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『an atelier of Alice.』 作者: メランコリア
部屋の中で最も明るく、より陽の当たる窓のすぐ側に設けたベッドの上で、魔理沙は頬をくすぐる様な穏やかな陽光の暖みを感じて目を覚ます。
やがてのっそりと半身を起こすと、何気なく窓の外を眺めながら、覚醒後、まだ考えの覚束無い頭で薄らと思い出した。
そう言えば、今日はあいつと会う約束をしてたっけか。
布団に残る温もりを若干惜しみつつ、キッチンへと向かう。
コンロの火を点け、昨晩の残り物の煮魚と味噌汁を温めている間に、普段の黒白のワンピースに袖を通し、手早く身仕度を済ませて行く。
ぱたぱたと忙しなく家の中を駆け回りながら、魔理沙は全身用の姿見の前で、寝癖と適当な両の髪の束を手櫛で絡ませると、三つ編みを結う。
ただ、今日は特別。
普段とは違うカラーのリボンを手に取ると、出来上がった三つ編みにくくり付けた。
そしてリボンで纏めた三つ編みを気にしながら立ち鏡の前で、試しににっこりと微笑んでみる。
「うん、こんなもんか」
魔理沙は納得した様に一人頷くと、温まった朝食を早々にかきこむ。そして足取りも軽やかに玄関へ向かい、箒に跨がり、勢い良く家を飛び出した。
魔法の森にて。
その日も、二人の少女のお茶会は細やかに開かれて居た。
「それでね、魔理沙」
アリスは、にっこりと微笑むとティーカップに口を付ける。
自分よりも薄い色の金髪がさらさらと耳元へ流れ、秋の慎ましやかな陽光を受けては眩しい程に輝いて。同じ様に、色素の薄い、まるで蝋で出来上がった様な繊細な喉元が露わになる。
「アリスはさ、綺麗だよな」
それが二、三度上下したのを見て彼女が紅茶を咽下し終えたのを確認すると、魔理沙は、何とも無しにぽつりと呟いた。
「ん?」
ティーカップを受け皿に置き、少し驚いた風にアリスがこちらを見詰めて来る。
「いや、単純に、綺麗だなーって思っただけだぜ」
「何よ、急に?」
アリスは首を傾げる。
魔理沙は頷いて、
「いや、何かムラムラーって来るんだ」
「……そっち?」
「ああ、昨日までのアリスも可愛いけど、今日のアリスは一段と可愛いんだぜ」
魔理沙はそう言うと、カップを傾ける。
今日の茶葉はダージリンの様だ。仄かにフルーティな薫りが鼻腔をくすぐって。わざわざ人里から仕入れて来るのだろうか、魔理沙はアリスの元を訪ねる度に紅茶の味が変わっている事に気が付いた。
「これさ、お前が育てたのか?」
魔理沙はカップを片手に尋ねる。
「ん、ああそれ?悪いけど、人里の既製品よ。まあ家の庭で育てようと思えば育てられるんだけれど、忙しくてなかなか時間がね」
アリスはそう言うと、ちら、とアトリエのある方に視線を向けて。
「そう言えば、さっき何か言い掛けたか?」
「あ、そうそう。まあ、別に大したことでは無いけれど――自律人形がね」
「お前、またそれかよ」
魔理沙は、ああ、と納得した様に頷く。お前も飽きないよな、と苦笑すると、
「違うの、最近思い付いた新しいプログラムで実験しようかと思って」
「へえ?今回こそは巧く行きそうか?」
魔理沙が半分からかう感じで尋ねると、アリスは「どうでしょうね」とだけ小さく呟き。
その一瞬、俯いて影の射した面に、僅かに疲れの色が窺えて。
「まあ、あまり無理するなよ。夜更かしを続けると、身体に良くないんだぜ」
「あんたには言われたくないわよ」
「しょうがないんだぜ、私だって行く行くは世界中の茸を極めてみたいんだ、なんてな。どれ、たまにはアリスの作業場でも見に――」
「駄目」
テーブルを立ち掛けた魔理沙の腕を、アリスが掴んだ。
突然引き止められ、少し驚いた表情をする魔理沙。しかし、こちらを見詰めて来るアリスの瞳はあまりに真剣で。
「わ、悪い…」
思わず、魔理沙は謝りながら再び椅子に腰を着けた。
「冗談だって。だから、そんな怖い顔をするなよ……な?」
「え?」
魔理沙に言われて初めて気付いたらしいアリスが、顔に手を当てる。
確かに強張っていた。
「あ、ごめんなさい……」
「アリス、もしかすると疲れてるんじゃないのか?何なら私がテーブルの上を片付けてから帰るし、お前はもう寝た方がいいぜ」
魔理沙なりの気遣いだ。
足元に置いてある箒を箒を掴んで、取り敢えずいつでも帰られる様にしておくと、殆ど飲み干された、二人分の紅茶のカップに手を伸ばす。
しかし、アリスは再びその手を取って、
「ええ、正直今日は疲れてるのよ…」
――だから魔理沙、
貴女が慰めてくれない?
