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『墓』 作者: るな
注:幽香の少し若い頃のお話です。(今も若いですよ!)
人里からかなり離れた場所、山の奥深くに小さな花畑があった。
花が咲いている範囲はそれほど広くは無いが、様々な種類の花が力強く咲いていた。
しかしその花畑の中で、一箇所だけなぜか花が咲いていない場所があった。
そんな花畑を訪れる者があった。
風見幽香、この花畑を作った妖怪である。
花にはそれぞれ適した場所がある。
彼女は花を操る程度の能力を持っているとはいえ、
無理やり合わない土地で花を咲かせてもすぐに枯れてしまうだろう。
そのため、このように普段住んでいる場所から離れた場所にも花畑を作るのだ。
彼女の目がすぐには届かない場所だからといって、無闇に荒らすような馬鹿はいない。
荒らせばどうなるかは火を見るより明らかであり、
それにこの場所は誰にも知られていない秘密の場所だった。
そんな彼女がこの場所に来ることは珍しいことではないが、今日は様子が違った。
とても悲しそうな顔をして、背中に人間を大事そうに背負っていた。
彼女がこの場所に自分以外の存在を入れた事はこれが初めてである。
なぜ『連れてきた』ではなく、『入れた』かというと、
その人間はすでに死んでいたからである。
彼女は花が咲いていない場所まで来ると、
背負った人間を大事そうに背中からおろし、優しく寝かせた。
「あっけないものね・・・」
彼女の悲しげな呟きを聞く命は花以外には無かったが、
やり場のない想いはその口から漏れるようにして出てきた。
人間の乱れていた服を直し、髪をやさしく整えながら想いを巡らせる。
理解していても納得できないこともある。
つい先日まで元気だったのに、それが突然終わりを告げる。
その原因が意識あるものならば、まだこの想いの晴らしようはある。
しかしそれが自然だったならばどうか?
これだけは彼女が圧倒的な力を持っていてもどうしようもない。
彼女自身は身を守ることは容易い、
しかし彼女の目の届かない場所で起きることまでは防ぐことは出来なかった。
彼女は悔いた。
どうにもならない事を知りながらも悔いた。
離れた存在を守ることが出来ない自分の力の無さや、
守ってやることが出来た自分がその時その場所にいなかった事。
今までにもこのような事はあった。
そのたびに同じ事を後悔してきた。
『私は強い』と謳っておきながら、何も守れていないではないか。
本当に自分に出来ることは無かったのか、彼女は考えた。
相手が自然だからといって、本当に何も出来なかったのか?
豪雨が原因ならば雲を吹き飛ばせば良い。
洪水が原因ならば川を蒸発させれば良い。
落石が原因ならば山を更地にすれば良い。
そうだ。
今回も私は起こりうる可能性への注意を怠っていたのだ。
そしてそれに対処するだけの力が足りなかったのだ。
もっと強くなる。
そうすればこんな想いを繰り返さずに済む。
そう自分に言い聞かせて、無理やりでも気持ちの整理をつける。
私は強いのだ、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
彼女は手を合わせ祈りを捧げ、このような事は二度と繰り返すまいと誓いを立てた。
そして立ち去ろうとして、ふと思いつくことがあった。
今までにそのような行為をしたことは無かったが、
人間の習慣では墓には石を立て、名を刻むと聞く。
以前はあんなに軽くみていた人間に、
自分も感化されているではないかと考えるとなんだか可笑しく思えてきた。
ここは山なので岩はたくさんある。
その中から比較的綺麗な岩を選ぶと、
手刀で形を整え、指先で名前を彫っていく。
『勿忘草』
人は人が死んだ時に花を供えます。
では花の妖怪は花が死んだ時に何を供えるのでしょうか?
―――――あとがき―――――
見た目は人間と同じでも思考回路は全然違うというのが興奮します。
人間が綺麗な花を見つけたときに手折って持ち帰るように、
幽香は綺麗な人間を見つけたときに以下略。
心温まるお話とかタグにつけておきながらここに投稿している時点でバレバレですね!!
るな
- 作品情報
- 作品集:
- 14
- 投稿日時:
- 2010/04/04 01:43:51
- 更新日時:
- 2010/04/04 10:43:51
- 分類
- 風見幽香
- やさしいゆうかりん
- 心温まるお話
凄くいいですよね!
でも、ここまでするってことは幽香の愛情は本物だったんでしょうね。