Deprecated: Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『嗜虐神 諏訪子〜氷精の章〜』 作者: 紅のカリスマ

嗜虐神 諏訪子〜氷精の章〜

作品集: 10 投稿日時: 2010/01/23 15:06:17 更新日時: 2010/02/24 21:04:18
この作品は『嗜虐神 諏訪子〜序章〜』の続きです。





「手頃なのは、氷精かな。名目は、蛙達の復讐代理・・・フフッ、こんな十分過ぎる大義名分があるんだから、あの氷精には何しても問題はないよねぇ?」

 そう言いつつ、守矢の神は麓へと降りていく。
己の神にしては、深くも愚かな欲望を満たす為に・・・。





───妖怪の山の麓、霧の湖。

 紅魔館のある浮き島も存在し、常に数多の妖精が集っているこの場所に、諏訪子の獲物となる予定の氷精ことチルノがいる。

「さて、と。あの氷精は何処にいるのかしらね。蛙達の話では、この辺りに何時もいるそうだけど・・・ん?何か、寒いな・・・」

 少しばかり辺りが冷えて・・・いや、それどころか寒くなってきた。

 まだ外気が肌寒さを感じさせる初春の季節とはいえ、ここまで寒いと真冬に近い。
しかし、諏訪子にはすぐに理由が判り、同時に心の中でほくそ笑む。

「そういえば・・・あの氷精の周りは常に冷気に包まれてたわね。ということは」

───氷精は近くにいる。

 一先ず、その場で辺りをよく見渡す。



「───あ」

 少し離れた湖の岸辺の付近にいた。
近くには、遊び仲間と思わしき妖精や妖怪達が数匹見える。


 早くも獲物を見つることが出来た。
その為かは分からないが、諏訪子の身体は既に興奮に身震いし、意識してか否か薄笑いを浮かべている。

「悪戯で蛙を凍らせるなんてことしてなきゃ、私に目を付けられずに済んだのにねぇ。不運な妖精だわ、ホント・・・ま、そうでなくても、麓に出向いた時に一度出会ってから、何て虐め甲斐のある奴なんだろう、とは思ってはいたけどね。フフッ・・・お、取り巻きは行ったかな?」

 もう一度、諏訪子がチルノの方に目を向けた時、共に遊んでいた他の面子が何処かに飛んでいくのが見えた。

 チャンスは逃すべきではない。

 確認した直後、諏訪子は即座に行動を開始した。





「チルノちゃん。それじゃあ、また明日ね〜」

「うん、じゃあね!」

 友人達が、各々の住み処へと帰っていくのを大きく手を振り見送る。

 実に微笑ましく、平和な光景だ。

 友人の妖精達を見送った後、チルノもまた自分の住み処に帰ろうとした───だが

「───やっほ〜、氷精さん。元気?」

 振り向いた先に立っていた諏訪子に足を止められた。

「あ、この前会った蛙のかみさまじゃない。何よ?あたいにカチカチに凍らせられに来たの?」

 出会って早々に、攻撃的な態度に出てきた。

 妖精のクセに生意気な、と諏訪子は思う。

 だが、そんな些細な苛立ちはこの後にチルノに行うことを考えれば、最早どうでも良い。

 むしろ、彼女の脳内では一つの考えが浮かんでいた。

 目の前にいる氷精の強気な態度、神を前にしても一切自重しないこの傲慢な態度を───















───粉々に崩してやりたい。

 悲鳴を上げさせたい。

 泣き喚かせてやりたい。

 助けて、と叫ばせてやりたい。

 何度も何度も謝らせてやりたい。

「・・・フフ」

 その様なこと想像している、諏訪子の口元がにやけ始める。

 共に心臓の鼓動が激しくなってきていた。

 少しばかり、股の間が熱くなってきた。


───嗚呼、もう我慢出来ない。

 興奮は絶頂に達した。


「何よ、あんた・・・何、にやけてんのよ、気持ち悪───ィぎッ!!?」

 チルノはその一瞬の間、状況を理解出来ないでいた。

 当然だろう。

 目の前にいた諏訪子により、唐突に、思い切り地面へと叩きつけられたのだから。

 諏訪子の手が彼女の頭を無理矢理締め付けている。
諏訪子の幼い外見からは、想像出来ない程に恐ろしい力でだ。
まるで、万力により締め付けられているかの如く、チルノの頭骨がミシミシと音を立てている。

