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『東方葬送夢5』 作者: 変態牧師
≪外の世界で公表された とある雑誌より抜粋――――“ジグソウ”のゲームについて≫
1.“ジグソウ”とは、“ゲーム”と称した殺人儀式を行い、全米を震え上がらせている殺人鬼である。
その“ゲーム”に掛けられ死んでいった人間は 既に何十人規模にも至っている。
2.“ジグソウ”の“ゲーム”には、必ず 生き残るチャンスが残されている。
ただし、そのチャンスを得るためには、目や足……あるいは他人の命など、必ず何かを犠牲にしなければならない。
強靭な生きる意志を示した者のみが、“ゲーム”に生き延びることが出来ようである。
3.“ジグソウ”は、明らかに人を死に追いやっていながらも、誰一人“直接”手にかけたことは無い。
自分の生死を選ぶのは“ゲーム”の被験者自身という歪んだ意思によって、“ジグソウ”は“ゲーム”を続けている。
4.“ジグソウ”本人は、“ゲーム”の目的を、殺人としていない。
全ては、己の生を省みぬ者に、生の尊さを理解させるコトが目的であると言う。
5.“ジグソウ”の“ゲーム”に敗れ命を落とした者は、ジグソーパズルのピースの形に皮膚の一部を切り取られる。
その意味は“生存本能の欠如”と“ジグソウ”は言う。
6.“ジグソウ”は自らの代理人として――――人ではないが――――不気味な人形の“ビリー”を用いている。
ビリー人形は、ジグソウの“ゲーム”の説明などを行う。
7.“ジグソウ”は“ゲーム”の最中、常に“最前列”でそれを鑑賞している。
『東方葬送夢5』
霊夢と早苗の二人が、にとりの家を出てから時間は暫く遡る。
幻想郷には、鬱葱とした木々が生い茂る“魔法の森”と呼ばれる密林がある。
その内側に住むのは、イタズラ好きの妖精や、血に餓えた獣、あるいは凶暴な妖怪たち――――
当然、力を持たない人間は、余程のことが無い限り、その場所に近づくことは無い。
だが、なんにでも例外があるように、比較的人間に近い者も、そこに住んでいるのだ。
一人は黒白の魔女と呼ばれる、霧雨魔理沙という名の人間の少女。
そして、もう一人は七色の人形遣いと呼ばれる、アリス=マーガトロイドという名の魔法使い。
その日、魔法の森の奥にある一軒の館の窓には、その全てにカーテンが掛けられていた。
雨が降っているわけでもなく、まだ日は落ちてはいない今、その館の様相はあまりにも不自然と言って良い。
住人が不在ならば、それも不自然では無かったかもしれないが、館の扉に取り付けられた木の板には“在宅中”と書かれている。
扉の木の板に書かれた文字の通り、その館の主は 確かに“そこ”にいた。
「や、やだ……ぁ、ぅぅ、うぁぁ……」
館の中には、年端も行かぬ少女が 身動きの取れないように縛められたまま震えていた。
少女の身体は、テーブルの上に大の字に寝かされたまま、その両手足には“枷”が取り付けられている。
その戒めから逃れようと、必死に暴れたのだろう……彼女“手枷”や“足枷”には、彼女の血がべっとりと付着していた。
少女は、肩までかかった金色のウェーブの髪を、フリルのついたヘアバンドで纏めていた。
その装いは水色のワンピースの上に白いケープ。 そして、腰には桃色のリボン。
肌の色は薄く、彼女を初めて目にした者達は、少女に“人形”というイメージを持つだろう。
それも、最高の人形師によって端正に形作られた至高の作品と言える程のだ。
けれども、今や、その可愛らしい顔は、完全に青ざめ、恐怖と絶望に歪んでしまっていた。
「……あるいは 君が人形の気分を味わって見るのもいいだろう?」
彼女のすぐ傍には、タキシードを纏った一体の不気味な人形が置いてあり、それが耳障りな 嗄れ声をあげている。
落ち窪んだ眼窩に白い肌、ぼさぼさの髪……そして、何よりも 虚ろに鈍く輝く黒い瞳が不気味だ。
頬に描かれた赤い渦巻きが、人形に道化のようなイメージを与えており、それが 余計に人形の薄気味悪さを引き立たせている。
