Deprecated : Function get_magic_quotes_gpc() is deprecated in /home/thewaterducts/www/php/waterducts/neet/req/util.php on line 270
『少年少女のフェアリーテイル』 作者: ウナル
※この作品は東方Projectの二次創作物です。
※今回はオリジナルキャラクター主人公です。
※エロ無しグロ無しです。
むかし、妖精さんを見たことがあります
空を飛んでく小さな妖精さん。
体よりちょっと大きな羽を広げて、まるで雲を混ぜ合わせるみたいにくるくる回って森の方へ。
銀色のキラキラだけが残りました。
ぼくの家にある縁起は妖精のページだけボロボロになってます。
内容を暗唱だってできるんですよ。
それくらい、ぼくは妖精さんの虜になってしまいました。
いつの間にか、ぼくの中に夢がありました。
絶対にもう妖精さん一度会う。
それは立派なお医者さんになることよりも、家の粉屋を継ぐことよりも大切なことだと思えました。
◆ ◆ ◆
「うわぁ……」
来てしまいました。
魔法の森です。
親にはただ遊びに行くとだけ伝えました。
もし魔法の森に行くなんてばれたら事ですもの。
きっと父は30年間粉引きで鍛え上げられた拳を脳天に振り下ろすことでしょう。
臼をひたすら回さないといけない粉引きは、結構上腕のトレーニングになるんですよ。
この前も大工の親方とケンカして壁をぶち破ったとかなんとか。
そんな父の拳を受け続けて、よくも頭が丸いままだなあと思います。
もし人間の頭がレンガくらい柔らかかったら、今頃ぼくの頭はハート型になっているでしょう。
丈夫に生んでくれた両親に感謝。本末転倒だけど。
森の中は思っていたよりもずっと暗くて、目がしぱしぱします。
それにさっきから後ろから何かがついて来ている気がするんです。
気のせいだ、気のせいだと思っていても後ろを振り向けません。
……気のせいですよね?
「……ごめんなさい。夜中に厠にいけない弱虫でごめんなさい」
誰も責める人はいないのに、ぼくはひたすら謝ります。
ええ、ぶちゃけましょう。
怖いです。
これなら親の拳骨の方がマシです。
ごめんなさいを念仏のように唱えながら、何とか前へ進みます。
実はもう前も後ろも森だらけで、奥に進んでいるのか里に戻っているのかもわからなくなってるんですよね。
私の前に道は無い、私の後に道ができるなんてこと誰が言ったんでしたっけ?
でも、どうしても妖精さんに会いたいんです。
会うまでは帰れません。
「魔法使いさんたちはよく森の中で迷わないよね〜。あ、そうか飛べるんだ〜。あはははは……」
奇妙にねじれた木の間を進みながら、ぼくは引きつった笑みを浮かべます。
うん。少しやばい気がしてきました。
頭の変なスイッチが入った気がします。
がおー食べちゃうぞー、なんてみょうちくりんな化物が出てきても今なら失神する自信があります。
というかシャレにならないですよね。
妖怪の徘徊する森の中で迷子なんて。
「こ、こういう時は面白いことを考えよう。えーっと、遭難いちゃいました〜」
「そうなのか〜」
誰ですか、人の空元気ながらも必死に考えたギャグを潰す人は。
まったくしらけちゃいますよ。
それにそこは“そうなのか〜”ではなく“そうなん?”とか“そうなんですか”とか返したりしてくれないと、こっちとしては寒いギャグを言った甲斐というものが……。
「……あ、あっれ〜! おかしいな!? ここには誰もいないはずなのに!」
「そうなのか〜?」
「空耳かな? 最近は健忘症も若年齢化してるっていうし、ああ酷くならないうちに家に帰らないと」
と、言ってぼくは走り出しました。
全力疾走です。
どこへ向かっているかって? 聞くだけ野暮ってもんですよ。
「待て〜」
「きゃー! 追って来るわー!!」
振り向けば奴がいます。
ぼくだって下調べも無しに森に来たわけではありません。
あれはルーミアっていう妖怪だってことはわかってるんです。
金髪に大きなリボンに黒い服。ほら挿絵の通り。
さすがは信頼と実績の幻想郷縁起。阿求さんもいい仕事してください。いや同一人物だからいい仕事した後でしょうか。
ちなみに好物は人肉らしいです。
笑えないジョークですよね?
