2月14日
血のバレンタインデー
「ここが、紅魔館ね」
白蓮はそういうと、にこりと笑った。見るものの心を溶かさざるを得ないその笑顔。自愛に満ち溢れた笑顔を見て、傍らにいた虎丸星がこたえた。
「はい、聖。間違いありません」
「そう・・・」
この場にいるのは、白蓮、寅丸、村紗、一輪の4人である。命蓮寺の中核メンバーでもあった。
「では、参りましょう」
穏やかな声で白蓮がいう。時は夕暮れ。紅魔館が紅く染まっている。
「・・・どなたですか?」
門番にとめられる。すらりとした長身の紅美鈴は、いささか警戒した様子でそう尋ねてきた。初めてみる顔だ。悪魔の館であるこの紅魔館にわざわざ訪れてくるような酔狂な客は、黒白の魔法使いを除けばほとんどいない。門番としては楽な話ではあるのだが・・・たまには、刺激がほしいものでもある。
「こんばんは」
「あ、こんばんは」
丁寧な挨拶をかえされて、ちょっと拍子抜けしてしまう。美鈴は肩の力を抜いた。どうやらこの客は、怪しいものではないようだ。
そんな美鈴の様子を見て取ると、白蓮はにこりと笑ってこういった。
「今日は紅魔館を潰しにきました」
「・・・はい?」
耳を疑う。よく聞こえなかった。おそらく聞き間違えだろう。あいかわらず、目の前の白蓮はにこにこと笑っており、敵意を感じることは出来ない。
「あのー・・・申し訳ありません。もう一度言ってもらえますか?」
頭をかきながら、美鈴はいった。白蓮は先ほどと同じように、にこにことした笑顔のままで、再び答えた。
「はい。今日は、この紅魔館を、潰しにきました」
聞き間違えではない。確かに、この客・・・客といっていいのかどうかは分からないが・・・は、紅魔館を潰しにきたといっている。見てみると、この黒服の女性だけではなく、その後ろにいる3人も、にこにこ笑っている。まったく。なんというか。
「冗談・・・ではないんですね」
「あら・・・冗談でこんなこというなんて、そんな失礼なことは出来ませんわ」
白蓮はそういうと、また、にこりと笑う。
笑ってはいるのだが。
(・・・目が、笑っていない)
美鈴が身構えた、その瞬間。
美鈴の視界が、真っ白になった。
「侵入者!侵入者あり!」
「門は突破されました!」
「総員、紅魔館入り口に集合するべし!」
紅魔館始まって以来の緊急事態が起こっていた。全妖精メイドたちが手に武器を持って集まってくる。館の中は、まさに蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっていた。
「侵入者?この紅魔館に?」
的確な指示を出しながらメイド長の十六夜咲夜が門へと向かう。すれ違う妖精たちは数は多いものの、戦力にはならないだろう。
「まったく、門番は何をしているのかしら」
これは食事抜きね、そう思いながら、咲夜はその場所へとついた。
門が、燃えていた。
「これはこれは、初めまして」
炎の中、黒服の女性がたたずんでいた。
笑顔。
その頬に、一筋の血が垂れている。
咲夜は、一瞬で状況を把握した。
こいつは、敵だ。
門を見ると、血まみれになった美鈴が横たわっていた。死んでいるわけではないようだが、もはや戦力として考えることは出来ないだろう。
「・・・どなたかしら?」
「このたび、幻想郷に命蓮寺という寺を建てさせて頂きました、聖白蓮と申します」
白蓮が深々とお辞儀をする。
それに続いて、白蓮の後ろに立っていた3人も自己紹介を始めた。
「雲居一輪です」
「村紗水蜜です」
「寅丸星です」
「・・・これは、ご丁寧に」
言いながら、咲夜は注意をとかない。息を吸う。息を、吐く。
「それで、その、命蓮寺のお方が、当紅魔館に何の御用かしら?」
「まことに申し上げにくいのですが・・・」
