Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『隣人』 作者: 名前がありません号
私達は隣人ね。
パチュリーはそういった。
何を唐突に、とレミリアが聞き返す。
私達の関係は家族より遠くて、でも他人より近いって事よ。
そういうものかね。
レミリアは言う。
寄せ集めじゃない? 私達は。
パチュリーは本に目を向けながら、言う。
中国の妖怪に、小悪魔に、本の虫に、切り裂き魔に、吸血鬼か。確かにごった煮だな。
レミリアは、なるほどとパチュリーの言葉に同意する。
で、だからどうなんだい?
レミリアはパチュリーに問う。
別に。深い意味は無いわ。意味があるとすれば、私が変に気を使わなくていい所かしら。
パチュリーは小悪魔が淹れたコーヒーに手をつける。
居候の発言とは思えないね。館の主としては特に聞き逃せないなぁ。
レミリアはテーブルの菓子を摘みながら言う。
家族だと何か不都合でもあるのかい。
家族ごっこなんて、私は御免だもの。
パチュリーは言う。その視線は本に注がれたままだ。
仮にも妹のいる身の私の目の前で言う言葉じゃないよ。パチェ。
レミリアは、掌で赤いオーラを形成して、それを手で弄ぶ。
本当の妹かどうかも、わからないのに?
パチュリーは初めてその視線を、レミリアに向ける。
貴方だって、知っているでしょう? 吸血鬼は、子供を生まない。生む必要が無い。
腐乱死体の子供なんて、持ちたくないだろ?
レミリアはパチュリーの視線を受けながら、へらへら笑って答える。
なら、貴方は母の子宮で生まれたことがある?
パチュリーは、コーヒーを飲み干して。
その記憶が貴方にある?
ないよ。
レミリアは、素直にそういった。
腹を食い破って現れた記憶はあるかもしれないけどね。
そしてまた、へらへらと笑い出す。
なら、あの子は何処から生まれたのかしら?
パチュリーの視線には、フランドールに対する恐れが見え隠れしている。
貴方だって、怖いのでしょう? あの子が。
怖い? かわいいの間違いだろ?
レミリアは笑みのまま、言う。
フランの純粋な破壊衝動ほど、綺麗なものはないさ。穢れがないからね。
穢れる前に、焼き払われてしまうからじゃないのかしら?
パチュリーはレミリアの笑みを気にする事無く続ける。
それの何がおかしい? 美しいだろ? 一面真っ赤だ。
レミリアはクックック、と笑ってみせる。
クッキーの食べカスをつけたままなので、少し滑稽だ。
それを彼女が望んでいるの? 貴方がそれを“強要”しているのではなく?
パチュリーは本を読み終えたのか、新しい本を取る。
妹様、いえ、フランドールは貴方自身なんじゃないの?
だったら、どうなんだ? 私とあいつの中身を入れ替えてみるかい?
お前なら出来るだろ? と言う目で、パチュリーを見る。
嫌よ。面倒くさい。そんな事の為をする為に魔法を使う気は毛頭無い。
パチュリーは本の内容を確認すると、以前読んだ本だと気付き、別の本を取る。
だいたい、フランドールは了承しないでしょう?
了承が取れれば、やるのか? なら、多少強引にねじ伏せて連れてこようか?
レミリアは手で弄んでいたオーラを窓に投げる。しかし窓に到達する前に、オーラは霧散した。
敬愛する友人の実験になら、協力はそれなりに惜しまないよ?
そんな協力は結構だわ。貴方と心中するつもりはないもの。
パチュリーは、ベルを鳴らして小悪魔を呼び寄せる。
こあこあこあっとー、と言う気の抜ける声と共に小悪魔がやってきた。
なんでしょう、パチュリー様。とうとう、命を捧げて下さるのですか。
小悪魔を短時間で送還する方法は、と。
パチュリーは小悪魔に聞こえる声でそう言い放つ。
相変わらず酷い主です。コーヒーと本の整理ですね。わかってますよ。
小悪魔はやれやれと言った表情で、図書館を出る。
相変わらずの酷使ぶり。関心するね。
レミリアは図書館を出る小悪魔を見ながら、パチュリーに言う。
悪魔は酷使するものよ。限界より2〜3歩手前まで酷使しても、大丈夫だと分かったから。
パチュリーはランプの明かりに火を灯す。
ランプの中では小さな火の精霊がうごめいている。
悪魔泣かせだ事。まったく友人ながら恐ろしいね。
レミリアは図書館の鏡を見る。そこには紅魔館の外の空が写っている。
赤い月だ。燃えてるようだよ。
紅い月じゃなくて残念ね。
パチュリーは鏡を見ずに言う。
これはこれでいいさ。情熱的で、暴力的で。
鏡の赤い月に、その手をかざしてグッと握り締める。
私は青い月がいいわ。ずっと静かなままの。
パチュリーは本を読み終え、机に置く。本はアンバランスな状態で留まっている。
青い月は狂気を一番内包してるんだ。なるほど、静かに狂ってるわけだ、パチェは。
素晴らしいね、とくすくすと笑うレミリア。
さぁ、誰一人この館で狂っていない者なんて居ないわ。自覚していないか、隠しているだけ。
パチュリーは、机の引き出しを開ける。
確かに。でも、私達に限った話じゃない。皆そうさ。狂ってるのさ。自覚がないだけでね。
レミリアは、その手を擦り合わせる。
じゃあ、全部壊して狂ってしまえば、楽になれるかしら。
さぁ、試してみる?