「し、し、死ぬ〜〜〜〜!!」
「がお〜、食べちゃうぞ〜」
よくもまああんなスピードで飛びながら木にぶつからないもんです。
ぐんぐんぼくに近づいて来ちゃいます。
「あ〜、んっ!」
「うひゃい!!」
噛んだだけで、木がっ! 木がっ!!
あんなのにかぶり付かれたら、骨ごと持っていかれちゃいますよ!
死んじゃう! ぼく死んじゃう!!
かつてご近所の今井さん(32歳独身)が飼っている大型犬に追い回されたとき以上のスピードで走ります。
周囲の景色が光みたいに後ろに流れていきます。
そのくせ、頭のどこかではしっかりと周囲を確認しているのです。
見えないはずの、背後の赤リボンの形すら見えるよう。
きっと火事場の馬鹿力的なものなんだと思います。
娯楽小説なんかで主人公が追い詰められて秘められた力が目覚める、なんて展開よくありますよね?
今までちょっと都合がいいんじゃない? とか思ってましたけど、作者の皆さんごめんなさい。土下座して謝ります。
今なら何だってできます。全然ご都合主義とかじゃないです。
時すらぼくを留めてはいられない。今なら妖怪にだって勝てる。そら超能力くらい目覚めるってもんさ。
だからお願い!!
助けて、強くて便利な不思議パワー!!
「そろそろ弱ってきたのだ〜。ん〜、頭をぱっくり頂くのだ〜」
「い、いや――――っ!!」
つまりはそういう訳ですよ。
今まで逃げれてたのはルーミアさんが手加減していただけで、人間と妖怪にはくつがえせない絶望的な差がある訳ですよ。
潰されるアリの噛みつき攻撃みたいに、ぼくの抵抗なんて少し指の先がちくっと痛いくらいなもんです。
ああ……、空が青いよ。父さん母さん……。
「いただき〜」
「――っうわ!!」
何かが足に当たりました。
がらんっ、と軽い金属みたいな音がしました。
そして、すっ転んだぼくはぐるぐる回って転がって……。
「あれ〜? どこいった〜?」
ルーミアさんはきょろきょろ見回した後、ぼくの上を通り過ぎていきました。
もそもそと藪の中から顔を出します。
「―――っ――――っ!!」
喜びを大声で表現したかったけど、火事場の馬鹿力の反動が来たみたい。
誰かのどの奥を見てください。そこで心臓がばくばくいってるはずです。
一生にする鼓動の数は決まってるなら、この10秒で寿命が10年は縮まってますよ。
し、死ぬ……。
でも、思えばこれは幸運でした。
ここで声なんか出したら、自分の位置を知らせるようなものだもん。危ない危ない。
それに、『やった! がらくたに足を取られたおかげで助かった!』なんて、どうにも格好が付かないですよ。
「た、助かったよ……」
近くに転がってるチンケな置物を持ち上げて、礼を言います。
もちろん『なあに、礼金は弾んでもらうぜ』なんてニヒルな声が返ってくるはずもなく。
とはいえ、この場に居ない神様か誰かにお礼を言いたかったんです。
もしいるなら、ひげ面の親父だって抱きついてキスしちゃう気分ですよ。
「でも、なんだろう? ランプ? 塔?」
良くわからないけど、こんな森の中にあるにはなんとも不釣合いな品でした。
あの妖精さんに出会ってから、ぼくは運命というものを信じるようになりました。
きっとこれもめぐり合わせ。
一緒に行こう。妖精の元に。
◆ ◆ ◆
「……………」
ぼくは無言で森の中を進みます。
あんな目にあったんだ、そりゃ慎重にもなりますよ。
ちなみにあの置物は腰のカバンに入れています。
しばらく進むと、川に出ました。
川岸には木も生えておらず、久々にほっと息を吐きました。
同時にぼくのお腹がぐぅ〜と鳴ります。
昼食は食べてきたのですが、慣れない場所だと緊張してお腹が空いてしまいます。
「こんなこともあろうかと、カバンの中におにぎりが!」
ちなみには塩と梅干です。
笹の葉の包みを開けると、二個のおにぎりが顔を出します。
森の中、青空の下でおにぎりを食べる。
不思議な気分です。
こんな異常な状況なのに、どこかピクニックみたいな楽しさがあります。
さっき生死の間をすり抜けて来たのに、現金なものです。
「はぁ!? ふざけんじゃないんだぜ――っ!!」
おや、空から女の人の声が?
