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『驚異的な負の連鎖』 作者: pnp
妖怪も住まう幻想郷には、普通の生物が生きていくことを拒む習性を持つ土地がある。
魔法の森がその代表格と言える。
瘴気が酷く、それに耐性のある者以外が、普通に生きていくのは難しい。
だが、おかしな土地で生きていると、そのおかしさに柔軟に適応していくものもいる。
植物なんかがいい例である。
そして霧雨魔理沙も、魔法の森に馴染んでしまった生物として有名だ。
魔理沙は元々人間であるが、これは特例と言ってもいい。
今後、彼女以外に魔法の森で暮らそうなどと考える人間は、恐らく現れてこないだろう。
そんな忌み嫌われる地である魔法の森で、封獣ぬえが一人、暇をもてあましていた。
正体不明を貫き通しても面白かったのかもしれないが、他者との対等な交流が無いのは、長命である彼女にとってはとかく苦痛なのである。
長い年月を封印され続けていた白蓮の苦しみを、彼女は味わいたくは無いのだ。
面白そうな物を探しながら歩いていると、不意に彼女の視界に黒い球体が現れた。
真っ黒くて巨大な球体の中身を目を凝らして確認してみると、金髪で赤いリボンをつけた妖怪が入っていた。
正確には彼女は、黒い球体に入っているのではなく、彼女の持つ能力を展開し、自然と球体を作り上げてしまっているのだ。
球体の中の少女の名前はルーミアと言って、闇を操る妖怪である。
大変な食いしん坊であると言う噂もある。
その噂を裏付ける行動を、彼女はとっていた。
自身が展開した闇の中で、彼女はある木の実を見つけていた。
彼女は闇を消し、木の実を手に取った。
「わぁ。美味しそう」
ルーミアはそう言っているが、物陰に隠れてそれを眺めていたぬえに、それはあまり美味しそうには映らなかった。
その木の実を見てまず連想してしまうのが、なすびである。
それの先端がぐるりと渦を巻いたような形状をしていて、まるで枯れたようにしわしわなのである。外皮の色は黄土色で、ヘタは泥の様な色。
実全体に点々とある小さな穴には、ジャガイモの芽のような突起がくっ付いている。
そんな気色の悪い実を美味しそうと言う辺り、ルーミアの食いしん坊は噂だけではないのが分かる。
「いただきます」
そう言うとルーミアは、その気色の悪い木の実を齧った。
どんな味がするのだろうとぬえはそれを観察する。
もぐもぐと租借するルーミアだったが、暫くすると顔を顰め、口に入れた実を飲まずに吐き出した。
「不味い! 何これ! 全くもう、がっかりさせないでよ」
木の実に文句を言うルーミア。
食べかけの実を投げ捨て、不機嫌そうにその場を後にした。
その全てを見ていたぬえは、ルーミアが去った後、その木の実のあった場所へ行ってみた。
ルーミアが齧ったもののすぐ傍に、それはポツポツと生っていた。
食べかけの実から、果肉は紅色である事が分かった。ますます気色の悪さが増していく。
「そんなに不味いんだ」
木の実を一つ手に取り、まじまじと見つめるぬえ。食べたいとは思わなかった。
しかし、長らく生きてきたぬえも、こんな歪な木の実を見た記憶がなかった。
そんなに不味いと評判の実なら、これを使った悪戯の一つや二つも考えていたであろうが、これに関しては全く彼女は無知であった。
故に、まだ試した事のないこの不思議な木の実で、何かしてやりたい気分になった。
「まだこの木の実は、誰にも知られていない筈」
自分が知らないのだから、最近幻想入りしたか、魔法の森の瘴気に当てられて突然変異した植物の実である可能性が高い。
きっと幻想郷でこの実を知っている者もごく僅かだ。
そこで彼女は閃いた。
この木の実に、正体不明の種を植え付けた。
そして、最寄の家に向かった。
*
「白蓮に叱られたのか?」
魔法の森に居を構える霧雨魔理沙は、久しぶりの客人が嬉しかったらしく、ぬえを快く招いた。
「そんなんじゃないよ。ただ退屈だっただけ」
「ここも大して面白い場所じゃないぜ」
「いいのよ。それより魔理沙!」
急に話の腰を折ったぬえに、魔理沙は少し怪訝な表情を見せた。
しかし妖怪とは自分勝手なものなので、さして気にする事はなかった。
「この木の実、美味しそうでしょ!」
ぬえはそう言った後、おもむろに先ほどの木の実を取り出した。
あの、なすびが渦を巻いたような、しわくちゃで黄土色の木の実である。
魔理沙の目にそう映れば、見たことも聞いたこともないその実を見て、「どこが美味そうなんだ」と苦笑いしていたであろう。
しかし今、この木の実には正体不明の種が植えつけてある。
ぬえに「美味しそうな木の実」と言う先入観を植え付けられた魔理沙の目に、その歪な木の実は映らなかった。
代わりに魔理沙の目に映っていたのは、彼女が「美味しそうな木の実」と聞いて想像してしまう木の実――真っ赤で丸く、瑞々しい林檎のような木の実であった。
「なんだそりゃ」
「さっき見つけたの。とても美味しいのよ」
「へぇ」
「食べる?」
「貰えるものはなんでも貰うぜ」
そう言うと魔理沙はぬえから木の実を受け取り、さっさとそれを齧った。
外面ではぬえはにこにこと笑っていたものの、内面ではくすくすと哂っていた。
ルーミアも投げ出すほどの木の実が、美味しい訳がない。