白蓮は、少し困ったような表情を浮かべた。眉がゆがむ。しばらくした後、にこりと笑い・・・炎を背にして、いった。
「申し訳ございませんが、このたび、この紅魔館を、潰させていただくことにしたのです」
「・・・簡単に、はいそうですか、とはいえませんね」
いつでも動けるような臨戦態勢をとる。呼吸を合わせる。
「私たち、この幻想郷に来てまだ間が無いでしょう」
そんな咲夜に語りかけるように、穏やかな口調で白蓮は続けた。
「妖怪と人間、その両方が平等に幸せになることが私たちの希望なのですが、その理想を実現するためには、まずは私たちの存在を、力を幻想郷の皆様方に伝えなければなりません」
「・・・」
「力なき正義など、ただの・・・幻想に過ぎないのですから」
「ここはその名の通り、幻想郷なんですけどね」
「ふふ。違いありません」
白蓮は笑う。
瞳は、笑っていない。
「まずは幻想郷一番の武闘集団として名高いこの紅魔館を潰させていただくことで、私たちの存在を広く幻想郷に伝えようかと思いまして」
「・・・ずいぶんと勝手な言い分ね」
「ですから、先ほど、先に謝らせていただいたのです・・・申し訳ございません、と」
ナイフ。
百のナイフ。
千のナイフ。
白蓮の言葉が終わるか終わらないかの時に、ナイフは突然空中に現れた。切っ先を全て白蓮に向けると、襲い掛かる。
「さようなら」
咲夜が言う。
「とんでもございません」
声は、背後からしてきた。
驚いた咲夜が振り向く。そこには、にこりと笑った白蓮が立っていた。
「まだお会いしたばかりではありませんか」
先ほどまで白蓮が立っていた場所に、無数のナイフがそそり立っていた。殺す気で攻撃した。悲鳴をあげる瞬間すらないはずだった。
「あなたは先ほどの門番とは違いますね」
咲夜はすぐさま後ろへと飛び去った。
同時に、無数のナイフを走らせる。
その全てが、白蓮に届く前に叩き落される。
「隙も何もない。私を殺す、という目的になんら躊躇もない。殺意の前に行動するなんて、普通の人間に出来ることではありませんわ」
「・・・褒めていただかなくてもいいですわ」
「褒めさせてください」
笑う。
笑う。
楽しくて仕方がない。
「あぁ。私はこんなことしたくないのに」
白蓮は拳を振り上げると、ただ単純に、その力で咲夜をたたきつけた。
単純なだけに、避けることができない。相手と、自分との距離を、一直線。
「!」
咲夜はそのまま吹き飛び、ちょうど門番が倒れている壁へと叩きつけられた。
「あら」
白蓮が自らの肩に手をやる。そこには一本のナイフが突き刺さっていた。
「信じられない。自分の体よりも任務を優先するなんて、あなた、本当にただのメイド?」
「その通り。完全で瀟洒な、ただのメイドですわ」
そう言いながら、肩で息をする。油断も隙も無い。一瞬でも隙を見せたなら、またたく間にねじ伏せられることだろう。
「そちらが来ないなら、私から・・・」
白蓮がそういいかけた時。
「あんまり、うちの大切なメイドを苛めないでくれる?」
背後から、声がした。
同時に、七色の光。
間一髪で白蓮はよける。髪の毛がすこし焦げる。
「パチュリー様!」
「まったく、こんなにうるさかったら、ゆっくり読書することも出来ないじゃない」
紫の魔女。
パチュリー・ノーレッジが手に魔道書を持ったまま立っていた。
その後ろには、幾百もの小悪魔たちが手に武器を携えて控えている。
「門には、武術の達人」
「館内には、無数の妖精」
「容赦も隙もない、メイド長」
「魔女」
「無数の悪魔」
哄笑。
「素晴らしい!素晴らしいですわ!まさに、幻想郷最強の武闘集団ですわ!」
白蓮が笑った。
手をあげて、笑った。
はは・・・ははははははは・・・ははははははははははは!!!!!!!
