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『今の私がいる理由』 作者: むるふぉ
「何かいいネタありませんかねぇ」
この日、射命丸はいつものように幻想卿でネタを探し回っていた。
新聞の〆切が近いこともあり、休みも取らずにすごい速さで飛び回る。
しかし、そんな射命丸も疲れには勝てない様子で溜め息混じりに呟く。
「はぁ…ネタも見つからないし、川辺で一息つきますか」
もうすぐ時刻も昼時になる。休むにはちょうどいいだろう。
そうして川辺に下りて辺りを見渡すと、そこにはにとりが立っていた。
「おや、天狗様じゃありませんか。こんな所でどうしたんですか?」
「これはこれは…お久しぶりですね、にとりさん。私は取材の休憩ついでにちょっと立ち寄ったんですよ」
「そうなんですか?奇遇ですね。私もちょうど休憩なんです」
会話しつつも射命丸はにとりと話をしようと思いついた。
にとりならネタにならなくても面白い話が聞けるだろうと思っての考えである。
そう決めると、すぐにでもにとりを誘い始めた。
「それなら時間も大丈夫ですね。立ち話もなんですからどこか店に入りませんか?」
「いいですね。ここからなら…あ、そうだ。茶屋なんてどうです?この前、美味しい所を見つけたんですよ」
にとりはお店のメニューでも考えているのか、満面の笑みを浮かべながら提案してくれる。
茶屋の紹介は新聞には似合わないな。
そんなことを思ってしまう自分に苦笑いしながら、にとりの提案に肯定するのだった。
茶屋に着き、二人とも注文を終えた頃。射命丸はにとりにある提案していた。
「さて、にとりさん。あなたに取材を申し込みたいんですが」
「やっぱりですか…。嫌がってもするんでしょう?」
「よくお分かりになられてますね」
満面の笑みで言うと、にとりは苦笑いしながらも了承はしてくれた。
「まずは何から聞きましょうかね…」
言ってから腕を組んで少し考え込む。その間も何を聞かれるのかと、にとりは緊張した面持ちで待ち構える。
「では、スリーサイz……」
「店員さーん。椛さんと他の天狗様を呼んでください」
「ちょっと冗談ですよ!?呼ばれたら天狗社会で生きてけなくなりますから!!」
「次同じことしたら本当に呼びますからね?」
「はい、もうしません。ですので店員さん呼ぶベルをキープしないでください」
そう言って射命丸はにとりの顔を見る。そこには先ほどまでの緊張した顔は無く、普段のにとりの顔になっていた。
その様子に心の中で満足し本題を切り出す。
「それではいきます。にとりさんは河童と人間は盟友と考えているそうですね」
「ええ、そうですよ」
「あなたは人間が大変お好きなようですが…、できればその理由をお聞かせ願えますか?」
「…理由ですか」
「えぇ」
沈黙し、少し考え込んでからにとりは口を開いた。
「そうですね。それは昔、私が未熟だった頃からですかね…」
それはまだ私が半人前だった頃…。
その時から私は人間にかなりの興味を抱いていた。
私の家系は人間と仲良く暮らす、共存を理想にしていた家です。
父は私によく言いました。河童と人間は盟友だと。
科学力も生命力も河童に劣る人間がなぜ私たちの盟友なのか解らなかった。
私はそのことを母によく尋ねました。そうすると母は決まって優しい笑顔でこう答えるのです。
「人間というのは弱く儚い生き物なの。妖怪に襲われたらすぐに消えてしまう、ただでさえ寿命も短い。でも、それと同時にとても強い生き物なのよ。」
母に強さとは何かを尋ねても、決して教えてはくれません。
その頃の私にはとても理解できませんでした。
そして月日が過ぎ、私も一人前になります。
里に行く機会も増えて、人と親しくなり人間の友と呼べる者も少しずつ増えました。
その時の私は幸せだと実感できる生活をしていました。