見てくれは先入観で変化するが、その本質は変わることはない。
どんなに魔理沙には美味しそうな木の実に映ったとしても、結局それは食いしん坊なルーミアも投げ捨てるほどの不味い木の実なのだ。
一体どんなリアクションをしてくれるのか、ぬえは固唾をのんで見守っていた。
「美味しい!」
「え?」
魔理沙の意外な返答に、ぬえは目を見開いた。
「林檎じゃないし、梨っぽくもないし……不思議な木の実もあったもんだな」
木の実をまじまじと見つめる魔理沙。
ぬえはどうにかぎこちない笑顔を作った。
「そ、そうでしょ? えへへ」
「お前も食べるか?」
魔理沙はそう言って木の実を差し出してきた。
「いや、いい」
「そうか? じゃ遠慮なく」
そう言って魔理沙は、木の実を全て平らげてしまった。
ぬえは悪態をついた。
悪戯は失敗に終わってしまい、むしろ魔理沙は喜んでいる様子だったからだ。妖怪と人間の味覚の違いだろう。
「あーあ、つまんないの」
ため息をつき、彼女は帰路を辿った。
そしてその晩、魔理沙が死んだ。
*
小さな小さな墓が、魔法の森の入口付近に作られた。
墓石に刻まれた名前は、霧雨魔理沙。
たったの十数年しか生きていない彼女は、誰に見られるでもなく、自宅でひっそりと死んでいた。
幻想郷を飛び回っていた彼女は、良くも悪くも幻想郷の有名人だった。
きっと彼女を見たことがないという者はほとんどいないだろう。
それほど彼女は、幻想郷の隅から隅を行き来していた。
少し横暴で、他人を顧みない面もあったが、それでも彼女は様々な者から慕われていた。
種別を全く気にしない態度。自身の掲げた目標へ向かって努力を怠らない真面目さ。普通の人間でありながら人以外の者に果敢に立ち向かっていく勇気。
褒めたって素直に受け取らない性格ゆえ、誰もなかなか口にしなかったが、彼女は尊敬に値する人物であった。
そんな彼女の突然の死は、幻想郷を震撼させた。
アリス・マーガトロイドは、墓の前で泣き崩れてしまった。
発狂寸前と言っても過言でない状態だったので、魂魄妖夢が力ずくで墓の前から遠ざけた。
長い付き合いがあった博麗霊夢も悲しみを隠しきれない様子で、呆然としたまま墓に目を落としていた。
憔悴しきった霊夢の肩を、八雲紫がポンと叩いた。
「辛いでしょうけど、変な気を起さないでね」
「毒殺だったのね」
「ええ。新種の木の実から出た毒。永遠亭が調べ上げたんだから、間違いないわ。妖怪に対しては効果の薄い、珍種らしいけど」
「どうして……」
「霊夢――」
「誰が毒なんて盛ったのよ!? あいつが何をしたって言うの!? 誰よ、名乗り出なさい! 殺してやる、殺してやる!!」
涙を交えて、霊夢が叫ぶ。
紫がそれを制止した。
激昂する霊夢だが、所詮は人間。紫相手ではまるで歯が立たない。
地底から出てきて初めて見る霊夢の姿に、ナズーリンも驚いた様子であった。
「あんな霊夢は初めて見るね」
「そうね」
雲居一輪も頷いた。
そして、ちらりと聖白蓮の様子を伺った。
「姐さん……」
「……」
白蓮も怒っていた。
彼女はその性格から、魔理沙を殺した誰かを恨み切ることができないのだろう。
恨みたい気持ちと、加害者を悼む気持ちの狭間で、白蓮は揺れていた。
「魔理沙に毒を盛った者にも、相応の理由がある筈。それを知るまで、身勝手な言動はできません」
「聖はちょっと甘すぎる」
落ち着いた口調の白蓮に対し、村紗水蜜は荒々しい口調で言った。
「魔理沙が殺されたのです。悔しいでしょう? ならば、もっと怒ればいい。どうして加害者を庇う必要があるのです」
水蜜の言葉に、白蓮はこれと言った反応を示さない。
甘すぎる、とは言ったものの、その甘さも白蓮のいいところであるのを、水蜜は気づいている。
しかし、こんな状況でなお平等を重んじるのは、さすがに馬鹿げているとも思っていた。
白蓮は頑固だ。きっと何を言っても自身の考えを捻じ曲げることはない。
そう思った水蜜は、他者に話題を振った。
「ぬえ」
「え?」
「あなたもそう思うでしょ?」
「う、うん……」
封獣ぬえだけは、他の大勢とは全く違う心境でその場にいた。
なぜなら魔理沙の死因は、ぬえが悪戯で食わせた木の実の毒によるものだったのだから。
月に住まう偉人が集う永遠亭による調査の結果、魔理沙の死因は毒によるものだった。
その毒は永琳すら初めてみる、極めて珍しいものであった。
検出された毒を、鈴蘭畑に住む人形の妖怪、メディスン・メランコリーに調査を依頼すると、これまた不可思議な毒だと驚きの声をあげた。
結局解決せず、紅魔館の魔法使いも共同でこの毒の出所を調べた結果、木の実の毒であることが判明した。
この木の実を探した結果、魔法の森で見つかった。まぎれもなく、ぬえが悪戯に用いた、あの気色の悪い木の実である。
ぬえの悪戯が原因で、魔理沙が死んだ。これは確定している。
魔理沙を殺したのはぬえと言う事になる。
しかし当然、ぬえはこれを誰にも言い出すことができなかった。
誰もが魔理沙の死を悼み、悲しみ、嘆き、怒っているのだ。そんな中で「私が魔理沙を殺しました」と手を挙げて名乗れるものか。
自分が殺したという事実がねじ曲がることは絶対にない。
ならばせめて、犯人が自分と言う真相に行きつく道を、どうにか閉ざしておきたかった。
「魔理沙は、本当に殺されたのかな」
ぬえがポツンと漏らした。