ふいと空を見ればそこには絵本の中の魔女そのものの格好した人が、怒声を上げながら飛び回っていました。
その人は“朝ごはんはご飯とみそ汁と納豆だろう常識的に。パンを食べると頭もスカスカになる”というような意味を口汚く言いました。
すると森の中からもう一人金髪で人形を抱いた女の人が現れて“パンとバターとフライドエッグよ。納豆なんてうんちの親戚でしょ”というような意味を口汚く言いました。
しばらくお互いを罵倒する言葉を言い合った二人は、同時に懐から札を取り出し、決めポーズを取ります。
あれこそ幻想郷名物スペルカード。
美しさと強さを競い合う平和的決闘法なのです。
「って、やば……」
二人がスペルを読み上げると同時に虹色の弾が雨あられと降ってきました。
まるで生きた花火みたい、とのん気に考えつつも身体は全力で走り出していました。
瞬間、“ずだだだだだだががががががががががが”と滝が岩を打つような音が聞こえてきました。
弾幕を綺麗だなあ、なんて思える人は幻想郷にはいません。
少なくとも一度当事者になった人はどんなに美しい弾幕を見ても、ひきつった笑顔を浮かべるだけです。中には弾幕と聞いただけで、狂ったように叫び逃げ惑う人もいるくらいです。
運良くぼくは弾幕のただなかに混じったことはありませんが、隣のえっちんはモロ頭に直撃して「とーちゃんおれしぬのー? しぬのー?」とうわ言をつぶやいていました。
だくだくと流れ出る血にこちらまで倒れかけました。
担架で運ばれていくえっちんを見ながら、父はどこか達観した顔で「弾幕は災害みたいなもんだ。俺達にできるのはできるだけ遠くに逃げることだけ。どうしようもねえのさ」と言いました。
地震雷火事親父と言いますが、その全てを内包したもの、それが弾幕なのです。
死ぬ気で逃げました。
本日二度目の死ぬ気です。
「嫌いだ! 弾幕なんて大っ嫌いだ――――っ!!」
ついでに魔女も嫌いになりました。
こういうのを最近ではトラウマというらしいです。
「えぐっ! うっ! ううっ!」
木の幹の間で泣きながら、ぼくはなぜか空飛ぶお姉さんのドロワーズを思い浮かべていました。
どうも弾幕を使う人達は貞操観念というか恥じらいと言うか、そういうものに欠けている気がします。
向こうからしたら見せる方より見る方が悪いということのなのかもしれませんが、こっちとしてはちょっと困ります。
里の中でも情操教育に悪いという声が上がっているのに一向に改善されないのは、言うのが怖いというのが半分、下心が半分な気がします。
大人って汚いなあと思います。
「妖精さん…妖精さぁん……」
情けない声を上げながら、ふらふらと立ち上がりました。
とにかく、誰かに会いたい。
会って話をしたい。
一人じゃ心細すぎるよ。
がさがさと茂みが揺れました。
反射的に私は木の陰に隠れます。
姿勢を低くして、息を殺します。
なんと言うか、逃げ足が加速度的に進化している気がしますね、ぼく。
物事に必要なのは知識でも才能でもなく、経験であると言いますが今なら良くわかります。
本なんかじゃわからない、本当の怖さをひしひしと学んでいるところです。
「……………」
無言で茂みを見ます。
でも、耳や鼻で周りに意識を向けます。
茂みが揺れたからそこに誰かがいるとは限らない。仮にいるとしても一人だとは限らない。
だけども、そこに現れたのは人食い妖怪でも、妖精さんでもありませんでした。
「ねずみさん?」
まん丸の耳に長い尻尾。髪の色も合わせてねずみ色。
変な形に折れ曲がった棒を持ってます。
十中八九妖怪です。ねずみ女です。
その人は目をぐるぐるさせながら、地面に倒れこみます。
罠でしょうか?
