家ではこれをコロコロと呼んでいた。ぶっちゃけ家だけだと思う。
カラカラカラ・・・・・
目の前に大きなコロコロがあった。
160cm弱ぐらいの子供までならギリギリ入れそうなぐらいの大きさだ
それが燃え盛る炎の上に浮いていた。
カラカラカラカラ・・・・・・・・・・・・
そのコロコロは回転する速度にあわせるよう上下に動いていた。
走るペースが一定のスピードを上回れば上昇し、下回ると下に落ちていき、最終的に下の業火によってその身を焼き尽くす仕組みだ
そして今、そのコロコロの中で疲れ果てた顔をしながらもひたすらそれを回し続ける妖怪がいた。
「はっ、はっ、はっ、・・・・・」
ダウザーの小さな大将『ナズーリン』である。
彼女は口をあけたまま息絶え絶えになりながらも必死に走っていた。
眼を虚ろにし、口から涎を垂れ流すその表情はなんとも醜いものだった。
壁にはタイマーがあり、タイムが0になるまで生きていたら助けてやる約束だ。
丁度残り2時間を切ったところだったので、その旨を知らせてやったのだが少し耳がピクリと動いたのみで返事もなく走り続けた。
30時間設定で初めてずっと全力疾走に近いスピードを維持しつづけているのだから返事をする余裕がないのは仕方がないことだろう。
「あんな愛玩動物(ハムスター)といっしょにしないでくれたまえ」だとか「ここから出たら君をご馳走にするとしよう」などと憎まれ口を叩いてた頃が懐かしい。
まあこの彼女の吐息だけが響く静かな空間というのもオツなものではあるが・・・・
数十分経過。
今気がついたが残り時間を告げてからからコロコロが全く下に動いていない、ラストスパートであろうか?
ここで15時間経過したときに半分過ぎたと告げて以来タイムのことに触れてなかったことに気がついた。
一応彼女からでも見える位置にタイマーはあるのだがすこし後ろを振り向かなければ見えない位置にあったため、疲れてきてからはタイマーを見る余裕がなかったのだろう。
更に数十分経過。
少しずつだがコロコロが下がってきた、残り2時間という希望が見えてきたあまりペース配分を見余ったのだろう。
彼女自身はコロコロが下がってきたことに気がついてないようだ。
規定スピードにギリギリ足りないぐらいだったので落ちるスピードは本当に緩やか。
疲れて周りに注意の届かない彼女に気づけというのは無茶な話だろう。
数分後。
コロコロが落ちていけば炎に近くなる故、流石に彼女もその熱でコロコロが落ちてきていたことを知ったようだ、顔に動揺が見られる。
いつもならここですぐに必死な顔をしながらスピードを上げて持ち直すのだが
いかんせんスパートをかけた後である。そう易々とスピードが上がることはなかった。
ジュゥ・・・
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙〜〜〜〜ッ!!!!」
遂に炎が顔所の足に食らいついた。
ここ数時間はずっと彼女の吐息しか聞いていなかったので彼女の声を随分懐かしく感じる。
心の奥まで響き渡る、実に良い声だ・・・・・・・
こうなってしまってはもうお終いだろうとも思ったが、彼女は諦めなかった。
“火事場の馬鹿力”というやつだろうか。炎が彼女の足首を焼いたところでコロコロの下降はとまり、再び上昇し始めた。
そうこなくては・・・
そうでなくては面白くない。残りは一時間、私は彼女にその事を伝えた。
先ほどまで虚ろだった彼女の眼に光が戻ったのを感じた。
必死に歯を食いしばりなんとしてでも生き延びようとしている。
これなら彼女はタイマーが0になるまで走りきることができるだろう・・・・・
そしてタイマーが0になったとき、彼女はどんな顔をするのだろう・・・・
0になったら助けると言ったがそれは4月1日。エイプリルフールの話だ。もちろん助けるつもりなどない。
その事を伝えたとき、彼女はどんな顔をしてくれるのだろう・・・・
期待に胸が膨らむが今は残り少ない彼女との別れの時までの刻一刻を記憶に収めるとしよう・・・・・・・
家ではこれをコロコロと呼んでいた。これは多くの家庭で呼ばれているはずだ。
私は今コロコロを転がしている。
「・・・・何してるの?」
私はコロコロを転がしている、主にルナサの背中に向かって。
「ねぇ、何で私の背中でコロコロ転がしてるの?」
奇妙なことを聞くものだ・・・コロコロを転がすのだから汚れを取る以外にないだろう・・・・・
「・・・気持ちだけで十分だから。」
いや、でも汚れは取らないと・・・・・
「ならゴミをとるのはいいけどコロコロ使うのはやめて。」
