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『みすちーチルドレン』 作者: pnp
小さな小さな、命を秘めた白い玉。
私の大切な子ども達の原型。
一体、いつ身ごもっていたのか、私には分からなかった。
物覚えが悪いから、ってだけでは済まされない事かもしれない。
けれど紛れも無く、この三つの卵は、私の内で作り出された生命。
これが孵化した瞬間――いや、産卵を終えた時点でかもしれない。
私は「おかあさん」になる。
この新たな生命を愛し、慈しみ、育てると言う義務を負う。
友人達は、まるで自分の事のように喜んでくれた。
沢山の虫を従える友人は、その虫の群れの一部で卵の見張りをしてくれていた。
食いしん坊な闇の妖怪も、食欲を我慢しつつ一緒にいてくれたし、氷の妖精はやかましいくらいに祝ってくれた。
こんなにも愛されていると言う事を、この子達は気付いているのかしら。
彼女らの声は届いているのかしら。
それとも、やっぱりまだ聞こえていないのかしら。
聞こえていても、聞こえていなくても。
お願いだから、その殻に閉じこもっていて欲しい。
出てこないで欲しい。
私に必要以上の苦労をかけないで欲しい。
*
何度日にちを数えても、今日だった。
数え間違えようが無い。
物覚えが悪い私だって、日にちを数えるくらいの事ならできる。
昇りかけの太陽を、寝床から眺める。
薄っすらと赤く幻想郷を染める陽光。私は思わず目を細めた。
思えば、こんなに朝早く起きたのは、随分と久しぶりの事だった。
夜行性が祟り、どうも朝には弱いのだ。
私の子ども達も、朝日に照らされ、少しばかり輝いている。
「おはよう」
ぽつりと呟いた。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。心の底からそう思えた。
三つの卵を、私はそっと撫でた。
この中には、私の子どもとなる生き物の素が入っている。
まじまじと見つめていると、信じられなかった。
こんな、白い少し歪んだ球体から、生き物が出てくるなんて。
私はそんな不可解な球体を持ち、地面へ降りた。
産んだ直後より、重たい気がした。
きっと気のせいだ。気分が重いから、全てが重いのだ。
二つを地面に置き、一つは手に取る。
はぁ、と、大きな溜息を付いた。
こんなに大きな溜息は久しぶりの事だった。寝不足の影響かもしれない。
いろんな者が誕生を祝ってくれた卵へ、私は声を掛けてみた。
「ねえ、聞こえてる?」
返事なんてある訳がない。
自分で自分がなんとも滑稽に思えて、自嘲めいた笑みを浮かべてしまった。
傍から見ると私は、不可解な球体にそっと声を掛けてニヤニヤしてる、気色の悪い夜雀なのだろう。
以前人里で人間が、小さな子どもを抱き上げ、「たかいたかい」と言っていたのを思い出した。
真似してみることにした。
「たかいたかーい」
でも、大して高くない。空を飛んだ方が遥かに高い。
つまらない上に、腕がだるいので、腕を下ろした。
そのついでに、卵を地面へ叩き付けた。
ぱきっと言う音と同時に、傷一つなかった白の曲線が歪み、白い外殻が砕け、飛散する。
独特のねばりを持った透明の液体と黄色い液体が、飛び散った白い外殻を追うようにして外へと飛び出てきた。
付近の緑色の草に少量くっ付き、不自然なてかりと、黄色を着色させた。
ただそれだけだ。
こんなもののどこが生き物なのか。
ただの液体。
無色。
黄色。
卵白。メレンゲの材料だがメレンゲは泡立てすぎてもよくないし難しい。
卵黄。これを同量の水で溶いたものを黄水と言いパイを焼く前に表面に塗っておく事で焼き上がった後のあの美味しそうな光沢を出す事ができる。
つまり卵はお菓子作りに無くてはならないものなのである。
「あはは」
何故か笑えてしまった。
こんなにも、こんなにもあっけなく、私は「おかあさん」から一歩ずつ、確実に離れていっている。
しかも最愛でなくてはならない我が子――まだ素だけど――を殺した直後、私は即座にパイの作り方を思い出していた。
パイとか卵白とか卵黄とかメレンゲとか黄水とか泡だて器に油分があるとあわ立たないから面倒くさいとかブルーベリーが目にいいから新たな鳥目対策にブルーベリーパイでも作ろうかとか思っていたこともあった。
「ねえ」
二つ目の卵を手に取る。
さっきのと何が違うのか、私には理解できない。
これは私じゃない。夜雀じゃない。雀じゃない。生き物じゃない。
ただの卵白と卵黄が入っている白い玉なんだ。そうだ。そうに違いない。
だってさっき割った卵の中に、どこに私と似た要素があったと言うのだ。
「どうして生まれてきたの?」
一つ目と同じように地面に落とし、球体を割る。
同じように外殻が割れて中身が飛び出て綺麗な自然に不自然な彩を加えた。
最後の一つを手に取る。
結局、あなた達は何だったの?