「アリス、気持ち良い…?」
「ふ……ぁっ、……ん、や、そこぉ……」
「ん、首が、弱いのか?」
魔理沙は、音を立ててアリスの白く細い首筋に吸い付いた。
先程、自分が綺麗だと感じたそこは、やはり見た目だけではなく触り心地も滑らかで。唇が触れた途端、思わず感嘆に吐息を漏らす。
あの後いつもの様に寝室のベッドに潜り込んだ二人は、いつもの様に一糸纏わぬ、生まれたままの姿で互いを慰め合って居た。
「んく、ぁ、ああ……」
アリスはぴくぴくと身体を小刻みに震わせ、は魔理沙の愛撫に為されるがままに反応していた。
やがて、暫くして二人の息遣いも荒くなって来た頃。
アリスが、小さく呟いた。
「ん……ぁっ、……ふぅ、ねえ…………まりさぁ」
「何だ、アリス?」
「――魔女に、なってよぉ……」
魔理沙は自室で一人思索に耽って居た。
あれから絶頂に達し意識を失ったアリスは、そのまま眠りに落ちて行った。魔理沙は寒くして風邪など引かぬよう、彼女に新しい下着を着け、毛布を被せてから、自宅に戻って来た。
外は既に暗くなっており、静まり返った部屋の中、椅子に腰掛けて一人考えて居た。
――魔女に、なってよぉ……
初めて聴く言葉だった。
それが示す意味とは何なのか。
「私は一応魔法使いだぜ?」
魔理沙は独り言を呟く。
彼女は魔女になれと言った。しかし、自分だって人間ながらも魔法は使う事は出来る。そう言った点においては、曲がりなりにも自分は魔女であると言い切れない訳ではないのであるが。
良く解らない。
「考えてたらお腹が減ったぜ」
そう言えばしっかりと食べたのは今朝だけで、後はずっとアリスの家で適当に茶菓子を摘んだりしていただけだ。
魔理沙はキッチンへ向かうと、昨晩の残り物でもある今朝の食べ残しを加熱して適当に食べた。 自分だけなので、特に付け合せは気にしない。そして手早く食器を片付けると、研究の続きに取り組むべく、二階の作業場に上がって行った。
事件が起きたのは、翌朝の事である。
否、正解には“発覚したのが”翌朝の事だったと言える。
魔理沙は研究に没頭したまま気付いたら机に突っ伏したまま眠りに就いて居たらしい。
朝が来て、幾らか明るくなった作業場で、魔理沙は目を覚ました。
「んー…朝、か――!?」
そう言って、窓の外を眺めようとした窓の硝子が、突如、凄まじい音と共に――吹き飛んだ。
「たっ、たたたたた大変っ!大変ですー!!号外ですー!!」
そう叫びながら飛び込んで来たのは、ブン屋こと、射命丸文だ。
魔理沙は暫く驚いた様に口をぱくぱくさせていたが、やがて机の上に着地した文の方を見やると、
「ブン屋が朝に新聞を届けるのは、当然の事だぜ」
「そうじゃないんです!あ、これは別に昨日刷った今朝の分の新聞です…じゃなくて!大変なんですよ!!」
「何だよ、慌ただしい」
魔理沙は今朝の分と号外の二部を受け取る。
「とにかく、号外を読んでくださいっ!私はっ、次の配達があります、…のでっ!!」
かなり息切れしている。
「え?あー、おい、窓ガラス…」
「次は、えー、アリスさんの所ですね!それではっ!!」
神出鬼没とは正にこの事か。
魔理沙が窓硝子の修理費を請求する前に、行ってしまった。
「ちっ、なんだってんだ」
もしかすると、今まで配達して来た他の者達も同様に、窓硝子を破砕されているのだろうか。
などと、まあ人の事は言えないよななどと考えながら魔理沙は苦笑する。これまでに破って来た紅魔館の窓硝子は数知れず。
取り敢えず、彼女の持って来た号外に目を落とす。
一番最初に目に飛び込んで来たのは、「人里の人間・変死体で見付かる」と言う、大見だしの文字だった。
「んー、どれどれ」