「咲夜」
「はい、パチュリー様」
無数のナイフ。
禁断の、魔法。
その全てが白蓮へと襲い掛かり・・・その全てが打ち消された。
「この紅魔館を叩き潰してこそ、私の理想が実現できるというものですわっ」
いつしか、夜になっていた。
空に浮かぶのは、満月。
その満月の中に、無数の蝙蝠が見える。蝙蝠が集まる。その蝙蝠が一つの黒い影となり。
「理想、理想とうるさいわね」
一人の、羽を生やした少女の姿へと変わった。
大きめのナイトキャップに、フリルのついた服。背中から生えている翼は蝙蝠の翼。口元には牙。瞳は真紅。
「今夜は、満月」
紅魔館の永遠に幼き主は、両手を広げると眼下の白蓮に向かっていった。
「こんなにも月が紅いから、今夜は本気で殺すわよ?」
地下室。
しとり・・・しとり。
水滴が落ちる音がする。
宝石の羽を生やした少女が、うつろな瞳でしゃがみこんでいた。
「お姉さま・・・」
いったいどれだけの間、ここに閉じ込められているのだろう?先日、黒白の魔法使いが来てから、少しは待遇が変わったとはいえ、基本的に閉じ込められているのには違いがない。
「何か、音がする」
いつもと同じ静寂・・・ではなかった。
館の上のほうで、今夜は大きな物音がしていた。
今夜?今は夜なのだろうか?地下室には光が入ってこないので分からない。
閉じ込められた少女。フランドール・スカーレットは気は狂っていたが、姉のことは大好きだった。
フランの力は、「ありとあらゆるものを破壊することの出来る程度の力」である。出ようと思えば、こんな地下室なんてすぐに破壊して出ることが出来る。鉄の扉でも、厚い石壁でも、そんなものは関係がない。その瞳を拳の中に入れて、ぎゅっとして、ぼーんだ。
でもそれをしないのは、ひとえに、フランが姉のことを慕っていたからだった。ありとあらゆるものを破壊することが出来るからこそ、フランは姉との関係を破壊したくはなかった。たった一人の、血のつながった、姉妹なのだから。
「つまんない」
はやく、姉さま来てくれないかな?
ほとんど地下室には来てくれることはないけど、それでも、時々顔を出してくれる。そんな瞬間が、フランが生きている理由のほとんど全てだった。
コツン。
コツン。
足音。
「姉さま!?」
フランが瞳を輝かせた。
扉が、ぎぃ・・・と音を立てて開いた。
ナイトキャップ。
姉さまのナイトキャップが見える。
「姉さま!」
フランは立ち上がった。
「こ・ん・ば・ん・は〜」
姉の口が、動いた。
口は動いていたが、声はそこから出てはいなかった。
というか、姉の首から下は無かった。
真紅の瞳のあった場所は、暗いくらい、穴が開いているだけだった。
ナイトキャップも血にまみれていた。
首があるはずの場所には、何者かの手が添えられていた。
その手が、姉の口を、身体の内側から動かしているのだ。
「あなたが、フランちゃんね」
一人の、女性の姿がそこにあった。
黒服の、女性。
手に、姉の生首を持っている女性。
「もう、うまく動かないわね」
まるでオモチャでも扱っているかのように、その女性・・・白蓮は、レミリアの生首をいじくっていた。
「えーっと・・・こうかしら?」
喉にあいた穴から手を入れて、舌を裏側から動かす。レミリアのだらんとした舌がべしゃり、べしゃりと動く。
「フ・ラ・ン・ちゃ・ん・こ・ん・ば・ん・は〜」
まるで腹話術だ。
人形を持った、お姉さん。
あまりのことに、フランは何も答えることも出来ず、ただそこに、立ち尽くしていた。
「あ・な・た・が・紅・魔・館・の・最・後・の・一・人・で・す〜」
べちゃり。
べちゃり。
ぐちゅ。
背後に影。
目の前の台座に、レミリアの首だけが置いてある。
あれ?先ほどの女性は?