「これから、君は“人形”から“人間”へと生まれ変わるか……あるいは、そのまま人形として、死ぬか……」
不気味な人形の周囲には、千切られた小さな手や足が散乱していた。
それらは、全て“人形の残骸”……とはいえ、彼女の傍で喋っている不気味な人形のモノではない。
残骸は全て、小さな女の子を模した、可愛らしい人形のモノだ。
「い……いや、ぁ……たすけ……」
捕えられている少女が、恐怖に怯えた声を上げる。
少女の能力は、魔術による“人形操作”であり、この世界でも、右に出るものはいないほどの人形遣いと呼ばれている。
ひとたび戦闘となれば、圧倒的な人形の軍勢で敵を圧殺することが出来るのだ。
けれども、今の彼女は限りなく無力であると言わざるを得ない。
“壊れてしまった人形”は“人形”ではなく……彼女の命令通り動くことはないのだ。
手足となる人形を失い、その身体も拘束されてしまっている以上、少女は今や両翼をもがれた鳥そのもの。
「さぁ……ゲームをしよう、アリス=マーガトロイド」
人形がそう言った瞬間、囚われの少女――――アリスの身体がびくっ、と震えた。
彼女には、人形が口にする“ゲーム”の意味が全く理解できない。
だが、少なくとも それが彼女に危害を加えるものであることは 理解できた。
アリスの喉から、恐怖の呻き声が湧き上がると共に、その身体が 次第にカタカタと震え始める。
「おまえは、これまでの人生で、常に“全力”を出さずに生きてきたな。
そして、自分が 何故ゲームの被験者として選ばれたか……今更、説明しなくても理解できているだろう?」
その言葉に、思い当たる節があったのだろうか……目に見えるほど、アリスの反応が変わった。
呼吸困難に陥ったかのように喘ぎ、その瞳から恐怖と絶望の涙が零れ落ちる。
怯えたまま力なく身体を捩らせると、先程までと同様に、アリスの両手と両足に鈍い痛みが走った。
「おまえの体は、糸によって、その台の上に磔にされている。
さながら、動きを封じられた“マリオネット”のようにな」
人形の言葉は、そのままの意味だった。
太腿と脹脛、前腕と上腕……アリスの両手足の皮膚や肉は 細い糸に 幾重にも縫い付けられ、
彼女が寝かされているテーブルに突き立てられた鎹状の大釘に繋がれている。
糸の一本一本の強度はそれほどでもないが、それが束になれば力づくで引き千切ることは容易ではない。
手足に残る僅かな痺れから、おそらく麻酔薬か何かで痺れさせられた後で、磔にされたのだとアリスは理解した。
血は既に乾いているものの、アリスが身動きを取れば傷口が開き、生暖かい体液ががじわりと滲む。
でなければ、何度も何度も皮膚を針と糸で貫かれて、目が覚めないわけが無い。
「生き延びたければ、急いだ方がいい。 時間が経てば、蝋燭の炎が紐を焼き、君の上に落ちてゆく。
その後、どうなるかは凡そ想像はつくだろう?」
「……え?」
『蝋燭の炎が』『君の上に落ちる』二つの言葉を耳にした瞬間、アリスの表情が引きつった。
恐る恐る首を捻り、周囲を見回すと外へと続く扉のドアノブに細い紐が取り付けられている。
その紐のもう一方の端は、天井の梁を何本か通って彼女の真上に垂れ下がり、その先に皿の形をした燭台が吊り下げられている。
アリスからは良く見えなかったが、燭台の上には小さな灯りが宿っていた。
その光に映し出された梁や紐の影はゆらゆらと揺らいでおり、アリスはその燭台の上には蝋燭が設置されているコトを理解する。
そして、梁を通り、燭台へと伸びる紐は1本だけでなく3本あった。
一本は外へと続く扉のドアノブ、もう一本は窓の取っ手、最後の一本は部屋の奥へと続く扉のドアノブへ、合計3本の紐が燭台と繋がっている。
ゆらゆらと小さな往復運動を繰り返す燭台は、その3本の紐によってバランスが保たれるように吊り下がっていた。
「……?」
その時点になって、アリスは自らの身体を覆い尽くしている奇妙な感触に気付いた。
衣服や肌に ねっとりとした粘性のある液体がへばり付いているのだ。
