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『白狼の放浪者 (試)』 作者: 山蜥蜴
※自分に長編を書けるか自信が無いため
※これはパイロットフィルム的な作品、試製品です。
※或いは続きを書くかもしれませんが、構成力と文才、及び経験が…。
「TRPG、という物を聞いた事有るかしら?
『外』にあるお芝居みたいなテーブルゲームよ。」
或る時の神社での宴会終盤、優美な薄紫色のドレスを纏い
白い長手袋をしたフラクスンヘアーの女性が面々に喋り始める。
「登場人物を演じながら目的の遂行を目指す、という意味では正にロールプレイングね。
中々面白そうだと思うのだけど、やはりそのままやったんじゃ
私達には刺激が足りないでしょう、ねぇ・・・。」
「また何か妙な暇潰しを企んでる、って訳?」
女性の話す内容を聞いて紅白の巫女服を着た少女が尋ねる。
「妙な暇潰しなんて酷いわぁ・・・。『仮想空間術式』を設
計するの、大変だったのに・・・。」
「大変だったのは主に私が、です。」
ドレスの女性が業とらしい泣真似をしてみせれば後ろに
控えていた九尾狐が無表情に言う。
「一からあんなに広大な仮想空間を多人数が参加して
バグが起きない様にするのにどれ程苦労したか。
大体あの数のモブキャラクターを完全自立で
判断させて動かそう、だなんて滅茶苦茶です。」
「そう、自由度というのが魅力な遊びだと思うのよ。
なのに既存の人工知能だと応対に限界があるでしょう?」
式の苦言を笑顔で流し話をすすめるドレスの女性。
「だから外の世界の人達が寝てる間にその脳をちょっと借りて演算に
使わせて貰う事にしたのよ。
要は、彼等が寝てる間『夢』を見て貰うの。
『夢』の中での彼等の行動をそのまま反映すれば、リアルどころか
現実と何も変わらない反応をしてくれるモブキャラクターの完成って訳ね。」
「その『借りて演算に使う』過程や『反映』は殆ど私が演算、
調整させられるのですがね。」
相変わらず無表情のまま九尾狐が口を挟む。
「で、その場合に多くの人間が既にイメージを持っている世界観だと
簡単に『夢』を見せられるのよ。だから今回は既存の、
悪く言えばベタな世界観の仮想空間を作ったわ。
あ、逆に参加する時は貴方達のゲーム中の記憶や知
識は調整して世界観に馴染ませるのよ。」
やはり式の言葉を流し話を続ける。
「中々面白そうだぜ。どんな世界観なんだ、そいつは?」
黒白の魔女が身を乗り出し尋ねると、ドレスの女性は
ニタリと口を歪めて笑みを作り答えた。
「世紀末。」
※
※※
※※※
※※※※※※
金属を打つ雨音に目を覚ます。
ゆっくりと目を開くと、小さな穴が開き罅割れたフロントガラスを
雨粒が伝い落ちており、ダッシュボードには錆の浮いたメーターが並んでいる。
ここは何処だろう・・・?伸びをしながら考える。
あぁ、そうだ昨晩は路肩に突っ込んでいた郵便配達車を寝床にしたのだった。
だから今居るのはその配達車の助手席。
右側の運転席に目をやると、配達員の制服を着た骸骨が座席に靠れ、
虚ろな目・・・だった穴で車の天井を見上げていた。
昨晩は暗かった為調べなかったダッシュボードを探ると、
拳銃が一挺と.38スペシャル弾の50発サイズの紙箱が一つ、
それと運転時用の皮手袋が入っていた。
「ヒュー。」
小さく口笛を吹くとそれらを調べて見る。
まず銃を調べる事にする。
薄く錆の浮いた6連発のリボルバー拳銃
───S&WM10、通称ミリタリー&ポリス───
4インチの軽くテーパーのかかった銃身、サービスサイズグリップには
グリップアダプターが嵌められている。
シリンダーを開き中に弾の入っていない事を確認、
シリンダーを戻すとサイドプレートに白い毛の生えた犬耳を近づけ
ゆっくりとハンマーを起こす。
チキチキ・・・カチリ。
引き金を絞りハンマーを落とす。
カチン。
うん、問題なさそうだ。
銃をベルトの前に差し込む。
次に弾薬箱を調べる。
『Speerゴールドドット+P125グレイン』
と黒を基調とした箱に金の文字で記されている。