ナズーリンも、一輪も、水蜜も、白蓮も、ぬえを注視した。
誰も何も言わない。ただ、一体何を言おうとしているのか、若しくは、何を言い出すのかと、信じられないような眼でぬえを見ていた。
そんな冷やかな視線に心を痛めながら、ぬえは言葉を紡ごうとした。
しかし、水蜜がそれを妨害した。
「それは、何? 魔理沙は自分で毒を飲んで死んだ、とでも言いたいの?」
明らかに憤怒の籠った口調で水蜜が問う。
失言であったか、と思いながらも、ぬえはゆっくり頷いた。
それと同時に、突然巨大な拳がぬえの頭上に現れた。
それをぬえが瞬時に回避する。ぬえがいた場所には大きな穴が開いた。
「雲山、落ち着いて」
一輪の制御を脱した、雲山の一撃である。
荒れる雲山を宥めつつ、一輪はぬえに言った。
「本当にそう思うの?」
やはりこれも、あまりよいと言えない口調である。
ぬえは首を横に振った。
「その、あくまで可能性の話だよ」
「そんな可能性は、限りなくゼロに等しい」
ナズーリンが即答した。
「あの魔理沙が自殺なんてする筈がない。私はそう思う。それに」
「それに?」
「あの木の実は魔法の森の、特に瘴気の酷い場所になっていたらしい。いくら魔理沙でも、あんなところへ行きはしないさ」
なるほど、と一輪が頷く。
ナズーリンはさらに続けた。
「それに、その木の実、とても気味の悪い形をしていてね。あんなの人間が好き好んで食べるなんて、私はとても思えない」
「だから自殺と言う可能性が低いのね」
「そういうこと」
*
翌日、いても立ってもいられなくなったぬえは、魔理沙の墓を訪れた。
墓へ行っても何も解決しないのは分かっているのだが、命蓮寺でのんびりと過ごすなどできる訳がない。
魔理沙の死を嘆く者が一体どれくらいいるのかを確認したい気持ちもあった。
しかし、そういう者が多いことなど、分かり切ったことだ。連日のように誰かが魔理沙の墓にいて、彼女の死を嘆いているのだから。
その日は、見知らぬ長髪の女性がいた。赤いリボンと服が印象的である。
あまり関わりたくないと、ぬえは木に隠れてその人物を観察していた。
その人物は、特に何も言わず、墓に目を落とすばかりであった。
言葉はなくとも、その表情から、悲しみが伺える。
すると、別の人物が現れた。
「あら、妹紅。これは珍しい」
「……輝夜か」
ようやく女性は言葉を発した。
「竹林から出るなんて、珍しいわね」
「お互い様だろう。少なくとも、お前よりは外へ出ているつもりだ」
「私は出ないんじゃなくて、出られないだけよ」
「そういう『私はやればできる子』みたいな言い訳はいい」
険悪なムードが、二人を包む。
しかし、妹紅は首を横に振った。
「やめよう。墓前だ」
「そうね」
それだけ言うと、妹紅はその場を去ろうと歩みだした。
輝夜を超えたところで、妹紅が口を開いた。
「魔理沙を殺したのは、誰なんだ?」
「永琳らが調べているわ」
「そう」
妹紅が立ち止り、呟いた。
「がんばってくれ」
「……伝えておくわ」
日が高く昇る頃になると、紅魔館から吸血鬼の姉妹とその従者が姿を現した。
従者は花束を、姉妹は体に対して少し大きめな日傘を持っている。
普段から冷静な吸血鬼の姉と従者は、花束を置いてからそれっぽく目を閉じた。
しかし問題は吸血鬼の妹の方である。
生前の魔理沙と深い親交があった彼女は、あまりに呆気なく、早すぎる死に耐えきれないらしかった。
四百九十五年の間、地下室に居続け、ようやくできた友人であったのに、もう二度と会えないのである。
しかし、吸血鬼とは高貴なものだという姉の教えを守ろうと、必死で涙を堪えていた。
姉の手を握る小さな手に力が籠る。
それに気づいたレミリア・スカーレットが、そっと口を開く。
「フラン」
「何?」
「吸血鬼は流水に弱いわ」
「うん」
「でも、涙は平気なのよ」
「……」
「泣いてもいいのよ」
少し驚いた表情を見せたフランドール・スカーレットであったが、姉のその言葉を聞いた途端、涙をせき止めていた支えが崩壊したらしかった。
状況を察した従者の十六夜咲夜が、フランドールの傘を手に取る。
フランドールはレミリアの胸に飛び込み、声をあげて泣き出した。
レミリアは黙って、妹の頭を撫でる。
「お姉さま、お姉さまぁ」
「辛いわね。私も辛いわ」
「せっかく、せっかくできた、友達だったのに……っ、しんじゃった、魔理沙、しんじゃったぁっ、うえええ……」
フランドールの悲痛な泣き声は、その後暫く続いた。
レミリアは涙は見せなかった。悲しみより、怒りが先行していたのだ。
その後も、河童が訪れ、天狗が訪れ、月の兎達が訪れ、幽霊が、半霊が、亡霊が訪れ――
堪え切れず、ぬえはその場を後にした。
こんなにも魔理沙は慕われていた。
こんなにも慕われていた魔理沙を、自分は殺してしまい、しかもそれを誰にも打ち明けられずにいる。
皆、怒っている。嘆いている。
もしも名乗り出てしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。
正体不明が傷つくとか、そんなものはもう些細なことである。誰かに殺されてしまうと言っても過言ではないだろう。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
ちょっとした悪戯のつもりが、幻想郷を震撼させる大事に発展してしまった。