答えられる筈もない。彼女ら――或いは彼ら――には口がない。
生き物じゃない。生きてない。でもだからと言って死んでいる訳ではない。
全く、私の体からはとことん意味不明なものが出てきたものだ。
同じように球体を「たかいたかい」してあげる。
ダメなおかあさんだったけど、これで許してね。最初で最後の育児かもしれないけれど。
どう言った訳か、目から涙が溢れてきた。
間違いない。雨など降っていないのに頬を水が滑り落ちてきて、口に入ったから間違いない。塩味。
「どうして生まれてきたの?」
答えられないって分かってはいたけど、一応私は問うてみた。
どうしよう。
涙が止まらない。
私は悲しんでいる。
どうしてだろう。
こんな意味不明なモノが詰まった白い球体を叩き割るのに、何を悲しむ必要がある。
どこも私じゃない。どこも夜雀じゃない。妖怪じゃない。生き物じゃない。固体じゃない。
悲しくなんてない。
言い聞かせながら私は、最後の白い球体を――卵を、割った。
同じように卵白と卵黄を大地を汚すだけであればよかったのだが、
きっと卵の中の彼――彼女?――は、卵の内よりこのどうしようもない私を、母親を恨んでいたらしかった。
「おまえがやったことは、れっきとしたころしです」と、自身の身を持って私に知らしめてきたのだ。
じき生まれる筈だったのであろう、私の子どもが、中にいた。
半孵化、と言う奴だろうか。
中途半端に原型を持つ私の子ども。
いずれ翼になるであろう小さな突起が、人形よりリアルでグロテスクな薄い赤色をした人型の肉塊に現れている。全てが未発達だった。
衝撃によって破かれた外皮。ミミズみたいな腸や、作り物であるかのような臓物の原型が出てきている。
これは生まれて、私と共にこの幻想郷で生きる筈であったモノ。
私はこの子に何をしてあげられたのだろう。
この子は私に何をしてくれたのだろう。
「ごめんなさい」
私は泣いてみた。
「いいよ」なんて言ってくれる事はないだろう。
この子どもは言葉を知らない。
言葉をおかあさんから教わる前に殺されたからだ。
おかあさんの手によって。
*
「あっ。お疲れ様でーす」
後ろから陽気な人間の声がした。
私は振り返る。
声の通り、陽気な顔をした人間が歩み寄ってきた。
「いやあ、お疲れ様ですね」
それしか言えないのだろうか。
私は黙ってその人間を睨み付けた。
「全部で三個ですか。多産な方は大変ですねー。人間は大体一回で一人ですから。しかしまあ、卵の段階で殺せたなら、まだマシですよね?」
聞きたくも無い人間の知識を披露しながらその人間は、私の手に紙幣と硬貨を握らせた。
手を開いて見てみなくても分かる。大した額じゃない。
「お子さんを失ったのは辛い事ですけど、これも幻想郷の為なんです。妖怪が増えると人間が危ないですから。我慢してくださいね。ま、このお金で美味しいものでも食べて、元気出してください」
それだけ言うと人間は、私を避け、さっさと先へ進んでしまった。
道に散らばっている私の子ども達の残骸を蹴って道の脇にどかしながら。
「あ、そうそう!」
消えると思ったら消えなかった。
「外界には、ペットが子どもを産まないようにする手術があるんですよ。もしかしたら永遠亭辺りならやってくれるんじゃないでしょうか? やっとくといいですよー。どうせ産んでも育てられないなら、最初からできないようにすればいいのです」
*
子ども達に墓を作ってあげた。
小さな小さな、粗末な墓。
そして歌を歌った。鎮魂歌と言う奴だ。
この子ども達の事を忘れてはならないと、心から思えた。
しかし私は物覚えが悪い。
どうすれば覚えていられるだろうか。
歌にしてみようか。
そして毎日毎日、歌い続けるのだ。
弱くて愚かな母親と、そんな母親に殺された子ども達の歌。
そうすれば忘れない。
そうしようと私は決めた。
そしてこの悲しみが、幻想郷の皆に届けばいいと思えた。
尤も、一番届いてほしい人物らには、恐らく届かないであろうが。
こんにちはpnpです。
やけにハイテンションで、勢いでがちゃがちゃ作ってみた作品です。
半孵化卵のグロテスクさは異常。
あれの蒸したのは美味しいらしいですが、食べてみる勇気はないです。
半孵化卵の中身については全部想像です。
初の一人称視点への挑戦だったのですが、難しいのやらやりやすいのやら、微妙なところです。
ご観覧ありがとうございました。
今後も宜しくお願いします。
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>>1
誰でもいいのですよ。ご想像にお任せします。
>>2
少なくともそれはないです。
>>3
どうなんですかねー。書いてて違和感ありまくりでしたが……
>>4
ですよね。不思議です。
>>5
あんまり参考にしない方が良いかと^^;
感じ方はそれぞれですよ。
>>6
ありがとうございます。お互いがんばりましょう。
>>7
すみません。よく分からないです。
>>8
よかった。計画通りです。
>>9
書く為にググってみて、改めて食べたくなくなりました。
>>10
そう。生物にすら見えんのです。私には。
>>11
そんな感じで、我が子の声が幻聴で聞こえ始めて発狂していくみすちーと言うアフターストーリー。
>>12
みすちーは不幸が似合う可愛い子ですね。しかもあんまり強くないと言う点がポイント。
>>13
生まれる筈であった卵です。
>>14
自身の手を汚さず妖怪の量を保ちたかった。若しくは、あえて親に殺させる事で楽しんでる。この辺を想定して書いてました。
さすがに端折り過ぎただろうか……
>>15
「姑攫鳥の夏」を見た夜に悪夢を見たというトラウマがあります。
pnp
- 作品情報
- 作品集:
- 11
- 投稿日時:
- 2010/01/31 06:21:53
- 更新日時:
- 2010/02/08 09:27:22
- 分類
- みすちー
- たまご
- 微グロ
- 2/8コメント返し(2回目)
一人称視点が難かしいと言われてますが、十分完成してると思いますよ^^
素人の意見ですが。(´Д`;)
まぁでもこんな扱いは当然でしょ妖怪だもの
スズメなんぞ撃たれないだけありがた(ry
生命って謎だぜ オゥ イノセントワールド!
しかし人間に対して殺意が湧く私はまだまだ甘いようですね。
自分もこのような文章が書きたい・・・。
あれは食べる気にならん
それはともかくおもしろかったよ
高値で取引されるようになれば・・・それでもみすちーは嫌だろうな