魔理沙はその記事に目を落とす。 恐らくこれが号外なのだろう。
そこには、今朝方人里で人間の変死体が見付かったと言う旨と、発見者の証言が綴られて居た。
「“千切れた左腕を見付けたのは、人里の守護者である上白沢慧音氏、彼女によると――”…物騒な事があるもんだな」
魔理沙はそう言うと、新聞を床に投げ捨てた。 そして改めて、破られて風の吹き込んで来る窓の外へ視線を向けて。
「今日は、茸採取には向かない、と」
立ち込める暗雲からは、今にも大粒の雨が降り出しそうである。
大方こんな日は、実験用の茸採取には向いてない。
と、すると
「アリスんとこでも行くかな…」
呟いて。魔理沙は先程放った号外を見やると、再び手に取る。
「……げっ、左腕と――脳髄かよ」
再度記事を読み返す。文の持って来たそれには、見出しの記事以外にも、事の全容が細かに記されて居た。
かつて、幻想郷でこの様な殺人があった事は一度も無い。何故ならば、妖怪が相手の場合は、殆どがスペルカードルールに則った勝負で事のケリが付けられるためである。また、これには無関係な人里の住人等は巻き添えにしないという事は、彼等の中では既に暗黙の承知とされている。
「ったく、悪趣味だぜ。ストレスでも溜まってるんじゃないのか」
一瞬、魔理沙は出刃亀でもしてやろうかなどとも考えたが、その考えはすぐ様取り消した。 それこそ悪趣味だからだ。
「うん、こんな日はアリスんとこで美味い茶菓子でも戴くに限るぜ」
結局、今日もアリス邸に行く事にした魔理沙は、早速身仕度を始めた。
アポ無しだが、まあ良い。彼女の事だから最初は怒れど、何だかんだで茶菓子やらを振る舞ってくれるのだ。
そう言う所も、あいつの可愛い所なんだよな、などと思う。
そうしてまた二人でテーブルを囲んで、下らない世間話をして。
うん、良い。決定だ。
案の定、道中で雨に降られた魔理沙は、アリスの元に着く頃には全身びしょ濡れになっており。
ロングスカートの裾を絞って軽く水気を飛ばした後、魔理沙は、玄関の扉を叩いた。
「おーい、アリスぅ。居るかー?」
居るかも何も、彼女は自分と同じで研究熱心の出無精で、しかもこの雨だ。必ずと言ってもいい程、自宅に居るだろう。
それなのに。
「あれ…、寝てるのか?」
中から返事は無かった。
魔理沙はそれから幾度かアリスの名前を呼びながら扉をノックしたが、中からは物音一つしない。
「っかしいなあ。おーい、上海、蓬莱ー?」
仕方無く、裏手へと周る。窓はしっかりと閉められており、カーテンは閉ざされている。窓硝子が破られていないと言う事は、まだあの記者は訪れてはいないのだろうか。
ここから中の様子を窺う事は出来ない様だ。
「むぅ、困った」
ロングスカートのポケットの中にある恋符とミニ八卦炉を思い出して、強行突破も考えてみたが、止めた。
もしアリスが昨晩遅くまで研究等をして、眠っているのだとすれば、あまりに申し訳が無い。
仕方無い、引き返すか。
そう思った瞬間。
中から、僅かに物音がした。
「!アリス、居るんだろー?」
慌てて玄関口へ引き返す。
かちゃり、と。
僅かに扉が開いた。
「アリス!」
魔理沙が叫ぶ。
半開きの扉の中からは、
「ぁ、魔理沙……?」
アリスが、片目だけ覗かせて、こちらを窺って来る。
「遊びに来たぜ、アリス!開けてくれよ」
「ぁ……」
「……どうした?」
何だか普段とアリスの様子がおかしい。
「悪い、もしかすると、寝起きだったか?」
彼女の目の下に出来た暈は、研究による寝不足の疲れのためか。どこか焦点の合わない瞳を泳がせたまま、扉にしがみつく様にして離れない。
「アリス……?」
「ごめん、魔理沙。今日はもう帰って」
「は、…えっ!?」