それまでは この異常な状況に心の底から怯えてしまっており、なおかつ その奇妙なぬめりを汗と思い込んでいたため、アリスも気付かなかった。
けれども、落ち着いて――――実際には落ち着くどころではなかったが――――指先でその感触を確認すると、汗にしては潤滑性が強すぎる。
暫くの間、指先を擦り合わせながら、アリスはその感触の心当たりを探っていた。
「…………――――ッッ!!」
その液体の正体を理解した瞬間、アリスの表情が凍りつき、息を呑む音が部屋中に響く。
彼女の全身に纏わりついているのは、人形の関節潤滑用の油……可燃性の液体だ。
「ま、まさ、か……」
アリスの表情が、みるみるうちに蒼白へと移り変わってゆく。
燭台を吊り下げている紐は、蝋燭の炎のちょうど真上に、束ねられるように位置していた。
おそらくは遠くない未来、蝋燭に灯された火の熱が紐を焼き切るに違いない。
そうなれば、蝋燭と燭台は、炎ごと落下して――――
「あ……うあぁ……」
アリスは、自らの心臓の鼓動が跳ね上がり、自分の身の内から形容しがたい感覚が湧きあがるのを自覚した。
その感覚は、じわじわと“恐怖”へ姿を変えながら、アリスを内側から追い詰める。
手足がカタカタと震え始め、まるで力を入れることが出来ない。
激しいプレッシャーが、アリスの胸全体を押しつぶし、吐き気すら催させる。
身体も、心も、凍えるように寒くて動かないのに、心臓だけが、どっ、どっ、と耳鳴りするほどに激しい鼓動を繰り返す。
生まれて初めて、本物の“殺意”を向けられたアリスは、完全に怯えきり、恐怖で動けなくなってしまっていた。
「もしくは、“誰か”が入って来ても同じだ。 君は炎に焼かれて死んでゆくことになる」
今も、ゆらゆらと動く蝋燭は、激しい振動を与えようものならば、炎ごと彼女の上に落下しかねない。
そして、燭台を吊り下げている紐は、この部屋に入る扉や窓に取り付けられているのだ。
この部屋の扉や窓が開けられたら、蝋燭は炎とともにアリスの身体の上に落下してしまう。
この時点で アリスはその行動のほとんどを封じられたと言っていいだろう。
他の部屋には まだ人形が残っており、それらを操ることは出来るのだが、扉を開けることができない以上 どうすることも出来ない。
仮に人形を操って助けを呼びに行ったとしても、入ってくる者は無関心に扉を開ける可能性のほうが高い。
いや、それ以前に 蝋燭の炎が紐を焼き切るのが早いはずだ。
そして、部屋の中の人形は一体を除いて全滅しており、その“残骸”は床の上に散乱している。
残った一体は、耳障りなしゃがれ声で喋る人形だけであり、これを魔法で操るという方法はあるのだが――――
「ところで、“人形”を操って脱出を試みるのはお勧めしない
そんな小手先な行動が通じないことくらいは、よくわかるだろう?」
――――その考えを、人形は一言で“望み無し”と断じた。
その言葉の通り、扉のドアノブや窓の取っ手から、燭台を激しく揺らさずに紐を外すのは、不可能に違いない。
皿のような形をした燭台は 3方向からバランスを保つように吊り下げられており、人形一体では 燭台をひっくり返さず蝋燭を取り外すことは出来ない。
アリスが縛められているテーブルを動かそうにも、この人形の細腕では動かせないだろう。
それ以前に、机を動かす振動で蝋燭が落下する可能性も有りうる。
また、アリスが普段使う人形は、飛行用の魔術処置を施してあるが、当然の如く 不気味な人形にはそれが無い。
つまり、空を飛ぶことが出来ないため、アリスの眼前2mほどの位置に設置してある蝋燭を外すことも無理なのだ。
何かしらの魔法や弾幕を使って、燭台を弾き飛ばすという手もあるが、確実に助かるという可能性が低い。
運が悪ければ蝋燭がアリスの上に落下してしまうだろうし、万一 燭台を外してしまったら その振動でも蝋燭が落ちてしまいかねない。
残る現実的な方法としては、蝋燭の炎を消すことが挙げられるのだが、部屋の中には水がない。
炎を煽いで消すとしても、下手をすれば炎が消える前に蝋燭が彼女の上に落下しかねないリスクがある。