「ぃ、ぎあッ・・・な、何・・・すん、のよ・・・ッ!?」

 何とか痛みに耐えつつ声を出し、何故このようなことをするのかを諏訪子に問う。

「簡潔に言ってしまえば、あなたが今まで凍らせてきた蛙達の復讐代理かしら?湖の氷精に凍らされて困ってる・・・とか何とか言ってたからねぇ。だから、こうして今、復讐を実行中なのよ」

───ま、単なる名目だけど、私の欲求不満を満たす為の・・・ね。

 最後の言葉は、喉の奥で押し留める。

 言ってしまって誰かに聞かれたら流石にまずい。

「復、讐・・・ぅあッ・・・!?」

「そ、復讐よ、ふ・く・しゅ・う。取り敢えず、滅茶苦茶痛くしてあげるから、宜しく・・・ねッ!!」

「───ェぐッ!!」

 チルノの頭を持ち上げ、また地面に思い切り叩きつける。

 多少、土埃が上がる。

 一旦、万力の如く締め付けていた自分の右手をチルノの頭から放す。

「いだ、ィッ・・・痛いぃッ・・・!!」

 後頭部を地面に二度叩きつけられ、チルノは頭を押さえて痛みに悶える。

 ちらと見えた後頭部が、赤く染まっていた。

 地面に石でも出っ張っていたのだろう。
諏訪子にとっては、その程度のことでしかなかった。

 そんなことを考えているよりも、もっと考えるべきことがあったからに他ならない。

 つまり、次にチルノをどうしてやるか、だ。

「さぁて、次はどうしてあげよう───?」

 次の行動に移そうとした時、諏訪子の頬を何かが掠めた。

 おそらくは、鋭利に尖らせた氷。
倒れたままのチルノの左手から放たれたらしい。

 当の本人は、痛みに歯を食い縛り、威嚇する様な睨みと赤く染まった左手を諏訪子に向けている。

 氷は、諏訪子を直接狙ったのだろう。

 だが、頭を二度も叩きつけられた彼女は上手く狙いを定められなかった故に、氷は諏訪子の頬を掠めただけだった。

 掠められた頬から微量の血液が滴り落ちる。

「・・・」

 諏訪子はただ黙って、己の頬を流れ落ちる赤い雫の感覚を辿る。

 そして、雫が諏訪子の顔から零れ落ちた。

 同時に───







───彼女の“神”としての理性という名の枷が外れた。

「どうよッ───」












───グギャ。











「・・・へ?」

 鈍い音が響く。

───え?何が起きたの?

