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『ぺしゃんこ』 作者: d

ぺしゃんこ

作品集: 11 投稿日時: 2010/02/11 15:54:19 更新日時: 2010/02/12 00:54:19
 魔理沙の家がつぶれたときいた。咲夜からだ。地震なんてあったかしら。わたしが訊くと、咲夜は首をふった。どうやら地震はなかったらしい。じゃあどういうことなの。べつだん変わったことではありません、ただ霧雨邸が老朽化しただけのことです。ふうん、魔理沙はぺちゃんこになったの。さあ、見ていないので知りませんね。じゃあアナタはどうして魔理沙の家がつぶれたことを知ってるの。文々。新聞に書いてあったんです。なんだ、それならどうせ誤報ね。


 わたしは本を読む作業にもどった。しばらくして顔をあげた。どのくらいの時間が経っていたのかは知らないが、とにかく咲夜はいなくなっていた。小悪魔、小悪魔。呼んだ。図書館は広い。広すぎるくらいだ。なかなか小悪魔はやってこなかった。指折り指折り、十をこえたあたりだった。はいはい、なんですか。ちょっと出かけてくる。え、なんですって。耳がイカレたの、出かけるって言ったのよ。イカレたのはパチュリー様のあたまのほうじゃないんですか、きょうはすこぶるいい天気ですよ、こんな日に外出するなんて!


 ひどい言われようだったが、無視してわたしは外へ出た。目的地はもちろん霧雨邸だ。小悪魔の言うとおり、いい天気だった。イヤになるくらいだ。日傘を差してはいるが、ひかりは完全にさえぎることはできない。日光は風にのってわたしの肌へやってくる。焼けたらどうしようと思った。こればっかりは手の打ちようがないから困る。わたしは足早に、といっても空を飛んでいるわけだが、霧雨邸へ急いだ。


 森のなかに入っても、周囲は明るかった。そのくらいきょうは晴れているのだ。晴天も晴天、辞書に新しい項目を追加すべきじゃないかと見当するくらいの晴天だ。快晴天、とかね。われながらくだらないことをかんがえる。そうこうしているうちに、霧雨邸があるべき場所についた。ところが、なにもない。ぺしゃんことかそんなレベルではなかった。空っぽだったのだ。木がある。草がしげっている。だが霧雨邸はない。いったいどうなっているのだろう。


 よお、パチュリー。声がきこえた。魔理沙? おう、魔理沙さんだぜ。どこにいるのよ。下だよ、下。下? 顔をむけたが、草がしげっているだけだ。地下ってこと? ちがうよ、おまえの足元だよ。メンドクサイわね、まったく要領をえないわ、もっとわかりやすく言ってくれない? そうは言ってもなあ、これ以上わかりやすくは言えないぜ、ほんとうにおまえの足元にいるんだよ。わたしは首をかしげたが、やがてひとつの結論が出た。もしかして、ぺしゃんこになっているの? おう、そういうことだ。魔理沙は元気よくこたえた。


 わたしはかがんだ。そして地面の、適当なところを撫でてみた。あっ。魔理沙が艶っぽい声を出した。ど、どこさわってるんだ、やめろよ。どこかなんて、わかるわけがない。興味がわいた。もっと撫でてみた。あ……ぃや……ぅ……。魔理沙が女の声を出している。わたしのこころの深くで眠っていた加虐心。それにいま、メラメラと炎がともった。あああぁ……! 地面がふるえた。わたしは体勢を崩し、尻餅をついた。ドスン。その瞬間だ。アッ……! 魔理沙はひときわ高い声を出した。イッたの? 訊いたが、返ってきたのは沈黙だった。


 時間がすぎた。わるかったわね。ぞんざいすぎるくらい、ぶっきらぼうにあやまった。もういいよ。魔理沙は拗ねている。表情は見えないが、声色でハッキリわかる。おたがい水に流しましょう。おまえがやったことなのに、なんでおまえがしきってるんだ。べつにいいじゃない。はあ、まあいいよ、一応パチュリーの性格はわかってるつもりだ。ところで。わたしはやっと質問した。そんなぺしゃんこになって、これからどうするつもりなのよ。


