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『夜露の乾かない闇』 作者: 無白
慧音の夜は長い。
闇が緩んだ午前三時。月明かりだけが障子に、ぼんやりと揺れる人影をうつしている。上半身だけを起こして辺りを見回しているのは、慧音だった。
寺子屋での授業は、想像よりも疲れるものである。子供達の間を見てまわり、呼ばれれば駆け付ける立ち仕事。その上家事もして、妹紅の相手もして。だから体はだるく、朝までぐっすり眠りたいのが本音である。
しかし慧音の頭は冴えており、先程から小さな音をとらえていた。それが気になって起き上がったのだ。
どこ?
聞いたことのある音。
慧音は髪の毛をかきあげながら、耳をそばだてた。
また、どこからともなく、犬の遠吠えのような、高く長いうめきが耳に入った。くぐもったその音は、慧音の胸をしめつけるように、繰り返し繰り返し、続く。
泣き声だ。
答えがわからなくて叱られた子供のあげるような声。
それが真横から聞こえてくることに気づいたとき、慧音は思わず布団を跳ねのけ立ち上がっていた。
「妹紅……」
妹紅が泣いている。二枚も布団を被っているせいでくぐもって聞こえづらいが、しゃくりあげているようだ。
うなされているのだろうか、こんな夜中。かわいそうに。慧音は妹紅の端に座り、布団の上下する膨らみをなでた。
実は、妹紅が夜泣きをするのはこれが初めてというわけではなかった。
妹紅はたびたびつらい夢を見ては、夢と現の狭間で一人ぼっちにされるのだ。それは一生死ぬことができない妹紅だからこそ覚えている感覚。寝ても今日。起きても今日。確実に進む日々の中で、自分だけは姿かたち、何も変わらずに。
しばらく体温を感じる布団をさすっていたが、妹紅はまだしゃくりあげていた。
早く助けてあげないと。
一方で、刻々と変わる歴史に長けた慧音は、妹紅の悲しみを同時に味わうことはない。けども、他の誰にも妹紅を触らせたくないのは確か。妹紅自身は気づいていないのかもしれないが、その昔初めて視線を交えたときに比べて、慧音の中での妹紅は少しづつ変わっているのだ。日々の、小さなできごとを守りたかった。
慧音は妹紅を抱き上げようと、布団をそっとめくりあげた。丸くうずくまった妹紅の呻きが直接、鼓膜を痛むほど刺激する。乱した長い銀の糸に指が絡まないように注意しながら、自分と身長差のない妹紅の体に手をまわしていく。
正座した慧音の膝の上に、妹紅の腰が乗っかる形になった。汗びっしょりになった妹紅の服をつかみ、揺する。息がかかるほど顔が近い。
「妹紅、もこ、……」
愛しい名前を呼びながら、あれ、と慧音は気づいた。額に前髪が張り付くほど汗を垂らしている妹紅の、腰から下がさらに濡れている。薄赤の寝巻を明らかに濃く染めて、しっとりと水分を含んだ布地。
深く呼吸をした慧音は、優しく妹紅の肩を叩いた。
「妹紅、起きろ」
ぼんやりとした視界が慧音をとらえたのか、妹紅は現に戻ってきた。やっと泣くのを止めた少女だが、見開いた目からは涙が伝っているのが薄暗い中でもわかる。
「け…ね……」
「もう大丈夫だ。私はここにいる」
言いながら、慧音は妹紅の額の汗を袖口で拭ってやった。夢から必死に逃げ惑っていたのかもしれない。ただもうこれ以上は、タオルか何かでないと吸収できないだろうと思った。
「妹紅、手伝ってあげるから着替えような」
「……?」
「おしっこ。泣いたときに出ちゃったか」
慧音の言葉に、白い髪の少女の顔が染まった。同時に自分も違和感に気づいたのか、妹紅は寝巻にそっと手を回す。泣くときにかかる腹圧で、おしっこが出てしまったらしい。さぐって濡れた範囲を確認したのか、顔を俯けた。
慧音の前でおねしょをしたことなどなかった。日が暮れるあたりから溜まっていたおしっこは、慧音が黒板に描く幻想郷の地図のように、布団に黄色く跡を残している。妹紅は眉根を寄せ、再び泣き出しそうになった。
慧音は、そんな彼女の体を抱き抱えるように起こすと、震える手をとり風呂場まで連れていった。
明るいところにくると、妹紅の表情がよく見えた。勇んで輝夜に戦いを挑むときとはまるで違う、壊れそうなくらい不安に満ちた目。「気にするな」。そう言って慧音が寝巻に手をかけると、うすら紅に染まった頬をさらに赤くした。
「すぐ綺麗にしてやる」
