭る。
が、意を決して、青年が話し始める。

「すみません、慧音様。折角頂いたお金を、無駄にしてしまいました」
「……事情を説明してくれるか?」

そして、青年は慧音に事情を説明する。

「あまり信じたくない話だが、事実のようだな」
「すみません。妹をどうしても助けたくて……」
「気持ちは分かるが、もう少し落ち着くんだ。お前がしっかりしなきゃ、妹さんも不安がる」
「はい……」
「私達も出来る限りの事をする。だから出来るだけ妹さんのそばにいてやれ」

青年にそれだけ言うと、青年の妹が起きてきたのか、
ゆっくりと身体を起こす。

「だめだ、また寝てないと」
「大丈夫だよ、おにいちゃん。今日は身体が楽だから」
「大丈夫かい? 鈴」
「はい、大丈夫です、慧音先生」
「それはよかった。元気になったら寺子屋に来てくれ。皆が歓迎してくれるから」
「うんっ」
「それじゃ、私はこれで失礼するよ」

そういって慧音は青年の家を出る。
残ったのは青年と、鈴と呼ばれた青年の妹、そしてナズーリンである。

「お兄ちゃん、その人、だあれ?」
「あ、ああ、この人は俺の探し物の手伝いしてくれた人なんだ」
「そうなの? ありがとう、お姉ちゃん!」
「いや、どういたしまして」

それからナズーリンと青年の妹は、他愛の無い世間話や、
ナズーリンの散歩中の出来事などをそれとなく話した。

「ふぅん、お外ってそんな風になってるんだ」
「いつか出られるといいね」
「うん」

しばし話しを続けていると、
青年の妹はうとうととし始めて、
ついにすぅすぅとかわいい寝息を立てて、眠り始めた。

「すまない。妹の話相手にまでなって貰って」
「構わないさ。別に困る事じゃない。それにお姉ちゃん、と呼ばれるのは悪い気はしないしね」
「ならいいんだけどさ」

そういって、青年はその場に座り込む。

「彼女の病気は相当に重いようだね」

「……親に先立たれてからだ。妹の身体が動かなくなったのは」
「起き上がろうとしても、自分の意思で起き上がれなくて」
「持ち上げようとするんだけど、まるで石みたいに重くなってた」
「医者に見せたら、古い病気の一種で身体が石のように重くなる病なんだそうだ」
「病が進行すると、完全に全身を動かせなくなって、喋る事も出来なくなるそうなんだ」

青年は声を震わせながら、ナズーリンに言う。

「なんで、妹がこんな目にあわなきゃならないんだ……」

ナズーリンは何も言わない。
ただ青年の言葉に耳を傾ける。
しばらくして、青年がナズーリンに言う。

「ナズーリン。ナズーリンが悪くなければ、妹の話し相手になってくれないか?」
「話し相手に?」
「妹はナズーリンになついてたし、外の話をすれば妹も喜んでくれると思うんだ」
「ふむ……」

流石に二つ返事で了承する事は、しなかった。
星や白蓮から、一応許しは貰っておく事にしよう。
恐らく、悪い知らせにはならないだろうが。






5.

あの後、白蓮と星から直々に許しが出た。
「貴方の望むようにおやりなさい。私は貴方を束縛する事は致しませんので」と、白蓮。
「ナズの思うようにするといいさ。私がナズを束縛する理由はないからね」と、星。

よほど私は信頼されているらしい。
しかし揃いも揃って、同じ事を言われるとは思わなかった。
まぁ、喜んでいいのだろう。悪い気はしないのだし。

それから、たまの散歩ついでに青年の妹の家で、他愛ない世間話をするようになった。
青年に頼まれたからやっているという義務感ではなく、自分の意思でだ。
青年の妹の鈴が、かわいそうという同情からでもない。
子供は皆、愛しいものだろう?