隙間から伸びて来た腕が、突き返す様に乱暴に肩を押した。
魔理沙は思わずよろけたが、ここで素直に引き返す訳にはいかない。
「待て、アリス!お前、どこか具合でも悪いのか?」
「大丈夫、帰って」
「で、でもっ」
「――良いから、帰ってよぉぉぉぉおおお!!」
そう叫ぶアリス。
次の瞬間、
「――っ、ぐぅっ、う、ごぼぉ……っ」
アリスはそのまま扉にもたれ掛かった体勢で、倒れ混む様に崩れ落ち――吐いた。
しかし、恐らく昨晩食事を摂らなかったのだろう。元から彼女にその必要は無いから当然と言えば当然だが、激しく噎せながら彼女が吐き出したのは、透明な液体だけだった。
「アリス!?」
魔理沙は慌てた。
やはり体調を崩して寝込んで居たのだろうか。
「大丈夫かよ、おい!?」
「ぅっ、ぐっ、……うぅっ」
「――悪いけど、上がらせて貰うぜ!良いな!?」
「ぁ、あ゛……いやぁ……」
足元でアリスが嗚咽を上げながら何やら呟いて居るが、この際気にしている暇は無い。
今は彼女の体調の方が最優先だ。
魔理沙はアリスを退かせてから扉を開ける。
次の瞬間、何とも形容し難い、異様な臭いが漂って来た。
「……何だ?」
何と言うか、生臭い。この辺りではあまり嗅がない匂いだ。
まるで、何かが腐った様な――
「う゛ぁっ、ひっ、入っちゃ、駄目ぇ…!」
アリスが必死に抵抗するが、魔理沙は彼女の腕を取り肩に掛けて、無理矢理立たせる。
「ほら、歩けるか?ベッドまで運んでやる」
「あ、うああ……」
彼女の様子は明らかにおかしい。
取り敢えず、ベッドの上で安静にさせた後で、様子を見よう。
その後、場合に寄っては栄養の付くものを作って食べさせてあげるか、永琳の所にでも――
ビチャ、
「あ?」
何かを、踏んだ。
それが何かを認識するのに、幾らか時間を要した。
次に、凄まじい悪臭が鼻腔を突く。
魔理沙は、暫く茫然と、その場を動けないで居た。
寝室へと繋がる廊下の片隅に、彼女が普段人形を作成しているアトリエがある。
それは、
そのアトリエの、僅かに開かれた扉の隙間から漏れ出て居る様に見えた。
「い、やだ!駄目!!魔理沙!!開けないでぇ!!」
それはほぼ、本能に近かった。
見てはいけない、何かが、あの部屋には有る。 しかし、見なくてはならない。
しかし、見てはならない――
魔理沙は、その部屋の扉を、一思いに開いた。
そして、次の瞬間。
「う、――嘘だろ……?」
目に入ったのは、
先程まで自宅に来て号外を配達して行った。
射命丸文の。
…―――
魔理沙の意識は、そこで暗転した。
*
――ねぇ、魔理沙。
だいすきなの。
夢にまで貴女を見ちゃうくらい。
だいすき。
愛してる。
でも、
近頃、怖いなって、思うのよ。
貴女と接する度に、貴女が離れて行く様な気がして。
例えばそう、この間、久し振りに貴女を見たら、気付かない内に結構髪が伸びていたわね。
私とは違う。
人間でない私とは違う、貴女との時間の早さが、
怖い、
怖い。
魔理沙が死んじゃう夢を見る。
魔理沙が、私を置いて逝っちゃう夢を。
よく、見る様になったわ。
私は、怖い。
いつか貴女が、
私を残して、
永久に眠りに就く瞬間が来るのが、
もう、
すぐな気がして来て。
だから、魔理沙。
――魔女になって。
人間を捨てて。
お願い、
ずっと、私と、一緒に居て……
「あら、目が覚めたかしら」
次に魔理沙が目を開くと、見知らぬ天井が飛び込んで来た。
「ぁ…、ここ、は――」
呻き、魔理沙が身動ぎをしようとするも、何かに手足を強く押さえ付けられているのか、全く動かす事が出来ない。
次に、後頭部に鈍い痛みが走った。
「つ、ぅ……」
「ねえ魔理沙、一つ質問するわ。
――魔女になる気は、無い?