水分を吸って変色した寝巻をずらすと、体に張り付いた下着が恥ずかしそうに顔をだした。それを膝までゆっくりと降ろし、足から抜き取る。妹紅は、そうでもしないと耐えられないかのように、ぎゅっと瞳を閉じた。
奥の棚からタオルを何枚か取ってくると、慧音は冷たい水に浸し、きつく絞った。本当は湯で拭いてやりたかったが、沸かすのには時間を要する。妹紅が少し痒そうにしているのを慧音は見逃していなかった。
「寒いかもしれないが、手早く拭いてやるからな」
タオルを片手に妹紅の前にひざまずいた慧音は、優しく布を押し当てた。縦に入った線の間にもタオルを差し込むように拭っていく。次の瞬間、妹紅がびくっと腰を引いた。慧音は、妹紅の敏感な所を触ってしまったことに気づく。
「ごめん」
「……」
「でも、大事な場所だから綺麗にしないと」
妹紅は返事はせず、その変わりもじもじと体を揺らした。つやめく唇が何か言いたげに尖る。やり場のない両手が軽く拳を作ったと思うと、右手をゆっくりと伸ばし、妹紅は慧音の手首をつかんだ。
「どうした?」
「……けい…ね」
「ん」
「あ、あ……」
その途端、タオルをもつ慧音の手に生暖かい液体が伝った。ポタポタとこぼれたおしっこは段々勢いを増し、拭いたばかりの亀裂から太もも、膝の内側をつたい、水溜まりを形成していく。
冷えて、再びしたくなったのかもしれない。我慢していたのかもしれないが、私がそこに触れたから。慧音は立ちつくしたまま湯気をあげておしっこをする妹紅を、服が濡れることも気にかけず抱きしめた。こんな妹紅、誰も知らない。守れるのは、私だけだ。
「もう我慢しなくていいぞ」
背中をさすりながら慧音が促すと、おしっこはしゃあしゃあと音をたてながら最後の勢いをつけた。妹紅の体温と同じ温度の液体がたっぷりと、排水溝へと流れていく。
さっき拭いた場所は元通り、びしょ濡れになった。涙をこらえきれなくなった妹紅が、視界を歪ませながら鼻をすする。いくら自分の理解者とはいえ、おしっこを引っ掛けてしまったことに妹紅はこの上ない情けなさを感じていた。
けど、これが夢の世界ではないことを、永遠を生きる少女はよく知っていたようだ。どんなに恥ずかしいことがあっても、一人永久の暗闇を生きることに比べれば。
「もう、平気か」
妹紅の表情が苦痛から解放されたのを見届けると、慧音はタオルを持ち直して、彼女の方に向き直った。人里の早い明け方は、勘違いしたように視界を白ませる。
「慧音」
「ん」
「私は……」
「大丈夫。忘れさせてやる」
タオルを動かす手をとめ、慧音はそっと紅い目を見つめた。戸惑いながらも真っすぐな視線が返ってくる。
泣かないで。私達は、尽きるまで。慧音は、つよく誓った。
今日もいつものように朝が来る。けども妹紅の奥に、抜け出せない暗闇が広がっているなら、明けるまで共にさまよってもいい。
はじめまして。無白です。
読んでくださってありがとうございます。
東方キャラの排泄妄想が好きで、普段はリンクのとこに乗せたブログで小説なんかを書いています。
けねもこが好きなのですが、同志様はいないかなあと、使い回しですが投稿してみました。
コメントなどいただけましたらとてもうれしいです。
無白
http://esd1room.blog48.fc2.com/
- 作品情報
- 作品集:
- 12
- 投稿日時:
- 2010/03/06 08:42:56
- 更新日時:
- 2010/03/06 17:42:56
- 分類
- 藤原妹紅
- けねもこ
- おねしょ
これだからけねもこはやめられない。
もこけねも好きです!
描写が細かくて素敵でした。
いややって下さい
これは何て言うか、心がキュンとした
遅れましたがお返事させてください。
>穀潰しさん 精神的には慧音のほうが圧倒的に上なんだろうなあと思って書きました。号泣…!嬉しいです。
>2さん けねもこいいですよね。もこけねも挑戦してみたいのですが、いかんせん攻め攻めしい妹紅が書けんです。
>3さん ほんとですか!! もっとやります。そのお言葉、とてもありがたいです!
>4さん 苦手なのに読んでくださりうれしいです。私もハードなのは守備範囲でないので、これからもこんな感じで書きますね。
>5さん …という妹紅と、それを支える慧音が、私の理想のけねもこ像です。でもたまに喧嘩もさせたくなります。