あまりにも計算しつくされた“ゲーム”によって、アリスは完全にその行動を封殺されていた。
そして、弾幕はブレイン――――常日頃よりそう考えて、弾幕合戦に興じている彼女だからこそ、理解することができる。
―――― 皮膚や肉を力ずくで破り、拘束から逃れない限り、アリス自身が助かる道は、決して無いことを。
「誰一人助けの無い中で、生きるために全身全霊を賭け、本気で おまえの生に立ち向かえ。
決断するのはおまえだ……ゲーム・スタート」
死の恐怖に押しつぶされかかりながらも、アリスは自らを必死に鼓舞しながら冷静さを保とうとしていた。
けれども、どんなに冷静になって考えても、ここから逃れる方法はたった一つしか無い。
恐怖に耐えきれず、身じろぎすると、腕や足に鋭い苦痛が奔った。
「っく、ううっ、うぁぁ……!! ゆ、ゆるし……て……う、うああ……!」
文字通り肉を裂くような激痛に、アリスは苦悶の声を抑えることさえ出来ない。
アリスをこのテーブルの上に縛める最中に使われていたであろう麻酔薬も、既にその効果が切れている。
決して逃げられぬ絶望から救いを求めようと、アリスは助けを乞うた。
そのとき――――
ガタッ……!
「ひいいぃっ!」
外へと続く扉に何かがぶつかる音が聞こえ、アリスは小さな悲鳴とともに身を竦める。
その後は、全く扉が動く気配がないことから、おそらくは木枯しで木の枝か何かが飛ばされ、扉にぶつかったのだろう。
けれど、そんな小さな衝撃を加えられただけでも、燭台はゆらゆらと揺れ、その上に置かれていた蝋燭が、コトリと倒れる。
幸い、蝋燭は落下することはなく、燭台の淵から蝋燭の先端と炎が見え隠れするだけだった。
「ひ、ひぃぃ……っ、あ、ぁぁぁ……」
その光景を目の当たりにしていたアリスは、息を呑み、身じろぎひとつ出来なかった。
自分が、本当に生と死の狭間にいることを悟った彼女は、はっ、はっ、と過呼吸気味に短く息を吐き、震えることしか出来ない。
そんな最中、溶けた蝋が、ぽたり、とアリスの胸元に落ちた。
「うぁ……ぁぁ、た、たすけ……て……」
蝋の熱が白い肌を焼き、アリスの意識を 僅かに恐怖のドン底から現実へと引き戻す。
けれども、今のアリスには、“たった一つの方法”を除いて、何一つ為す術が無い。
運が悪ければ、そのうち 迷い人か 客人かが家に入ってくる。
それでなくとも、今日は風が強いのだ。 もう一度先ほどのように扉に衝撃が加われば、今度こそ蝋燭が落下しかねない。
「お、おねがい、ゆるして……ごめんなさい! ごめん、なさい……!」
何時訪れるか わからない“死”に、アリスはガタガタ震えながら許しを乞うた。
だが、どんなにアリスが哀願しようとも、その言葉に心を動かされる者は誰もいない。
そうして、必死に懇願を続けていたアリスも、とうとう最後には理解する。
本気で、皮膚や肉を破らなければ、この恐怖からは逃げることが出来ないことに。
覚悟を決めたアリスは、息を大きく吸い込み、右腕を少し強めに引っ張った。
「……っ、っくうううっ! あぐぅぅっ……うっ、ううっ、うぐぁがぁあああぁ……っっ!!」
ほんの僅か力を込めて引っ張っただけなのに、信じられないほどの激痛が右腕に奔る。
それでも、アリスの内面では、死の恐怖が苦痛を上回っていた。
激しい苦痛に呻きながらも、彼女は必死で腕を強く引っ張り続ける。
心の底から絞り出すような悲鳴が部屋中に響き、アリスの腕から流れる血液は、ぽたぽた、から、ぼたぼた、へと変わってゆく。
「いた、ぁ……うぁ、うぁぁっ……! いやぁぁ……あああああっ!!」
筋肉の筋や血管、そして皮膚がぶちぶち、みちみちと嫌な音を立てながら断裁されてゆく。
アリスの呻き声の音量とともに、テーブルの上に零れ落ちる血溜まりは、次第にその面積を増していった。
あまりの激痛に、アリス自身も、このまま焼け死んだ方がマシとさえ思えていた。
けれど、その死に至るほどの苦痛がアリス自身に走馬灯のような記憶を呼び覚まさせる。