箱を開くと32発の弾が残っていた。
一発を箱から取り出し見てみる。
此方も銃と同様、薄く薬莢に錆が浮いている。
弾薬の雷管が生きているかしけっているか、確かめたい
のは山々だが確かめるという事は発火させるという事だ。
発火しなければしけっており使えず、発火しなければ
しけっているという事で結局使えない。
また、37発の内一発が撃てたとしても、他の36発も撃てる証明にはどうせなりはしないのだ。
貴重な弾薬を一発でも無駄にはしたくない為こちらはそのまま私の軍用の大きなダッフルバッグに放り込んだ。
皮手袋は・・・調べるまでも無い。
すっかり腐っており、ダッシュボードから出そうと掴むと
ベタリとした感触がして思わず床に投げ捨てた。
次に運転席の白骨死体を探る。
その右胸には小さな穴が開いていて肋骨が折れていた─
──恐らくフロントガラス越しに撃ち抜かれ、
ここまで車を走らせ逃げたが力尽きてしまったのだろう。
革のキーホルダーやIDやクレジットカードの入った財布
がズボンのポケットから出てきた。
財布には家族だろうか、色あせた写真の中で金髪の女
性と野球のユニフォームを着た12、3歳の少年がこちらへ微笑みかけていた。
嵩張らない札だけ抜き、無用のキーホルダーと財布を男のポケットに戻す。
次にシャツと制服の胸ポケットを探ると煙草が1箱──中
に7本残っていた──と壊れた100円ライター。
・・・それと内ポケットから半分ほど残ったバーボンの小瓶が出てきた。
「ヒュー。」
と二度目の口笛を吹き、蓋を開け数滴口に含むと芳醇な香りが口中に広がる。
「飲酒運転は関心出来ない、ね。没収だ。」
運転席に座った白骨死体に声をかけ、蓋をしめ懐に煙草と一緒に瓶をしまう。
と、白骨死体が手に一通の封筒を握っているのを見つける。
血で汚れ日に焼けた封筒。
少し気になりそれも懐にしまう。
後部貨物室も調べるが、床に落ちた数個の郵便袋はどれも空で、錆と埃が有るのみだった。
ふと、外を見ると気が付けばもう雨が止んでいた。
雨が降る事はめっきり少なくなっていて、偶に降ったかと思えば直に止んでしまうのだ。
配達車の軋む扉を開け・・・開け様としたが空かなかったので
数度蹴りを入れ抉じ開け外にでる。
岩山の上、崖の近く。
通る者の居なくなって久しい罅割れ崩れたハイウェイの路肩の林。
不毛の荒野を見渡す。
時刻は早朝、の筈だが空は『あの戦争』以来、舞い上がった厚い塵に覆われており、陽光は気味悪く赤く滲んでおり薄暗い。
深呼吸をすると私は誰にとも無く・・・・・・あえて言うなら荒廃し切った世界に呟いた。
「・・・おはよう、この世の終り。」
「あ、文様・・・なんで私が選りによってそんな大変そうな役なんですか!」
「ふふふ、喜びなさい椛、この世界の主人公に成り得る配役ですよ。」
「だ、だからって・・・」
「もう八雲氏に連絡は済ませました。ゲーム当日が楽しみですね。ゲームから目が覚めたら、あっちであった面白い事聞かせて下さいよ?」
「・・・うぅ・・・・・・」
ゲームセッションの数日前、あの宴会の次の日の会話である。
●後書
色々と初めてなので至らぬ点ばかりでしたでしょうが、御読み頂き誠に有難う御座います。
至らな過ぎるという所や、感想があったりしたらコメントを頂ければ欣快。
私はこの通り、ポストマンもフォールアウトもマッドマックスも大好きです。
もし何方か東方世紀末な物を書いた、なんて神がいらっしゃれば是非読んで見たいのですが、今の所私には見つけられなかったので冒頭を書いてみた次第で御座います。
もしも「あ、今書こうと思ってたのに先にやられたか」という人が居ましたら勿論何も私の事等構わず是非々々書いて頂きたく思い候。
山蜥蜴
- 作品情報
- 作品集:
- 14
- 投稿日時:
- 2010/04/23 18:41:58
- 更新日時:
- 2010/04/24 04:03:01
- 分類
- 犬走
- 椛
- 八雲
- 紫
- 世紀末
- 仮想空間にて
- サバイバル物の予定
世紀末物は確かに好きだな、メタルマックスもいいぞ