 咄嗟にチルノの頭で考えられたことは、それだけだった。

 そしてチルノは、ゆっくりと自分の腕に目を向ける。

 まず、諏訪子の足が視界に映る。

 その足の下に自分の腕が見える───明らかに異常な方向に折れ曲がった、チルノ自身の腕が。

 それに気付いた瞬間、想像を絶する痛みがチルノに襲い掛かってきた。

「───ぁぁあ゛ァあ゛ア゛ァア゛ア゛ッッッッ!!!??」


 絶叫。


 湖全体に響かんばかりの絶叫をチルノは上げ、もがき苦しむ。

 だが、諏訪子は足を離す素振りを一切見せず、暴れる程にただ激痛が増すのみだった。

「腕の一本折り潰された程度で泣き喚くな、氷精───これから、もっと、もっと痛くしてやるんだから・・・さぁッ!!」

 腕を踏み潰していた右足をそのままに、自由な左足でチルノの左頬に蹴りを叩き込む。

「あぐェッ!!」

 チルノの口の中から健康的な白い歯が幾つか折れ飛ぶ。
唇も切れ、口元から血が流れ出す。

「ほら、もう一発っと!!」

 諏訪子は容赦無く、再び蹴りを入れる。

 今度は顔の正面から。

 今ので鼻骨が折れたらしい。
おびただしい量の鼻血が溢れだしてきた。

「───ッッッッッ!!!」

 最早、あまりの激痛にまともな声すら上げることが出来なくなっている。

 顔は血に塗れ、涙も流れ、目も当てられない状態になっている。

 その様な状態の彼女の髪を左手で鷲掴みにし、自分の目線の高さまでチルノの顔を持ち上げた。

「いぁ、ぁああ・・・ああ・・・」

「良いわねぇ・・・最高よ、その顔。ねぇ、もう止めて欲しい?助けて欲しい?」

 その問いにチルノは、首を何度も縦に振り、肯定の意を示す。

「そう・・・でもさ」

「───止めないわよ?だってさぁ・・・」 

「・・・ひッッ!!?」

 チルノの目が諏訪子の顔を捉えると共に、痛みを刹那の間忘れる程の恐怖が彼女を支配した。









―――目の前の神は笑っていた。

 とてもとても、それは楽しそうに。

「こぉんなに、楽しいのにさぁ。止めるなんて、本当に馬鹿馬鹿しいのよねぇ・・・フフッ・・・ウフフッ・・・アハハハハハッ!!」

 バカ等と様々な者達に言われるチルノにも、目の前で愉しそうに高笑う少女を何と言うべきかは、即座に理解出来た。

「───あく、ま・・・」

―――悪魔。

 思わず、そんな言葉が口から出してしまう。

 自分のことを殺さんばかりに、嗜虐的な行為を繰り返し行い、それでいて笑っている。
そんな、目の前の神に対する得体の知れない恐怖故に。

「あら、それは向こうの館の主人に言うべき言葉じゃないかしら?そもそも、私は神様。悪魔と一緒にされるのは癪なのよね・・・ホントに」

 そして、より一層、髪を掴む手を強く握り締める。

 そのまま、がら空きのチルノの腹部目がけて、右の拳を打ち込み始める。

 一撃目。

「お・・・げぇ・・・」

 下から抉り込む様に入った拳は、彼女の胃袋ごと内容物を上に押し上げる。

「ほら、次だ、よッ!!」

 二撃目。

「う゛───お゛げぇぇえ゛え゛ッ!!!」

 遂に胃の内容物が口から逆流する。
内容物は、歯の折れた箇所を通過し、それは、腹部の痛みと共に二重の痛みとなってチルノを苦しめる。

 諏訪子の方は、それをまともに浴びる前にチルノを掴んでいた手を離し、少しばかり後ろに下がっていた。

 チルノは吐く直前で、咄嗟に反応出来ずに、自分の吐き散らした内容物の海に顔面から落ちていた。

「うう゛ぇ、う・・・あ゛ぁ・・・」

「うっわ、ゲロ臭っ。咄嗟に躱したから掛かりはしなかったけど・・・あなたは悲惨だねぇ、氷精さん?」

 そう言いつつ、ゲロ塗れのチルノを見下ろす。

 その顔に嘲りの笑みを浮かべながら。













「───チルノ、ちゃん・・・?」

 凄惨な光景の広がる場所に澄んだ声が響く。

 諏訪子は、その場違いな声のした方を見やる。

 緑の髪をサイドポニーにした、一匹の妖精が立っていた。

 その顔は、呆然、驚愕、恐怖・・・等、様々な感情が渦巻き、何とも言えぬ奇妙な表情をしている。

「あ・・・だ、大、妖精・・・」

 チルノの言う通り、彼女は大妖精。
霧の湖付近では、チルノを除けば最も力のあるであろう妖精だ。


「ふぅん・・・友達?」

 諏訪子の問いに対し、無言で目を逸らす。

 その様子で諏訪子には、大妖精がチルノの友人だというのは判ってしまった様だが。

 見る限り、友人に自分のこの様な姿を見せてしまったことによる羞恥心。
