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『『恐怖催眠術』』 作者: 原価計算
誠実と正直を謳う怪力乱心の鬼の心を読んでみると、私を軽蔑し罵詈雑言を吐いていたので、不愉快になって殺した。死体は灼熱地獄の火口に投げ入れた。
* * *
それから三日経った晩、私は夢を見た。
――地上の何処かであろう、森の中に居る。まだ早朝で、辺りは薄暗く、老婆のように腰を折った木々が茂り、蔦や訳の分からない植物で視界も悪い。空気は冷たく、体にべたべたと纏わり付いて、実に不愉快だった。
ふと前方に眼を凝らすと、樹木たちの間に人影が見えた。
草を掻き分けながら影の元へ向かう。
とても高齢そうな大木に寄りかかり、こちらを見ていたのは星熊勇儀であった。
微笑みを湛え、穏やかな表情で、私に語りかける。私も応じる。
「 」
「 」
・・・・・・。
* * *
眼を覚ます。汗で服が肌に張り付いて非常に不愉快だったので、シャワーを浴びることにした。
大浴場で独り、聞こえるのは水音のみ。私は夢のことを考えていた。
――最後に彼女は、私に何と言ったのだろうか・・・。
私は彼女に、何と答えたのだろうか・・・。
なぜか、最後の会話だけが、思い出せない。
殺した罪悪感など、まるで無かった。彼女が、誠実で正直な鬼の彼女が、表面だけ繕い、心の中では散々私を貶していたのだから。読まれないとでも思ったのだろうか。しかしなぜか、彼女がどんな雑言を吐いたのか、全く思い出せなかった。
大浴場を出て寝室に戻る途中、長い回廊の床の隅に白い生き物が這っていた。頭をもたげて私を見上げたが、無視して部屋に戻った。
* * *
その夜、また同じ夢を見た。
眼を覚ますと、大量に汗をかいていることに気付いた。
ベッドから出ると、こいしがソファに座っていた。二言三言話して、シャワーを浴びるために大浴場へ向かった。
浴場で湯に浸かっていると、夢の中で、やはり最後の会話だけ思い出せないことに気付いた。
湯船から上がろうとすると、排水溝の傍に白い生き物が居るのを見つけた。こちらに気付くと、這って近寄ってきた。私はそれから逃げるように浴場を出て、寝室へ戻った。
* * *
その晩も、同じ夢。
眼を覚ますと、布団の上で白い生き物が死んでいるのを見つけた。
ベッドから起き上がると、不愉快な汗も気にせず、地霊殿を出た。
――地上に来たのはいつ以来だろう。早朝の冷気が体を包む。
向かうべき場所は、分かっていた。何者かが私と会いたがっているのだ。
一時間ほど飛んで、深い森へ降りる。薄暗く、化物のような樹木が生い茂る、初めて来たが、見慣れた森であった。
前方数百メートル、人影が見える。
一歩、一歩、歩を進める。肌は汗でべたつき、足はがくがく震えている。しかし、立ち止まることは、出来ない。逃げ出すことは、出来なかった。
あの人影は誰だ?
分かりきった自問。しかし、それはおかしい。有り得てはならない。
「彼女」の前に立つ。
お前の死体は、地獄の底に沈めたはずなのに!
星熊勇儀は静かに微笑む。相も変わらず、不気味な巨木に身を預けて。
そして、静かに、語りが始まる。
「やあ、さとり。しばらく振りだねぇ。あんたんとこは、何も変わってないか。こいしも元気かい」
「えぇ、変わりないわ。あなたも色々大変じゃないかしら。毎日パルスィの愚痴に付き合わされたり」
「そうでもないさ。あいつとも会ってなくてね。・・・あんたが私を殺すからさ」
「・・・、あなたが、悪いのよ。誠実だ正直だなんてのたまっておきながら、ずっと心の中で私を軽蔑して、口汚く罵ってたんだもの」
「私はそんなことしていないよ・・・・・・・ただ・・・
――ただ、つい心を読んでしまったんだ。
あんたには悪いことをしたと思ってるよ。皆隠してたことだしな。私も、それを償いたくて化けて出てきたのさ。今までずっと、騙してて悪かったな」
古明地さとりは覚った。何もかもすべて。
* * *
誰も居ない、主の寝室。
ベッドの下から、白い生き物が這い出してきた。それは頭を上げ、しばし天蓋を見つめた後、何処かへ這っていった。
ヴワル魔法図書館/星熊勇儀/『我らが地下世界』「3章・覚られ妖怪の末路」より抜粋
勇儀「小説を書くってのは思ったより難しいんだな」
パルスィ「あら勇儀、まだ書いてたの。あんた文才無いんだからやめときなさいよ」
勇儀「言ってくれるなぁ」
パルスィ「それに・・・
完全な空想小説なのに、ほんとのこと書いちゃ駄目じゃない」
原価計算
作品情報
作品集:
14
投稿日時:
2010/04/23 12:46:19
更新日時:
2010/04/23 21:46:19
しかし仕事早いなぁw