でも、聞こえてくる腹の虫はとても演技とは思えません。
恐る恐る近づいていきます。
失礼と思いながら、転がってた木の棒を使い、お尻の辺りをつついてみました。
ぴくりと反応があります。
「……な、何か食べ物を」
ぼくがいるのを知ってか知らないでか、ねずみさんはか細い声で助けを求めました。
ミイラが生き返ったらこんな声かもしれません。
そして、ねずみさんはぴくぴくと鼻の穴を動かしたかと思うと、猛烈な勢いでぼくの腕に飛び掛ってきました。
「うわっ!!」
まさかいきなり押し倒されるとは思わず、ぼくはみっともなく森の中に大の字になってしまいました。
その手をねずみさんは一心不乱に嘗め回します。
そこでようやく、ぼくの右手がおにぎりを握り締めていたことに気付きました。
弾幕から逃げる際、持ったままだったみたいです。
ねずみさんは爪の間にはさまった米粒すら小さな舌で掘り出し、指の間まで綺麗に舐め取ってしまいました。
「ん…ちゅ」
自分の口元についていた最後の一粒を口に含んでようやく落ち着いたのか、ねずみさんはどこか呆けたような顔で座り込んでしまいました。
きっと充電中なのでしょう。
何となく邪魔してはいけない気がして、ぼくも正座でねずみさんを待ちました。
すると、突然重大なことを思い出したかのように、ねずみさんは“はっ”としました。
「あ、ん、こほん……。驚かせてすまなかった。私はナズーリン。おむすびの件、感謝している」
何となく偉そうな感じだなあ、思いつつ不思議と不快にはならない物言いでした。
きっと彼女が本当にぼくに感謝してくれているからだと思います。
ねずみさん改めナズーリンさんは少し恥ずかしそうに咳払いをします。
「このことは内密にお願いするよ?」
「あの、それはいいんですけど、なんでこんなところに?」
「ふぅ……聞いてくれるかいキミ?」
「え。あの」
「まあ、立ち話もなんだ。座りたまえ。同志よ」
いつの間にか同志にされてしまいました。
なんの同志なんでしょうか?
ナズーリンさんは倒れていた木に足を組み座ってしまいました。
ぽんぽんと隣りを叩くのは、座れという合図でしょうか。
「私にはご主人がいる訳だよキミ」
「はあ」
ご主人?