 うーん、そうだなあ、うーん。魔理沙は長いこと悩んでいた。ずいぶん待った。それからようやく言った。このまま生きていくさ。ふうん、魔理沙ならそう言うとは思ってたけど。わたしらしいこたえだろ? ええ、クソみたいなこたえだけど、魔理沙らしいわ。ふたりで笑いあった。さて、そろそろ本題に入らせてもらっていいかしら? 本題? おぼえてないの。チットモ。やれやれ。わたしはため息をつき、とある書籍のタイトルを口にした。ああ、そっか、どうしても返してほしい本だって言ってたな。そうよ、きょうが期限日よ。すまん、すまん。また踏み倒すつもり? いや、ちゃんと返すさ、どうしてもっていう本まで借り続けるほどわたしは悪人じゃないよ。どうだかね。はい、これだ。え? いや、だからこれだって。


 そうか。わたしは思い当たった。ねえ、魔理沙。なんだ。そういえばアナタ、家ごとつぶれたのよね? そうだ。ということは、本も? そうだ。なんてこと! わたしは絶叫した。そんなぺちゃんこになったら、読めないじゃないの! 魔理沙はよくわからんぞといった声色で言った。いや、わたしは読めるぞ。そりゃあアンタもぺちゃんこだからよ、ぺちゃんこ同士なんだから、そりゃあうまくいくでしょうよ。そういうもんかね。そういうもんよ、はあ、もういいわ、その本、アンタにあげる。え、ほんとうか。どうせ読めないもの、持っておきなさい。サンキュー。そのかわり。なんだ。


 わたしは思いっきり地面を踏んだ。踏んでやった。




 へえ、魔理沙さん、ぺしゃんこになったんですか。図書館に帰ってきたわたしは、さっそくこの件を小悪魔にグチった。そうなのよ、まったくわたしに断りもしないでぺしゃんこになるなんて、ゆるせない。ですよねえ、本も返ってこないわけですし。ん? なにかがひっかかった。ちょっと、小悪魔。なんですか。いまのセリフ、もう一回。なんですか。そこじゃない、もうひとつ前。本も返ってこない。それだ!


 わたしはつくえを思い切りたたいた。痛い。骨が折れたかも。いや、そんなことはどうでもいい。やられたわ! いったいぜんたい、どうしたっていうんです? これはアイツの計画だったのよ! 計画? そうよ、アイツ、わたしから本を奪うために、わざとぺしゃんこになったのよ、そうすりゃいまアイツの家にある本、もうわたしは読めなくなるから、自動的にアイツのものになるって、そういう算段だったのよ! ハハア、なるほどね! 小悪魔は感心していたようだが、わたしは腹が立ってしかたなかった。あんなヤツの思いどおりになるなんて!


 そしてアイツの思いどおりになったばかりに、わたしの肌はほんのちょっと焼けてしまった。お風呂に入ったら沁みるからイヤだったのに! 疲れたのだって、小悪魔に頭イカレたんじゃないのと言われたのだって、アイツのせいだ――ふん、まあいいわ。

 小悪魔。なんですか。ちょっと用意してほしい本があるの、調べてくれる。はいはい、どんな本ですか?


 ガスボンベ。
 ――数日後。

 ぼかーん。魔理沙は破裂した。
d
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投稿日時:
2010/02/11 15:54:19
更新日時:
2010/02/12 00:54:19
1. 名無し ■2010/02/12 03:34:57
その後、くうきになって魔理沙はいきています。
いまもあなたの周りで。
2. 名無し ■2010/02/12 09:31:57
はたしてくうきになったまりさからほんはかえってくるのでしょうか
3. 名無し ■2010/02/12 11:02:18
本もばらばらになりました
4. 名無し ■2010/02/21 00:20:00
不思議なシチュだ
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