かつて、里の子供が一人 魔法の森に迷い込み、アリスの家に転がり込んできた時のこと。
魔法の実験中、その子供は過失によって沸騰中の鍋を転がしてしまったのだ。
硬直したかのように動けない子供の上に降りかかろうとする 熱湯を見た瞬間――――
母性めいた感情に突き動かされ、アリスは子供を庇い、熱湯を自らの背に被った。
そのときの大火傷による苦痛は、今彼女が味わっている苦痛とほぼ同等か、それ以上のものであっただろう。
「はっ……! ぁ、ぁぅぅ……ぐ、うぐぐぅぅぅ……うあああぁぁぁ!!」
―――― だからこそ、アリスは怯える。
このまま座して焼き殺される時の痛みは、彼女がかつて火傷により味わった苦痛を遥かに上回るに違いない。
今の彼女は、表の世界にて拷問の末に火刑に処せられる直前の 中世ヨーロッパの魔女そのものであった。
尤も、その時代の魔女と比べて“逃げ道”があるだけ、アリスのほうが幾らかはマシなのであろうが……
べりっ……ぶち、ぶちぃっ……!
「はぐぅぅ……ぁ、はぁぁ……ぐ、うぐぐううぅ……!!」
強靭な糸がアリスの皮膚を裂いていくたびに、彼女の身体はゆっくりと自由になってゆく。
既に、テーブルの大釘と右腕を繋ぐ糸の数は10を切っていた。
このまま、アリスが少し力を込めるだけで、糸が右腕の肉を裂くと共に、右腕は自由になるだろう。
けれども、アリスの心は“死んでしまいたい”と“死にたくない”という意識の狭間で激しく揺れ動いていた。
「うぐぐがあああああっ!! うああがぁあああああぁっ!!」
ぶちぃっ……!!
ほんの少しだけ、アリスの心の中で“死にたくない”という意識が 死を望む意識を上回った。
アリスは右腕に力を込め、その右腕を縛める“肉”のほうを引きちぎった。
涙、鼻水、そして苦痛に喘ぐ際に零れた涎によって、アリスの顔はメチャメチャな有様へとなっていた。
かつて、全力を出したくないと、いつも要所要所で適当に手を抜いていた彼女の姿は、何処にもない。
既に、彼女を襲う状況は“全力を出したくない”という、ある種の余裕を出していられた頃とは違う。
本気を出さねば、ここで焼かれて死ぬのだ。
「ごめん、なさい……ごめ……っぐ、ぅぅ、ああああぁっ……!!」
ただひたすら、何かに謝り続けながら、アリスは未だ縛められている左腕に力を込めた。
・
・
・
――――そして、時は暫く進む。
霊夢と早苗は、アリスの家の壁に背を押し付けながら、内部の様子を探ろうとしていた。
気配を消し、物音一つ立てずに動く様は、もはや“巫女”や“風祝”ではなく“密偵”か“忍者”と呼んで差支えが無い。
二人の表情からは一切の余裕が消え失せており、息の音さえも立てぬほど神経を周囲――――特に館の内側に張り巡らせていた。
「霊夢さん……」
「――――しっ」
緊張に耐え切れなくなった早苗の言葉を、霊夢は鋭い小声で遮る。
けれど、冷静さを保とうとしている霊夢も、内心では圧倒的な焦燥感に押し潰されかかっていた。
彼女達が此処に辿り着くまでに要した時間は、およそ25分程度であろうか……人形が喋っていた30分という時間を考えると、もう時間が無い。
この人形遣いの館の中にゲームの被験者がいるならば、あと5分も経たないうちに その者の命運は断たれるだろう。
つぅ……と霊夢の額を汗が伝い、ゆっくりと頬へ流れ落ちる。
「…………!!」
そうして、壁伝いに館の扉まで辿り着いた瞬間、霊夢の表情が一瞬にして硬化する。
早苗には、霊夢の表情と身体が硬直した理由がわからなかった。
けれど、扉に貼られている一枚の紙を目にした瞬間、彼女の表情も緊張の色を孕む。
―――― 『 よく観察することだ 』 ――――
『在宅中』と書かれた木の板……その下の貼り紙に記されている言葉の意味は、二人には理解できなかった。
けれども、その言葉が霊夢と早苗に宛てられていることは、二人にも理解できた。
おそらく、この館のどこかに“ジグソウ”の手がかかっているに違いない。
その確信が、霊夢と早苗の神経を、更に過敏に、更に張り詰めさせる。
―――― ふぐぅぅぅっ……、う、うぐぅぅ!!