もうこれ以上、追いつめられるのは嫌だった。
白蓮に言おうかとも思った。
それをぬえが渋っているのは、白蓮がこの件に関しては、いつものような対処をしていないからだ。
口では加害者のことを思いやることも言っているが、明らかにいつもとは違う。
白蓮も怒っているのだ。しかし感情に流されては平等さを欠く。そのジレンマに白蓮は悩んでいる。
もしも白蓮にすら見捨てられたとしたら、もうこの世は愚か、あの世に逝ってもぬえに味方などいない。いる筈がない。
そう思うとぬえは、やはり真実を打ち明ける勇気を失ってしまう。
このまま事件が風化するのを待つ他ない。
しかし、妖怪は長命だ。いつになればこの件が風化してしまうのか、分かったものではない。
ある日、命蓮寺の者全員で墓参りに行った。
すると、墓の前で数名の妖精と妖怪が何やら騒いでいるのが見えた。
そしてその騒いでいる者たちを、数名の者が見ている。
「何事でしょう」
白蓮が目を細め、騒動の原因を探る。
ナズーリンが誰よりも先に、騒動の内容を確認した。
「喧嘩みたいだね」
「まあ、喧嘩ですって?」
聞くや否や白蓮は騒動の中心へと進んでいき、喧嘩を制した。
彼女を心配し、命蓮寺にいる妖怪全員が、白蓮の元へと駆け寄る。
喧嘩をしていたのは、氷の妖精チルノと、闇の妖怪ルーミアであった。
どちらかと言えば、チルノが優勢だったようだ。
と言うのも、チルノは本気で怒っているのだが、ルーミアは怒り切れていない、と言うのが最も適切な言い方だろう。
目に涙を溜めて頭を押さえるルーミアに対し、チルノは妖精らしからぬ凄まじい剣幕でルーミアを睨みつけているからである。
「落ち着きなさい。どうしたの、二人とも」
白蓮の仲介でひとまず喧嘩は収まった。
喧嘩していた二人と仲のいい夜雀のミスティア・ローレライと、虫の妖怪リグル・ナイトバグが、気まずそうに目を合わせた。
誰もが無言だったが、ようやくチルノが口を開いた。
「こいつが、魔理沙を殺したんだよ」
そう言ってチルノは、ルーミアを指差した。
水蜜は目を見開き、問うた。
「どういうことです?」
「ルーミア、あの木の実を知ってたの。食べたけど不味かったから、食べるの止めたらしいけど」
「それは本当?」
一輪がルーミアに確認をとると、ルーミアは啜り泣きながら頷いた。
するとチルノが再び声を上げた。
「ほら! あいつは木の実のことを知ってんだよ! だったら魔理沙に食べさせたのもあいつに決まってるじゃない!」
根拠は何一つないし、あまりに短絡的な考えなののだが、妖精の知能ならばこの程度の推理が関の山だろう。
ここで生じた最大の問題は、チルノの推理の正しさより、彼女とルーミアの間にできた溝である。
身に覚えのない罪を親友に着せられたことが、ルーミアは堪らなく悲しかったのだ。
幼い二人の、幼稚な推理ごっこの延長線上に生じた諍いに過ぎないのだが、今回は人が一人死んでいる。
いつもみたいに、「ごめんなさい」「うん、いいよ」なんかではすまされない。
どうにか自身に振りかかった疑惑を晴らそうと、ルーミアはつっかえつっかえ言葉を紡いだ。
「ちがっ、違うの。たしかに、あの木の実を食べた、食べた、けど、私、魔理沙にあんなの、あげてなんか……」
「嘘ばっかり。ま、本当のことなんて言いたくないのなんて当然だよね」
「違うの、お願い、チルノ、信じて……信じてよ……」
泣きながら手を差し出すルーミア。
しかしチルノは、その手を思い切り引っ叩いた。
バチンと乾いた音が鳴り響き、同時にルーミアはその場にぺたりと座りこんだ。
「近づかないでよ!! 人殺し!!」
そう吐き捨て、チルノはその場を去って行った。
大妖精は、遂に大きな声で泣き始めてしまったルーミアと、飛び去っていくチルノを見比べた。
ミスティアとリグルがルーミアに駆け寄り、大妖精に向かって頷いた。チルノの所へ行ってあげて、と言う合図だ。
大妖精はそれを察し、飛び去って行った。
わんわんと泣き続けるルーミアを見て、一輪はため息をついた。
「魔理沙の死は、とことん人を不幸にするのね」
悲痛なルーミアの泣き声は、ぬえの耳からなかなか剥がれ落ちることがなかった。
魔理沙の死からいくらかの時間が経ったが、結局決定的な証拠などは見つかることはなかった。
ゆえに、一先ず魔理沙の死は『自殺』と言う結論で、この一件は沈静を迎えてしまった。
それに納得しなかった一部の者は独自に調査を行い続けたものの、やはり解決はできなかった。
沈静化しては再燃し、また沈静化してはまた再燃しを繰り返している内に、誰もが疲れてしまったようだった。
そして、思い出すと悲しくなってしまうから、もう思い出さないように努めることにした。誰もが守りの態勢に入ったのだ。
だが、意識的に無かったことにして悲しみを遠ざけたにしても、この件が幻想郷に残した爪痕は、あまりに大きく、隠しきれないと言ったのが現状だ。
その大きすぎる爪痕を目の前にしながら、そんなものは無いと自分たちに言い聞かせ、上っ面だけでケラケラ笑って過ごす――
本当に楽しい“幻想郷”を再び拝むには、少々時間が掛かりそうであると、誰もが思っていた。
*
永遠亭の扉を、博麗霊夢が開いた。
店番を頼まれていた化け兎の因幡てゐがいらっしゃいませと、演技染みた甲高い声を上げる。
しかし、来客が霊夢だと知った途端、少し気まずそうな顔をした。