「これが困った主人でね。大切な宝珠を無くしてしまったんだ。それがなければ封印も解けないというのに……。おかげで幻想郷中を駆け巡るわ巫女とは戦うわ、散々な目に会ったよ」
「それは大変ですね」
「だろう? おちょこちょいのアンポンタンなご主人だよ。私のご主人は。私がいないと本当に何もできない。宝珠も私が見つけたのだしね」
愚痴とフォローが混じり合った話し方。
なんとなく、近所のおばちゃんと話をしている気になってきました。
「それで、なんでここに?」
「またなんだよ……キミ」
「え?」
「星……ご主人の奴、またもや宝珠を無くしてしまってね。私に泣きついてきたんだ。ま、一応ご主人だしね。私も探しに来た訳だよ」
「そして、この森に来たと」
「そう。森の中にあることは確かなんだが、この辺は反応が多くてね。魔法使いの家や外の世界からの流れ物もあるし、難儀したんだよ。そうこうしているうちにぐるぐる目が回ってきて……」
そこでナズーリンさんは釘を打つような目つきでぼくを見た。
「言っておくが、私が食いしん坊な訳では無いぞ? ねずみは小さな身体の割りに良く身体が動くようになっている。その上、皮下脂肪も少ない。非常に燃費が悪いんだ。だから、沢山食べておかないと体力を維持できないのだよ」
「でも、ナズーリンさんはぼくより背が高いですよね?」
「む」
「それに体型だってどちらかというと……」
「はっはっ。キミは口がうまいねえ。一本取られたよ。だが、良く回る口は災いも招いてしまうものだよ。言っている意味わかるね?」
笑顔って怖いんだなって今初めて思いました。
一つ賢くなったね、ぼく。
「あ」
そこで思い立つ。
カバンの中に入れておいた金属の置物。
「ナズーリンさん。もしかしてこれ」
「おおっ! それだそうだ! それが宝珠だよキミ!!」
やっぱりそうだったみたいだ。
ごめんなさい。少しドロで汚れちゃいました。
ぱっぱっとドロを払うナズーリンさんはとても嬉しそう。
こっちの笑顔は素敵なのになあ。
「ありがとう同志よ。おむすびを頂き、宝珠まで見つけてもらった。何か礼をしてやりたいんだが。そうだね、何か探しものはないかい? 私の力で見つけてあげよう」
「……本当ですか?」
運命ってあるのかも。
偶然足に引っかかった宝珠が、こんな風にナズーリンさんとぼくを結びつけて、目的の場所まで運んでくれるなんて。
お礼にキスの一つでもしてあげたいですよ。
「ありがとう。だが、それは大事な時のためにとっておくのだな」
ナズーリンさんはしっぽふりふりダウジングを始めました。
いよいよ妖精さんに会えるのです。
◆ ◆ ◆
「妖精か……。キミも物好きだね。彼女らに会いたいなんて」
「昔、見たんです。空を飛んでく妖精を。その光景が忘れられなくて」
「ふふっ。それは良い経験をしたな。子どもの頃の夢とは良いものだ。妖怪は長く生き過ぎる。子どもの頃などあっという間。もともと無い者もいる。夢を追うのは子どもの特権だ。微力ながら手助けするよ」
もしかしたら、ナズーリンさんは見た目よりももっともっと大人なのかもしれません。
だって言ってることがうちのおじいと同じなんだもの。
見た感じはおませな女の子なのに、苦労してるのかなあ。
妖怪って不思議だなあと思いつつ、ルーミアに追いかけられたことを思い出しちゃうとやっぱり怖い。
ナズーリンさんも夜になると油をピチャピチャ舐めたりするのかな?
「近いぞ。もうすぐだ」
「はい」
緊張のせいか、舌がうまく回らない。
逃げ回ったときとは違う感じのどきどきが痛いくらい伝わってくる。
もうすぐ……もうすぐ妖精さんに会える。
空を自由に飛んでいく妖精さん。
何にも縛られないで笑い合う妖精さん。
キラキラをぼくの瞳に残していってくれた妖精さん。
「この先だな」
茂みの先をナズーリンさんは指さします。
道を譲ってくれたのは、ナズーリンさんの優しさだと思います。
首で小さく礼をしました。
可愛らしい声が奥から響いてきます。
ゆっくりと葉に手をかけて、ぼくは茂みをかき分けました。
「あ! あん! 大ちゃん!! もっと奥!! 奥まで来てえ!!」
「チルノちゃん! チルノちゃん! 私もうきちゃうよ! きちゃうよ!!」
「あ、おなら出た」
「くそ〜うんこ出ないわ。完全に便秘」
「ミミズ発見! おしっこかけちゃお!」
がさ。
元の位置に戻る。
不思議そうな顔したナズーリンさんの横をすり抜けて、ぼくはさっき見つけた太い木の棒の元へ。
「どうしたんだ? 一体なにが……うわっ」
「どいてくださいナズーリンさん。あいつら殺せない」
ひゅんひゅんと木の棒を素振りします。
不思議と重さは感じません。
なんか、身体の奥にあった大事なものがすっぱり切れちゃった感じです。
目を丸くするナズーリンさんの横をすり抜け、ぼくは目の前の畜生どもに襲い掛かりました。
「「「「うわ――――っ!!」」」」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく妖精さん。
くそっ! 飛んで逃げるんじゃない!!