」
「え……あ?」
突然何を、と尋ねたかったが、まだ意識が朦朧としていて呂律が巧く回らない。視界もどこか霞が掛かった様に不鮮明で、今、自分がどこに居てどのようになって居るのか、よく判らない。
「そうね……上海、蓬莱」
アリスは魔理沙の傍らに立って居る様だった。体調はもう平気なのだろうか。
一方、自分はと言うと、何やら台の上に寝かされて居る様だ。しかし、辺りが暗くて詳しくは確認出来ない。
「あり、す……?」
彼女が人形達を呼んで相図すると、急に手足を押さえ付けていた力が緩くなる。
「魔理沙、もう一度聴くわね。
人間を捨てて、魔女になる気は無いかしら」
「わたしは……ずっと、にんげんのいっしょうを、まっとう……」
アリスの質問はよく聞き取れなかったし意味も解らなかったが、魔理沙は無意識の内にそう答えていた。
先程、頭部に受けたダメージが消え切れないのか、視線はやはりどこか定まらず。
やがて緩やかな浮遊感が、波の様に、押し寄せて来て。
再び魔理沙の意識を闇へと誘おうとする。
「そっか…そっか、――ぁあ、魔理沙ぁ……」
アリスは、瞳に涙を浮かべる。
「な、くなよ……ありす……」
「あ、あぁ……」
魔理沙は、闇と現との間に漂いつつ、アリスが泣いているのを感じると、涙を拭おうと必死に手を伸ばそうとする。
しかし、動かない。
動けないのではない。
再び、人形に拘束された様だ。
「魔理沙ぁ、魔理沙、……どうしたら良い、だいすきなの……っ」
うん、知ってる
私もだぜ
「死んで欲しくないよぉ…魔理沙ぁ」
何を言ってるんだよアリス、
私は生きてるぜ
生きて――
「ひぎッ!?」
凄まじい痛覚に、無理矢理意識を引き戻される。
指、――右手の人差し指だ。
指に何か刺さって……
「ひぃっ!?アリス――!?」
「待っててね、魔理沙。痛くない様に、すぐに終わらせるから」
「なっ、何をっ!やめ…っ――ああ゛あ゛!!」
ギリギリギリ。
指に食込んでいるのは、彼女の作業用の、鋏だった。
普段はそれで人形の服の生地等を裁断している。
それが今、自身の指を断たんとばかりに食込んで。
「い、痛い…!!痛いよ、アリス!!」
「本当?ごめんね。じゃあ痛くない様にキスしてあげる」
「ん…むぐぅ――ぅ、うう!?」
刃先が、徐々に皮膚を裂いて行くのが分かる。
「いやぁ、……やだやだやだ!やだぜ!!アリス!!やめてくれぇ!!!」
ガリ、
――ボト
「ぐっ……ぃぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!?」
「あら、綺麗に取れたわ」
「ひぃいいいいっ!?ぁあ……ぅあぁ…っ」
魔理沙は切断されて床に落ちた自分の人差し指を見て、絶叫した。
まだそれは、断面から大量の血液を噴出させつつ僅かに痙攣している。
「次は、この指ね」
次に中指に鋏があてがわれる。
意識が鮮明となった今なら確認出来るが、どうやらここはアリスのアトリエらしい。
そして、自分が今寝かされて居るのは、普段彼女が作業用に使用している机。
そして、床には――
先程、魔理沙が目にしたままの状態の、射命丸文の、亡骸が。
外傷ははっきりとしないが、床の赤い染みは頭部の辺りを中心に広がって居る。
恐らく、殺されたのだ、強く殴られて。