「……それで、私が探せといった物は全部ネズミ達がたいらげてしまったわけだ」
「あはは。ネズミさん達はお腹空いてたんだね」
「彼らは確信犯でやってるのさ」
「かくしんはん?」
「わかってて、やってるって事だよ」
「そうなんだ……ごほ、ごほ」
「大丈夫かい?」

ナズが鈴の背中を撫でてやる。
青年が、薬と水を持ってくる。
病気の進行を遅らせる薬を、鈴に飲ませていく。

「大丈夫か、鈴?」
「うん、大丈夫だよ。おにいちゃん」
「いや、少し休んだ方がいい」
「えぇ、折角おねえちゃんが来てくれてるのに」
「大丈夫さ。私はまた来るから」
「本当に? ありがとう、おねえちゃん」

そして、鈴が眠りにつかせると、
青年がナズーリンの方を向く。

「状況は芳しくないようだね」
「どんどん薬が効かなくなっているんだ。これ以上の投薬は妹の身体にも負担がかかって、命に関わるって……」
「だから、完全に治すための手段を探していた、という事かな」
「ああ。僕の命に代えても、妹を必ず……」
「君は実に馬鹿だな」
「え?」
「君が死んだら、元も子も無いだろ? 彼女には君しかいないんじゃないのか?」
「あ……」
「君は妹の為に、妹を孤独にしてしまうのかい?」

青年は押し黙ってしまった。
ナズーリンは言い過ぎたかとも考えたが、
彼の無謀さを鑑みるにこれでも足りないのではと不安になった。
実際、ナズーリンの不安は現実のものとなった。






6.

ナズーリンがいつものように里に向かい、なにやら里の様子がおかしい。
すると慧音がこちらに向かってくる。

「ナズーリンか。すまないが、彼を見かけなかったか?」
「いや、今日は来たばかりで見てないが、何かあったのか」
「こんな手紙が彼の家の机に……」

慧音から手紙を受け取り、読む。
するとナズーリンはそのまま、走り出した。

「お、おい!」

慧音の静止を聞かずに、ナズーリンは空へと駆けあがる。

―――まったく、あの馬鹿は!

手紙には、「薬草が見つかった。取りに向かいます」





野ネズミ達に命令して、青年を捜させる。
最悪のケースは頭にあるが、それは考えないようにした。
余計な事を考える余裕などないのだから。




7.5

そして現在に至るというわけだ。
見つけた頃には既に彼は息も絶え絶えであった。

青年の背からはおびただしい血が噴出していた。
その傷から察するに妖怪にやられたのだろう。

「すまない、ナズーリン……」
「そう思うなら、誰にも相談せずに一人で解決しようとしないでくれ」
「いや、でも、皆に迷惑をかけるわけには……」
「もう掛けてるだろ? それにもう喋らない方がいい」

応急処置程度の止血で止まる血ではない。
早く、人里に戻らなければ。

しかし後ろから追跡してくるのは、
熊の姿をした妖怪。
単純な腕力だけ考えれば、
ナズーリンを殴り飛ばす程度は容易い。
さらに男を抱えた不安定な状態では、
ナズーリンに勝ち目は無い。

高空を飛ぼうにも、この状態では満足にスピードも出せない。
モタモタしていれば、青年の命は持たないだろう。

「ッ!」

熊の妖怪が、その爪を振るう。
かろうじて回避したものの、体制を崩されて、青年が手から滑り落ちる。
ナズーリンは青年に向かう熊の妖怪に弾幕を放つ。
しかし熊の妖怪は効いた風にも見えない。
意に介さず、青年に向かっていく。

そして熊が自らの爪を青年に向けて振るった瞬間。
ナズーリン自身も何故、そうしたのかは分からない。
分からないが、気付けば青年に覆い被さって、その小さな背中で熊の妖怪の爪を受けていた。

「ぐぅッ…!」
「ナ、ナズーリン……」
「はは、君のせいだぞ。馬鹿が移ったじゃないか…」

ナズーリンは振り返る。
目の前には熊の妖怪。
後ろには深手の青年。
そして自身もまた先ほどの攻撃で負傷している。

らしくもない。
いつもならさっさと逃げてしまうのに。
こんな短い間に、彼に毒されてしまうとは。
でも、こんなのも悪くないかもしれない。
星には悪い事をしてしまったな。

熊の妖怪が爪を振るう。
死を覚悟したナズーリンはそのまま目を閉じた。




8.