霊夢がこんな悪ふざけにつき合っていられる精神ではないことは、誰もが知っているから。
「霊夢、いらっしゃい」
落ち着いた声でてゐが言い直すと、霊夢は弱々しい笑みを浮かべ、会釈した。
「何をお求め?」
「風邪薬。切れたから、買いに来たの」
「分かった。ちょっと待ってて」
てゐは、奥にいる永琳の元へと駆けて行き、霊夢が風邪薬を所望しているということを伝えた。
永琳はすぐに人間用の風邪薬を用意し始めたが、不意にその手を止めた。
「永琳様?」
「てゐ。霊夢が来ているのね?」
「ええ」
「ちょっと呼んできてもらえるかしら」
永琳に言いつけられ、てゐは霊夢の所へ戻っていき、永琳が呼んでいるから来てくれと霊夢に言った。
断る理由もないので、てゐの案内を受け、霊夢が永遠亭の奥へと進む。
永琳のいる部屋についた時、彼女は妙に真剣な表情をしていた。
霊夢はその表情に少し気押されながらも、口を開いた。
「何か用?」
「見てほしいものがあるの」
そう言って永琳は、引き出しから小さな瓶を取り出し、霊夢に差し出した。
瓶を受け取った霊夢は、少しだけ目を細めた。
そして、視線を変えずに永琳に問うた。
「これ、どこで?」
「死んだ魔理沙の胃の中。奇妙な話だけど、胃液で溶けていなかったの。あまりにヘンテコなものだったから、捕まえてとっておいたのだけど。見覚えがある?」
永琳の問いかけを聞いているのか聞いていないのか判断しかねるほど、霊夢は表情を変えずにそれを見ていた。
妙に緊迫した雰囲気の中、てゐは固唾を飲んで霊夢の反応を待った。
静寂を、霊夢が破った。
「永琳」
「何?」
「魔理沙が食べた、あの木の実、魔理沙はきっと知らなかったのよね」
「その可能性が高いわ。あれのなってた場所は、魔法の森の瘴気の酷い場所だった。いくら魔理沙でも、普通の人間があんな所に近づける筈がないもの」
「何か、心当たりが?」
僅かな手応えを感じたてゐが、霊夢に問う。
だが霊夢は瓶を机に置き、首を横に振った。
「いいえ」
「そっか」
てゐは残念そうに肩を落とした。
部屋を去ろうとした霊夢に、永琳が風邪薬を渡した。
その際、霊夢が宴会の開催を予定しているということを伝えた。
「宴会?」
「いつまでも、こんな雰囲気のままじゃ、みんな辛いでしょうから。三日後、神社の境内で」
「分かったわ」
それだけ言うと霊夢は、永遠亭を後にした。
幾多の竹の隙間から見える空を見上げる。
今にも、空を突っ走っていく魔理沙が見えそうな快晴だ。
「そう……そういうことだったのね」
霊夢は呟いた。
「三日後、楽しみだわ」
*
久しぶりの宴会ではあったものの、いつも通りはしゃぐことに、誰もが抵抗を感じていた。
そもそも、盛り上げる役の一人であった魔理沙がいない。
だが、少しでも落ち込んでいる皆を励まそうと言う霊夢の気遣いだと、誰もが気付いていた。
小鬼の伊吹萃香や天狗の射命丸文と言った酒好きは、序盤からかなりの量の酒を飲んでいた。
酒の力に全てを賭けてしまおうと言う寸法だ。ある種の『自棄酒』である。
守矢神社の巫女と二柱。冥界の亡霊と半霊、それに騒霊。スキマ妖怪と、その式と、式の式。紅魔館の住民。永遠亭の面々。命蓮寺の人員――多くの参加者が出揃った。
氷の妖精や夜雀たちの姿もあったが、闇を操る妖怪の姿はなかった。
封獣ぬえも、参加していた。勿論、乗り気ではなかったが、白蓮に強く言われ、参加せざるを得なくなってしまった。
最初から飲みに飲み続けていた鬼と天狗のおかげで、宴会の場も少しずつ盛り上がりを見せた。
と言うのも、飲みすぎて訳の分からない状態になってしまった文が、騒霊の三姉妹に浴びるほどの酒を飲ませたのだ。
酔った彼女らの奏でる音楽で、無暗に場が騒がしくなり、自然と皆が盛り上がり始めたのだ。音の影響とは凄まじいものである。
そんな中でも、いまいち盛り上がることのできないぬえの肩を、誰かが叩いた。
振り返ると、霊夢が立っていた。
「どうしたのよ、楽しまなきゃ」
「う、うん」
ぬえはぎこちない笑みを浮かべ、頷いた。
バカ騒ぎしている住民たちを背景に、霊夢がぬえの目を見据えた。
真っ直ぐな視線に、ぬえはたじろぐ。
「どうしたの、霊夢」
「ねえ、ぬえ」
ぬえの言葉を遮るように、霊夢が問う。
「あなた、今幸せ?」
「しあわせ?」
「地底から出れて、白蓮と過ごせて――幸せ?」
言葉通りの意味だろう。それ以外に考えられない。
ぬえは頷いた。
「うん。とても」
「ふぅん」
そう言うと霊夢は、後ろを向いた。
その視線の向こうでは、多くの住民が久しぶりの宴会を楽しんでいた。否。楽しもうと努めていた。
そんな住民を見ながら、霊夢はふっと息をつき、口を開いた。
「私はね」
「うん」
「最低最悪な気分よ」
片足を軸にし、一瞬で元向いていた方向――ぬえのいる方へと振り返る。
長い袖の内側に隠していた刃渡り30センチ程度の出刃包丁が、ぬえの柔らかな腹に突き刺さる。
黒いぬえの服から赤黒い血がどぼどぼとあふれ出し、あっという間に足元に小さな血だまりを作り上げる。
「きゃあああああ!!!」
ぬえの悲鳴に、誰もがそちらを振りむいた。
そこには、血にまみれた包丁を握った、返り血で真紅に染まった博麗の巫女と、腹を押さえて尻もちをついている正体不明の妖怪の姿があった。
