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『こいしが死にました』 作者: 名前がありません号
ある朝、こいしが虫の息になっていた。
心臓を抉られていた。
さとり達が見つけた頃には既に手遅れであった。
遅れてきてやってきたペット達がその場を見て泣き崩れる。
さとりはこいしを抱きながら、ペット達にこいしの死体を火葬する準備をするように伝えた。
しばし躊躇しながら、お空とお燐はさとりの言葉を聞いて、準備を始めるために部屋を出た。
さとりは、こいしの額に手を当てて、こいしの安息を願っているように見えた。
こいしの火葬は、さとりとペット達だけで行われた。
表沙汰にするほどでもない上に、変に煽り立てる輩に来られる事を望まなかったからだ。
ペット達もさとりも、ただこいしの安息を祈るだけであった。
それからしばらくして、さとりは頻繁に部屋に篭るようになった。
ペット達は、こいしを失った悲しみからだと思い、あまり刺激しないようにした。
扉の向こうから聞こえてくる、さとりの泣き声を聞いては、お燐とお空は一緒に泣いた。
―お燐side
それからしばらくして、さとりが外に出かけるようになった。
普段は、ずっと地霊殿であたい達と遊んでくれたり、こいし様の様子を見に行ったりしていたのに。
でも少しだけ安心したんだ。
こうして、外に出られたという事は、立ち直ってきたのかなって。
血塗れの姿で帰って来るまでは。
―お空side
いつものようにさとり様が帰ってきた。
血塗れの姿のままで。
私とお燐は、さとり様の姿にしばらく唖然としていた。
でもとりあえず、さとり様の服を脱がせて、身体を拭く事にした。
そして、ふと思った。
この人は誰だろう?
―お燐side
お空がついにさとり様の事まで忘れてしまったようだ。
身体を拭いている最中に、ボソリと呟いたのが聞こえた。
何を言ってるんだ。
さとり様はさとり様だよ、って言ったけど、お空の疑問は消えていないようだった。
さとり様の身体を拭き終えると、私は早速、外に出る。
もし、死体が出ているなら速やかに回収して、地獄の炉にくべなければ。
さとり様はこいし様を亡くして、少しおかしくなってるだけなんだ。
さとり様は悪くないんだ。悪いのは……。
―お空side
今日も、あの人は血塗れで帰ってきた。
お燐は献身的にあの人の世話をして、また火車を走らせる。
何でお燐はあんなに、一生懸命なんだろう。
私にはわからない。
―お燐side
気付かれた。
ついに気付かれてしまった。
さとり様の後ろをこっそりついて行っている時に、
さとり様が人間を殺している所を、他の人間に見られた。
私は、咄嗟にその人間を殺していた。
さとり様と一緒に死体を運ぶ。
でも、その時もう一人いたなんて、気付かなかった。
博麗霊夢が、さとり様を退治しに来るという噂まで立っている。
そんな。そんな。そんな。
なんで、さとり様ばっかり。
悪いのはさとり様じゃないのに。
皆して、さとり様を虐めるんだ。
悪いのは、こいし様なのに。
いつも、責任を取るのはさとり様なんだ。
さとり様は何も悪くないのに。
―お空side
お燐が慌てていた。
さとり様が殺される、殺されるって叫び散らしてる。
お燐は何を言ってるんだろう。
さとり様はもう居ないじゃないの。
―お燐side
え。
なにいってるの。
どこからどうみても、さとり様じゃない。
あんた記憶だけでなく、目もおかしくなっちゃったの?
そうですよね、さとり……さ……ま?
お燐は全てを察してしまった。
さとりを助けたい一心で夢中になっていた余り、
お燐はさとりの顔をまともに見てはいなかった。
顔は確かにさとりなのに。
その表情は、こいしのそれに見えた。
※ ※
お空とお燐が出て行った後。
さとりはお燐の心をなんとなく見てしまった。
その心情から、こいしの死を理解してしまう。
信じがたい話だった。
でも、事実なのだ。
お燐がこいしを殺してしまったのだと。
酷く興奮しきっていて、死体の処分もできないまま放置したのだろう。
本来ならばあの子を罰するべきなのかもしれない。
でもそれは、そんな心情を看破できなかった私の責任でもある。
私にとってこいしは、ただ一人の家族だ。
このまま死なせる事なんて、出来るはずが無い。
この子には私に代わってでも、生きていて欲しかった。
だから私は。
この子の代わりに死んでしまおう。
だから、こいし。
貴方は私の代わりに生きて頂戴。
私の身勝手かもしれないけど、貴方には死んで欲しくないから。
さようなら、こいし。
短絡的な行動が、結果的に最も大切な人を失う引き金になる。
名前がありません号
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2010/01/30 13:49:23
更新日時:
2010/01/31 03:32:15
分類
さとり
こいし
お空
お燐
欲を言えばもう少し長く読みたかった。
地底姉妹は本当にいいなぁ…。