いや、あんなの妖精さんじゃない。あんなの妖精さんじゃない。
あんなの……あんなの……っ!!
「妖精さんは、くっ! 妖精さんは!!」
「お、落ち着くんだ! キミ! 気持ちはわかる! わかるが!!」
「ぼくの……ぼくの妖精さんはどこ――――――――――――――――――――っ!!」
ぼくの声は、虚しく茜色の空に吸い込まれていきました。
◆ ◆ ◆
泣き続けるぼくをなだめながら、ナズーリンさんは里まで送ってくれました。
ナズーリンさんの背中に身を任せていると、少しだけ気分が落ちつきました。
里の外れで、ここまででいいとナズーリンさんに降ろしてもらいます。このまま家に帰る気分じゃなかったんです。
「今日は、その……ありがとうございました。ナズーリンさん」
「いや、礼を言うのは私の方だよ。ありがとう」
「……ナズーリンさん」
「なにかな?」
「大人になるってこういうことなんでしょうか?」
「私にもまだわからない。だけど……得られるものもあるはずだ。失うばかりじゃない」
気が向いたら命蓮寺という寺に来い。そこに自分は居る。
ナズーリンさんはそう言い残して飛んでいってしまいました。
やっぱりパンツが見えます。
意外に大人っぽいんだなあ、と改めて思いました。
とぼとぼ里の土手道を歩きます。
ぼくの中にあったキラキラは、もう輝きを無くしてしまいました。
夢は覚めてしまいました。
こんな、汚いものを見ていって人は成長していくんでしょうか? それが大人ってことなんでしょうか?
ナズーリンさんにも聞いた質問がぐるぐる頭の中で回ります。
「おさけ!」
「ふえ?」
いきなり声をかけられて、ぼくは辺りを見回しました。
でも、誰もいない。
「おさけ! おさけ!」
声が下から?
視線を下げると、そこには小人さんがいました。
「あ……」
手の平に乗るくらいの大きさ。ぼくの爪ほどのちっちゃな角。
元気に飛び跳ねて、おさけおさけと叫んでいます。
でも、ぼくは小人さんに手を伸ばす勇気はありませんでした。
夢を壊されるくらいなら、いっそ夢なんかみなけりゃいいんです。
「えへへへ」
でも小人さんはぼくの足にしがみついてきます。
何歩か歩いてみたけど、一向に離れる気配がありません。
「……家に来る?」
「おさけ!」
小人さんはまるで泳ぐように空中を飛びました。
そして、ぼくの頭に座り、早く行こうと急かすように髪を引っ張ります。
「いてて。髪を引っ張んないでよ」
「おさけ!」
ぼくは嬉しくなって、疲れもどこへやら道を駆け出しました。
父はこの子を飼うことを許してくれるでしょうか。
でも、捨てる気にはなれません。
なんとなく、明日からいい日になる気がします。
「萃香。なんか背縮んだ?」
「ん〜。分身が一体行方不明でね」
おわり
作品情報
作品集:
14
投稿日時:
2010/04/10 07:02:04
更新日時:
2010/04/13 14:38:47
分類
オリキャラ
一人称
妖精
大人の階段
幻想郷って女の子は可愛いが、危険度は日本の何処よりも高いよな…
妖精ひでぇw
>1 公式で弾幕は当たり所次第で死ぬらしいですよ奥さん
>2 幻想なんてこんなもんさ!
>3 まったくですw
>4 大事にしてくれるならばどうぞ
>5 ありがとうございます。一人称は書いてて楽しいんですが、読者にウザがられていないか凄く不安になります。
>6 意図的にぼかしてみました。お好みでどうぞw
ああ、ちっちゃな萃香可愛いです。幻想的です
でもナズーリン同志が少年に見せた態度もまた事実
本質を見抜く目を持つことが大人になるということなら自分もどれだけ大人なのやら