「!!??」
そして、二人に追い討ちをかけるかのように、木製の扉の裏側からくぐもった苦悶の呻き声が響いてきた。
―――― ふひぃぃぃぃっ!! んっ、んっ、んう"う"う"う"う"う"ぅぅッッッ!!!
その声は、何かに怯えているようだった。
そして、何かの苦痛を必死で耐えているようでもあり、何かから必死で逃れようとしているようでもあった。
それは、既に一切の余裕すらない、絶望的に追い詰められた者だけが発することの出来る、恐怖の叫び声。
霊夢と早苗の背を、ぞわっとした不快な感覚が駆け抜けた。
「入るわよ、早苗……!!」
もはや、一刻の猶予も無いと判断したのだろう。
霊夢は小声で早苗にそう告げると、扉のドアノブに手をかけ、ゆっくりと静かに捻ってゆく。
ドアノブが最後まで捻られた瞬間、部屋の内側から響く恐怖に満ちた悲鳴が1オクターブ跳ね上がった。
そして、その悲鳴とほぼ同時に――――霊夢は扉を勢いよく開いた。
バンッ!!
「動くなっ!!」
「ひぐぅぅっ――――!!」
扉を開けた霊夢の目に飛び込んできたのは、テーブルの上に寝かされた金髪の少女。
少女の手足には、べっとりした血液がへばり付いており、傷口と思われる部分からは何十本かの糸が見え隠れしている。
青と白を基調とした衣服を纏った彼女は、恐怖と絶望の視線を霊夢と早苗に向けていた。
涙と鼻水に塗れたその姿は、霊夢が知るこの館の主とは、まるで別人のような風体であった。
そして……そんな彼女の上に、炎の灯った蝋燭がスローモーションのように落下してゆくのを、霊夢の目は捉えていた。
ぼうぅぅっ!!!!
「んぐぎいぃぃいいいいいぃいい!!??」
蝋燭の炎が、囚われていた少女の上に落下した瞬間、激しい勢いで炎が彼女の全身を包み込んだ。
「なっ……!!」
「ぐう"う"う"ぅ"ぅ"ぅ"!!! んぐ、う"う"う"、んぎい"い"い"い"い"い"い"い"い"!!!」
猿轡を噛ませられているのか、囚われの少女はくぐもった声で、獣のような絶叫をあげ続ける。
激しい炎は少女の体中を包み込み、もはや その元の姿さえも 見通すことが出来ない。
早苗は、一人の人間が生きたまま焼かれてゆく地獄の光景を、言葉も無く呆然と眺め続けることしか出来なかった。
霊夢ですら、まるで悪趣味な冗談を目にさせられたかのように、硬直し、動くことが出来ない。
肉が焼け焦げる嫌な臭いが部屋中に充満し、二人の肺が重苦しい空気に侵食される。
―――― よく観察することだ ――――
扉の貼り紙には、そう書かれていた。
普段の霊夢ならば、それこそ沈着冷静に状況を整理し、不用意に扉を開けるなどという行為は行わなかっただろう。
だが……30分という制限時間が 霊夢を焦らせた。
「ぐぅあ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ぁ"!! うぐがあ"あ"あ"ぁ"あ"!!」
獣のように のたうち回る炎の塊を言葉も無く眺める事しか出来ない最中――――
霊夢の心には深い後悔が、早苗の心には底知れぬ恐怖が湧き上がり始めていた。
その感情は、あっという間に二人の心を覆い尽くし、押し潰そうとする。
けれども、片やこの世界の管理人である博麗の巫女、片や外の世界で現人神と呼ばれた風祝の少女。
普通の人間ならば、目にすれば発狂しかねないその光景を目にしながら、霊夢はその強靭な精神力で精神を持ち直してゆく。
早苗は――――にとりの家でほんの少しだけ“耐性”がついていたこともあり――――辛うじて恐怖にガタガタと震えるだけで済んでいた。
「 ゲ ー ム ・ オ ー バ ー 」
不意に、恐ろしく冷たい声が部屋に響き、ショックから立ち直りつつある二人は はっとして声の方向に振り向いた。
あまりの惨状に二人とも気付かなかったのだが、あるいは最初からこの部屋にいたのかもしれない。
「――――ッ!!」
早苗の表情が恐怖に歪み、霊夢の表情が激しく硬直する。
二人の視線の先には、豚のマスクを被り、その上から黒いローブを纏った“そいつ”が静かに佇んでいた。
To be continued……
≪東方葬送夢5について≫
ついに、霊夢と早苗の前に、“そいつ”はその不気味な姿を現した。
焼かれ行く少女の傍らで、“そいつ”は何を考えるのだろうか……?