目覚めるとそこは天国ではなかった。
見覚えのある天井。
そこはまさしく命蓮寺であった。

「気がついたかい、ナズーリン」
「星。私は何故ここにいるのだろう」
「人里の捜索隊が君らを発見した。妖怪は無事退治した」
「そうか、彼は?」
「君と一緒に居た青年か? 今は永遠亭にいるようだ」
「永遠亭に? 騒ぎとやらは無くなったのかい」
「ああ、それか。それなら心配は無い」

そういうと、星はナズーリン達を発見した後の事を説明した。
人里の捜索隊によって、ナズーリンと青年が発見された。
熊の妖怪は、捜索隊に随伴していた妖怪ハンター達によって退治された。
あの後、永遠亭に青年は運ばれた。
事情を説明すると、永遠亭の八意永琳らは青年を受け入れ、緊急手術となった。

さらにその後の調べで、竹林の騒ぎは人里のとある医者の作り話であった。
人里の人間達も、永遠亭を利用するようになった為、
自身の診療所が割を食う結果となった事からの行動だったようだ。

発見された医者は人里で厳しい罰を与えられる事になった。
今回の混乱を考えれば、慧音としても妥当である、と判断したようだ。
二人の人間の命が失われようとしていたのだから。

青年の妹も、永遠亭で治療される事が決まった。
中々の難病であり極めて時間が掛かるだろうが、
治せないわけではない、と永琳は言っていた。

そして当の青年はどうなったか。
無事、といえば無事だった。命は。





9.

永遠亭の一室にナズーリンと青年はいた。

「あ、ナズーリン。傷はもういいのかい?」
「私の心配より、君の心配をしたらどうなんだい」
「あはは」

青年は寝たままの状態で、ナズーリンに語りかける。
青年の笑っていた。しかしその目は虚ろだ。
無理もないだろう。
何しろ、彼はもうまともに動けないのだから。

背中に攻撃を受けた際に脊髄を損傷したという。
生きているだけで奇跡だと、永琳は言っていた。

「妹は、どうなるのかな」
「永琳が治療をするといっている。時間は掛かるが、彼女なら治してくれるだろう」
「そうか、よかった」
「君は馬鹿だよ。たった一人で突っ走って、結局このザマだ」
「ごめん。皆にもナズーリンにも迷惑を掛けっ放しだ」

本当に申し訳なさそうに、青年は言う。
そう謝られては、ナズーリンはこれ以上何も言えない。
ナズーリンは青年の病室を後にした。



その後、ナズーリンは青年とは会っていない。
しばらくして、永遠亭の病室で一人の患者が自殺したという話を風の噂で聞いた。
初ナズーリンがこんな話とかどういうことなの……。
全体的に破綻しているように見えるけど、突っ込んでも何も出ないので悪しからず。

排気ガスさんにチュッチュする話を提供するはずが全く方向性の違う話になってしまった事を。

本当にすまないと思っている。
名前がありません号
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/19 17:42:48
更新日時:
2010/01/20 02:42:48
分類
ナズーリン
欝な話
ナズのせいじゃないけど欝
1. 排気ガス ■2010/01/20 20:42:15
ナズを慰めに行こうと思ったけれど自分もちょっぴり落ち込んでしまった、この思いを全力でナズにぶつけに行きたいと思います
ごちそうさまでした
2. 名無し ■2010/01/23 19:30:27
なんとも後味の悪い話だ。
しかしこの青年の立場で寝たきりになんてなってしまったら最早どうしようもなさそうだな。
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