それにより言葉も出ない・・・そんなところだろう。

 大妖精は、そんな友人の悲惨極まり無い姿を見て、どうすべきか分からず、ただただその場に立ち尽くしている。

 彼女が、偶然通り掛かったのか、それともチルノに用があってここに来たのか。

 それは分からない。

 だが今の諏訪子は、大妖精をチルノの友人と知ったうえで、平然と見逃す訳があるはずもなかった。


「友達か・・・だったら」

 諏訪子が両手を大妖精へと向け、その指を軽く動かす。
まるで、何かを捕まえるかのような動きで───








───直後。

「───え・・・ッ!?」

 大妖精の足下から、数本の植物の蔓が地面を突き破り、姿を現す。
それは、姿を現すと共に大妖精の身体を締め上げ、身動き出来ぬ様に完全に拘束した。

「な・・・何、これ・・・ぁ、がッ・・・い、痛いッ、痛いぃッ・・・痛いよぉおッ!!」

 段々と強く、強くなってくる蔓の締め付けに苦るしみの言葉を漏らす。

「や、止めてよぉ・・・大、妖精は・・・大妖精は関係な、いのにッ・・・!!」

 先程、諏訪子の狂気を垣間見たと言うのに未だ彼女は、諏訪子が蛙の復讐の為にここまで自分を痛め付けたのだと考えていた。

 それを無関係の大妖精に向けたことへ怒りを顕にしているのだろう。

「本当に関係ないのかな?あんたの友達なんだから、共犯っていう可能性もあるじゃない?」

 そもそも、共犯かどうか等の真偽に諏訪子は全く興味がなかった。

 元から妖精の言葉に、本気で耳を貸すつもり等なかったのだから。

「だ・・・大妖精、は・・・や、やってない・・・やって、ない、わよッ・・・」

 息も絶え絶えになりながら、チルノは反論する。

───実に滑稽だわ。

 心の中で嘲り笑いながら、この意味も無い問答に終止符を打つ。

「なら・・・本当にやっていないという、その証拠はあるのかしら?」

「・・・やって、ない、ったら・・・やってない・・・のよ・・・やったのは・・・ホントに、アタイ・・・だけ、よぉ・・・ッ!!」

 必死に食い下がろうとするが、諏訪子は最早、聞いて等いなかった。

 拘束された大妖精の方へ、ゆっくり歩を進めていく。
大妖精の元へ着くと共に蔓を動かし、大妖精の顔と自分の目線の高さを合わせる。

「な・・・何で、こんな酷いことするん、ですか・・・そもそも・・・あなたは誰、なんです、かッ・・・?」

 最初に口を開いたのは大妖精。

 当然の疑問を問うてきた。

「私は、山の上の神社に住む神様・・・洩矢 諏訪子。何でこんなことをするかは・・・向こうの氷精と私の姿を見て、何と無く察しがつかないかな?」

 そう言われ、大妖精は蔓に締め付けられている苦しさに耐えながら、諏訪子の姿を冷静に見る。

 足下から少しづつ、視点を上げていくと、先程まで合っていた目線とは別の目線に合う。

 それは、諏訪子の奇妙な形の帽子の目線。

 まるで蛙の様な形をした帽子の目線だった。


───かえる・・・!?

 ハッ、と大妖精は気が付く。
目の前の神が何を司っているのかに。

 そして

 何故、自分の友人があの様な凄惨な目に遭わされているのかも。

「か、かえるの・・・神様・・・ッ!?」

「まぁ、そんなとこ。あの氷精があまりにも蛙達を凍らせまくるから、私が直接彼らの復讐に来たという訳よ・・・後、あなたも共犯の可能性があるから、拘束したの」

「そん、な・・・私は、やってな───」

 大妖精が、否認の言葉を紡ぎ終える前に、諏訪子が右手を握り締める。
それに呼応し、蔓が大妖精を更に強く締め上げる。

「───あが、ぁ・・・ぁあ゛ぁあぁあ゛あ゛あ゛ァッッッ!!!」

 首を大きく振り、髪も振り乱す。

 目を限界まで見開き、涙を流す。

 口からは、ただ激痛に対する絶叫が溢れ、周囲にこだまする。

 身体中の骨が悲鳴を上げていた。

「痛いッ、いだいッ、痛いッ!!い゛だい゛!!!イ゛ダイィイ゛イ゛ィッッッッ!!!!」

「あ・・・あ、ぁ・・・大、妖精ッ・・・」

「素直に言ったら?私も向こうのチルノちゃんと一緒にやりました〜、ってさ?」

「わだしはや゛っでな゛いぃッ!!ほんどにや゛っでないんでずッッ!!!」

「大妖精ッ・・・!!」

「・・・チッ」

 思い通りに行かず、舌を打つ。

 締め付けを強くされた程度では、彼女はやったとは言わなかった。
流石に名目もないまま、大妖精の方をチルノ程に痛め付ける訳にもいかず、手を出すことの出来ぬ憤りを諏訪子は隠せない。




