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『天子をとっ捕まえた』 作者: アルマァ
「えっ、ちょ、ここどこ?」
比那名居天子はなんだかよくわからない部屋に拘束されていた。
窓は無く、心許ない明かりが一つと木製の戸が一つあるだけで壁も床も天井も石造り。
その真中に設けられた、やはり石造りのベッドというか祭壇というか―――
とにかくその上に大の字になるように鎖で手足が繋がれていた。
「ちょっと、誰かー!これ外しなさいよー!!」
天子は鎖をがちゃがちゃ鳴らして解放を要求する。
答える声は無く、代わりに戸が開いて人間が一人出て来た。
顔は良く見えなかった。
いや、顔は天子の興味に入らなかった、と言う方が正しい。
「あ、ねぇ、これ外してよ」
従って当然、とでも言いたげな顔で天子は命令した。
「ねぇ、何してんの?早いとこはア゛ッ・・・・!」
人間は何も言わず、天子へ歩み寄ると天子の首に目掛けて手刀を振り下ろした。
「ガッ・・・ゴフッ、カッハ・・・!ガハッ、ゴホッ、ガッ!!」
人間は黙ったままで、咳込む天子を見ていた。
「ア゛ッ・・・ハ・・・何を゛ッ!?」
喋る毎に、白い喉へ手刀を食い込ませた。
「う゛ッ・・・えぇぇ・・・っ」
そんなことがどれほど繰り返されたのか。
不意に人間は踵を反し、部屋から出て行った。
戸が閉まる。この部屋に来た時のような静寂が取り戻された。
「はッ・・!はぁっ・・・はぁ・・・」
なんで私がこんな目に。
なんで私だけこんな目に。
半刻ほどだろうか、暫くすると、人間が戻ってきた。
手には縄を持っている。
そしてまた同じように、天子の側に立った。
その明確に目的がわからない態度に、天子は腹が立った。
「あんたねぇ、なんなのよ!!いい加減にしないと怒るわよ!」
人間は何も言わず、縄をピンと張った。
「見てなさい、私が何もしなくたって依玖が来たらあんたなんかッ・・・!?」
そしてその縄を、天子の首にくるりと二重に巻き付け、躊躇無く引っ張りだした。
「あッ・・・か・・・!?」
必死に首に手を伸ばす。
しかしその手は拘束され、僅かに肘が曲がっただけであった。
最も、仮に手が届いたとしても、首に食い込んだ縄を外す事などできまい。
天子は暫く宙を掻いた。
ジゃらじャらと鎖が耳障り。
体内の酸素が薄れる。
体がふわふわして、頭が少しぴりぴりして、視界が人事のように感じられた。
そうして天子の意識が落ちるほんの少し手前、人間は縄を外した。
「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
もう激しく息づく余裕など無い。
天人の体はもう酸素を求める酸素すらも枯渇しかかっていた。
そう。確かに天子は天人で、既に寿命も迎えていた。
通常、寿命を越えてなお生きる天人、仙人には死神が迎えに寄越される。
しかし、如何に天人と言えども死にたくは無い。
死神と大乱闘を繰り広げる者も当然現れるのだ。
天人が死神に敗北を喫して死ぬ、と言った事自体は天界に数あれど、
比那名居の娘としてそれなりの戦闘力を持つ天子には、そのような事など起こるはずもない。
が、当然といえば当然か、天人だろうが不死の蓬莱人だろうが造りは「人」。
如何な痛み、苦しみに「慣れ」ようと、それを感じぬ道理などあるはずが無い。
本来は相当量の修行、功績を積むか、死後も輪廻転生を拒んだ者の一握りのみが天人となり得る。
が、例外とは有るものだ。
資格無しに天人と成った者も存在するのである。
それが言うところの「天人崩れ」だ。
何の徳も積まず、親の七光で天人と成り得た天子にはそのような心構え等ある筈もない。
既に、否、最初からその精神は天人と成る以前の「地子」から僅かにも脱却してはいなかった。
本来、天子の精神は、もはや崩れる事を残すのみなのである。
しかして、天子の精神は通常の域を脱しない。
むしろ薄れた意識の中で高揚してすらいたのだ。
あの浮遊感。
あの苦しみ。
あの、快楽。
それが忘れられない。本来、ヒトが抱いてはいけない感情。
己を苦しめられ、快楽を感じるなどと。