誰もが絶句した。あるものは卒倒し、あるものは霊夢の凶行を阻止しようと駆けだした。
完全な不意打ちを食らってすっかり腰の抜けてしまったぬえは、手と足を非効率的に動かしつつずりずりと後退する。
後退にしたがって霊夢が前進する。
憎しみと殺意以外の感情を全てそぎ落としたかのような凶悪な表情でぬえを睨みつける。
「あんただったのね、あんたが魔理沙にあの実を食わせたのね!」
「……!」
「死んだ魔理沙のお腹の中からあんたの使う正体不明の種が見つかってそれを永琳がとっておいてくれたのよ。誰も知らない未知の木の実に種を付けて見てくれを変えて魔理沙に食わせて魔理沙を殺した、そうでしょ!?」
「ご、ごめんなさい! 悪戯の、悪戯のつもりでっ……」
「……悪戯ぁ?」
くくっ、と、霊夢が嘲笑ともとれる笑い声を漏らした。
瞳からすっと涙が零れ、頬を伝う。
「悪戯であんたは魔理沙を殺したって言うの? あんたみたいなくそったれ野郎の下らない悪戯に魔理沙は殺されたっていうの!?」
「わざとじゃなかったの! まさか、人間にしか効かない毒があるなんて」
「うるさい!! 死ね! いや違う、私が殺してやるわ! あの世で魔理沙に詫び続けろ! 封獣ぬえぇぇ!!」
狂ったように叫びながら霊夢がぬえにとびかかろうとした。
しかし、寸でのところで一輪が霊夢を捕まえた。
「落ち着いて! ぬえが憎いのは分かるけど……!」
「放せ放せ放せぇっ!!」
霊夢が、これまた袖の内側に隠していたスペルカードを用い、一輪を強引に体から引きはがす。
以後、そのスペルカードは、人以外の生物を拒む結界へと姿を変え、霊夢を守護した。
これでどんな強力な妖怪も、彼女の体に触れることは敵わない。
再びぬえを、人間らしからぬ形相で睨みつけ、出刃包丁を握って駆けだす。
心臓を一突きにするつもりはない。
出鱈目に死ぬまで刺し続けてやるつもりだった。
足だろうが腕だろうが手だろうが腹だろうが胸だろうが顔だろうが喉だろうが肩だろうが頭だろうが股だろうが構わない。
とにかく死ぬまで。殺せるまで刺してやるつもりだった。
肉を穿つ感触が、霊夢の手に加わる。
そして白い服が、次第に赤に染まっていく。
白から赤へと変色していく衣服の向こうにいるのは、怯えるように体を震わせる封獣ぬえ。
霊夢は恐る恐る、顔を上げた。
「さ、さな……え……? え?」
「だめです、霊夢、さん」
つぅっと、早苗の口から、赤い滴が流れ出る。
前へ倒れるように早苗が、霊夢に抱きついた。
「魔理沙さんは、きっと、こんなことは、望んでいません……」
「――」
「復讐なんてしても、魔理沙さんは……戻っては……」
言葉の終わりが、まるで生命そのものの終わりであるかのように、早苗からいっきに力が抜けて、動かなくなった。
霊夢はその場に膝をつき、包丁を地面に落した。
鉄製の刃が、からんからんと音を立てて地面を転がる。
がたがたと震えて、霊夢は頭を抱えた。
「ちが、違うの、私、さなっ早苗を、殺そうなんて、違う違う違う、私じゃないの、私じゃないの! うあああああああああああ!!!」
叫び続ける霊夢。誰もが言葉を失い、それを眺めていた。
しかし、ある瞬間にぴたりとそれが止まった。
止まったと思ったら、今度は霊夢がにんまりと笑った。
「そうだわ……私、バカだった……。早苗の言う通りよ」
くすくすと笑って、霊夢がぬえを睨んだ。
「あんな屑を何兆何億何万何千何百何十何回殺したって魔理沙は戻ってこない。私が会いに行けばいいんだ」
心理に辿り着いたかの如し明るい表情で、霊夢は足元に落ちている包丁を拾い上げ、自らの喉へ突き立てた。
「待ってて魔理沙、すぐそっちに行くかあ゛っ」
銀色の刃が霊夢の喉を貫いた。顎の下から喉へ入り込んだそれは、外皮も肉も全てを通り越し、後頭部下方から再び外界へと飛び出してきた。
夥しい量の血が噴き出し、霊夢であったものがその場にころんと寝ころんだ。
それと同時に、誰かが悲鳴を上げた。
洩矢諏訪子は、その凄惨を尽くした現場を見て卒倒した。慌てて八坂神奈子がそれを抱きかかえ、早苗と諏訪子を見比べる。
永琳はすぐに弟子である鈴仙と早苗の応急処置を始めた。霊夢が即死なのは、誰の目にも明らかだったからだ。
萃香や文も一気に酔いがさめてしまったようで、呆然と血に塗れた現場を眺めている。
紫は霊夢の死体を抱き上げようとしたが、すぐに幻想郷の異変に感づいた。
「しまった、結界が……」
言うや否や、紫が空間に亀裂を作り、スキマを完成させた。
「藍! 橙を連れて来なさい!」
「橙をですか? しかし、あの子にはまだ……」
「少しでも多くの人手が必要なのよ。早くしなさい!」
「わ、分かりました。橙、行くぞ」
「はいっ」
そう言って三人は隙間に飛び込み、結界の補強作業へと向かった。
遠巻きから見ていたアリスが、ようやく我に返り、行動を始めた。
その際、呆然と突っ立っているぬえと肩がぶつかった。
まるで、そこ置いてあるだけで邪魔な荷物か家具でも見るような目で、アリスがぬえを睨みつけた。
そして彼女に聞こえるような大きな舌打ちを打った後、忌々しげに呟いた。
「とんでもないことをしてくれたわね」
*
「ふふっ。くっくっく……あっはっはっは! あーおかしい、あははっ」
愉快な笑い声が、狭い洞窟の中で反響する。
「パルスィ、そう笑ってやるなよ」
「だってヤマメ、今の話聞いて、あなた楽しくないの? くくくっ」
地底に住む橋姫、水橋パルスィは、愉快そうに笑う。
彼女は新たに地底にやってきた妖怪の、地底送りにされた理由を知り、大笑いしていたのだ。
そんな彼女と、死んでいるような目をしている地底の新入り――封獣ぬえを見比べ、土蜘蛛の黒谷ヤマメは申し訳なさそうに言った。
「悪いねぇ、いつもこいつはこうなんだ。でも、いずれ飽きるから、耐えておくれよ」
「バカねえ。今回はなかなか飽きないわよ」
「飽きない? どうして」
「だって、こんな間抜けな話、私は今まで聞いたことがないもの」
そう言いパルスィは、手元に置いてある酒を飲み干し、なおも笑った。
「しかも、この件を天狗に新聞で書かれてばら撒かれて、売りであった「正体不明」が崩れて力まで失った? とことんバカね、あんた」
「パルスィ……」
「間違いなく、あんたは地底最弱の層だわ。ほら、酒の肴に、キスメと弾幕勝負でもしてみなさいよ」
指名された釣瓶落としの怪のキスメは、驚いて桶の中へ引っ込んでしまった。
ぬえは悔しかったのだが、何も言い返すことができず、拳を握ってパルスィの嫌味に耐え忍んでいた。
「正体不明の癖に、人前に出て悪戯なんてしようとするから、こんなことになるのよ。罰があたったのよ、罰」
ヤマメもあまり見たことがないくらい晴れやかな表情で酒を飲むパルスィ。
ふと彼女がぬえの顔を見る。
憔悴したような顔。しかし、絶望しきっていないのが、パルスィには見て取れた。
意地の悪いパルスィはふふっと軽く笑み、言った。
「まさか、地上へ戻れる日がくる、だなんて思ってないわよねぇ?」
「……聖は……きっと……きっと!」
「あっはっはっは!! ねえヤマメ、あんたもよぉーく見とくといいわよ、この大馬鹿者を! その内現実知って自殺するかもしれないからさ!」
パルスィはぬえに歩み寄り、胸倉を掴んだ。
「地底に住んでるやつらは皆、地上の嫌われ者なのよ。わざわざ鬱陶しい嫌われ者を地上に迎えてくれる奴がいると思う?」
投げ捨てるようにパルスィがぬえの胸倉を放し、元いた場所へと戻る。
目に涙を溜めているぬえを見て、パルスィはまたも愉快そうに笑った。
体に付いた砂や泥を払うぬえの服を、キスメが桶から身を乗り出し、ちょんちょんと引っ張った。
ぬえが下方に目をやると、キスメと目があった。
そしてキスメは、黙って首を横に振った。
「高い理想や、幸せすぎる夢は、ここでは持たない方がいい」
「こら。キスメ」
ヤマメに制止され、再び驚いたようにキスメが桶に引っ込んだ。
キスメ入りの桶を蜘蛛の糸で引っ張って寄せながら、ヤマメがぬえに言った。
「夢を見るな、とは言わないよ。でも、いつか地上へ戻れるなんて思わない方がいい。ましてや、地上で幸せな生活をしていたあんたなら、なおさらだ」
ヤマメは、口調は穏やかだが、表情には厳しいものがあった。
「私らは地上でも嫌われ続けた節があるから、もう慣れっこなんだけど、あんたはきっと、私らとは少し違う」
「……」
「夢ばかり見てると、きっと現実との落差に耐えきれない」
*
博麗霊夢の死から、幻想郷は大きく揺れた。
結界はどうにか八雲紫らが保ってはいるが、早く霊夢に代わる何者かを見つけないと、その存続も厳しくなってくるようだ。
だが当然、代役など幻想郷内にいる筈もなく、解決の兆しは見えない。
残された博麗神社には小鬼が住みついたようで、すすり泣きと巫女の名を呼ぶ小さな声が、まるで怨恨のように聞こえてくる、えらく不気味な場所となってしまった。
東風谷早苗は賢明な救命活動も空しく、死亡した。
結果、守矢神社に祀られていた二柱は幻想郷からも消え失せ、今、神社は単なる廃墟と化している。
事件の元凶であった封獣ぬえと共に生活をしていた聖白蓮は、この一件は自身の監督不行き届きも原因の一部として、生前の彼女らと親交があった者たちへ謝罪に回った。
しかし、紅魔館へ立ち寄った際、激昂したフランドール・スカーレットに襲撃され、絶命。彼女は一切の抵抗をしなかったと伝えられる。
彼女なりの誠意の表れか。はたまた、信じ切っていた妖怪の凶行から、現世に絶望してしまったのか。彼女が亡き今、その真意を確かめる術は無い。
この一件で、紅魔館と命蓮寺は完全な交流の遮断および相互不干渉を取り決めた。
もうぬえに、地上での居場所などないのだ。
こんにちは、pnpです。
最初の考えだと「ぬえが罪の意識に囚われ続けながら生活する苦悩」を描き続ける予定でした。
ですが、いろんな理由で今回のような流れに。
とあるドラマを見てたら、激情に任せた殺人に燃えまして、霊夢にそれをさせました。
そして誰か(今回は早苗さん)が盾になる。ためになる言葉を吐きながら事切れる。狙ってない奴殺しちゃって気が動転。自殺。
すごく金田一金田一してしまいました。早苗さんの台詞、恥ずかしかった。
分かりやすくて、読みやすい作品になったと思います。
ご観覧、ありがとうございました。
今後もよろしくお願いします。
++++++++++++++++++++
>>1
元ネタをろくに知らないのに台詞だけ使ってみた結果がこれですよ。すみません。雰囲気台無しにしてしまったようで。
>>2
そんな言い回しだと、ぬえがすごくかっこよく映りますね。RPGのヒロインになれそうです。
>>3
一体何がままならないのですか?