でも、そんな日々の中にある出来事が起こります。
友人の一人が夜の森を歩いていた。そこを妖怪に襲われ帰らぬ人となった。
言葉にしてしまえばそんな簡単なことで、妖怪の私はよく耳にすることです。
しかし、そんなことは関係ありませんでした。
私やその友人と親しかった人は衝撃を受けます。
そこで私は初めて人の死を悲しむと同時にこうも思いました。
ただ親しい人が死んだだけでこんなにもありふれた出来事は重みを帯びるのだろうか。
私は泣いた。ただひたすらに。
妖怪なので葬儀にも出れません。ましてや妖怪に殺されたのに妖怪が葬儀に出れましょうか。
友人を手にかけた妖怪に復讐もできません。その妖怪は食事をしただけなのです。
食事しただけの者を罰することなど誰ができようか。
それからの私は、自分にできる事を考えては何もできない自分に苛立ち。親友を思い出しては、死に目にも会えず葬儀にも出れない申し訳なさに泣いてという繰り返しを送りました。
その中で私は耐え切れずに思ってしまったのです。
こんなに悲しいなら忘れてしまえばいい…
悲しみから逃げるのは簡単です。
そうして人里に行くと、人間たちは違いました。
どんなに悲しくても悲しみを受け止め、どれほど時間が掛かってもいいから。だからいつか笑って墓参りに行こう。
そう言いあいながら前向きに生きようと努力していたのです。
そして私は知りました。
人はとても儚い、少しの災いで命が尽きる存在だと。
同時に人はとても強い、少しの寿命…その限りある時間を精一杯生きていると。
そのときから私は心から人間と盟友であろうと思いました。
たとえ自己満足でも、もう私の前で帰らぬ人を出さないために。
そのために精一杯努力しようと誓いました。
そのときから私は人間という存在に恋をしたのです。
「そうして、今の自分がいるという事です」
射命丸は言葉を返せず、沈黙してしまう。
普段からは感じられないほどの強い意志を感じていた。
「少し長くなってしまいましたね。大丈夫ですか?」
「いやいや、大丈夫ですよ。本当に聞かせてもらえてありがとうございます」
「これくらいなら全然大丈夫ですよ」
「しかし…随分時間が経ってますね。お仕事は大丈夫なんですか?」
「あ、あー……。全然ダメですよ!」
そう言って勢いよく立つと慌てて荷物を背負い始めた。
「予約貰ってた仕事が時間に間に合わない……。それに持ち込まれたのもあるかもしれないし……」
「あのー、にとりさん。取材料としてここは私が払いますので急いで向かった方がいいのでは?」
「あ、ありがとうございます!ではまた今度にでも」
そう言いながら駆けて行くにとりの声はは途中で聞こえなくなってしまった。
苦笑いで見送りながら先ほどのメモを見直す。
そして射命丸はこう思った。
この記事は書かないでおこう。これは安易に書いていいネタではない。
普段なら取らないような似合わない行動に自分で笑いながらも、射命丸は席を立つのだった。
昔に書いた初作品を書き直し。
にとりが「人間と河童は盟友」と言うのは何故なのかを書きたかった。
お目汚しにならなければ幸いです。
むるふぉ
- 作品情報
- 作品集:
- 10
- 投稿日時:
- 2010/01/23 16:31:18
- 更新日時:
- 2010/01/24 02:02:14
- 分類
- にとり
- 射命丸
きれいな作品…けど自分には悪魔に聖水…
コレハ……メンドウナコトニ……ナッタ……。
間違っても浄化しないでいただきたい(笑
3番目のコメントを間違って消してしまったようです。大変申し訳ありません。
初めての作業ゆえ慣れていないので(汗
コメントくださった方ありがとうございました。
次回があれば生かしていきます。
ってか、自分で微妙だと思うものを出すのは……
クーリエじゃだめな理由は?
思わず入り込んでしまった