 ふと諏訪子は、そこで少し冷静になり、辺りがかなり暗くなっていることに気付く。

 あまりに感情を昂ぶらさせ過ぎて、気付かなかったが、辺りは既に夜になっていた。

 故に、諏訪子は一つ考えた。

───そろそろ、今日は締めにしようかな。

 相手は妖精だ。

 殺したところで、また次の日には元に戻っているだろう。

 ならば










───虐めた証拠は隠滅しなくちゃ。


「・・・あ〜、もう良いや」

 諏訪子は握り締めていた右手を開く。
それと共に、大妖精を縛り上げていた蔓が解け地面に戻っていく。

 大妖精は、力が抜け膝から地面に倒れ込むところだ。


───だが、大妖精が地面に倒れることは無かった。



「───開宴『二拝二拍一拝』」

 スペルカードの発動。
だが、これは弾幕ごっこの為の発動じゃない。

───本気で殺す為の発動だ。

「・・・え?」

 諏訪子の両手の平が合わさると共に、巨大な岩の手が合わさり大妖精を押し潰した。

 何が起きたのか理解出来ぬまま、彼女はもの言わぬ血と肉の塊に成り果て、光の粒子となり霧散していく。

 妖精の一時の死・・・だ。

「・・・な、んでよ・・・」

「・・・」

「・・・な゛んで・・・大妖精は、何も・・・何もしでな゛い゛のにぃ・・・ッ!!」

 チルノは、泣きながらも憎悪の籠もった目で諏訪子を睨み付ける。

「簡単なことよ。これは、あなたへの見せしめ。あなたがこれからも蛙を凍らせ続けるなら、あなたもさっきの妖精も・・・今後ずっと、今日みたいな目に遭うって訳。何度生き返ったとしても、ね」

「・・・ッ」

「あなたが、今後、蛙を凍らせたりしないと約束するなら、この先、私は一切あなた達に危害を加えないつもりでいるわ」

 先程までとは打って変わって、優しい口調と表情でチルノに語り掛ける。
その姿は、まるで別人の様。

「ホント・・・ホントに・・・?アタイが、かえるを凍らせなければ・・・もう、こんな酷いこと、しないの・・・?」

 最早、チルノには正常な思考を働かせることは出来なかった。

―――否、出来る訳がなかった。

 友人を目の前で殺され、失血により朦朧としてきた意識の中では当然と言えよう。

 そんなチルノには、今まで自分を痛め付けてきた諏訪子のその言葉だけが自分にとっての唯一の救いだと思えた。

 もう、痛いのは嫌だ。

 もう、苦しいのは嫌だ。

 二度とこんな苦痛は味わいたくない。

 今の状況からただただ逃げ出したい。

―――それだけだった。


「ええ、しないわ」

 微笑み。

 その微笑みは、チルノを安心させるには十分過ぎるものだった。

「じゃ、ぁ・・・凍らせ、ない・・・アタイ、かえる、こおらせない、よ・・・だか、ら・・・」

「えぇ・・・だから」











―――もう、楽にしてあげるわ。

「だから、一時眠りなさい・・・可愛い可愛い氷精さん―――蛙狩『蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』」

「・・・」

 諏訪子の力が巨大な岩蛇の姿を象り、チルノの身体全てを呑み込み、彼女を食み砕く。

 大妖精と同じ様な血肉の塊となり、そして、後にはその血肉もただの冷気と化して空気中に霧散していった。

「せめてもの慈悲よ。痛みも感じないまま自然に還って、次の生を受けるのを待ちなさいな―――」

















―――妖怪の山の頂上、守矢神社。

「いやぁ、冷える冷える・・・っと、二人共、もう帰ってたんだ」

 湖から帰ってきた諏訪子は、氷精の相手をしたことで冷えた身体を温めるべく炬燵のある居間へとすぐに向かった。
すると、そこには彼女より先に出掛けていたはずの神奈子と早苗の二人が帰ってきていた。