果たして、“そいつ”に立ち向かう二人の命運や如何に!?
次回の『東方葬送夢』は、2010年3月3日の24:00までにうpします。
予告では2010年2月23日24:00にうpする予定でしたが。
明日早く帰れそうに無いんで、一日早くうpします。
にしても……
うーん、初めは残虐なゲームだけを描いていたが、いつの間にかサスペンスモノになってるねコレ。
≪雑談≫
ホントどうでもいい話なんだけど、『着信アリ』って面白いよね。
この前、ビデオで初めて見たけど、saw以上に理不尽に死んでゆく様がいい。
sawは、ゲームの被験者が比較的アレなのが多いため、ある意味 自業自得と言えなくも無いケースが多いけど
着信アリでは、本当に全く無関係の罪の無い人間がバタバタと、しかも苦しんで死んでいくのが良い。
まさに理不尽の極み。 物悲しさの中に不気味さ漂う、あの着メロもいい味出していて、耳から離れない。
登場人物の中では、水沼 美々子がえらく可愛かったなぁ……実にいい映画だった。
今度、死の予告電話が幻想郷中の人妖の命を奪ってゆく話をつくってみるかな……
主人公はアリスで、タイトルは――――そう、『着信アリス』でいこう。
変態牧師
作品情報
作品集:
12
投稿日時:
2010/02/22 12:56:43
更新日時:
2010/02/22 21:56:43
分類
ジグソウ異変
アリス=マーガトロイド
残酷グロ
ところで、最後の駄洒落・・・そりゃナイス
漫画しか読んだことないけど死体の咥内に飴玉てなんかエロいよね
この作品を見習い?「鋼鉄の咆哮」(知ってる人いるのかな?)もので何か書きたくなって見ました・・・・
最高でした
『自業自得』をテーマとして扱う私としては、貴方の作品は1つの到達点です。
お陰でまた筆が動いてくれそうです。
>b氏
私得です。
さぁ、今すぐ波動砲を整備する作業に戻るんだ。
次も期待させていただきますね・
理不尽さなら個人的には「呪怨」も好きですね
これは霊夢と早苗さんは「償い」をしないといけないよね?
みんな、生きる為に必死になって他の人にメールを送るから、なかなか良い場面が見れる。
先生に送ったやつもいるし
葬送夢は、高みの見物感がたまらない、
幻想郷の全員を葬るまでお付き合いしますよ。
と、明日は我が身か...くわばら*2
でもアリスが子供を熱湯から庇って云々のくだりで
ちょっと胸にちくっと来てしまった…
そしてついに犯人がわかるのかな?次回が楽しみだ
あと着信アリスで吹いてしまったw
でマガトロさんに止めを刺したのは腋巫女と言うことだな。
やっぱりアリスは愛されているなぁと思いました。
この話の東方キャラホント可愛いよね
しかしなんだろうこのもやもや感
何かを見落としているような
その人のゲームならばあくまでその人に決めさせればいい
それを別の者もゲームに介入させることで当人の努力のみで解決できる問題じゃなくしている
まあ、運や賢明な友人を持っているかどうかもゲームの内であると言うならどうしようもないのですが
johnnytirstさんも言っているけれど高みの見物というか、ただ自分が楽しんでいるだけっていうのが伝わってくる
変態牧師さんの作品は当初のSAWの味を維持しつつ東方世界と絡めていて素敵です
背中に火傷の痕があるアリスを介抱したい