ルナサの言葉を無視し、俺はコロコロを転がし続けた。
段々とコロコロの動きを激しくしていく・・・・・
「ちょっ・・・痛っ!!」
俺はただひたすらにコロコロを転がし続けた。
動きを激しくするあまり髪を絡めてしまったが気にしない。
「痛い!ちょっと本当にやめて!」
そしてそのまま勢いはとどまることを知らず、もう背中だろうが正面だろうが関係なしにコロコロを転がした。
「ねえやめて!今日のあなたなんか変よ!!」
ルナサは逃げようとしたが、コロコロを転がす要領で逆に部屋のかどに追い詰めることに成功した。
「ひっ!いや・・・やめて・・・・・」
逃げ場がなくなり声を震わすルナサ。
その今にも泣き出してしまいそうな顔は私にとって燃料でしかなく。更にコロコロの動きは激しさを増す。
ヴァイオリンを奏でる繊細な手、すらりとのびたしなやかな足、月のように静かに輝く朧げな顔。
俺はルナサの全身をくまなくコロコロで蹂躙しつづけた。
「・・・・・姉さんたちなにやってんの?」
「さあ?新手のプレイじゃない?」
ドアをすこしだけ開き俺とルナサの様子を珍妙なものを見る目つきで見ていたリリカとメルランがつぶやいた。
きっと答えはコロコロを転がしている張本人にもわからないだろう・・・・・
家ではこれをゴロゴロと読んでいた。今の私はしたり顔である。
魔法の森に図書館が出来た。魔理沙の家の隣に。
早い話がパチュリーだかアリスだかのところからパクってきた本でできた書物庫であった。
俺はその本の多さに思わず「きさま・・・いったい何冊の本をその書物庫のために盗ってった?」と聞かざるを得なかった。
「おまえは今までに食ったパンの枚数をおぼえているのか?」
「質問を質問で返すなあーっ!!」
とりあえずこの会話の成り立たないアホを偶然手に持ってたコロコロで殴ることにした。
質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ。
だがしかしそこはやはりコロコロ、威力なんてたかが知れてる。
一発やそこら殴ったところで魔理沙の頬を赤く染めるだけであった。
え?何殴られて頬染めてんの?マゾなん?じゃあご期待の応えてあげよう。
二発、三発、四発とコロコロで殴打していく。
大体十発ぐらい打ったところで、コロコロを横にもって大きく振りかぶり背表紙で魔理沙の頬を打ち抜いた。
最後の一発で口の中を切ったらしく少し血を吐いた。でもそれだけ。
これだけ殴っても顔が多少腫れあがったり、コロコロの角にあたってできた小さな傷程度のダメージしかあたえられなかった。
この程度では懲りずにまた盗みを繰り返すだろう。
俺は魔理沙を更生させるために心を鬼にして殴り倒すことにした。
十発、二十発と息つく暇もあたえず連打を加える、コロコロで。
いちいちカウントなんてしてないのでわからないが五十発は殴ったであろうか。
流石にこれだけ殴れば“塵も積もれば山となる”魔理沙にかなりのダメージを与えられた。
顔中は腫れあがりこの特徴的な服を着ていなければ誰だかわからないくらいだ。
さらに手癖の悪い手だが。・・・・腫れてるあがってる!いや!骨にヒビくらいなら入ってるはずだ!!
あと逃げられないように足も折って・・・やろうとしたが無理だった。でも腫れあがらせるぐらいならできた!
・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
コロコロYOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!
なんだ!?紙だからか!?所詮大して重量もなくやわい雑誌だからか!?
こうなったら徹底的にやってやる!!角や!角入れたる!!
殴り始めたのが昼過ぎぐらいだったのに気がつけば夕方になっていた。
唯一のダメージ元であったコロコロの角も角しか使ってなかったのでぼろぼろだ。
でもその成果は確かにあった。
地面には黒白の魔法使いのようなボロ雑巾が転がっていた。
所々痣で青くなった肌や、コロコロの角を使って潰した眼から流れる赤い血。
こんどこそ指が腫れるどころかありえない方向に曲がっていたりと、完全なボロ雑巾具合であった。
ここまですれば懲りてもう他人のものを盗んだりすることはないだろう。
だって死んでるし。これ。
更生終了。ほら、このコロコロは新しいお前への選別だ、とっときな。
それじゃ閻魔様によろしくな。
ああ、いいことをしたあとは実に気分がいい。
ハムスターが走り回るあれの話が特に好きです