「あら、お帰り」「あ、おかえりなさい、諏訪子様」

 二人が入ってきた諏訪子に対し、お帰り、と言葉を掛ける。

「はいはい、ただいま〜、っと。神奈子、今日は何時もより帰り早かったね」

 諏訪子もそれに対しただいま、と応える。

「まぁ、たまにはそういう日もあるってことさ。そういえば、諏訪子は何処に出掛けていたんだい?」

「そうですよ、諏訪子様。不用心にも戸締りもせずに・・・」

「あはは・・・御免ね〜、早苗。ちょっと麓の方に、散歩に行ってたのよ〜」

「もう、諏訪子様ったら・・・次からは気を付けて下さいよ。今から夕御飯作りますので、少しお待ち下さいね」

 そう言って、早苗は台所の方へ行った。



「・・・」「・・・」

 後には二柱の神のみが居間に残される。
暫し無言で炬燵に足を入れ、座り込んでいたが

「―――諏訪子」

 神奈子が諏訪子に話しかけてくる。

「・・・何よ?」

 炬燵のテーブルに顎を置き、眠たそうに彼女は返答する。

「・・・あんた、まさか“アレ”なのかい?」

「・・・」

 最初の言葉に諏訪子は無言で答える。

「今まで、ずっと大丈夫だったのに・・・何で今になって再発するかねぇ」

 ハァ、と神奈子は深く溜め息を吐き、遠い目をする。

「おいこら、人を病気持ちみたいに言うな。それにこのことは神奈子には関係無いでしょうが」

「ま、そう言われてしまえばその通りだけどね―――だけれど、あんまり大っぴらにやってたら、霊夢やスキマ妖怪に目を付けられるよ・・・?」

「フン・・・そんなヘマする訳ないでしょ?」

「なら、良いんだけど」



 また少し、沈黙が続く。

 次に口を開いたのは諏訪子だった。

「でも、さ・・・もし、そんな状況になったら、あんたは私をどうする?」

「・・・何もしないわ。あんたが何をしようとも、私はあんたに一切干渉しない―――そう“あの時”に決めただろう?忘れる訳がない・・・諏訪子と決めた“約束”なんだから」

「―――それで良いよ、神奈子・・・あんたは、私が何をしようとも、私に敵対することも、味方することもしなくていい。ただ、中立でいてくれればいいの。私のたった一人の友人として・・・ね」

「諏訪子・・・」

 諏訪子は、そう言って目を閉じ、何処か哀しげな笑みを浮かべていた。

 神奈子は、そんな彼女を見つめているしかなかった・・・。











〜蛙の観察日記〜

一日目

蛙に付いて行ったら、湖に着いた。
氷精がいた。
蛙は氷精を痛め付けている。
弱らせて食べる気かしら?
氷精の友達らしき妖精が来た。
そっちのことも弱らせて食べようとしていたのだろう。
だけれど勢い余って、押し潰してしまったみたい。
残念だね、蛙さん。
そうしている内に氷精が蛇に食べられていた。
何で蛙じゃなくて、氷精を食べたんだろ?
分からない。
だけど、明日以降も似たようなことの繰り返しになる気がした。
妖精は生き返ったら記憶を失うはず。
前に書いた、妖精の観察日記にはそう書いてある。
何時書いたかは憶えてないけど。

明日はどうなるのか楽しみで仕方がない。
どうも、紅のカリスマです。
今回は、二作目になります。

ストーリー展開が自分の中で思っていた以上にでかくなってきたことに伴い、文章を少し修正+観察日記を後書きから本文へ移動しました。

・・・天子のこと、どう虐めよう?