パチュリーはランプに水の精霊を押し込める。
火と水の精霊が互いに反発しあい、ランプが破裂した。
それが引き金だった。
苦しいわ。
パチュリーは、レミリアに首を締め上げられながら、言う。
痛いわ。
レミリアは、パチュリーのオータムエッジを全身に受けながら、言う。
おかしいわよね。こんな事でしか、自分が生きてるかどうか確認できないなんて。
パチュリーは、ごほごほっと咳き込みながら、言う。
しょうがないよ。長く生きてれば、頭のネジの一本二本外れたって、気付かない。
レミリアは、目と口元から血を流しながら、言う。
パチュリーはオータムエッジを消し、レミリアはパチュリーの首から手を離す。
フランドールにもこんな思いをさせる積り?
パチュリーは、ふぅと深呼吸して言う。
それはフラン次第さ。私は何もしない。運命を操るのは面倒なんだよ。
レミリアは、手で自らの衣服を叩くと、血も服の傷も消えていた。
結局、妖怪なのね。レミィも、私も。こんな程度じゃ、死ぬ事も出来ないなんて。
つまらなさそうに、パチュリーは言う。
今更、後悔したって手遅れさ。それが私達の運命なんだ。
自嘲をこめて、レミリアが言う。
だとすれば、こんな運命に書き換えたレミィを呪うわ。
最初に運命を書いた奴に、文句を言うといい。私に幾ら言ったって無駄なんだからさ。
コーヒーが入りましたよー。
小悪魔がやってくる。
ありがとう、小悪魔。
パチュリーが言う。
おや、珍しい。パチュリー様がありがとうなんて言うなんて。槍が降りますね。
小悪魔が、ケラケラ笑いながら言う。
そんな小悪魔の頭上に、ドヨースピアが放たれる。
痛い! 痛いです、パチュリー様!
あら、槍が欲しかったんじゃないの?
ニヤニヤ笑いながら、パチュリーが言う。
うぐぐ、仕事に戻りますぅ。
小悪魔は、とぼとぼと司書の仕事に戻っていった。
酷い女だ。常識の欠片も無い。
レミリアが肩をすくめて言う。
お互い様よ。
パチュリーは銀のスプーンを、コーヒーに入れる。
見る見る内に、銀のスプーンは黒く変色していく。
案外にアナログな事をするもんだ。
レミリアは言う。
近代的な手段の対策をしている所に搦め手で、古典的な方法をする事は有効よ。油断するから。
パチュリーはいる? と毒入りのコーヒーをレミリアに進める。
やってる事が咲夜と一緒じゃないか。
レミリアは、そう言いながらも、毒入りコーヒーを受け取って、飲む。
不味いわ。
でしょうね。
鏡に映った月は、レミリアの目にも、パチュリーの目にも、赤でも青でもなく灰色に見えた。
殺す一歩手前まで互いに追い込みあう。
常に誰かの命を狙いあう。
全ては、自分が生きてるかどうかの確認の為。
隣人は今日も生きている。
※ ※
愛でもなく、欲でもなく、生死の証明。
見かけは平静でも、心中は常に互いの命を狙っているのかもしれない。
そうすることでしか、生きているかどうか分からないなら、外じゃ生きられないだろう。
妖怪か人間か以前の問題だ。
名前がありません号
- 作品情報
- 作品集:
- 10
- 投稿日時:
- 2010/01/20 18:14:25
- 更新日時:
- 2010/01/21 03:14:25
- 分類
- レミリア
- パチュリー
- 隣人
だって隣人は選べないもの
小悪魔かわいい
それなら初めから何の接点も作らないか、あるいは適度にぶつかり合っているのが一番