そもそもあってはならないのだ。
それでもその味は天子の頭から離れようとはしない。
あのふわふわとした感じ、
あのぴりぴりと痺れる感じ、
あのふぅっと意識が遠退く感じ、
直後に全てから引き戻される生存本能。
もう一度味わってみたい。
天子の脳内はそんな感情で満ち満ちていた。
あの人間は自分が喋る度に首への嗜虐を繰り返した。
つまり。
「おーい!終わりー!?」
自分が騒げば。
「ちょっとー!!なんとか言いなさいよー!!」
戸が開く。
人間がまた入って来る。
手にはあの縄。
また、首を絞めて『もらえる』。
天子は自分の心の臓が期待に跳ね上がるのを感じた。
「ねぇ、あんたなんなのよ、いい加減に゛ッ・・・・!」
天子が喋ると同時に人間は縄を同じように首に巻き付け、首を絞めた。
「あ゛っ・・・かっ・・・・ぁ・・・ぅぁ・・・ハッ・・・」
身体が空気を求める。
体中が突っ張る。
鎖ががちゃがちゃ。
意識が遠退く。
あの感覚が蘇る。
浮遊感。
そして、地に叩き付けられた。
「う゛っ・・・はぁっ・・・・!はっ・・・・」
人間は、天子が呼吸を整えるのを見届けてから部屋を出て行った。
もう何日経ったであろうか。
時間の感覚も無く、意識も定かな時間が長くない天子からすれば何時間、なのだろうが。
貧相でもなく豪華とも言えないそれなりの食事を摂らされながら未だ拘束されている。
天子は暫くしては騒ぎ立て、己の被虐心を充足させていた。
今日も酸欠を求めて、騒ぎ立てる。
「あ、来た、ねぇ、はや゛ァ・・・・・・・!!」
そうして首を絞められる。
最早天子はこの快楽に夢中となっていた―――『天子にとっての快楽』、ではあるが。
そうしている内に天子は、一つの思いつきをした。
首を絞められながらでも、声を出せば。
もっと。
「ぁ...ぅあ.....ぉぉ.....」
やはり人間は声に反応して天子の首を更に締め上げる。
「ぁ...は.....来っ...たぁ....!」
結果として、今まで寸前で止められていた絞首は必然的にその限界を超える。
言うまでも無く、天子は意識を手放した。
数分後、天子は意識を取り戻した。
と同時に、何よりも優先させて、先の快楽を反芻する。
アレは、凄かった。
今までのどんなものより儚いと言うか、虚無と言うか、そんな感じの浮遊感。
そのまま広い闇に包まれるあの開放感と閉塞感の矛盾した心地良さ。
凄かった。
凄かった。
凄かった。
天子はもう洗脳状態にあった、といっても過言ではないだろう。
アレを味わった当初の「よくわからない感覚」は、「自分の知り得る中で最大の快楽」へと昇華されていた。
もっと、欲しい。
更に数日後、天子の精神は既に崩壊寸前であった。
ギリギリの線で自我を保っている。
もしあと一歩でも進んでしまったのなら、「比那名居天子」は居なくなる。
天子の物だった体は、自身の死亡と生存を同時に望む機械と成り果てる。
否、機械とは須らくして益を齎す、便利な道具を指す。人に益を齎さぬ以上、ソレは機械ですらない。
命の無い機械以下の存在となり、命が絶えるまで己への被虐を求め続けるのだ。
しかして天子は「比那名居天子」を持ち続けていた。
比那名居の娘、という肩書などとうに捨てたのであろうが、腐っても鯛、どうなろうとあの比那名居の娘である。それでも天子は最後の意識を保ち続けていた。
が、やる事など、当然一つ。
「...ぉーぃ」
がちゃ、ガチャ。
音を、出す。
戸が開く。
人間が、入って来る。
そして、自分の首に、すっかり縄の跡がついた細い首に。
いつも同じ、縄を二重に巻き付けて引っ張った。
「ぁ...ぁぅ....」
来る。
闇が、何時ものように、自分の側に。
ただ、今日は、少しだけ、濃いような。
何時ものように、受け入れた。
浮遊感。
気持ちいい。
何時ものように闇に飲まれるその刹那、
何時もと違う、複数の人の気配が感じられた気がしたが。
すっかり酸欠で処理が出来ない天子の頭にとっては、どうでも良かった。
『はい、これが約束の物です。では行って下さい、くれぐれもこの事は口外せぬように』