以下コメント返信

>>johnnytirst様
では、私もご一緒に……お酒は少々苦手ですが^^;

>>穀潰し様
この話の場合は、諏訪子様がチルノを殺し、その度にチルノは記憶を無くす為に諏訪子様に言われたことを守らない。
故に、チルノがまた蛙を凍らせるから諏訪子様がその復讐をするという名目で、正当性を失わずに嗜虐行為に走る……という一種のループ展開になっています。
チルノ相手なら正当性は永遠に失われない、という訳です、この章を単独の話として見た場合だと。

残る天子とレミリアに関しては、大義名分も正当性もない諏訪子の純粋な欲望を曝け出したストーリーを描こうと考えています。
一応、双方ともに理由……というか要因はあります。
天子には根本的な要因ともう一つの理由、レミリアには根本的な要因のみで嗜虐行為に走ります。
ただ、根本的な要因は諏訪子様自身の意志ではない、とだけ言っておきます。

ストーリー的には、天子編は割とほのぼの(?)系に。
レミリア編は、観察日記の書き手も登場するシリアス系にする予定ですので、お楽しみに。

>>アルマァ様
期待に沿える自信はありませんが、ベストを尽くさせて頂きます。

>>4様
穀潰し様への返信にも書いた通りに、大義名分も正当性もない状態で、天子の方はほのぼの(?)系の、レミリアの方はシリアス系の展開を考えています。
上手く良い形に出来るかは分かりませんが、頑張ります。

>>5様
一応、神奈子様と出会う前から諏訪子様は本作品の様な性格ではあります、神奈子様と出会ってから少し性格は変わったのですが。
ただ、諏訪子様が神になる以前にあった出来事が今の暴君としての彼女の性格を作った……的な感じです、自分の中では。
嗜虐神の話では、神奈子と出会ってから抑えていた衝動がある要因によって、深層心理から引き出された感じです……これ、話のネタバレな気もしますが。

続きを書き終えた後に、諏訪子様の過去話についても書いてみようと思っています。

>>6様
大妖精には悪いことをしてしまったと思っています……。
ただ流石に偶然とは言え、あの場に通り掛かってしまったのですから……本当に偶然かどうかは微妙ですが。

>>Explorer様
無限ループ、ホント怖いです。
個人的に、ベスト3に入る怖さです。
紅のカリスマ
作品情報
作品集:
10
投稿日時:
2010/01/23 15:06:17
更新日時:
2010/02/24 21:04:18
分類
諏訪子
チルノ
さでずむ
祟り神
嗜虐神
1. johnnytirst ■2010/01/24 00:32:11
このケロちゃんとはいい酒が飲めそうだ…
2. 穀潰し ■2010/01/24 00:33:26
ああ、良いですね。賢しさと同時に残虐さを併せ持つ祟神惚れます。
さて、「正当性」が消えたらどうなるのか。
それもまた楽しみですね。
3. アルマァ ■2010/01/24 00:53:23
一ファンとして読ませてもらってます。
何このケロちゃんこわい
だが、それがいい
次回も大いに期待してます。
4. 名無し ■2010/01/24 01:40:47
これはサドい諏訪子様
でも天子とレミリアはどうするんだろ
身体能力じゃどう考えても勝てないし、何より今回と違って大義名分が無いぞ
5. 名無し ■2010/01/24 03:20:25
ようやく来た来た

前回の出だしで期待させられていた通りの出来だった
序章部分であれだけ興奮したのは錯覚ではなかったらしい

まともな法や秩序が成立しないような時代、愚民どもをまとめるには恐怖が一番
神奈子とのやり取りからして、暴君諏訪子が元来の性格なのかはっきりしなくなったな
虐待するにせよ、手当たり次第より相応の理由あってのほうが楽しいと思う
6. 名無し ■2010/01/24 04:39:27
ちょw大ちゃんとばっちりで可哀想w
しかし、チルノって手酷い罰を与えられてもおかしくはないよなぁ……大蝦蟇からバチを受けたことはあるみたいだけど
7. Explorer ■2010/01/26 20:51:09
無限ループって怖くね?

流石祟り神・・・
8. 名無し ■2010/12/28 21:27:04
チルノの大妖精の呼び方は「大ちゃん」のほうがいいとおもいますよー
名前 メール
パスワード
投稿パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード