「霊夢、いるかしら?」
紫が博麗神社を訪れたのは、まだ日も高い午前中のことであった。
霊夢は境内の掃除をしていたのだが、寝てばかりの八雲紫がこんな時間に訪れることに不信感を抱かずにいられなかった。
「いるけど・・・」
「何よ、その侮蔑の視線は」
「老けてくると早起きになるって本当だったのね」
紫は信じられない、と言ったような顔をした。
その時の紫の顔は表現するならばアンビリーバボゥ。
宇宙の彼方に終焉を描いたアカシックレコードを見た、そんな感じの顔である。
(霊夢は相変わらず侮蔑の視線を送ってゐるのだ)
「老けてないわよ!」
「あっそう」
怒れるスキマ妖怪は霊夢の尻を千切らんとばかりに握った。
「ちょ、セクハラ!・・・じゃなくて痛い!マジで痛い!」
「これが私のやり方よ」
「人の嫌がることはやめなさい!」
霊夢のナックルが紫のテンプル(こめかみ)に食い込んだ。
「ぐあああああああ!」
「いいから離しなさいよ!叫びながら未だに掴んでいるとか・・・」
霊夢は、痛みに呻きながらも尚尻を掴んで離さないこの変態に対して、ある種の尊敬に似た感情が芽生えるのを感じた。
ならば貴様と同じ土俵で戦ってくれよう・・・厨二な霊夢はお返しに紫の尻も鷲掴みにした。
「この感触・・・!?」
「変態巫女!離しなさいよ!」
自分の事を棚に上げる白々しいババアの首筋に針を突き刺す。
しかし問題は、このババアの尻の感触だ。
なんという甘美。
なんという豊潤。
霊夢は女としての敗北を知ってしまった。
「私に敗北を味あわせた屈辱・・・思い知らせてあげるわ!」
なかば逆切れの体裁となった霊夢は紫を絶命させようとする。
とうの紫はいつの間にか逃げ出していた。
「逃がさない・・・地獄の果てまでも追い詰めてやるわ・・・」
そうこうしている内に、いつの間にかアリス邸の前を通りかかった霊夢。
凄い形相で練り歩いている霊夢の姿を見たアリスは若干ビビりながら霊夢に話しかけた。
「な、何よその顔・・・」
「紫を・・・残酷に大地から去なす!」
「何言ってんのこの子・・・」
アリスは、冷蔵庫に隠れていたマヌケな敵を見つけたポルナレフ氏の如き顔をした。
「で、紫を見た?」
「・・・さっきから何を言っているのか分からないけど・・・『ユカリ』なんていう奴は知らないわ」
「アンタ、物忘れが激しいのね・・・」
霊夢はアリスをしばき倒してからズンズン進んでいった。
なんだかんだで太陽の畑に来てしまった霊夢。
幽香はそれに気がついたようだ。
「なんでここに来たのかしら、霊夢?」
「私が聞きたいわよ・・・」
「自分から来ておいて普通そういうこと言う?」
「というよりアンタ寝巻のままで人前に出て恥ずかしくないの?」
今の幽香は寝巻姿である。(可愛らしいのです)
「ねぇ、アンタは紫見た?」
「貴方とは縁もゆかりもございません」
「うまいこと言ったつもり?」
「『ユカリ』なんていうのがいるの?貴方の友人かしら?」
「なんてこった!こいつも若年性アルツハイマーなの!?」
「失礼な・・・」
この時、『若年性』と言われたことについて幽香はちょっぴり嬉しい気持になった。
「あーもう!大体何で私はこんな所に来たのよ!尋ねるぐらいならもっと他にいい所が有るじゃない!」
「他の所って・・・どこのこと?」
自分で勝手に怒っている霊夢に、幽香が本気で心配そうに尋ねる。
その幽香の顔からは普段のサディスティックな表情は影を潜め、頭のオカシイ人を見る顔に変貌していた。
「他の所って・・・あ、れ・・・アリスと・・・」
「ホラ、他の所なんてないじゃない」
霊夢は心の中で「そうだったかな」と思った。
世界がぼんやりと霞んだように見えた。
「あ、やっと起きた」
「え〜ホントですか〜」
靈夢は目を覚ました。
随分長く寝ていた気がする。
「うわ、またアンタか・・・」
「またアンタって・・・」
博麗神社にしつこく付き纏う亡霊、魅魔は呆れ気味に返事をした。
人の顔を見るなり、「またアンタか」とか発言する巫女には大概にして貰いたいらしい。
「アンタねぇ、3日間も寝てたんだよ?」
「え・・・」
「魔界から帰ってくるなり寝込んじゃってねぇ・・・何か嫌な夢でも見れた?」
「う〜ん・・・忘れた(はぁと」
「見なよ!悪い夢見て永眠しなよ!」
「見ないわよ!永眠もしないわよ!」
靈夢は、こいつら心底やかましいといった感じで布団から出る。
箪笥から巫女装束を出す。いつも通りの白い襦袢に、赤い袴だ。リボンを付けるのも忘れない。
「人前で着替えるって、巫女のくせにそんなのでいいの?」
「何がよ」
「貞操観念とか」
「今日こそ成仏させるわ」
「ごめんだね」
去っていった魅魔に「なんだったのよ〜」と喚く靈夢。
そこに魔法使いさんの魔理沙が近づいてきた。
「魅魔様はなんだかんだで暇だったからね」
「あら、魔理沙久しぶり」
「アンタがいなくて暇で暇で死にそうだったのは私も同じよ☆」
「死ねば良かったのに(ボソッ」
「ひどいわ〜・・・あ、そういえばこの前の魔界人・・・アリスって言ったっけ、アイツったら魅魔様のメイドにされて扱使われてるんだって」
「酷い趣味ね」
「しかも一緒に魔界にった幽香なんか、魔法に興味を持っちゃったらしくてね」
「魔界が可哀そうだわ」
「ほら靈夢、着替えたのなら早く行きましょうよ」
「どこによ」
「いや、メイド服姿のアリス見たいじゃない?」
靈夢は、はぁ、と溜息をついて境内に出る。
魔理沙は本当に楽しそうだ。余程暇だったのか。
―――その姿をどこからか眺めるおぼろげな妖怪がいた。
「あらあら、とうとう目が覚めちゃったのね霊夢。
私の作った『幻想郷』という世界はどうだったかしら?
貴方の住む世界とよく似た世界の、ね。
もちろん、そっちの世界と夢の世界は違うわ。
私は人の夢の中にしか存在できない呪われた妖怪。故に現実が夢で、夢が現実。
まあでも、短い間だったけどお互い良い暇つぶしになったわね。
また私が暇になったら、もう一度幻想の世界でスペルカード対決でもしましょう」
幻想の世界で『八雲紫』と名乗っていた彼女は誰に見られるでもなく笑った。
日常は何事もなく続いていくのだ。
そう思うとなんか滑稽w
それはともかくどっちが本当でしょうね。