『いいですか?じゃ、行きますぜ。はっ・・・ょっ・・・と、うわあ出る出る、頸動脈ってこんな出るんですねェ』
『血なんかどうするんです?』
『売れるんスよ。天人の血、なかなかのお値段でね。長寿の効果があるの無いのって、どうせそんなんありゃしないのに・・・ま、いつもの通り勤務態度が良くないんでね、小遣い稼ぎながらでないとやってらんないんス』
『はあ。・・・・で、本業の方は』
『あーはいはい、もうすぐ血ィ抜けますから、そしたらですね。』
『・・・貴女がそんな半端に丁寧な口調だとなんだか調子が狂いますね』
『そりゃあ失礼、こういう決まりなもんですから。まぁ全然部署が違う自分がわざわざ出張。しかもこーんな楽な仕事に当たって、その出張先はあんた・・・おっと失礼、貴女の所だとは』
『因果ですね。・・・後、辛い様でしたらその半端に丁寧な口調は止めても構いません』
『あ、そうかい?すまないねェ、なんせ慣れないもんで。・・・お、抜け切ったね。じゃ、本業本業っと。・・・・・はい終わり、あたいもこの仕事長いけど、こんなにあっさりした終わり方なんてそうそう無いよ。普通は全力で抵抗してくる』
『そうですか。・・・鎌は使わないんですね』
『んあ?使っても良かったけど、最近良く使うとは言え、そう慣れないもんだからねぇ。それにほら、こんな変な形してるし。やったらこの部屋ぐっちゃんぐっちゃんだよ?あんたが掃除するなら構わないんだけど、なんなら今からやるかい?』
『結構です』
『だろ?・・・しかし変なもんだねぇ、あんたがこんなんするなんて』
『教育係があんなですからね、罰が必要だったんですよ。あまりに比那名居天子は面白半分に罪を犯し過ぎた』
『かはは、違いないね。せっかく有能な教育係があんなんじゃなぁ?あんたも人の振り見て我が振り直せ、だよ?・・・なんだいその顔』
『いえ、貴女がそんな気の利いた事言うとは思いませんでした』
『む・・・まぁいいか・・・おっと時間だ、あんまり遅いと怒られちまう。それじゃあ、あたいはこれで』
『はい。・・・・』
『今日で最終日。寿命を引き寄せるのに思ったより苦労しましたね。あらかじめ死神を呼んでおいて正解でした。一時はどうなるかと思いましたよ、総領娘様』
どうも。こんにちわこんばんわ。
今回やっとまとも?なSSに手を付けました。
私自身は窒息プレイなんぞやったことが無いのでいろいろ表現間違っているかもしれません。
プロ的な何かの方が見て、本来ありえない感じだったらすいません。
天子窒息っていいものですよね。
もうちょっと天子を苦しめたかったようなそうでないような。
ちなみに私が「てんこ」で「天子」を変換しているのは秘密ですよ。
次は誰の書こうかな。
もこたんあたりかな。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
あと、ツイッター貼っておきます。良かったら眺めてください。
>>1様
ありがとうございます。
私の書いたものが>>1様の目に良く映ったのであれば、それが何よりの幸せです。
>>2様
てんこあいしてる というかみんなあいしてる
東方キャラだけは不思議とキャラ好き度に差がありません。
みんな大好き。
>>3 鱸様
意味の食い違いが発生したことをお詫びいたします。
偏にこちらの文章力不足です。
自分は「『天子は死神に敗北して死ぬ事』がありえない」という意味のつもりで書いていましたが、
確かに「天子は死神に敗北し、既に死んでいる」とも取れる文章でした。
本文を修正致しました。大変失礼致しました。
>>4様
天子は産廃以外でもドM扱いされてる事が多いからでしょうか・・・。
この作品でも快楽感じてますし。
>>5様
おっしゃる通りですねほんと。
アルマァ
http://twitter.com/ilsaber
- 作品情報
- 作品集:
- 11
- 投稿日時:
- 2010/02/12 04:45:33
- 更新日時:
- 2010/02/14 20:41:03
- 分類
- 天子
- 窒息プレイ
退廃的で大変良いですね。
死んでんじゃねぇか
天子だからかな?
すーけべ!
てーんこ〜はすーけべ〜♪