後ろに気配。
ごとり。
さく。
・ ・・ごろん。
「そして、誰もいなくなった」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、もっと、もっと見て・・・・」
紅魔館の地下室。そこに縛られている一人の女性がいた。
胸元がはだけ、紐だけで閉じられている。服が残っているのは上半身だけで、下半身はむき出しだった。
両手は器具で固定されており、伸びた縄で天井から吊るされている。
白蓮だった。
地下室の傍らにある台座には、姉妹の吸血鬼の首が綺麗に並べられている。首筋から血が滴り落ちていて、時折、ぽとり、ぽとりと音がする。
「私の・・・うんちの穴・・・みんな・・・見える?」
白蓮がいう。
命蓮寺のみんな・・・寅丸、村紗、一輪は、声をそろえていった。
「はい・・・見えます。すごく、ひくひくしています」
「嫌・・・やっぱり、見ないで・・・」
白蓮の性癖だった。
あらぶる闘争の心を静めるためには、自らが被虐されることが必要なのだった。
(聖・・・)
寅丸は、敬愛する白蓮に近寄ると、その肛門の匂いをかいだ。先ほどまでの戦いの影響のせいか、そこはツンとした刺激臭がした。
「聖・・・くさいです」
「嫌ぁ・・・嗅がないで・・・そんなとこ、嗅がないで・・・」
「そんな所って、どこですか?」
嬉しそうに尋ねてきたのは、村紗だ。
そう聞かれるのが、白蓮が一番悦ぶのだと知っているのだ。
「・・・の穴・・・」
「聞こえません」
村紗は笑った。
「もっと大きな声で言ってください」
「・・・お尻の穴ぁ・・・」
「姐さん、違うでしょう」
白蓮の顔の側に回った一輪が、白蓮の鼻の穴をぺろりと舐めると、言った。
「ただのお尻の穴じゃないでしょう?いったい、何をする穴ですか?」
「・・・出すところ・・・」
消え入りそうな声だった。
先ほどまで・・・紅魔館をたった一人で潰した女の声とはまるで違っていた。
(結局、私たちは何もすることはなかった)
戦いは、全て、白蓮一人だけで終わらせてしまった。
寅丸も、村紗も、一輪も。
白蓮の姿を見ていただけなのだった。
(なら、私たちは、いったい何の為にいるのだ?)
答えは、ここにある。
目の前であさましく快感を求めている一人の雌。
この白蓮を満足させるために、自分たちはいるのだ。
そして。
それが、この人に必要とされていることが、とても嬉しい。
「何を出すところなのですか?」
「・・・ち・・・」
「聞こえません」
三人の声が合わさる。
三人は、それぞれを顔を見つめあった。
結局、この人は。
誰も、殺さなかったのだ。
確かに、紅魔館は壊滅した。
門番は破れ。
メイド長も破れ。
魔女も破れ。
吸血鬼の姉妹も、首だけになった。
しかし。
誰一人として、殺してはいない。
それぞれの相手のギリギリの致死量寸前まで追い詰めはしたものの、戦闘不能にはしたものの、それでも、殺してはいないのだ。
妖精ですら、殺していない。
白蓮は、相手に合わせた処理をしていった。
吸血鬼は、首だけになっても死なない。
しばらくすれば、再び元に戻るだろう。
一番てこずったのは、メイド長だった。
本当に、死の、ギリギリの、ギリギリのところまで追い詰めても、それでもまだ行動をやめなかった。そこまでの忠誠心は、いったいどこからくるのだろう?あの時、レミリアが「咲夜、もういいのよ」と言わなければ、殺してしまっていたかもしれない。そうなっていれば、白蓮の負けだった。
妖怪も、人間も、平等に、助ける。
白蓮は、もう、誰も殺さない。
「うんち!うんちが出ます!」
だらけきった顔をさらし、白蓮の肛門が開いた。
命蓮寺のみんなは、その光景をじっと見ている。
「聖・・・なんてはしたない」
ぶりゅ・・・ぶぴゅ・・・
ひどい匂いと共に、白蓮の体内から茶色い塊が顔を出してきた。
そのうんちは千切れることもなく、長く長く、にゅるりと這い出てくる。
「うんち出りゅ・・・うんち・・・出りゅぅ・・・・」
白蓮の性癖。
嗜虐的な性癖。
この瞬間の為に、彼女は、今日も。
「うんちぃ・・・・・」
南無三―――
おわり
いざ、南無三!
白蓮のギャップがスゲー
ただ、妙蓮寺ではなく命蓮寺だったかと。
面白かったです!
実際聖さん、若い頃は相当荒れてそうですよね
言ってる事ぁ立派だけどやってる事は屑そのものとか
妖怪には妖怪の救世主が必要なんだよ
ババァくせぇ〜よ
平然と道明寺を経木にくるんでる店員を見たことがある
ひじりんの最強パワーの制御弁は被虐心なのかー
そして変態的な命蓮寺メンバーも素敵