その隣にももう一体、死体が転がっていた。
こちらは、かなり状態が悪い。
見覚えの無い女性の死体だが、左腕は切除されたのか見当たらず、腐りかけた断面が覗ける。
そして、額から上の頭部は、まるで切り開かれた様に、
その内側を晒し、
その骨肉の隙間から、
何とも耐え難い悪臭が、
「魔理沙、私ね。ずっと考えていたのよ。どうすれば、私達がずっと一緒に居られるか」
ギリ――ブヂン、
ボト。
「もう、見られちゃったから言うわね。
実験として、割と無力な、人里の人間で試させて貰ったわ」
ぶち、
ぼと。
「私が作った人形の頭のパーツに、人間の脳髄を移し替えて。魔力を注ぐの。
そうすれば、少しは耐久年数が伸びるんじゃないかって」
ぶちん。
「実験は、まあ……8割方成功って所ね。私の魔力が無ければ動けないものね」
ぶち、
ぼと。
「貴女が魔女にならないと言うのならば……仕方が無いわね。でも魔理沙、あなたの型代はもう作ってあるの。安心して、あなたの永遠の幸せを約束するわ……」
「あ゛り゛……っ、も゛ぅ、やめ………」
「あら、右手の指がもう無くなったわ。
魔理沙、悪いけど左手の骨も戴くわね。これが無いと、巧くあなたを移せないのよ」
「ゃだ……ああ゛!!あ゛り゛ずぅ、やべでえ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ!!!」
「だから、痛くない様にするってば、魔理沙……泣き虫さんね、可愛いわ」
――愛してる。
後頭部に、冷たい鋏の感触が伝わる。
次の瞬間、
アリスのアトリエに、これまでに無い絶叫が響き渡った。
*
「ねえ、魔理沙…」
私は、魔理沙の型代を、抱き締める。魔理沙本人を真似て作られた、柔らかい疑似の表皮が、優しく私を包み込む。
しかし、それに暖みは無く。
小振りの胸に、顔を埋めてみた。
その下に、ある筈の脈動は感じられず。
「……変ね、…魔理沙?返事してよ――」
本体だった方は、数週間前に完璧に腐敗して形が崩れたので、他の遺体と併せて焼いて処分した。
残ったのは、この、型代に移した脳と、両手の骨。
失敗した筈が無い。
私は、魔理沙と永遠を手に入れたのだ。
「ねえ、魔理沙、庭で新しい茶葉が採れたのよ。飲む…?」
「……」
「返事、……してよぉっ!!」
自棄になって、私は魔理沙の頬を叩いた、
その衝撃で、
両耳の穴から、
既に乾燥してパサついた脳の欠片が、零れ落ちる。
「あら、また詰め直さないと」
面倒臭い。
ただ、魔理沙が自律人形として動ける様になるまで、
私は、どんなに大変でも、彼女の世話だけは怠らない様にしなければ。
了
アリスにボコられてる時の魔理沙が一番かわいいと個人的に思うんです。
メランコリア
作品情報
作品集:
11
投稿日時:
2010/02/07 06:20:05
更新日時:
2010/02/07 15:20:05
分類
魔理沙
アリス
グロ
誰しも皆幸せになる権利はある
なので、新鮮な感じがしない
幸せの形は人夫々ですね
》2さん
ですです
》3さん
Σ゜▽゜;
それ超ハピエンですね!?
》群雲さん
ありがとうございます。
》5さん
マジですか!
》6さん
なるほど…
ちょいと頑張って、新しいアリス生産して来ます!