こんにちは宇佐見チン子です。
私は只今、飼い猫をエーゲ海の海底へとワープさせ、脾臓が破裂する瞬間水圧でカマドウマが大奮闘大江戸将軍マッギネスでございますなのです。
飼い猫の名はマエリベリー・ハーン。
私はメリーと呼んでいます。
(画像参照)
自分でいうのもなんですが、私は美人です。
その私の両親も大変に美しく、父親なんぞは昔、男娼もやっていたと聞きます。
しかしながら猫のメリーは大変に醜悪で、鴉が漁る生ゴミにすら劣る始末。
私は彼女を翻るレース・カーテンの裏に押し込み、幼き頃の思い出と共にメリーを記憶から封印してしまった次第なのでございます。
はてさて、これで私の胸の内も晴れ渡る。
よもやキリンのような細身のしなやかさなど持ち合わせてはいまい、ましてや獅子のような気高さもない。そんな獣が私の傍らに居座るなど、まさに笑止千万。
幾ら格調高かろうが、所詮猫は猫。
私にとっては、目も当てられぬ程浅ましい生き物だったのです。
ぐうたら万年発情猫など、薬局の前のけろけろけろっぴにも劣る低俗な存在。
はてさてそのような醜悪な生き物が、蜂蜜色の後光を放つ私の傍らに居座る事が許されるのか。
答えは否です。
「メリーさんの羊、猫のくせに羊」
メリーさんの羊という民謡は、家畜同然に振る舞う猫を暗喩しており大変に宜しい。私は膨らんだカーテンを強かに蹴りつけると、天井から伸びたワイヤーを伝って外界へと旅立ちました。
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外界へ降り立つと、一機のジェットスキーが爆音と共に私を迎えにきました。
モーターが土砂の山を築き上げ、舗装されていない野道なぞはもう滅茶苦茶。
コンクリートさえも血を滴らせ、しぐりしぐりとすすり泣いています。
一通りの暴走を終えると、藍色のジェットスキーは私の方へと向かって来ます。
先程とはうって変わり、亀のような緑色の歩みで。
「ご機嫌よう蓮子。愛を沸かせて珈琲を淹れましょう」
ドリカム宜しく、ヘッドライトを点灯させてこっぱずかしい台詞をマシンオイルと共にブチ撒けるはマエリベリー・ハーン。
私の通う大学の生徒にして、私の無二の親友です。
「さあ、その湿った太股でライドプレートを跨ぐのよ。片足が着く際にはしっかりと爪先を立て、足裏の曲線を綺麗に描く」
「淑女の鉄則ね」
「ごもっとも。ところで私は爪先を立てる際に垂直になるアキレス腱に底知れないネクロファンタニズムを感じてしまうわ。ああそういえば、黒いミルクの珈琲を淹れなきゃねえ。ごめんねえ。温州みかん殺す」
見た目はジェットスキー、そして心はジーザス・オン・デマンドな彼女。
活動域は海にあらず、陸地、山中、バビロンの城門と、モーター駆動というハンデを負いながらも何処へでも行けるメリーは大変に健気です。
うちの猫とは大違い。
しかし、同姓同名というのは非常に不可解な話。天命を感じざるを得ません。
「ゆっくりハンドルを回して、そう……日本ではジェットスキーは中央車線、即ちハイウェイの王。あなたに私が操れるかしら」
「空を選ぶわ」
「ならば私と天まで飛翔」
ゆっくりと高度は上がり、しだいに離れてゆく地球の大地。
最後の希望を置き去りにして、木偶のような私達は一体何処へゆくのやら。
私はお気に入りの陶器のカップを取り出すと、マシンオイルに浸かった珈琲を注ぎ込みました。
湯気でやけに視界が曇る。
次に景色が晴れる時には、きっと新しい大地に立っている事でしょう。
古い記憶を置き去りにして尚、以心伝心旅は続く。続くのです。
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メリーさんの羊、実は猫。
しなる猫の背は、まるで欠けた夜の月。
置き去り猫は、ひたひたと湿った肉球で、飼い主の最期を見届けに行きました。
ペットにはご用心。
ペットには要注意。
飼い主には内緒だよ。
ガンギマってやがる…
俺マジでアンタの事ベンジーと同じ位尊敬しとるんよ。いつも楽しませてくれて有り難う御座います。
かなり良い
アンタやっぱりイカしてるよ
困った……