>>4
パルスィは自分で誰かを陥れることはないと思います。でも陥れられた人を容赦なく哂う奴だと思っています。
>>5
変態牧師さんの魔理沙が硫酸で殺されるSSは、私が生まれて初めてみた東方のグロSSだったのです。
>>6
パルスィは素でこんな性格だと思い続けてきました。
>>7
ルーミアとチルノは和解します。きっと。
>>8
ないです。仕方ないね。
>>9
アリスは折檻したくとも力が無くて泣き寝入りするタイプだと思います。もしくは冷めきったまま一生呪い続けるか。
ぬえとパルスィらが面識ないのは、私が勝手に聖らが封印されていた地底と、パルスィらの住む地底が全く別の場所だと思い込んでいるからです。
>>10
フラン以外の全員が、望まない殺害をしてしまったからではないでしょうか。
>>11
みんなどうにか堪えたのでしょう。殺すより一生罪を背負わせて生かした方が苦痛だと気付いたのかも。
フラン止めるのに紅魔館勢は命を賭けたと思いますよ。……このシーン書けばよかったかな^^;
>>12
確かに霊夢は冷たいイメージはあります。だからこそ狂わせると映えます。
>>13
ありがとうございます。本当に天才だとよいのですけどねぇ。
>>14
魔理沙にこんなイメージを抱き続けてきた時期が、私にもありました。書くSSによってころころ変わる魔理沙の立ち位置。
どうしてぬえに全てを押しつけたくないのかは、私には分かりません。
>>15
どうぞ泣いてください。
>>16
お嬢様はかっこよい姿が似合う。そこまで好きなキャラって訳でもないのですけど。
>>17
ぬえの悪戯で世界がやばい。
殺してしまっては面白くないですからね。
>>18
ナズーリンは我ながらかっこよく書けたと思っている。あと妹紅と輝夜の別れ際もよい。自画自賛。
>>19
あんまり長々としていると、読む側も面倒くさくるでしょうしね。書いてる側としては達成感にあふれるんですけど。
>>20
良くも悪くも、魔理沙は愛されていますとも。
>>21
命蓮寺の面々が何を思ったか。考えるのが怖いです。作者ながら。
>>22
何だかんだ言って、ぬえ本人が殺したのは人間一人なんですよね。それが魔理沙だったから幻想郷が混沌としたと言うお話。
>>23
ありがとうございます。ネタ切れか、東方に飽きてしまうかするまでは頑張りたいと思ってます。
>>24
果たしてすぐに名乗り出てこの運命が変われたかどうか……。
pnp
- 作品情報
- 作品集:
- 12
- 投稿日時:
- 2010/02/26 07:38:02
- 更新日時:
- 2010/08/29 11:13:17
- 分類
- 封獣ぬえ
- その他いろいろ
- 2/28コメントにお返事を書きました。
全編シリアスな話なのに、これのせいで吹いちゃったじゃないかどうしてくれる
なんて心にグサグサくる話だ
ルーミア「私の……せいなのかー? 幻想郷が、こんなになってしまったのは……」
ところでぬえって元々地底出身だよね?
パルスィが面識無くて知らなかっただけなのかもしれないけど。
その場で誰かに殺されなかったのか
地上に逃げてどーするw
産廃だと魔理沙は嫌われ役が多いけどこういう立ち位置の方が原作には近い気がするな
霊夢は「ふーん、死んだの」で済ませそうな怖さもあるけどw
おもしろかったです
しかしぬえに一切合財押しつける気にならないのはなぜでしょうか。
どうにかならないかなぁ・・
こういう救われない話も結構好きだ
しかしぬえはよく殺されなかったな
素晴らしかった、こういう話は大好物
おぜう様の優しさにほんわかしました。
ぬえに明確な殺意とかがあったならまだしも、事故だからなぁ・・・
とはいえ半殺しぐらいの暴行は間違いなく受けてるだろう。
と救いを探してしまう自分がいます。でも誰に謝ればいいんだろう?
そして何とも言えない読後感。
感服しました。